特集:ケータイ Watch20周年
石野純也が振り返る、MWCで見てきたケータイ業界の世代交代
2020年9月24日 06:00
ケータイ Watchの20周年、まずはおめでとうございます。
20年前の2000年と言えば、ちょうどiモードがスタートした翌年。そのころ筆者はまだ大学生で、いち読者として記事を読んだ記憶がある。
後に付録付き雑誌の版元として有名になった某出版社で編集者になってからは、ケータイ Watchに目を通す機会はさらに増えた。資料としてはもちろん、発行までのタイムラグが大きい紙媒体の編集者にとって、速報を発表直後に次々と掲載するケータイ Watchが非常にうらやましく、同時に何とかしてネットメディアとは差別化しようとしたことを覚えている。
10年ひと昔と言うが、携帯電話業界では、一般的に大体10年に1回、通信の世代が交代するというのが定説になっている。確かに、日本で3Gが始まったのは2001年、4Gにつながる3.9GのLTEは2010年、そして直近では5Gが2020年と、おおむね10年間隔で新たな世代の通信規格が導入されている。そのたびに、通信は高速・大容量化し、今では5Gで1Gbps以上の速度が出るようになった。
ケータイ Watchの20年という期間は、ちょうど通信規格で2世代分にあたる。それだけ長きに渡って、モバイルの世代交代を見続けてきたネットメディアは、ほかにない。
執筆者の1人としてケータイ Watchに携わるようになってからのことで、強く記憶に残っているのも、この通信の世代交代の話だ。
特にLTEの立ち上げは、スマートフォンの台頭ともタイミングが合致していたこともあり、市場のグローバル化が一気に進んだ。海外の展示会を当たり前のよう取材するようになったのも、このころから。タイミングよくケータイ Watchの編集部に声をかけてもらい、当時気になっていたMobile World Congress(現・MWC Barcelona)の取材班に組み込んでもらうことになった。
筆者にとって、初のMWC取材は2009年。特に観光もせず、郊外に泊まったこともあってバルセロナまで行った実感はあまりわかなかったが、そのスケール感の大きさには驚かされたことを今でも覚えている。当時の記事を見ると、例えばLGやモトローラ、日立、パナソニックなど、さまざまなベンダーが基地局や通信デモを行っていたこと分かる。LTEの開始直前で各社がその高速通信をアピールしていた。筆者も、何本か関連記事を執筆している。
端末は、まだiPhoneが出始めたばかりで、Androidも商用モデルは海外でしか発売されていなかった。iPhoneとAndroidにシェアが二分された今では信じられないかもしれないが、当時はメーカー各社が、どのプラットフォームで行くべきかを逡巡していたタイミングだ。例えば、上記のLGはスマートフォンとしてWindows Mobile搭載端末を展示したし、ソニー・エリクソン(現ソニーモバイル)のXperiaのOSがまだWindows Mobileで、どちらかと言うと、大々的にプッシュしていたのはSymbian搭載端末の「Idou」だった。
初のMWCで海外展示会取材の楽しさに目覚めてしまった筆者は、MWCのアジア版に位置づけられていた香港のMobile Asia Congress(現MWC Shanghai)にも参加。アジアのイベントということもあり、ドコモの山田隆持社長(当時)や、ソフトバンクの孫正義社長(現ソフトバンクグループ会長兼社長)の講演を記事にまとめている。
ドコモはサービスイン直前のLTEを、ソフトバンクは導入したばかりのiPhoneをアピールしていた。手前味噌になってしまうが、今、改めて読み返してみてもおもしろい。あと4年でiPhoneのストレージが32TBになることはないと思うが(笑)。
その5年後に開催された2014年のMWCでは、LTEや4Gはすっかり定着。発表されるスマートフォンもAndroid一色になっていた。
一方で、「第3のOS」のポジションを狙う動きも活発化。サムスン電子やドコモが主導した「Tizen」、Mozillaが開発した「FireFox OS」、さらにマイクロソフトの「Windows Phone」と、日本のキャリアも巻き込み、第3極を目指す陣営が競い合っていた。
今ではTizenがサムスン電子製のウェアラブル端末などに残っているのみで、そのほかのプラットフォームは姿を消してしまった。
一方で、米中関係が悪化し、ファーウェイがAndroid上のGMS(Google Mobile Service)を利用できなくなってしまったり、フォートナイトを運営するEpic Gamesがアップルやグーグルとプラットフォームの独占を巡って裁判で戦っていたりと、2強が市場を寡占していることの弊害も徐々に目立ち始めている。その意味で、2014年前後のMWCは示唆に富んでいる印象も受ける。
そこからさらに5年後、筆者初参加の10年後にあたる2019年はインフラの転換期ということもあって、MWCは5G一色になった。クアルコムのブースで5Gのローンチイベントが開催され、世界各国のキャリア関係者が一堂に会したのは記憶に新しい。昨年は、先行する一部の国において5G商用化元年ということもあり、さながら端末祭といった様相を呈していた。ファーウェイの「Mate X」や、サムスン電子の「Galaxy Fold」など、フォルダブルスマートフォンも登場。LGも、デュアルスクリーン端末の「LG V50 ThinQ 5G」を発表した。
3Gから4Gへ移り変わり、端末がフィーチャーフォンからスマートフォンへとシフトしたように、5Gが普及すると、端末もその形を変えることになる可能性は高い。その正解がフォルダブルなのかどうかは、まだ定かではないが、各社がスマートフォンの“次”を模索している印象を強く受けた。
そして、2020年。日本でもついに5Gの商用サービスがスタートした。
一方で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、MWCは初の開催中止を決定。筆者が半ばライフワークのように続けてきたケータイ WatchへのMWC関連記事の寄稿も、12年目にしてついに途絶えてしまった。コロナ禍はまだ終わりが見えず、先行きは不透明だ。
翻って国内市場に目を移すと、5Gは無事にサービスインしたものの、まだ爆発的な普及には至っていない。エリアはピンポイントで、端末もようやく、手頃に購入できそうなミドルレンジモデルが出始めてきたところだ。
とは言え、5Gはまだ始まったばかり。フォルダブルスマートフォンのような新たな形の端末や、コロナ禍で急伸したビデオ会議、さらにはAR、VR、クラウドゲームといった各種サービスなど、“5Gならでは”の萌芽も見え始めている。
モバイルの世代交代を見守ってきたケータイ Watchが、それらを余すところなく取り上げていくことを、今後も期待したい。