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2400億円超の架空取引はなぜ起きた、KDDIがビッグローブらの不正実態と再発防止策を説明
2026年3月31日 20:57
KDDIの子会社ビッグローブとジー・プランによる不正還流取引は、赤字の補填を急いだ元社員によるものだった。31日、KDDIと特別調査委員会が手口の実態とそれを踏まえた今後の対策について説明した。
「還流取引」手口で21社と架空取引
ビッグローブとジー・プランでの、広告代理事業の売上のうち99.7%が架空のものだった。一方で、KDDIのほかビッグローブとジー・プランが組織的に関与した事実はなく、あくまで当該社員らの個人的な動きだったことも説明された。
架空取引が行われていたのは、Web広告。ジー・プランとビッグローブの2社の上流および下流に位置する広告代理店との間でアフィリエイト広告を仲介し、対価として成果件数に応じた手数料収入を得るというビジネスモデルだった。実際には広告主からの委託がなかったにもかかわらず、元社員Aらは、あたかも広告掲載の案件があるかのように代理店に架空の取引を持ちかけ、手数料報酬を得ていた。
元社員らは「循環取引」といわれる手口で架空の売り上げを計上していた。実際には広告主などからの業務の依頼が存在しないにもかかわらず、上流代理店、自社、下流代理店などで架空の受発注を繰り返し、資金をぐるぐると回す取引を指す。
お金の流れの各段階において参加する企業がそれぞれ自社分の手数料を差し引いて次の企業へ支払うため、循環を維持して目減りした手数料分を賄うには、各社の支払期限(支払サイト)のズレを利用して資金をやり繰りしつつ、全体の取引金額を雪だるま式に膨らませていく構造だ。
長期的に繰り返せば繰り返すほど、取引金額は増えていき、元社員はこの業績をもとに社内表彰も受けていたという。取引先218社のうち、21社との間で架空取引が行われていたが、現時点では、多くの代理店らは架空取引であることを認識していなかったとされる。この架空取引により取り消された売上高は累計2461億円、KDDIグループ外部へ流出した資金は329億円に上る。
元社員らは発覚を免れるため、ジー・プランが関与しないかたちで上流代理店と下流代理店が接触することがないようにしていた。また、各代理店とのやり取りは元社員AとBが独占しており、ほかの社員らに関与させていなかった。さらに、成果レポートは広告の成果件数を単純な上昇傾向とせずに減少する時期も設け、成果が上がらなかった理由を説明するなど、現実味を持たせる工作も行っていた。
元社員の焦りがきっかけに
架空取引が始まったのは、遅くとも2018年8月だった。2025年12月までの7年半弱にわたり、ジー・プランに在籍し2023年からビッグローブに兼務出向した元社員Aが、元社員Bの協力のもとで継続的な架空取引が行われていたことが分かった。
きっかけは2018年2月、元社員Aが主導して展開した広告代理事業で数十万円の赤字発生および数千万円規模の売り上げ目標未達だったという。事業の遅滞に焦りを覚えたAは、補填のために架空売り上げの計上を考えた。会社から達成不能な目標設定や過度なプレッシャー、目標未達に対するハラスメント的な追及があった事実は確認されておらず、あくまで元社員A個人の焦りが主な原因とされている。
遅くとも2018年8月には、架空取引を始め、その後2020年4月に元社員Bがジー・プランに入社。Aの指示により架空取引への関与を始めた。さらに2022年12月頃には、ビッグローブの資金力や信用力をもとに事業拡大のためにビッグローブが商流に参入し、短い支払期限で先に代金を支払う「先出し」によって循環取引の原資を提供。KDDIのグループファイナンスも用いて、両社員による架空循環取引が急速に拡大した。
架空取引の金額が雪だるま式に増えていくなかで、元社員Aは止め時を失った。特別調査委員会によれば、元社員Aは「関係者や自らの私的利益のためではない」と述べたというが、一部の上流代理店からは飲食代などとして現金の交付があり、その額は2023年9月~2025年12月までで約3000万円にのぼる。同委員会ではこうした利益享受が、元社員Aが架空取引を継続した要因の可能性があると見ている。
元社員Bは、元社員Aに対してジー・プランに入社させてもらった恩義があり、架空取引の全容を十分に理解できていなかったことが重なり、元社員Aの指示に従い今回の架空取引へ関与した。
KDDIの受け止めと3社の課題
KDDIの松田浩路社長は、KDDI、ビッグローブ、ジー・プラン3社の立場の課題と再発防止策を説明した。
当該社員が所属していたジー・プランは、広告代理事業における知見の偏在と業務の属人化が課題と指摘。発注や支払いがすべて同一の担当者が受け持つ体制だったことから、広告主や商材の実在性が確認されなかった。加えて、信用調査会社などのデータがない場合、どのように対処するか規定がなく担当者に一任されていたことから取引先や与信管理基準も見直す。
ビッグローブについては、会社規模に対して極端に大きな売上増加といった事象に対して、検証が不足していたとして、新規事業や事業拡大時のリスク分析や対策のレベル向上が求められた。また、ジー・プランに対してはKDDIやその連結子会社に準じた扱いとなり、与信管理が行われず、商流全体の把握ができていなかったことや取引の実在性や業務の適法性について検証されない監査体制などが明らかになっており、体制の再構築に向けて進める。
親会社であるKDDIは、子会社の事業管理とグループファイナンス管理が不十分だったことを認めた。広告事業がグループとしてのコア事業ではなかったことから、発見が遅れたという。グループファイナンス管理についても、審議のプロセスと財務状況のモニタリングプロセスを強化する。
ガバナンス強化に向けた取り組み
松田社長は、調査委員会からの提言もあわせてさらなる体制強化に向けた二本立てで対策を進め、実効性のあるかたちでのグループガバナンスを構築するため、企業風土の醸成やグループ経営戦略のあり方について検討するという。
広告代理事業は、成長ドライバーとして期待されていたものではなく、KDDIと子会社間の関係性で、松田社長は経営戦略上の成長領域以外の事業に対する関与が不十分だったことが今回の事態を招いた大きな要因との認識を示す。
「些細な課題であっても、躊躇なく相談しあえる雰囲気づくりや部門が孤立しない風土づくりが肝心だ。子会社にとっても親会社から強い関心を寄せられるのは、現場で奮闘する従業員にとって大きなモチベーションであり、同時に不正抑止が働く」と松田社長は話した。
加えて「今回の事案をきわめて重く受け止めて、グループ全体におけるガバナンスの総点検を進めるとともにグループ全体がより結束を深める契機として、強靭で一体感のある企業グループに進化させる」とした。取締役会のもとに設置されているリスクマネジメント委員会の傘下にグループガバナンス対策会議を新設しており、同様の事案の再発防止やグループ全体への浸透に向けて進める。
今回の調査結果を受け、ビッグローブとジー・プランは社長など取締役および監査役6名が3月31日付けで辞任した。また、関与した元社員AとBは同日までに懲戒解雇処分となった。
KDDIは、髙橋誠会長と松田浩路社長の両名が月例報酬の30%を3カ月間、自主返納する。また、最勝寺奈苗CFOなど2名が同じく月例報酬の20%を3カ月間自主返納するほか、ほかの役員らも一部を自主返納するなどの処分を発表した。
特別調査委員会の名取俊也弁護士(新丸の内総合法律事務所)は「KDDIの経営陣自らが先頭に立って、グループ各社の管理体制に応じた実効性のある再発防止策を策定の上、着実に実行していくことを強く期待している」とコメント。
松田社長は、調査委員会のコメントを受けて「(期待に)しっかり応え、今回の厳しい経験を糧とし、私自身が自ら汗をかいて先頭に立って、より強靭で一体感のある企業グループへと進化していくことをお約束いたします」と決意を示した。
通信・金融事業は好調も、通期予想は下方修正
同日発表された2026年3月期第3四半期決算では、過去の不適切取引の影響を取り消した訂正後の業績ベースで、売上高が前年同期比3.8%増の4兆4717億円、営業利益が同1.1%増の8566億円、純利益が同5.1%増の5455億円と増収増益だった。通信を基盤としたモバイル収入に加え、金融事業やデータセンターなどのグロース領域が成長を牽引し、本業は順調に推移している。
一方で、2026年3月期の通期連結業績予想については下方修正を行った。今回の架空循環取引による影響(売上高676億円減、営業利益420億円減)に加え、スマートフォン販売数の減少やエネルギー売上減などを見込み、売上高を当初予想から2700億円減(4.3%減)の6兆600億円に引き下げた。
また、短期的な顧客獲得ではなく長期的な利用を重視する「LTV戦略」への転換に伴い、SIM単体契約等の短期解約者にかかる販売手数料の減損損失500億円を計上することも響き、営業利益は当初予想から880億円減(7.5%減)の1兆900億円となる見込み。
























