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楽天モバイル、AIでRAN制御する「RIC」全国展開へ 電力・運用効率向上
2025年9月26日 00:00
楽天モバイルが、基地局などRANの設備をAIが制御する「RIC」(RAN Intelligent Controller)の本格展開に力を入れる。2025年内に数万局の基地局に導入し、運用コスト・電力消費の削減を目指す。
電力削減・効率化を実現する「RIC」
RICは、基地局の設備であるRU(Radio Unit)やCU/DU(Central Unit/Distributed Unit)を、AIと機械学習で制御するアプリケーションプラットフォーム。O-RAN Allianceにより標準化されている。スマートフォンのデータ使用量が増加し、ネットワークの維持・運用のコストが増大するなか、人出を介さずにトラフィックに合わせた最適化などを実現できる。
RICは、ネットワーク・機器を管理するSMO(Service Management and Orchestration)と基地局のデータセンター側の両方に配置され、SMO側では分析やAIモデル管理などリアルタイム性が求められない処理、基地局のデータセンター側では干渉制御やハンドオーバーなど、遅延が許されない処理を行うなど、分散して運用されている。楽天モバイル 先端技術開発統括部 イノベーションプログラム開発事業部 ジェネラルマネージャーの朽津光広氏は、これを「多段なAI」と表現する。
障害時の自動的な対処や低トラフィック時にユーザーに影響が出ない範囲でセルを停止するなどで、ネットワーク運用にかかる人員などコスト・電力削減が見込め、ネットワーク品質向上も期待される。楽天モバイルでは、RICを商用ネットワークに適用し、従来比で約20%の電力削減を実現するとしている。デモンストレーションでは、4G MIMOの送信制御(4×4から2×4への変更)により、約30%の電力削減が可能なことが示された。
朽津氏は「RICはスマートフォンでいうAndroidやiOS(プラットフォーム)」と説明。RICのうえでさまざまなアプリケーションを動作させることで、ニーズに合わせた機能を実現できる。仕様がオープンなため、第三者が開発したアプリケーションも導入できる。想定される用途としては主に産業用で、ネットワークが混雑しているなかでも、不審者検知の通信を最優先して担当者につなげるというような機能はすでに実現可能だという。
当初は5Gを前提に進んでいたRICだが、4Gが現役なうえ、5Gでも4Gの設備を用いるNSA(Non Stand Alone)が主流のなか、5Gのみの技術とすることは相応しくないとして、O-RAN Allianceや社内で働きかけ、4Gの制御も開発した。朽津氏は「この苦労は商用展開するにあたって報われた」と語った。
後発ゆえの強みを活かす楽天モバイル
2020年に本格的にサービスを展開した楽天モバイルは、当初からオープンRANを取り入れ、汎用機器を用いた完全仮想化ネットワークを手がけてきた。RICを活かすには、仕様が公開されているオープンRANが必要不可欠。同社では一定の検証を終え、3月に商用ネットワークにRICを導入している。
一方で、競合他社は主に従来型の大手ベンダーの機器によるネットワークを構築している。他社でもAIでのRAN制御に取り組んでいるが、朽津氏は「大手ベンダーの機器は、基地局制御の部分もブラックボックス、(ベンダーごとに)仕様が異なることもあり、すべての機器を制御するのはハードルが高い」と話す。
楽天モバイルの場合、当初から汎用機器かつオープンRANで構成されているため、競合他社に比べて全国にRICを広げやすいという点で優位性があるという。今後は、他社でもオープンRANの本格化、RIC導入が進んでいくと考えられるが、朽津氏は6G以降にその動きが本格化すると予測した。
現時点では、一部のエリアで数千の基地局に導入されているという段階で今後、年内には数万局へと導入規模を拡大し、全国で運用を始める予定という。技術的には全国展開はすでに難しくない段階に来ているが、各地のトラフィックの傾向に応じてAIの学習を進めるなど準備を重ねたうえでエリアを広げる。
さらに今後、楽天シンフォニーとともに海外の事業者への販売も計画する。
なお、今後仕様の策定などが進むと見られる次世代通信規格「6G」のテーマのひとつにAIがある。6GでもRICは重要な技術のひとつとなりつつあり、朽津氏は「早ければ2028年ごろから6GのPoCが始まる。これまで取り組んできたものをベースに6G時代でもリードしていきたい」と話した。

























