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徳島県とKDDIが包括連携、南海トラフ巨大地震に備え――KDDI松田社長に聞く「AIドローン」や「Starlink」を活かした事前防災への取り組み

 9月10日、徳島県とKDDIは、南海トラフ巨大地震に備えた「事前防災」を推進するための包括連携協定を締結し、徳島県庁において、徳島県の後藤田正純知事とKDDI代表取締役CEOの松田浩路氏による締結式が行われた。

Skydioのドローンを持つ後藤田正純 徳島県知事、Starlinkのアンテナを持つKDDI代表取締役社長CEO 松田浩路氏

有事に備え、平時からも取り組む「事前防災」

 徳島県との協定は、南海トラフ巨大地震などの大規模災害による津波被害に備えた「事前防災」を目的としている。KDDIが持つ通信インフラに加え、AIドローンや衛星ブロードバンド「Starlink」などを活用し、地域防災や県防災訓練の実施など、『防災DX』に取り組む。

AIドローンの活用例として、災害時などの行方不明者の捜索が紹介された。赤外線センサーで行方不明者を捜索することが可能

 KDDIとしては昨年10月の石川県に続く、2例目の包括連携協定の締結になる。

 石川県が能登半島地震及び奥能登豪雨からの『創造的復興』の推進を目的としていたのに対し、徳島県との協定では、南海トラフ巨大地震への『事前防災』が主眼だ。

AIドローンやStarlinkについて、熱心に質問する後藤田知事
Starlinkの衛星マップをタブレットに表示しながら説明

 地震発生時には、沿岸部の津波被害や集落の孤立化が想定される。これに対し、ドローンによる初動対応をはじめ、ローソン店舗の地域防災拠点化、Starlinkを利用した通信環境の整備などにより、『事前防災』を徳島県とKDDIの双方で推進していく。

ローソンなどに設置したドローンポートからAIドローンを発進させ、さまざまな対応に活用できる
災害時だけでなく、平時に起きた交通事故の初動対応にもドローンを活用することができる

 KDDIは現在、AIドローンとStarlinkを全国1000拠点に配備し、全国どこへでもAIドローンが10分以内に遠隔操作で駆け付ける体制を整えようとしている。

 たとえば、地震や集中豪雨などの災害発生時に、集落が孤立化したり、二次災害のリスクがあるようなシーンでもAIドローンを遠隔操作で飛ばすことで、河川の氾濫や土砂災害の状況確認、赤外線センサーやカメラによる行方不明者捜索などができる。

AIドローンを前に、KDDIとしての取り組みを説明する松田社長

 徳島県の場合、南海トラフ巨大地震などで津波が発生すると、南側の海沿いのエリアが被災するリスクがあるため、遠隔操作で状況を確認できるAIドローンに対する期待は大きいという。

 また、KDDIは8月28日から「au Starlink Direct」で衛星との直接データ通信を可能にしているが、今後、Starlink衛星とドローンの直接通信により、災害時などに基地局が停止したり、不感地帯においても遠隔操作で、平時や有事に活用できる環境を検討していることも明らかにされた。

署名した協定書をきれいに仕上げる後藤田知事
協定書に署名する松田社長

 締結式では後藤田知事もAIドローンやStarlinkに高い関心と理解を示し、県のスタッフに対し、通常の防災訓練だけでなく、孤立化が予想される集落にAIドローンで実際に物資を運んでみたり、上空から状況を把握するなどの実証にもいち早く取り組むべきだと、強く指示する一幕もあった。

署名した協定書を掲げる後藤田知事と松田社長
締結式は徳島県の特産品が並ぶ知事の執務室で行われた。締結式後には出席した関係者やメディアのスタッフに、特産品を熱心にアピールする一幕も

松田社長が目指す「AIドローン」「Starlink」活用のプラットフォーム化

 締結式の終了後、今回の徳島県とKDDIの包括連携協定について、松田社長に個別にお話を聞くことができた。

――まず最初に、昨年の石川県に続き、なぜ、徳島県と包括連携協定を締結することになったのかをお聞かせください。

松田氏
 徳島県が石川県との取り組みをご覧になり、興味を持っていただいていたということがあります。

 実は、今日もお話がありましたけど、後藤田知事は以前から石川県の馳浩知事と交流があったそうですし、政府から徳島県庁に派遣されているスタッフにも石川県へ派遣されていた方がいらっしゃって、「石川県と同じような取り組みができないか」という話がありました。

 特に、徳島県の場合、南海トラフ巨大地震による津波などの被害の事前防災に取り組み、どうやって被害を食い止めるかというお話がありました。

――石川県との取り組みが注目されたのはどういう背景があるのでしょうか?

松田氏
 石川県での取り組みについては、ひとつのモデルケースとして、各自治体にもお声掛けさせていただいたのですが、石川県では県警とも連携する取り組みが進められたことも評価されている部分があります。

締結式の終了後、松田社長に個別に話をうかがうことができた。AIドローンとStarlinkをプラットフォーム化して、各自治体や企業などのニーズに応えられるようにしたいという

 災害時の対応は「非常時」のお話ですけど、警察との連携は「平時」も含まれます。

 たとえば、行方不明者の捜索などは災害時だけでなく、平時でも行われますから、AIドローンを飛ばして、赤外線センサーで発見するといったことが可能になります。

 こうした石川県での取り組みが他の自治体にも評価され、今回の徳島県のお話にも結び付いています。

 余談としては、今日も少しお話がありましたが、後藤田知事は竹増さん(ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏)とかつて同僚(共に三菱商事出身)で、KDDIの取り組みについて、お話が伝わっていたというのもあります(笑)。

――こうした自治体と取り組みついて、実際のソリューションに落とし込むにはなかなか難しいと思います。今回の徳島県のケースも含め、どこまで各自治体に合わせていくお考えですか?

松田氏
 今回は「AIドローン」と「Starlink」を軸に、事前防災のお話を進めていますが、すべての地域について、それぞれ個別にカスタマイズしていくことは必ずしも効率的ではないと考えています。

 ですから、AIドローンなどは全国1000カ所にドローンポートを設置して、共通のプラットフォームを構築し、Starlinkについても全国共通の活用方法を用意して、それぞれの地域特有の課題に対応する必要があれば、そこに合わせていくという考えです。

 徳島県の場合、南部の3つの町が海に面していて、地震発生時は津波がもっとも早く到達すると言われています。

 こうしたとき、72時間以内の人命捜索に取り組んだり、それ以降の被害状況の確認をドローンを使うことで、どのようにできるのかを考えます。

 基地局が使えなくなってしまったときもStarlinkをバックホールにした基地局をどのように開設すれば、カバーできるのかといったことを含め、我々の方で設計して、ご提案するという流れになります。

 これらは極端なカスタマイズしているわけではなく、「AIドローン」と「Starlink」をそれぞれひとつのプラットフォームとして作り上げているわけです。

――今後、47都道府県のいろいろな自治体からお話があったとしても対応できそうですか?

松田氏
 そうですね。もっともわかりやすいのはドローンポートでしょうか。何カ所、設置すれば、どれくらいのエリアをカバーできますといったことはほぼ見えていて、それが今回のお話でも出た全国1000カ所のドローンポートです。

 地域によっては細かい調整が必要になるケースもありますが、ああいったものをお見せするのは、もっともご理解いただきやすいと思います。

――今日の締結式では、後藤田知事がデジタル分野やテクノロジーについて、理解があることが伝わってきましたが、自治体によって、こうした分野の理解に差があるのではないでしょうか?

松田氏
 それぞれの自治体の首長さんによって、テクノロジーに対するリーダーシップのようなものは多少の温度差があるかもしれません。ただ、それぞれの首長さんは地域のため、県民のためという気持ちはお持ちです。

 今回は後藤田知事がテクノロジーをよくご存知なので、AIドローンやStarlinkを説明してもすぐにご理解いただき、お話がしやすかったのは事実です。ただ、我々は本来、影の存在であって、活用するテクノロジーについて、県民のみなさんに「こういう形で使えるんですよ」と提案していかなければならない。

 ですから、首長さんをはじめ、各自治体の職員や関係者のみなさんといっしょにお伝えしていきたいと考えています。

 また、そういったデジタルを活用するための人材も必要になってきます。我々も社内の取り組みとして、各自治体への出向という形でお手伝いをしていますが、実はそれぞれの地方の出身者が出向しています。

 出向先の土地をまったくしらない者が出向くのではなく、その地域出身で、郷土愛のある社員が出向することで、それぞれの地域の特性を踏まえたDXを進めていくという考えです。

 それぞれの地域でどんなことができるのかは、中央集権的な考えだけでは進められませんから、人材育成なども含め、そういった取り組みを進め、「つなぐチカラ」を高めていくことで、日本全国だけでなく、将来的には世界にも輸出できるようになっていくんだと期待しています。

――通信技術に限らず、テクノロジーは進化が早いですが、こうした自治体との連携について、導入した技術が遅れてしまうといった危惧はありませんか?

松田氏
 確かに技術の進化は早いのですが、ドローンに関して言えば、進化のロードマップは見えています。

 スマートフォンの初期のように、もの凄いスピードでどんどん進化していくというほどの状況ではありません。たとえば、ドローンポートを設置することで、そこで3年や5年といったスパンで運用していくことで、どんなことができるのかは、十分に見えてきます。

――ローソンについては今回、ドローンポートのお話がありました。それ以外にもローソンとはさまざまな取り組みをされていますが、進捗状況はいかがでしょうか?

松田氏
 石川県や今回の徳島県を含め、防災拠点としてのローソンの活用は、ドローンポート以外にも太陽光発電や蓄電池の設置など、具体事例がいくつも出てきて、注目されていますが、発信のバランスやタイミングの関係上、まだ十分にお伝えできていない部分もあります。

――高輪のローソンで得られた知見などで、反映させられそうなものはありますか?

松田氏
 ローソンに関して言えば、高輪のような「オフィスローソン」的な存在と、地域の拠点になるような「サスティナブルローソン」では、それぞれ使い方が違うと思います。

 もちろん、ひとつひとつのテクノロジーにはそれぞれのローソンに活かせるものがありますが、ドローンポートをオフィスローソンに設置するわけにはいきません。

 ですから、ローソンの全国1万4000店舗を区分というか、性格や特性で分類して、ここにはこんなテクノロジー、ここには蓄電を置こうといった形で使い分けていく必要があります。

 今の段階では高輪のオフィスローソンなどの売り上げが大きいものですから、すごく効果があるように見えますが、元々、人が集まるエリアだからこその話です。

 それがサスティナブルになってくると、それぞれの地域ではどれくらいでペイするのか、ドローンポートは何年でペイするんだろうっていう話になってきます。ですから、それぞれの地域への展開については、ユースケースを具体化した形で進めていきたいと考えています。

――災害対策はどうしても人とお金が必要になってきますが、どのようにビジネス的にペイしながら、社会貢献を進めて行かれるのでしょうか?

松田氏
 こここそが我々がこだわってやっていかなければならない部分です。

 我々は元々、サスティナブル経営を掲げていますが、社会貢献はいいですけど、それがしっかりと事業につながらないと、循環していかない。

 社会貢献だけで終わってしまうと、いつか予算と言いますか、お金が足りなくなって、終わってしまうかもしれません。やはり、社会貢献をした結果、事業の成長にもつながるというのがあるべき姿です。

 なので、ドローンについては事業会社を作って、昨年、はじめて黒字化ができました。

 最初はやっぱり、赤字だらけなんですね。何かを輸送してくださいとか、山岳の救助で使ってくださいとか、そういう話ばかりなので、当然、赤字になっちゃうわけですが、それが点検サービスへの活用などで使われるようになり、ようやく事業として回るようになってきたわけです。

 同じように、平時と有事で使えるようにしていくわけです。災害時だけだと、予算はつくかもしれませんが、平時にはつきませんよね。

 じゃあ、平時はどなたにお金を支払っていただくんですかという話になるので、ここを我々はやり切らないといけない。

 石川県の場合は、警察関係で活用されたり、民間企業の点検業務に使われたりしてきました。先ほどの海沿いのエリアの話でしたら、養殖場の監視もありますし、盗難防止などにも役立てることができます。

 こういったことをそれぞれの地域の方に提案し、我々が事業として、展開していかなければならないということですね。

――昨年の石川県に続き、今回、徳島県と包括連携協定を締結しましたが、次はどこの自治体と取り組まれるのでしょうか?

松田氏
 いろいろな自治体とお話をさせていただいているのですが、ひとつは防災意識の高いところはあるでしょうし、山岳地帯というのもあります。

 石川県の場合は創造的復興というテーマがありましたし、今回は南海トラフ巨大地震への事前防災が目的です。そういったユースケースが当てはまるようなエリアを優先していく形になると思います。

――南海トラフ巨大地震については、今回は徳島県とのお話でしたが、同じ四国では高知県や愛媛県、香川県なども影響を受けると思います。これらの自治体ともお話をされていくのでしょうか?

松田氏
 そうですね。今回、徳島県とお話ができましたので、これを波及させる形で、他の自治体ともお話ができればと考えています。

 南海トラフ巨大地震だけでなく、能登の震災復興もありますし、豪雨災害という地域もあります。それぞれの自治体がお持ちの課題に答えられるように、取り組んでいきたいと思います。

発表したばかりのiPhone 17シリーズ/iPhone Airについて

――ところで、徳島の話から離れますが、今日(9月10日)って、米国でAppleの発表がありました。現地に行かず、ここにいらしてたので、ちょっと驚きました。

松田氏
 実は、昨日は大阪・関西万博に行っておりまして、その後、夜中にこちら(徳島)に移動してきて、眠い目をこすりながら、発表を拝見しました(笑)。

 新しいiPhoneは9月19日に発売されますけど、auでは「最新世代のiPhone au発売イベント」を開催する予定です。各メディアでも報道されると思いますので、ぜひ、楽しみにしていてください。

――今日はありがとうございました。発売日も楽しみにしています。