ニュース

ソフトバンクと東工大、5Gと衛星通信の干渉を防ぐ仕組みの実験に成功

 ソフトバンクと東京工業大学は、5G回線の3.9GHz帯と衛星通信の電波干渉を抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」の室内実験に成功した。今後、実用化に向けてフィールドテストなどを進める。

報道陣向けに公開されたデモ環境

衛星干渉が基地局展開に影響

 ソフトバンクが保有する、5G用周波数のうち3.9GHz帯は、衛星通信に利用される下り回線と同一の周波数帯。これにより、3.9GHz帯の設置場所によっては衛星通信に電波干渉を与える可能性がある課題がある。

 干渉を防ぐには、5G基地局の電波の送信電力の強弱やアンテナの指向性の制御のほか、衛星の電波を受ける「地球局」から基地局を一定の距離離すなどの対策が必要とされる。この場合、基地局の設置位置が限られることから周辺地域での5G展開に遅れが出るなどの影響が懸念される。

キャンセラー装置で干渉を解決

 今回、ソフトバンクと東京工業大学が開発した仕組みでは、地球局に干渉キャンセラー装置を設置。地球局が受信する衛星信号とそれに干渉する5Gの下り回線の信号が混在している無線信号を分岐させ、装置に入力する。

 5G基地局の下り回線の送信信号を分岐させることで、一方は遅延装置を介して5G基地局から送信、もう一方はDAS(分散型アンテナシステム)を活用して光ファイバーで装置に転送する。転送された信号は「レプリカ信号」や「カンニング信号」と呼ばれ、キャンセラー装置で、衛星通信に混在する5G信号の大きさを検出できるようになる。

 検出した5Gの信号の大きさとレプリカ信号を装置内で重畳して干渉信号と同じ大きさの「キャンセル信号」を生成し、干渉が起きている信号に合成、差し引くと衛星信号だけを衛星通信の設備に送信できるという。

 光ファイバーを介して送られるレプリカ信号は、空間を進む5G信号より速度が遅いため、基地局には遅延装置を設置することで対処した。衛星信号自体には影響なく、通信品質の劣化もないという。

 衛星通信との干渉を考慮すると、衛星地球局と5G基地局は数十kmほども離れた場所に設置する必要があるなど、5G展開に影響を及ぼしていた。今回開発された仕組みが実用化されれば、衛星通信との干渉による5G基地局設置の場所の制約がなくなる。

今後、実用化に向けて開発を進める

 実験は室内で行われ、衛星信号と5Gの帯域幅はそれぞれ40MHz幅と100MHz幅で、光ファイバーの長さは5km。マルチパス干渉信号生成装置で、同じ電力で遅延時間が異なる干渉信号を3つ生成した。

 スペクトルアナライザーで確認したところ、キャンセラー装置を適用すると、衛星通信に影響を与える5Gの信号を雑音電力以下に低減したという。

 情報通信研究機構(NICT)による委託事業の一環。東京工業大学 工学院 藤井・表研究室の藤井輝也氏によれば、仕組み上はほかの通信事業者でも利用できる。今後、フィールドテストなども行い、実用化に向けて開発を進めていく。

衛星通信のみの状態。干渉は起きない
5Gと衛星通信が干渉している状態
キャンセラー装置を有効にした状態
5Gと衛星信号が同程度のパワーでも干渉を防げる