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「日本の開発者は面白い」、ナイアンティック担当者が話すAR技術の課題と今後
2023年3月6日 00:00
「Pokémon GO」や「ピクミンブルーム」など、“位置情報ゲーム”を手がけているナイアンティック(Niantic)。カメラからの情報をもとに位置を特定するVPS(Visual Positioning System)を活用し、AR(Augmented Reality、拡張現実)やMR(Mixed Reality、複合現実)で、ユーザーを楽しませるゲームや、そのゲームを作る開発者を支援する取り組みを行っている。一方で、現在ARやMRがどこまで生活に普及しているのか。
今回は、米国本社のエンジニア2人が来日しているとのことで、2人にナイアンティックが目指すAR/MRの世界を聞いた。
話を聞いたのは、ナイアンティック エンジニアリング部門 シニアVPのブライアン マククレドン(Brian McClendon)氏と、プロダクトマネジメント部門 シニアディレクターのシェル ブロンダー(Kjell Bronder)氏。
AR市場は拡大の一途を辿るとブライアン氏
ブライアン氏は、1990年代から3DやVRに関わりを持ち、早くからUnityなどに着目していた。その一方で、グーグル(Google)でGoogle MapやGoogle Earth、ストリートビューなど、現実世界を地図化する取り組みも行っていた。
その後、Uberで自動運転に必要な“より詳細な”地図に関わり、現在のナイアンティックに入社。ナイアンティックでは、グーグルやUberで関わった地図よりもさらに詳細な地図の開発に取り組んでいるという。
ナイアンティックでは、ユーザーが「仲間と世界を探検するお手伝いをしている」(ブライアン氏)とし、より深く現実世界を知るために、ナイアンティックのゲームや技術を活用してほしいとコメント。現在では、日本を含めて175カ国以上の地域で6000万人のユーザーが230億Kmを歩いているとし、ユーザーの知的好奇心や健康、現実世界でのユーザー交流など、その輪は広がっているとした。
そして、ナイアンティックでは現在「スマートフォンに目を落とすことなく、現実世界の物体に命を吹き込むことができるARへの取り組みを加速させている。2023年のARソフト市場規模は115億ドル、2024年にスマートフォンでのARユーザー数17億人、2027年のAR関連売上は500億ドルを超えるだろうとブライアン氏は説明する。
ブライアン氏は「あくまで希望的観測」としながらもAR技術のロードマップを示し、今後さまざまなメーカーから最新のAR/MRデバイスが登場していくと予想する。
2つのソリューションでサードパーティー開発を促進
一方コンテンツについては、順調に充実してきていると説明するシェル氏は、サードパーティーの開発者がARコンテンツを作成するために2つのソリューションを用意していると話す。
まず、クラウドベースのARエンジンを利用できる「Niantic 8th Wall」、次にUnityを活用し没入感あるネイティブARアプリを開発できる「Niantic Lightship」を用意している。
「Lightship」では、現実世界の物体にさまざまなコンテンツをオーバーレイし、リアルタイムに描写できる。日本で開発されたコンテンツも開発されており、シェル氏は現実世界をペインティングできる「AR Street Painting」など“面白い発想”と日本の開発者のコンテンツを期待しているとした。
一方、「8th Wall」ではWebブラウザで手軽にAR体験できるコンテンツが展開されており、プロモーションなどで活用されている。
「8th Wall」では、AR Coreへアクセスができないので、「Lightship」を使ったコンテンツよりも劣ることがあるが、マーケティングコンテンツなどでは、十分な精度で利用できるという。
その「8th Wall」だが、シェル氏は「朗報をお話ししたい」とし、2023年第2四半期に日本語版が提供されることを明らかにした。Webサイトを含めて日本語版が提供されることで、日本の開発者が作るコンテンツがより楽しみになるとシェル氏はコメントした。
人間目線のコンテンツを作れるのがナイアンティック
AR技術を開発しているのは、ナイアンティックだけではない。グーグルもAR技術の研究を進めており、アプリ開発者向けにSDKを配布している。
グーグルとの違いについてシェル氏は「グーグルの物は、ストリートビューの画像をもとに作成されているため、ナイアンティックのものと比較して利用できる場所は多いが精度が低い」と分析。ナイアンティックは、15万程度のスポットと少ないが高い解像度のものを提供できているという。
また、使っている写真についてブライアン氏は「グーグルのものは、ストリートビューで車道から撮影されたもの」と指摘。ナイアンティックのものは、「ユーザーがスマートフォンで撮影した物で、より人間の目線に近い画角から撮影できている」とし、今後ヘッドセットと組み合わせたARコンテンツなどを作成する上では、ナイアンティックのものが優位に働くだろうと考えを示した。
ただ、ARグラスを使った開発には解決すべき課題もあるとブライアン氏は説明する。
まずARグラスには、バッテリー問題があると指摘する。グラスにバッテリーを備えるには、バッテリーサイズが小さくなければならないが、持続時間が延びない。一方、ケーブルで別にすると、使いづらくなってしまうとコメント。また、暗いところと明るいところを行き来する際の光の調整にも課題点があるという。
また、シェル氏は「視野角」が狭い点を指摘。より人間の視野角に近いもので提供していきたいと今後の方針を示した。
ARグラスの必要性についてブライアン氏は「現行のスマートフォンでは、手で持つ必要があり邪魔になったり、重かったり、出さないといけなかったりとデメリットが多いとし、グラスをかけるだけでそのままコンテンツが利用できるようになる利便性を追求したいと意気込みを示した。
また、シェル氏は「ユーザーの周りで起こった出来事をよりデバイスが深く理解できると、よりよい情報をユーザーに届けることができる」とコメント。たとえば、道案内アプリでは、日本語がわからないユーザーに対して「日本語がわからなくてもわかる目印」を示して案内すれば、ユーザーによりよい情報を届けることができると指摘。現状のARグラスでは、正面にカメラが搭載されていることが多いが、これが背面や横など360度をカバーできれば、ユーザーが気づかない情報をデバイスがすぐに理解し、よりよいコンテンツが提供できるのではないかと説明した。これらのコンテンツが「両手がフリーな状態で使える」ことで、普段の生活レベルが格段に上昇するとその意義をアピールする。
現在のARでは、現実世界とオーバーレイしているコンテンツとの乖離があるという課題についてブライアン氏は「視覚的なクオリティではなく、物理的な問題が大きい」と説明する。シェル氏は、この現実との乖離についても「デバイスが身の回りの状況をどれだけ理解しているかにかかっている」と説明。たとえば、ボールが転がるコンテンツでは、床と水面では起こる現象が違うとし、「床にボールを投げれば転がる」「水面にボールを投げれば水しぶきが飛ぶ」といったことで、より現実世界とのギャップが少なくできるとした。あわせて、デバイスの処理能力にも影響があると指摘している。
最後にシェル氏とブライアン氏は、「日本の開発者は、米国の開発者と全く違った発想でコンテンツを開発しているので非常に面白い」とし、今回の来日についても、日本の開発者と交流ができると期待していたとし、今後も日本初のコンテンツを楽しみにしている」(シェル氏)、「VPSのマップは、東京が世界で一番密度が高いものが提供できている」(ブライアン氏)と、日本のARコンテンツに期待を寄せている旨をそれぞれコメントした。
また、ブライアン氏は「Pokémon GO」や「ピクミンブルーム」に続く日本のナイアンティック発のゲームが開発されていることを明らかにした。まだ発表できることはないが「楽しみにしておいてほしい」とした。