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クリエイターにとって生成AIやARグラスは「驚異」なのか、Niantic ハンケCEOと川島氏、Rhizomatiks 真鍋氏が対談

 生成AIの進化で、これまでは人間からコンピューターへの一方通行のようだったコミュニケーションから、コンピューターから会話のキャッチボールをしてくれる双方向のものに変化しつつある。また、Apple Vision Proなど各社からAR/MRグラスが登場し、使いやすい形状やユーザーインターフェイス(UI)により、多くのユーザーに身近になりつつあるAR/MRは、ユーザーにどういった体験をもたらすのだろうか。

 今回は、位置情報ゲームやAR体験を提供するNianticのCEO ジョン・ハンケ氏の来日に合わせ、同社のバイスプレジデント 川島 優志氏と、Nianticとコラボレーションした作品作りを行うRhizomatiks(ライゾマティクス) 代表とアブストラクト 取締役の真鍋 大度氏の3人が、AIを組み合わせたARなど、今後のユーザー体験について対談した。

左から、Niantic バイスプレジデント(副社長) 川島 優志氏、ライゾマティクス 代表とアブストラクト 取締役の真鍋 大度氏、NianticのCEO ジョン・ハンケ氏、モデレーターを務めたNiantic 副社長と日本法人代表取締役社長の村井 説人氏

Nianticとライゾマティクスのかかわり

 ライゾマティクスは、2006年に設立のメディアアートや建築などの映像企画、デザイン企業で、文化庁メディア芸術祭やグッドデザイン賞の受賞など、国内外で高い評価を受けている。

 直近の作品では、3Dメガネを使ったCGと、実際の水面の波動を融合させ、背面にLEDパネルを使ってCGオブジェクトの影を使った表現などを展開。デジタルの世界と現実世界で異なった表現をデザインするなど、さまざまな表現で人々を楽しませている。

 Nianticとは、2014年のIngress(イングレス)のイベントから関わり始めたという。また、その当時にイングレスのイメージコンセプトとして、ARの技術が描く未来のコンセプトムービーをライゾマティクスが制作した。作品は、真鍋氏が頭の中で想像した未来の姿だったというが、Niantic川島氏は「今ようやくそういったものが現実にできるような時代になってきているのではないか」とコメント。

 その後も、イングレスのAPIを使った映像作品や、イングレスが文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞した際の展示作品の制作、六本木ヒルズでのイングレスのイベントなど、バーチャルと現実世界を組み合わせたさまざまな作品を提供した。

 また、Pokémon GOでも文化庁メディア芸術祭での展示や、六本木ヒルズ 毛利庭園での「音でポケモンを探す」イベントなど、映像だけでなく聴覚を主役にした体験にも力を入れている。

人間とAIの関係

 対談ではまず、Nianticとライゾマティクスの共通点「テクノロジーの進化による新しい技術を活用した今までに無い表現や可能性を提供する」ことについて、「人間とAIがどのような関係になるのか?」と問いかけからスタート。

 Niantic ハンケ氏は、「大きな問題だ」とした上で、生成AIのような個人のクリエイティブ活動に力を与えるツールとして、「AIに私たちの生活を過度にコントロールさせないように注意する必要がある」と、AIに頼りすぎない姿勢が重要だと指摘する。

 一方で、クリエイティブな仕事においては、「これまでで最も強力なテクノロジーツールだ」とし、人間のクリエイターと掛け合わせれば、今後信じられないほどエキサイティングな世界になるとした。

Niantic ハンケ氏

 ライゾマティクス 真鍋氏は、「おもしろいと思う」とする一方、これまで映像や画像、音楽作品の制作に携わってきた人間としては「(生成AIの)スピードには慣れないところも正直ある」とコメント。自身も活用していながらも「クリエイティブ業界全体に、今大きなショックを与えている」と指摘する。

 生成AIについては、エコシステムやライセンスの問題など、まだすべての課題が出きっていないとしながらも「問題が起きるから(使うのを)やめてしまおうとなってしまうと、いつまで経っても進化しない」とコメント。人間のために作られている技術だからこそ、新しい技術と向き合い、課題を挙げて解決していくことで、安全に使っていくべきだとした。

ライゾマティクス 真鍋氏

 Niantic 川島氏は、自身が小学3年生の頃にはじめて触れたコンピューターについて「テキストベースでプログラムを打って帰ってくる形だった」とし、その後登場したMacintosh(マッキントッシュ、現在のアップルのMac)に触れた際に「見たままのものがプリントアウトされ、すごく人間に寄り添ってくれている」と感じたとコメント。AIの進化についても「もっと、コンピューターが人間の方に寄り添ってくれている」と感じているという。

 「今まではどちらかというと、人間がコンピューターに合わせてプログラムを打ち込んだり、彼らの言葉を話そうとしていた。それが、AIによってずいぶん関係性が変わってきて。もっと(コンピューターが)人間の方に寄り添ってくれているんじゃないか。そうういう意味ではすごく楽しみ」という川島氏。一方で「たとえばAIが将棋で人間に勝ったとしても、やっぱり人間同士の戦いを見たくなる。そこに人間が物語性を感じることがあり、その部分がやっぱりAIの中では欠けている部分がある」とし、AIの進化に合わせて自身も、AIとどう向き合っていくか、どう活用していくかという目線でアウトプットし続けることが重要と考えを示した。

Niantic 川島氏

ARグラスの進歩

 対談の話題は、スマートグラスに移る。アップル(Apple)の「Vision Pro」やMetaの「Ray-Ban Meta」(映像出力機能はなし)など、スマートグラスが続々と展開されている。

 スマートグラスや、ビデオシースルーのヘッドマウントディスプレイなどの進化をどのように感じているか? と問われたNiantic ハンケ氏は「AIを搭載したARグラスの時代がすでに到来してしており、非常にエキサイティングだ」とコメント。

 実際に「Ray-Ban Meta」を利用しているというハンケ氏は「ARグラスの時代に向けて準備が必要だ。ただ、世界に出て歩き、探索し、自分の目で直接見て、感じて、匂いを嗅ぎ、触れるという生きる上で欠かせないことは、テクノロジーで『取って変わる』のではなく『サポートする』立場であってほしい」とし、高解像度ディスプレイを備えるARグラスの映像にとらわれてしまうのではないかと指摘する。

 川島氏は、自動翻訳機能などを備えた映像出力機能があるARグラス「Google Glass」(2014年発売)と「Ray-Ban Meta」を比較し、「約10年の間に、ディスプレイがないスマートグラスが登場したが、すごく自然な見た目になっている。世界がキャッチアップしていくのにすごく時間がかかると感じている。私たちのように『新しいものをすぐ買ってしまうような人』だけでなく、もっと多くの人がこの価値に気づいて『買ってみよう』と思うようなところに近づいたと感じている」とした。

 ハンケ氏も、「Ray-Ban Meta」については「進化したAIをメガネに取り入れることで、リアルタイム翻訳などさまざまなサービスが利用でき、非常にエキサイティングに感じている。テクノロジーの急速な進化で、より多くの人々にとって現実の物になる」とコメントした。

 一方で、ARグラスのように「リアルとデジタルを重ね合わせる」表現という観点で、ライゾマティクス 真鍋氏は「ARやMRは、画面越しで見ることが必須だが、究極的には肉眼で立体的なものが見えるというのが理想で大きな目標」とコメント。「Vision Pro」については「今までのデバイスのなかで、はじめて自分が普段使いできるデバイスだと感じる」とし、UIの親和性や、ARグラスの軽量小型化など技術が進めば、多くの人が“本当の3D表現”を体験できるようになる」と期待しているという。

 真鍋氏のクリエイティブ活動の中では、撮影時などに数年後の技術の進化を見越した素材収録を実施しているという。たとえば、手軽な3Dグラスや3次元の再生装置が普及していない時代でも、当時のモーションキャプチャー技術を駆使し収録。その後、現在のデータ処理技術を使って作品を展開している。

 真鍋氏は「再生する体験はどんどん進化していく。とにかくデータを取っておくことが必要」と作品作りの心がけを説明する。

AIを使った製品開発

 Nianticでは、位置情報ゲーム以外にもARプラットフォームの提供など、ゲーム以外のソリューションにも取り組んでいる。

 Niantic ハンケ氏は、「すべての人にNiantic製品を体験してもらいたい。現代社会では、人間がロボットのようになってしまいかねない。アート作品が私たちの目を開かせ、世の中を新鮮に見せてくれる。それを支援するという思いをもとにNiantic製品が展開されている」と説明。歴史的な場所やパブリックアート、美しい街並みなど、人々が旅をし楽しめる場所を中心にゲームを構築してきたとこれまでの取り組みをまとめたうえで、AI技術でこの取り組みを継続していきたいとした。

 Niantic 川島氏は、ライゾマティクス 真鍋氏のデータを取っておくという取り組みに関連し、イングレスなどNianticのゲームでも、ユーザーに世界各地をスキャンしてもらっているとし、これらの3Dデータで、今までに無いような地図を作りたいとコメント。

 実際に、東日本大震災で津波の被害を受けた宮城県石巻市では、イングレスのアプリでスキャンされたデータを用いて、ARで流された建造物を再現するイベントなどを実施しており、さまざまなクリエイターがこれらを活用して、新たな作品を作ってもらいたいとした。

 また、NianticのVPS(Virtual Positioning System)を活用したサービスについて、Niantic ハンケ氏は「スマートグラスでVPSが役立つと思う。ユーザーが世界のどこにいるのかを理解したいときに、VPSが情報をAIに渡せば、より生活が効率的で便利なものになるだろう」とコメントする。

人間とテクノロジーの関係

 冒頭では、「人間とAIの関係」について3人の思いが語られたが、さらに大きなくくりとして「人間とテクノロジーの関係」は今後どうなるか? という話題に移る。

 ライゾマティクス 真鍋氏は、自身がイングレスをプレイして「家の周りにある知らないものをたくさん発見できた。歩く道も変わり、世界の見方が変わった」とし、自分の目で見るということは同じでも、脳の中の意識が変わるだけで「こんなに世界が変わって見えるのか」と大きな衝撃を受けたという。

 人間の五感を使って脳の中をどれだけ豊かにするかが大切と真鍋氏は指摘した上で、「いろいろなところに足を運ぶことは大変だが、人生を豊かにする。それを拡張できるもの、新しい気づきを与えてくれるものがテクノロジーだ」とした。

 Niantic 川島氏は「ほとんど違和感がないスマートグラスが登場しているなか、数年経てばもっと多くの人がウェアラブルデバイスを身につけるようになると、クリエイターが作った作品へのアクセスがどんどん広がり、世界の見え方が変わってくるような時代が訪れる」とコメント。クリエイターがますます輝くような世界になるだろうとした。

 ハンケ氏は、「Google Earth」やSF作家のニール・スティーブンソン氏の作品からインスピレーションを受けたとし、「3Dデジタルの世界が存在する未来が描かれており、そのツールを手に入れたい、作りたいと思った」とコメント。世界には、未来を見ることができてそれを開発したいと思う人がいるとし、ライゾマティクス 真鍋氏はまさにそのうちの一人だと指摘。真鍋氏と一緒に仕事ができたことは幸運だったとした。

 Nianticが持つデータは、同社が将来達成したいことの一つのガイドであるとし「AIが人間の仕事を奪うような物になるかもしれない」一方で、適切にテクノロジーを使うことで、人間の生活はパワフルに、豊かになるとした。