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NECと大阪大学、Beyond 5G技術の協働研究所を設置――「確率的デジタルツイン」で低通信量、低消費電力を目指す

 NECと大阪大学は、Beyond 5G領域の産学連携の先駆的な取り組みとして「NEC Beyond 5G協働研究所」を11月1日に設置する。

 社会実装までを見据えた成果の創出やビジョン形成、社会コンセンサスの熟成を目指し、Beyond 5GとAI技術を活用し、実世界を仮想空間に再現する「デジタルツイン」を高度に発展させた技術を開発する。

 5G通信の次世代の通信技術に位置づけられている「Beyond 5G」では、超広帯域、低遅延、広大なカバレッジ、詳細な位置測位が同時に実現するとされている。

 このBeyond 5Gの高度な通信技術や分散データ処理基盤を活用したデジタルとリアルの融合で、「実世界をまるごとリアルタイムにデジタル化」し、実世界にフィードバックすること(デジタルツイン)で、人とロボットの共存や未来予測など新サービスの想像ができると期待されている。

 同研究所では、Beyond 5GとAI技術によりデジタルツインを発展させ、実世界のセンシング、データ処理、制御を即時に行い、さらに制御によって変化した実世界の状況を、再び仮想世界に取り込むことを目指すとしている。

 取り組みのなかでは、センシングデータに不確かな情報が存在することや、AI認識の誤差、また実環境は常に変化していることなどをふまえ、実世界を確率的に推定し未来を予測し柔軟に行動する「確率的デジタルツイン」を提唱し、実現のための認識技術や通信技術の研究開発を行う。

NECが目指すテレX社会

NEC Beyond 5G協働研究所 副所長兼新事業推進本部 本部長の新井 智也氏

 NEC Beyond 5G協働研究所 副所長兼新事業推進本部 本部長の新井 智也氏は、5G時代では「社会インフラ基盤や企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤として、社会課題の解決や企業活動の発展を支えていくもの」とし産業の拡大が価値観の中心になっていると分析。

 Beyond 5Gでは、産業の拡大や経済の成長だけでなく「サステナビリティを優先する社会の変革がより求められていく」と考えを示す。ニューノーマル時代における新しいライフスタイル/ワークスタイルに変化していくなかで、「誰もが人間性を充分に発揮できる、あるいは持続可能な社会を実現することが、次の時代の価値の中心になっている」(新井氏)と指摘し、「人と社会の全体最適のために、ヒト、モノ、コトをより広くシームレスにつなげることで、他人や社会の更なる進化を支えるものになる必要がある」とコメントした。

 その上で、NECではBeyond 5G時代における新しいコミュニケーション像として、宇宙や会場、リアルとバーチャルの壁を越える「空間を超える」コミュニケーションや、人間の能力の限界や可能性が解放された社会を目指す「人間を超える」コミュニケーション、未来を知り、過去に遡れる「時間を超える」コミュニケーションを掲げた。これら3つを超えるコミュニケーションが実現された「テレX社会」を目標に、ミリ波やテラヘルツ波の技術やデジタルツイン技術、衛星/飛行基地局技術などを活用するという。

確率的デジタルツインを提唱

大阪大学大学院情報科学研究科の村田 正幸氏

 デジタルツインを含めたBeyond 5G時代について、期待も大きいが課題もあると大阪大学大学院情報科学研究科の村田 正幸氏は説明する。

 Beyond 5G時代になると、世界の通信トラフィック量が増加し、膨大なデータの通信や解析などで消費電力が増加すると指摘。村田氏によると、「世界のIPトラフィックは2030年に現在の30倍以上」「情報関連だけで2030年に『現在の世界の消費電力2倍近く』となる年間42PWh」との予想があるという。

 デジタルツインの実現には、さらなるトラヒック量と消費電力の増加要因になるとし、カメラやセンサーの増加、による通信/消費電力の増加やそのデータを分析するための高負荷処理でさらに消費電力が増えると指摘。

 そこで、実世界を認識する際の不確かさや実世界制御における処理時間の制約などを考慮し、不確実な観測結果から確率的に実世界を推定する「確率的デジタルツイン」を提唱。非決定論的に未来を予測して柔軟に行動することで、データ量の減少やそれによる通信量/消費電力の削減を目指すとしている。

 NECと大阪大学では、今回設立した「NEC Beyond 5G協働研究所」で研究開発を実施し、2025年に開催される大阪万博や2030年のBeyond 5G時代での実現を目指し取り組んでいくという。