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「NTT R&Dフォーラム2024」のメインはIOWNと生成AI、番組制作や基地局などの研究開発現場を見てきた
2024年11月22日 00:00
NTT(持株)は、同社の研究開発や最新技術を展示するイベント「NTT R&Dフォーラム2024」を11月25日~29日に都内で実施する(完全招待制)。
今回は、本開催に先駆けて記者向けに展示が公開された。IOWNや生成AIを中心としたNTTグループ研究開発の現場をご紹介する。
IOWNと生成AIがメインテーマ
基調講演では、執行役員 研究開発マーケティング本部 研究企画部門長の木下真吾氏が登壇。今回のキービジュアルにある「IOWN INTEGRAL」について「1つは積分の意味。IOWNという関数にネットワークやセキュリティ、AIを変数として入れると、さまざまな分野に適用でき積み上がっていくという意味がある。2つめは、“不可欠”という英語の意味。IOWNが地球や人類にとってどんどん不可欠になっていくという意味を込めた」と説明。IOWNを基盤にさまざまな分野に適用できる技術開発を進めていると語る。
展示は、リサーチ(研究)、デベロップメント(開発)、ビジネスの3エリアで校正している。IOWNや生成AIはデベロップメントのエリアで展示され、あわせて同社の宇宙ブランド「C89」も含まれ、全体で最大の展示数を誇る。
研究エリアでは、同社の音響技術「PSZ(Personalized Sound Zone)」を発展させ、周りの音を打ち消すノイズキャンセリングに関する研究や、針を挿す必要がないグルコースセンサー、環境負荷軽減型の農作物や光暗号回路技術などが紹介される。
開発エリアでは、C89の取り組みの一つとして、ワイヤレスエネルギー伝送技術が紹介される。太陽光や温度変化など厳しい環境となる月面で、表面の砂の表面にのせてエネルギーを伝搬することを目指す技術や、HAPSなどが展示される。
IOWN
基盤技術として進められているIOWNは、通信経路を光化する「APN(All-Photonics Network)」がステップ1の段階まで進んでいる。今後は、光電融合(PEC、Photonics-Electronics Convergence)やDCIなども開発が進められる。
IOWNの代表技術として注目されているAPNでは、NTT東西が初期バージョンとしてAPN IOWN1.0として実際にサービスを提供している。12月1日には、現行の100Gbpsから800Gbps(帯域保証)まで拡大された新サービス「All-Photonics Connect powered by IOWN」を提供する。主要都市間を接続する広域エリアでの提供となるほか、イーサネットインターフェイスの提供やユーザー側の終端装置を局舎に収めることができるようになり、インターフェイスの拡充とさらなる低消費電力化が進む。
また、日本と台湾間 約3000kmを約17msecの超低遅延で結ぶ取り組みが進められており、国をまたいだ広域データバックアップなどのユースケースを紹介。
番組制作での活用
身近な例では、テレビ番組制作にAPNを活用する事例が取り上げられた。通常のスポーツ中継などでは、現地に中継車などを派遣し、現地である程度映像を作ってから伝送路を通りテレビ局舎など制作拠点に送られる。これは、いくつもある映像素材をすべて拠点に送信するには、かなり大きい伝送路が必要となるためだ。
IOWNでは、現行でも100Gbpsまで対応しており、複数の素材を非圧縮で送信できるスペックを備えているため、現地で映像を制作せずにそのまま拠点で映像を作ることができる。さらに、制作機材などをクラウド化すれば、どこでも制作拠点になる。従来のように現場や拠点それぞれに専任スタッフを置かなくても、クラウドで映像を制作できるようになる。
会場では実際に生放送の番組やサッカーの中継などをAPNを使ったクラウド環境で制作しているほか、日本から台湾に設置しているカメラを実際に遠隔操作できるものも用意されている。操作してみると、ほとんど遅延を感じることのないレスポンス。担当者によると、約100msecの遅延だが、そのうち約3割がAPNの遅延、残りの7割が機器内部の遅延であり、現地での操作とほとんど変わらない操作感でオペレートできる。
携帯基地局の最適化
携帯関連では、基地局の無線アクセスシステム(RAN、Radio Access Network)をAPNでつないで最適化する取り組みも紹介される。住宅街と商業施設など昼夜人口の変化が大きいエリアをAPNで結ぶことで、RAN容量を融通しあったり、深夜など利用人口が少なければ片方の装置だけ稼働させてもう片方を休ませたりすることで、機材リソースと消費電力を最適化できる。
これを応用すれば、たとえばイベント時など特定のタイミングだけ利用人口が集中する場合でも、周囲の装置とAPNで接続することで、少ない投資でRAN容量を拡大できるようになる。
分散配置した装置を1つの大きなものに
先述の携帯基地局の例のように、個々をAPNでつなぐことで、大きな1つのグループとして利用する取り組みは、データセンターなど演算基盤での取り組みが期待されている。日本全国にあるデータセンターをAPNにつなぐことで、演算リソースを相互に融通しあえるようになる。
また、長距離を大容量で通信できるスペックを活用し、「再生エネルギーの発電拠点にデータセンターを設置する」ことができ、エネルギーロス削減に寄与できる。通常、関東圏のデータセンターは東京 大手町から近い場所に設置する一方、太陽光発電などは都市圏から離れた場所に設置される。APNでは距離が遠くなっても高品質な通信ができるため、データセンターを発電拠点の近くに置けるようになり、その間の電力ロスを減らすことにつながる。
将来的には、現行の125倍の伝送容量、100倍の電力効率となるAPN ステップ3の登場が期待される。これには、最適な伝送路設計や波長帯変換の自動化が求められるが、実現するとオンデマンドで経路を設計できるため、現在よりも柔軟にネットワークを運用できる。
IOWNは、ネットワークの光化だけでなく、機器内部の伝送路の光化(光電融合デバイス)の開発も進められている。データセンター間の接続からはじまり、ボードの接続、チップ間の接続、そしてチップ内部の光化(PFC-4)の実現に向けて取り組みが進められている。
生成AI
展示のもう1つの目玉である生成AIは、同社の「tsuzumi」の進化と拡張、応用をテーマに展示される。tsuzumiの軽量さやカスタマイズ性、マルチモーダル対応、日本語対応、スクラッチ開発性といったメリットを活かし、AIエージェントやネットワークのオペレーションに生成AIを使った取り組みを紹介。
ネットワークオペレーションの現場では、これまで熟練したスタッフに頼っていたものを、マニュアルの最適化やデジタルツインの技術で疑似故障を予測しそれをAIが学習、復旧方法などを取り入れ、実環境での発生時に迅速な復旧を進められる。
また、tsuzumiの特徴である「専門性のある小さなLLM」を活かし、複数のLLM同士で議論させて回答を得る“小さなLLMの集合知”を使った社会課題解決「AIコンステレーション」の取り組みも紹介される。