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KDDI総研がBeyond 5Gで目指す「オーダーメイドの通信エリア」、それを支える新技術とは
2021年10月8日 06:00
KDDI総合研究所は7日、Beyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功したことを発表した。あわせて、電波の反射方向を変えられる「液晶メタサーフェス反射板」の開発に成功したことも明らかにした。
同日には報道関係者向けにレクチャーが実施され、同研究所の次世代インフラ2部門長 岸洋司氏が、今回の新技術に関して解説した。
新技術開発の背景にあるもの
KDDI総合研究所とKDDIは、Beyond 5G/6Gを見据えた次世代の社会構想として「KDDI Accelerate 5.0」を掲げる。これは、5Gを中心として7つのテクノロジーと3つのレイヤーを連動させ、サイバー空間とフィジカル空間を融合させながら、新たな社会システムやライフスタイルの創出を目指すというものだ。
「KDDI Accelerate 5.0」が創出する2030年代のライフスタイルと、それを支えるテクノロジーについて、KDDI総研は3月にホワイトペーパーを発行した。その中で、Beyond 5G/6G時代の多様化するニーズに対応するために、「ユーザーセントリックな(=ユーザー中心の)ネットワーク」の必要性を訴える。
そしてKDDI総研は、「個々のユーザーに最適な通信環境を提供する」という考えに基づき、いわゆる「セルラー型」のネットワークアーキテクチャーからの脱却を目指している。
では、その取り組みの一環として今回発表された2つの成果とは、いったいどのようなものなのだろうか?
「Cell-Free massive MIMO」×「光ファイバー無線技術(IFoF方式)」
まずは、「Cell-Free massive MIMO」と「光ファイバー無線技術(IFoF方式)」を組み合わせた次世代無線ネットワーク展開技術をご紹介する。
「セルラー型」とも呼ばれる従来の携帯電話ネットワークは、複数の基地局を配置し、それぞれの基地局からの電波が届く範囲でユーザーへ電波を届けるしくみになっている。それぞれの基地局が受け持つ範囲は「セル」と呼ばれ、セルの中にいるユーザーは、そのセルの電波を利用できるようなイメージだ。
ただしこれには課題もあり、たとえば基地局から離れた場所にいるユーザーや、基地局から届く電波の境界の近辺にいるようなユーザーは、安定した電波を受け取りづらい。5Gでは直進性が強いミリ波が用いられることもあり、こうした課題はより大きくなることが予想されるという。
そこでKDDI総研が打ち出す「Cell-Free massive MIMO」は、「Cell-Free(セルフリー)」の単語が示すとおり、セルという概念をなくしたものになる。
”セルフリー“を実現するために活用されているのが、「massive MIMO」と呼ばれる技術。これは、通信サービスを提供するエリアに多くの基地局アンテナを展開し、複数のアンテナを連携させて個々のユーザーに対してサービスを提供するものだ。
「Cell-Free massive MIMO」が実現すれば、より高品質なネットワークをユーザーに提供できるようになる。また、「職人技のような緻密さが求められる」という基地局配置の制約も減り、事業者側にとってもメリットがある。
しかし、「Cell-Free massive MIMO」の実用化にあたっては課題もある。
まず挙げられるのが、Beyond 5G/6Gで通信が高速化した場合に発生する、多数の基地局アンテナを集約局へ送るための光ファイバー回線(モバイルフロントホール)の大容量化だ。
また、多くの基地局アンテナを展開する場合は、光ファイバーの回線数や長さが増大することも懸念されている。
KDDI総研は今回、先述の課題を克服するために「光ファイバー無線技術(IFoF方式)」と「Cell-Free massive MIMO」を組み合わせ、その実証実験に成功した。
KDDI総研が採用した「光ファイバー無線技術(IFoF方式)」では、複数の無線信号を中間周波数帯(IF帯)で周波数多重し、アナログ光変調により、1本の光ファイバーおよび1波長で一括してアンテナまで伝送する。
無線信号をデジタル化せずアナログのまま伝送することで、多くの無線信号を伝送できる。また、無線信号の多重としてIF周波数多重・波長多重・コア多重とさまざまな方法があり、これらの活用によって多数の基地局アンテナの信号を1本の光ファイバーにまとめ、光ファイバーの回線数や長さの削減につなげる。
岸氏によれば、「IF周波数多重・波長多重までは既存の光ファイバーで対応できると思うが、コア多重の場合は新たに(コア多重に対応できる)光ファイバーを敷設することになる」とのことだ。
「液晶メタサーフェス反射板」
もうひとつ、KDDI総研が発表した「液晶メタサーフェス反射板」は、ジャパンディスプレイ(JDI)と共同で開発したもの。
5Gで利用される高周波数の電波は、その直進性の高さゆえに、ビルや樹木などで電波が遮られた場合に電波が届きにくい場所(カバレッジホール)が生じてしまう。
そういった場所へ電波を届けるための方法として、電波を反射させる「メタサーフェス反射板」という技術が注目されている。
今回KDDI総研が発表した「液晶メタサーフェス反射板」の強みは、電波の反射を電気的に変更できるという点にある。
従来のメタサーフェス反射板の場合、反射板にある反射素子の物理的な形状によって、電波の反射方向が決まっていた。したがって、一度反射板を作ってしまったら、あとから反射する方向を変更したり制御したりすることは不可能になる。
「液晶メタサーフェス反射板」は、長軸と短軸で電気特性(誘電率)が異なる液晶分子の特徴を活かしたもの。電圧を加えて液晶分子の方向を変えることによって、反射する電波の進み方を制御することが可能になり、反射方向もあとから変えられるしくみになっている。
反射した電波がどの程度減衰するのかが気になるところだが、それは「反射板のサイズによる」と岸氏。反射板が大きければ大きいほど、強い電波を反射できるという。
ちなみに、今回の「液晶メタサーフェス反射板」は8cm角の大きさ。昨年の「透明メタサーフェス反射板」のサイズは80cm角で、その際には電波の減衰は6デシベル程度となり、反射後の電波でも屋外で十分通信ができるレベルだった。
また、今回の「液晶メタサーフェス反射板」では、上下左右に60度ほど反射の方向を調整できる。
たとえば反射板にチルト機構などを導入して方向を調整することもできそうだが、あえて液晶を導入する意義について、岸氏は「チルト機構などを入れた反射板をビルの壁面に設置するかたちだと、ビルのオーナーとの交渉が大変になることもあるが、液晶であればビルへの影響を最小限に抑えられる。また、(液晶の)コストも下がってきて汎用性が高くなっている」と語る。
同氏は今回の技術に関して、「街頭に設置されているような液晶ディスプレイと親和性の高い技術ではないかなと思っている。たとえばそういったディスプレイと今回の反射板を一体化し、街へ展開するということもできたら面白い」とコメントした。