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「povo」は2.0→3.0へ、キーパーソンが語る”コミュニティ+通信”で目指す次なる構想とは

KDDI Digital Life 代表取締役社長の秋山敏郎氏

 KDDIは、9月3日~4日の日程でビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2024」を虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都港区)とオンラインで開催した。

 2日目午前には、「povo2.0から3.0へ」と題し、サービスを提供するKDDI Digital Life 代表取締役社長の秋山敏郎氏やシンガポールのCircles.Life CEO、Singtel(シンガポールテレコム)の副CEOが登壇し、povoの未来像やその先の取り組みに関する講演やトークセッションが開催された。

通信がどう社会に関わるかを探求するブランド

秋山氏

 povoのブランドは「安さを追求するよりも、将来“通信”がどうビジネスをしていくか、どう社会に関わっていくかというのを模索するブランド」(秋山氏)。完全オンラインで、将来を担う若い世代に向けたユーザー体験に焦点を当てて提供している。

 2021年9月から"Ver. 2.0"としてサービスを提供し、トッピングと呼ばれるデータ通信や通話放題などのオプションを、ユーザーが好みで組み合わせることで、ユーザー自身によるユーザー自身のための料金プランを作り上げていくのが、povo2.0の特徴の1つ。一方で、「グローバルに共通する傾向」という点にも注目したサービス設計、運用を行っている。

 povoのサービスでは、ユーザー自身にあわせて使いたいように使えるカスタマイズ性のほか、サービス運営に関わる透明性やユーザー間のコミュニティに注視してブランドが立ち上がっている。これらの“デジタルネイティブ世代”を主軸に置いたブランドということもあり、「大体半分くらいのユーザーはeSIM」(秋山氏)となっている。

 またきっちりと作り上げて完成した物を出すよりも、何が正解かわからない状態で、これから探求していくなかで一度ユーザーに提供し適宜直していき磨き上げるプロダクトの作り方「アジャイルプロダクトリリース」を実践しており、「いわゆるインターネット企業に似ているオペレーション」と、これまでの通信キャリアとは異なる動き方をしている。秋山氏は「Be Fast」という言葉を挙げ「早く失敗して早く学ぶことで、より早く成功にたどり着ける」とコメント。一方で「スタートアップのDNAが必要だ」とし、KDDI Digital LifeにはKDDIからとCircles.Lifeから、それぞれからのメンバーが参画し、お互いのDNAを持って、運営してきていると紹介した。

 なお、Circles CEOのラメーズ・アンサル(Rameez Ansar)氏とKDDIの髙橋誠社長との対談時には、髙橋氏が「私たちは大きな船からスピードボートに変わらなければならない」と話し、「より迅速に意思決定を行い、より速く走れるスピードボートで、たとえ失敗しても軌道修正し早く進める企業である」とアンサル氏は評価する。

Circles CEOのラメーズ・アンサル(Rameez Ansar)氏

 これらの成果として、国内のオンライン専用ブランドでは顧客推薦度(NPS、Net Promoter Score)第1位であるほか、povo開始から12カ月間で100万ユーザーを突破したことなど、多くのユーザーから支持を得られている。また、ユーザーのうち72%がKDDI以外からのユーザーであったり、16週間での市場投入、100%リモートでのプロダクト生成などこれまでにない通信会社に成長してきている。

povo3.0で何をする?

 では、将来のpovo3.0では何をするのか? 秋山氏によると、早くも構想があり、実際に取り組みを進めている。

 ユーザーは、povoのコミュニティだけでなく、さまざまなコミュニティに属している。たとえば、SNS1つ取ってみても、1人のユーザーが複数のアカウントを使い分け、それぞれで人格を形成して活動している。これらの通信以外のコミュニティに“コネクティビティ(接続性)”を組み込んで利用してもらう方向性を目指す。

 その方法の1つとして、日本国内で「povo SDK」の取り組みを進めている。SDKは「ソフトウェア開発キット」とも呼ばれ、ソフトウェア開発者が、機能を組み込む際に1から立ち上げるのではなくあらかじめモジュール化されているものを組み込み連携させることで、容易にその機能を搭載できるもの。「povo SDK」では、まさしくpovoの機能を他社のアプリやサービスに組み込んで提供することで、そのサービスがpovoの通信で繋がる未来を創ろうと考えられている。

 たとえば、国内の公衆Wi-Fiサービスなどを手がけるWi2や、Wi-Fiルーターを手がける富士ソフト、動画配信プラットフォームを運営するアベマ(abema)などとすでに取り組みを進めており、これらのパートナーのサービスに今後povoの機能が組み込まれて提供される可能性がある。

 検討段階ではあるが、たとえばWi2では訪日外国人向けにpovoのサービスを提供したり、富士ソフトのWi-Fiルーターでそのままpovoの回線が利用できたり、アベマの映像サービスとpovoの通信サービスを組み合わせたサービス提供などが考えられる。

 povoのサービス画面も、それぞれのブランドやサービスに合わせた色やデザインなどにカスタマイズできるようにされる。今後はさまざまなパートナーと新しい体験を提供していく段階で、たとえばオフラインのイベント主催者や、施設を運営している事業者に入場券の中に組み込んで提供したり、ストリーミング動画視聴時に必要なデータ通信をまとめて提供したりできる。

素早く舵取りできる会社体制を

アンサル氏

 Circlesのアンサル氏は、Z世代のユーザーが形成するコミュニティへ通信を提供することについて「ユーザーの好みで信頼できるコミュニティに関わり、ユーザーの個性を表現できるよう、ブランドの規模にかかわらず製品を紹介できるネットワークの運用や販売ができるソリューションをAPIで提供する」と、先述のpovo3.0の取り組みについて言及する。

 また、コミュニティ特有の価値観にあわせてオファーを変えることで、未来の世代のユーザーと繋ぐ体験も提供する。

 なお、日本だけでなく世界の通信業界も、さまざまな地域で変わろうとしているとアンサル氏は指摘。「古い業界を変えたいのであれば、外部からのDNAを持ち込まなければ変わるのは難しく、会社のトップの考え方や意欲、1つのプロジェクトとしてではなく長期的なビジョンを持つことが重要だ」(アンサル氏)。

 Circlesでは、KDDI以外にも世界のキャリアと協力しながらソフトウェア展開を進めており、アジアのほか北米にも手を広げ、既存キャリアのデジタル変革を進めている。

 また、アンサル氏は、サービス運営に関わるコストの増加などの諸問題や、ユーザーが期待している内容が常に変化している点、ほかのプレーヤーの参入などで競争環境にも変化が生じており、今後大きな変革をしていかなければならないと指摘。DX化の推進や柔軟なソフト開発、働き方改革や、素早い舵取りでより速く進める体制を構築するべきで、たとえば、試行錯誤の反復をより速くできるよう“プレイブック”を構築し、環境の変化を素早くくみ取れるようなサービス開発を進めることができれば、通信業界も変わることができるとコメントする。

通信業界の枠にとらわれない取り組み

シンガポールテレコム 副CEOのAnna Yip(アンナ・イプ)氏

 「アンサル氏とは対極の会社だ」と話すのは、Singtel(シンガポールテレコム)の副CEOであるAnna Yip(アンナ・イプ)氏。シンガポールテレコムも、KDDIと同様の大きな企業で“非常に大きな船”で、シンガポールの企業系ファンドが株式を51%保有している企業。しかし、会社自体は、世界約8億人のユーザーにサービスを提供している。

 シンガポールでは、国全体でDX化を進める「Smart Nation」政策を執っており、シンガポールテレコムにおいても、急速に事業変革を進めている。

 イプ氏は、その1つに世界の通信キャリアで同盟を組む活動を紹介。航空会社のアライアンスのようなもので、シンガポールテレコムのほか、香港テレコムや台湾モバイルなどが「Travel Alliance」を設立し2月に発表した。旅行者のローミングなどで共通のインフラを整備し、コストを安価にすることができる。

 5Gも社会全体のDX化を推し進める重要な技術だと指摘。また、B向けにより通信をカスタマイズしやすくなるポータルを作成し、政府から大企業、中小企業まで通信やそのほかのサービスレベルを制御できる取り組みであり。、これまでの通信業界の枠にとらわれない取り組みを実施している。

一般消費者の行動はすぐに変わる

 アンサル氏は、素早く舵取りを行う取り組みの1つとして「ABテスト」を挙げる。インターネット企業では当たり前に行われている「ABテスト」は、短期間に多くのことを試し、最適解を見つける取り組みだが、パッケージとして提供する通信事業者では難しいと指摘。「急速に変化する一般消費者の行動をキャッチするには、組織全体で変わっていかなければならない」(アンサル氏)。

 イプ氏も同調し、「市場投入までの時間を短く変えていく必要がある。フルスペックのサービスからもっとユーザーに近いものにすることで、市場投入までの時間が大幅に短縮され、試行錯誤することもできる」とコメント。

イプ氏

 一方で、インフラ設備から実際のサービス提供までのスパンが長くなる通信業界では、おおむね5年~10年の投資を行ってからお金を稼いだり成長したりすることができるようになる。このため、新しいジャンルの事業に挑戦することで、ビジネス全体で常に試行錯誤できるようにしていくことが重要だと指摘。

 加えて、先述のTravel Allianceのように国をまたいだ連携をすることで、たとえばユーザーが旅先のローカルサービスを知らなくても、通信とシームレスに連携することでスムーズに誘導できるなど、多くの可能性が生まれる。

目に見える形のpovo3.0

 講演後、囲み取材に応じた秋山氏は、povo2.0で訪日外国人向けのサービスを一部で展開していることを明らかにした。ローソンの一部店舗で、プリペイド形式で提供しているもので、訪日外国人向けのプロダクトを準備している段階とコメント。

 一方、今回明らかにされたSDKについては、「パートナーのユーザーが見た際に自然な形になるよう、(デザインは)こうあるべきと決めているわけではない」と秋山氏。povoのブランドにこだわらない形での提供になると話す。プロダクトとしては、まだまだ検討段階だとしたものの、パートナーそれぞれと徐々に提供に向けて進めていく考えを示した。また、「“キャリアフリー”の考えも引き続き進める」とコメントし、海外展開への含みを持たせた。

 また、今後のサービス全体についても、“さまざまなIDを受け入れ連携できる”点や“クレジットカードやPaidy以外の決済手段の受け入れ”など、ユーザーに見える形でのpovo3.0も進めていきたいと自身の考えを語った。