インタビュー
AIが激変する次世代Androidの頭脳、通常版と最上位版の違いとは――Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6担当者に聞く
【Snapdragon Summit 2026】
2026年9月25日 03:41
22日(現地時間)、米クアルコム(Qualcomm)は、次世代モバイル向けプラットフォーム「Snapdragon 8 Elite Gen 6」および最上位モデル「Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6」の2製品を発表した。多くのAndroidスマホに採用されているプロセッサー(スマホの頭脳)で、ユーザーの意図を理解し自律的に行動する「エージェンティックAI(Agentic AI)」時代を見据えた、初のデュアルフラッグシップ展開となる。
すでに本誌では、そのニュースをお伝えしているが、「モバイル向けCPUとして初めて動作周波数が5GHzを超えたこと」「300億パラメーター(30B)の生成AIモデルをスマホ上(オンデバイス)で実行できること」「ゲームプレイ時の描画の進化」「カメラの高精細化」などが特長だ。
2基のPrimeコアと6基のPerformanceコアを搭載し、モバイルCPUとして初めて動作周波数5GHzを突破。全コアでL2キャッシュを共有する「Oryon Flex-Cache」により、複雑なAI処理やマルチタスクを高速・省電力でこなす。
強化されたHexagon NPUとUFS 5.0ストレージの連携により、従来は大容量メモリーを必要とした300億(30B+)パラメータ規模のAIモデル(MoE)をストレージから直接動かすことが可能になった。常時駆動のSensing Hubが個人文脈(Context)を安全に学習・保持する。
描画性能が44%、電力効率が40%向上。AI専用「Adreno Matrix Cores」を内蔵し、AI超解像とフレーム補間を統合した独自技術「Adreno Neural Fusion」により、スマホ上でコンソール級のグラフィックを実現する。
ピクセルあたりのデータ割当を16bit(従来の256倍)に拡張した「Intelligent Pixel Control」により、画素レベルで被写体や人物を識別して補正する。8K 60fps撮影のほか、世界初のVVCハードウェアデコードやプロ向け映像規格「APV」に対応する。
メモリーをシリコンの上からわずかにずらして配置する新構造を採用。熱を効率的に逃がすチャネルを確保したことで放熱効率が飛躍的に高まり、長時間高負荷をかけてもピーク性能を2倍以上持続できる。
発表日の午後、製品担当者らが各国メディアからの質問に応えた。その様子をお伝えする。
製品ラインナップ・差別化・市場戦略
――Extremeと名付けられた製品が登場しましたが、非Extremeとの違いは? 同じ専用ダイ(die)か、それとも異なるダイですか。
パトリック氏
まったく異なるダイなんです。SKU違いではなくて、これらは別々の製品なんですね。ただ、同じファミリー、同じDNAを共有している別製品です。
CPUの設計構造は共通ですが、GPUやNPUの拡張、行列アクセラレータ、パッケージ構造、そしてISP(画像処理プロセッサ)の機能(Extremeのみ8K 60fps撮影やAPV/VVCデコーダに対応など)が大きく異なります。
パッケージも異なっているので、熱を管理する能力や、Extreme側で持続的なパフォーマンスをより長く維持する能力などが異なっています。
ISP全体でも複数の違いがあるので、それについてはジャドにコメントしてもらいましょうか。
ヒープ氏
カメラ関連では、「Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6」は8K60p、4K240pに対応しています。一方、「Snapdragon 8 Elite Gen 6」は以前と同じく8K30p、4K120pとなっています。それから、Extremeの方だけにAPVコーデックとVVCデコーダが載っています。Eliteの方にはそのどちらも入っていません。
パトリック氏
つまり「Snapdragon 8 Elite Gen 6」で真のフラッグシップ体験を提供します。その上で、Extremeは、「業界をリードして、極限(Extreme)のユースケースを攻めたい」という需要に向けた製品です。
「ゲーミングでフレームレート(FPS)を極限まで絞り出したい」「これまでのスマホではできなかった、プロ仕様のコンテンツ制作をしたい」ということなら、Extremeです。
スマホメーカー(OEM)が自社のラインアップを検討し、エンドユーザーの要求にどうラインアップをマッピングするかを決める際に、柔軟性を提供することが目的なんです。各OEM向けにこの2つの選択肢を用意したということです。
――今回、通常版のEliteとExtremeの2つの製品が発表されましたが、将来のスマートフォンがより高価格になるという意味になるのか? または、非Eliteのチップセット製品を発表する予定は?
パトリック氏
もしスマートフォンメーカーの立場で、制限なく複数のSKUを開発するとします。たとえばベースモデル、プロモデル、ウルトラモデルがあるわけです。
その3つすべてに同じカメラセンサーを使いますか? もちろん使う場合もありますが、一番上のモデルでは憧れを持たせるようなカメラ体験を提供し、望遠レンズを用意する、といった違いを出しますよね。
スマホメーカーからすると、これは、複数の異なる価格帯や機能を提供する取り組みです。カメラをあまり重視しない人ならベースモデルを選べば、上位モデルに余計なお金を払わずに済むと。
クアルコムが今回2製品を用意したのも、同じことなんです。複数のソリューションを提供することで、OEMがラインアップを最適化できるようにしているわけです。8K60pを必要としないスマホで、コストを増やさないようにする。ポートフォリオ全体で平均コストを最適化・削減できるようにしているわけです。
もうひとつ、非Elite製品について、本日発表できるものはありません。
もちろん、過去にはチップセットの非Eliteバージョンもありました。バージョンというより、実際には異なるソリューションですね。たとえば、昨年発表した「Snapdragon 8s Gen 5」は、業界全体に大きなインパクトを与えた非常に重要なデバイスでした。そのティアで将来的に新しいデバイスを出す可能性は十分にありますが、本日発表するものはありません。
――昨年の「Snapdragon 8 Elite Gen 5」ではほとんどのハイエンド端末がEliteを選び、非Eliteを採用するスマホは少なかったように思います。今回はどうなると予想していますか。
パトリック氏
実際にはSnapdragon 8s Gen 5を搭載した素晴らしいスマホがたくさん出ています。非常に人気のあるデバイスなんです。
今世代のExtremeとEliteについてですが、OEMがどう動くかについて決めつけはしたくありません。ですが、非常に健全なミックス(採用比率)になると見ています。OEMが自社のポートフォリオや注力ポイントを検討する中で、OEMごとに判断していくことになります。
同じOEM内で両方をミックスして展開するのか、あるいは1つのプラットフォームに絞るのか。本日2つの例を聞いていただきましたよね。1つはMotorolaで、8 Elite Extremeデバイスを発表しました。そしてXiaomiからは、異なるティアにわたって両方を組み合わせて展開するとお聞きになりました。
ですので、さまざまなOEMでそのような傾向が見られると思います。異なるフォームファクタやユーザーへの価値提案を重視するOEMなら、Elite ExtremeではなくEliteだけに絞って開発する、といったことも起こるでしょう。ですのでミックスが見られるはずです。
――Snapdragon 8シリーズのラインナップ戦略について教えてください。コストに敏感なOEM向けに、旧世代の8シリーズの供給を継続しますか? それとも新しいデュアル8 Eliteポートフォリオに移行させてフェードアウトしていく計画でしょうか?
パトリック氏
「既存のチップを売り続けるか」ということですね。はい、供給を継続します。
この業界では一般的な慣行です。SoCの開発は私たちにとっても巨額の投資ですし、お客様にとっても大きな投資なんです。ですので、適切な場面で顧客が前年のプラットフォームを使い続けるというのは伝統的なやり方です。
私たちは新しいトランジスターや新しいコーデックといった新機能に投資することが多く、それらは時にコストを引き上げることがあります。だからこそ、当社のロードマップや顧客にとってより細かいポートフォリオを提供し、顧客がすでに行った投資を活用してもらう手段になるわけです。
ですから供給を継続し、既存のプラットフォームを使って新しいモデルをローンチすることすら、ごく一般的で継続していくことです。
CPUアーキテクチャー・キャッシュ・パッケージ技術
――前世代と比べてキャッシュの階層構造が少し変化しました。
ヴァーマ氏
私たちのキャッシュ設計では、設計対象となるワークロードを意識し、レイテンシー、パフォーマンス、電力効率の細かなバランスを確実に取らなければなりません。
フレックスキャッシュ(Flex-Cache)アーキテクチャーの主な特長は、性能や役割が異なる複数のコア(ヘテロジニアスコア)が同じキャッシュプールにアクセスできるというものです。前世代にはなかった機能です。プライムコアでもパフォーマンスコアでも、前世代と比較してより大きなキャッシュプールにアクセスできます。
これはエージェンティックAIやゲーミングなど、スマホにかかる処理負荷(ワークロード)がますます複雑化しており、プライムコアとパフォーマンスコアの間でたくさんのハンドオフが発生しているからなんです。
キャッシュ設計におけるこのイノベーションによって、プライムコアとパフォーマンスコア、あるいはヘテロジニアスコアの間で絶えずハンドオフが発生しているときでも、常駐データの連続性を確保できるんです。
――今回は新たなパッケージの発表もありました。
パトリック氏
これまでは、ベースのチップ(ダイ)があってその上にメモリーダイが載っているパッケージです。これが4チャネルDDRにおいて業界で最も一般的な構造なんです。
で、今年のイノベーションは、メモリーを上に載せることではなく、メモリーを上に載せつつ「少し横にずらす(物理的オフセット)」ことなんです。
これによって、放熱しやすくなります。ダイ上の熱管理の物理的条件が変わり、高解像度・高フレームレートで凄いゲームを動かしているような凄まじいアクティビティがあるときでも、チップ(ダイ)をより冷たく保つことができるようになりました。
デバイス上で凄まじい処理が動いていても、ダイから熱を逃がしてパフォーマンスを持続させられるようになったわけです。ですので、メモリーの経済性(コスト構造)が必ずしも変わるわけではありません。過去数年や前世代で使ってきたのと比較的似たメモリーソリューションを使っています。
オフセットパッケージはExtremeのみとなります。
カメラ・ISP・映像処理技術
――ISP(画像処理プロセッサー))の新機能であるインテリジェントピクセルコントロール(Intelligent Pixel Control)は、これまでのセマンティックセグメンテーションと、どう違いますか。
ヒープ氏
Snapdragonシリーズでは、数世代前にNPUで動作するセグメンテーションエンジンを導入しました。AIカメラ、AI ISPと呼んでいたものです。
NPU内で動くエンジン自体は同じものですが、今回はNPUとISP間のインターフェイスを8ビットから16ビットに拡張しました。8ビット追加したことで256倍、データ量が増えたんです。
NPUとISPの間の通信が増えたことで、より多くのオブジェクトをトラッキングできるようになりました。以前は32個のカテゴリを追跡できましたが、今では何百ものカテゴリ(シャツ、髪、空、顔など)を処理できます。
さらに、性別や年齢の判定、同一人物が画面に出入りしたときの識別と追跡も可能で、同じ人だと識別できるので、ISP側で1人ひとりの画質を個別に最適化チューニングできるんです。
ビット数が増えてインターフェイスが広がったおかげで、より細かくコントロールでき、より多くのオブジェクトを追跡・識別できるようになった、というのが違いですね。
――結果として、画像自体がより良くなったり精緻になったりする、と言えますか?
ヒープ氏
その通りです。セグメンテーションに基づいた、ISPでのより細かい粒度での制御が可能になります。
――APV(Advanced Professional Video)撮影機能を搭載したスマートフォンはすでに多く出回っているのでしょうか?
ヒープ氏
2025年に登場したサムスンのスマートフォンには確実に搭載されていますね。中国の複数のOEMもAPVに対応済み、あるいは発表予定です。台湾でも1社あったと思うので、普及が進んでいますね。
GPU・グラフィックス・レイトレーシング・メモリー技術
――Adreno GPUと、Elite Extremeに搭載される3つのマトリックスコアについて教えてください。これらはAIタスクやワークロード向けであることは理解できるのですが、もしAI以外の用途で使いたい場合はどうでしょうか? AI以外でGPUにマトリックスコアを持つメリットはあるのでしょうか?
ダリワール氏
AIにもさまざまな側面があります。GPUによるレンダリングのアップスケーリングやフレーム生成(Frame Gen)があり、これはゲーミングにとって非常に重要です。
それから生成AIのモデル実行のようなAIワークロードもあります。
GPUは基本的にレンダリングエンジンですので、マトリックスコアはレンダリング能力を強化する役割を果たします。限られたフレーム時間内でアップスケーリングやフレーム生成を行えるため、パフォーマンスの向上、画質の向上、そして電力効率の向上をもたらします。これがゲーミングにおけるKPIや体験の改善につながるわけです。
同時に、標準的なAIエンジンとしても機能します。AIの観点からはCPU、GPU、NPUの選択肢があり、ワークロードの性質や、求めるスピード、電力効率に応じて開発者が自由に選択できます。
GPUは非常にプログラマブルな並列処理エンジンであり、AI体験を高めてくれます。ですから「非AI」用途としては、GPUの代名詞であるゲーミングが挙げられ、AI用途としても同様に活用できるというわけです。
――今回発表された「High Bandwidth Compute(HBC)」についてアーキテクチャーやコストのトレードオフについて教えてください。
ダリワール氏
HBCはまだ製品化されていないコンセプト段階の技術です。おそらくMWCのタイミングで詳しくお話しすることになるかと思います。
データセンターのように、メモリーと計算領域をより近くに配置することで、大量のエージェンティックワークロードを動かす際のメモリー管理を省電力かつ高速化するという考え方です。
このコンセプトをエッジ(モバイル端末)に持ち込み、効率的にスケールさせ、モバイルなどの電力枠内で高負荷な計算やエージェンティック処理をこなせるようにする狙いがあります。
オンデバイスAI・エージェンティックAI・NPU性能
――エージェンティックAI(Agentic AI)についてお伺いしたいです。Gemini SparkやChatGPT、Claudeなど、最も優秀なAIエージェントの多くは現在クラウド上で動作しています。新しいチップはローカル(オンデバイス)で消費者向けに具体的にどのような違いをもたらすのでしょうか?
パトリック氏
本日お話ししたことの中にいくつかポイントがあります。1つ目は「コンテキスト(個人コンテキスト)」です。
AIエージェントが主にクラウドで動く場合でも、どうやってそれを賢くするか。見知らぬ人に「普段買っている食料品を買ってきて」と頼んでも標準的なものしか買えませんが、自分の嗜好を知っている家族ならソイミルクやシリアルを選んで買ってきてくれますよね。
つまり、どうやってコンテキストを提供するのか。オンデバイス側でそのコンテキストを省電力かつ高度な方法で集め、クラウドのエージェントに提供するわけです。
2つ目はデバイス上でのアクションの実行やアプリの連携操作。
3つ目は推論自体を完全にオンデバイスで行うことです。最終的にはクラウド上の推論とデバイス上の推論が融合したハイブリッドな形になりますが、デバイスがコンテキスト生成において独自の役割を果たし、エージェントをよりパーソナルな存在にする点、そして最終的にユーザーに代わってアクションを実行する点において、非常に重要な役割を担っています。
スクマー氏
クリスが言ったことに補足すると、現在のマルチターン(複数回)会話の課題です。最先端のモデルに「これをジョンに送信して」と頼んだとき、アドレス帳にジョンが5人いたら「どのジョンか」「どの書類か」と何度もやり取りが発生し、ユーザーはストレスを感じます。
コンテキストをプロンプト自体に拡張・付加して「常識」をモデルに引き継ぐことができれば、1回の指示(シングルターン)で完結できます。
クラウド側にとっても複数回のやり取りでトークンや計算リソースを消費するのは高コストですので、エッジ側で個人の文脈を補強して、より適切で的確、即座な処理を行えるようにすることが目的なんです。
――Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6とSnapdragon 8 Elite Gen 6のAI性能やNPUの違いを教えてください。
スクマー氏
体験面では、AIエージェントにおけるプロンプトの多くは、現在「複合的(コンパウンド)」な性質を持っています。1つのプロンプトに対して複数のアクションを並列で動かす必要があるんです。
「来夏の休暇の計画を送って」という抽象的な指示でも、家族との調整やアクセスの確認などを並列で処理しなければなりません。
Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6はスカラースレッドやベクタースレッドの数が非常に多いため、同じプロンプトに対して複数のシナリオを同時並列で実行する基礎を備えています。
これにより、1秒や1.2秒といった目標時間内にエンドツーエンドの処理を完了させることができます。
一方、Snapdragon 8 Elite Gen 6はスカラー/ベクタースレッドの数がExtremeより少し少ない。体験を損なうわけではありませんが、応答時間が1秒ではなく20%ほど長くなって1.2秒になる、といった違いが出ます。
そこはOEMがどう位置づけたいかの選択になります。なお、単一のタスク(合成画像の作成や顔のシワ消しなど)であれば、どちらのプラットフォームでも全く同じ処理が行われ、大きな違いは見られません。
ヒープ氏
カメラのAI体験に関しても、両方ともインテリジェントピクセルエンジンを搭載していますので差はありません。違いは前述の通り8K60と8K30の違い、そしてAPV/VVCコーデックの有無だけで、ISPとNPUの連携動作自体は基本的に同じです。








