インタビュー
ドコモ「スマホが繋がらない」はどう解消される? キーパーソンが語る2026年夏の通信品質改善の今とこれから
2026年9月15日 00:00
都市部を中心とする「繋がりにくさ」が指摘され始めてから3年あまり。2022年後半以降、SNSや利用者の間で巻き起こったNTTドコモの通信品質に対する厳しい声に対し、同社は大規模な設備投資と技術的対策を継続してきた。
今回、同社ネットワーク本部長の引馬章裕氏および無線アクセスデザイン部長の増田昌史氏に、最新の取り組みに話を聴いた。
コロナ禍のV字回復から学んだ混雑構造と「d払い」データによる能動的改善
通信品質対策に取り組むドコモでは、定期的にその取り組みを報道関係者へ解説する機会を増やしている。本誌が前回取材したのは今年5月だった。
その際、本誌記事では、都市部における通信混雑が発生した背景・要因について、その契機から振り返った。
コロナ禍における劇的な人流シフトの切り替わり、つまりパンデミック期に都心部のトラヒックが低下し住宅地の需要が急増したことを踏まえて、設備投資の軸足を住宅地へシフトさせたこと。その後、行動制限が解除されると都心部の人流が劇的に復調した際、従来予測の年率1.2倍を遥かに超える最大1.8倍の通信量が一気に押し寄せ、設備容量の確保が追いつかず混雑を招いた――という経緯だ。
そこでドコモでは基地局数を増やし、「設備容量」そのものを増やそうとしている。「設備容量」とは、「基地局の数」×「同時に処理できる力」(セクター数)×「電波の帯域幅」という考え方だ。そのためにもまず「基地局の増設」という方針は、シンプルな目標と言えるだろう。
第1四半期で2500局増
引馬氏によれば、ドコモは2026年度第1四半期(1Q)において、5G基地局1500局と4G(LTE)基地局1000局を合わせて全国で約2500局を構築した。
昨年度、2025年度の上期では、約2500局の構築だった。つまり、前年度上期と同等の建設数を1Qだけで達成しており、昨年下期から取り組んできた工事体制が維持されたことになる。
局数の増設にとどまらず、処理能力を示す指標である「設備容量(=基地局数×セクター数×帯域幅)」に関して、全国の5G基地局数は5万2300局から5万3800局へ拡大し、5G設備容量は全国で前年度末比2%向上した。
都市部における混雑解消を最優先課題とし、南関東、大阪府、愛知県の主要都府県へ全国の5G増設局の6割に当たる900局を集中配置した。
主要都府県の5G基地局数は2万1400局から2万2300局となり、5G設備容量は前年度末比で、こちらも2%向上している。
「2%」となると、少し小さな増加分と思えるかもしれない。事実、引馬氏は「第1クォーターの結果を我々が満足できているかというと、やはりまだまだ満足するレベルではない」と語り、第2四半期以降の強化に意欲を示す。
800MHz転用も
5G SA(スタンドアローン)のエリアは、首都圏都市部を中心に2026年6月時点で提供エリアが拡充された。LTE側の混雑回避と通信安定化が図られている。初期に設置されたSA非対応の旧型5G基地局の改修を優先的に進めており、2026年度中に都市部主要エリアのSA化完了を目指している。
あわせて、3月31日にサービス終了した3G(FDD 800MHz帯)の電波帯域(10MHz幅)を4G(LTE)へ転用する工事が1Qでほぼ完了した。
これにより4Gで利用可能な800MHz帯の帯域幅は従来の20MHz幅から30MHz幅へ1.5倍に拡大し、800MHz帯のみで混雑していたビルの奥や地下街など、電波の届きにくい混雑箇所の約8割で通信状況の改善が確認された。
電柱にもアンテナ
では、街なかには、どんな設備が置かれているのだろうか。
大阪駅前
今回紹介された例のひとつがJR大阪駅だ。
改札のひとつをすぐ出た御堂筋南口交差点周辺(横断歩道付近)では、干渉の影響を低減させるため、周辺の基地局の運用周波数を別の周波数へ変更した。
すると、最も混雑する時間帯で、下りスループット(速度)が対策前の42Mbpsと比べ、対策後は191Mbpsへ向上した。
JRの駅近くでピンポイントの対策も
JR新松戸駅(常磐線/武蔵野線)およびJR尾久駅(宇都宮線/高崎線/上野東京ライン)では、ピンポイントの品質向上策として、東京電力やNTTの電柱に最新型のアンテナを設置。
指向性ビームを照射する最新型Massive MIMO(MMU)アンテナを活用したところ、新松戸駅では対策前に0.2Mbpsまで低下していた下り速度が317Mbpsへ、尾久駅では0.7Mbpsから171Mbpsへと大幅に向上した。
電柱への設置について引馬氏は「MMUでビームを絞って狙う効果は非常に高いなと改めて実感した」と手応えを語る。
O-RAN構成の同一ベンダー・クラスタ制御
ネットワーク運用の高度化として、8月からノキアの自動最適化システム「MantaRay SON」を活用したクラスタ制御が一部地域で導入された。
特定の小規模エリア(渋谷中心部など)を同一ベンダー(ノキアまたはエリクソン)の基地局群で構成し、エリア全体を一体的に分析・制御する。
O-RAN構成における同一ベンダー採択の理由について無線アクセスデザイン部長の増田氏は「O-RANで最低限の接続性を確保した上で、パフォーマンス最適化のレイヤーではベンダーごとの味付け(特徴)があるため、同一ベンダーの機器同士を組み合わせることでパフォーマンスが最も発揮される」と技術的背景を明かす。
引馬氏も「県全体を1つのベンダー、といったイメージではなく、混雑する特定のエリアで同一ベンダーで統一している」と説明する。
AI時代の上り小セル化設計
将来の課題として同社が位置付けるのが「上り(アップリンク)通信」の増加だ。
音楽イベント会場などではSNS動画投稿により上り通信比率が3対7へ拡大する現象が発生している。エリクソンの予測によれば、スマートフォン経由のAI利用やウェアラブル機器の普及に伴い、5年後には上りトラヒックが現状の3~5倍へ拡大すると見込まれている。
上り通信は、端末側の送信電力の制限から、基地局からの電波が届くエリア端(セルエッジ)において端末からの電波が基地局へ届きにくい技術的課題が存在する。
無線アクセスデザイン部長の増田氏は「上りは端末の送信電力がネックになる。セルを小さくする小セル化によって端末の送信電力が出づらくなりますので、小セル化してセル自体を小さくすることで上りのパフォーマンスは相対的に上がります」と説明する。
また、上り通信の対策として、これまでと比べて周波数を増やすといった対策はあり得るのか。この問いには、「同期の関係で他事業者と調整が必要なため簡単ではない」(引馬氏)として、基地局増設や小セル化、26GHz帯追加による対応を優先する方針という。
サマソニで大きな効果
あわせて、設備容量を旧装置比で約4倍に引き上げたエリクソン製の最新基幹装置「RAN Processor 6672」や、3.5GHz帯(80MHz幅)、3.7GHz帯(100MHz幅)、4.5GHz帯(100MHz幅)の計280MHz幅を合算運用するTri-Band Massive MIMOアンテナの導入を開始した。
大型音楽イベント「サマーソニック2026」の会場に導入した実証では、通信集中時間帯においても下り最大約2.8Gbps(前年同期約0.5Gbps)、上り最大約93Mbps(前年同期約25Mbps)の通信速度を達成した。
下り0.5Gbpsだったところが新設備によって5倍近くスピードが伸びたという点は、大きな実績と言えるだろう。
コミックマーケット(コミケ)などのイベント会場においても、ベース品質の向上と維持を続けた結果、「コミケは繋がらない」という不満投稿自体が減少する効果が現れている。
26GHz帯ミリ波のエリア展開とStarlink Direct・HAPSのNTNロードマップ
トラフィックが極端に集中するスポットへの抜本的対策として、総務省から新たに割り当てを受けた26GHz帯(400MHz幅×2)の帯域活用が進められている。広帯域なミリ波の特性を生かし、スタジアムや都市型混雑スポットの上り・下り容量拡充に優先的に整備される。
地上網の補強に加え、宇宙空間を経由する非地上系ネットワーク(NTN)の拡充も加速している。スマートフォンが直接衛星と通信する「docomo Starlink Direct」は、提供開始から約4カ月で接続者数(ユニークユーザー数)が850万人に達し、9月1日からはアメリカ、カナダ、フィリピンでの国際ローミングを開始した。
2028年度中には次世代衛星「Starlink Mobile V2」を活用し、衛星経由での音声通話やWebブラウジング機能の提供を開始するロードマップが示された。成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(HAPS)についても、2025年のアメリカでの気球試験に続き、2026年8月に福島県で飛行試験を実施しており、総務省による実証実験に向けた準備が整えられている。





















