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スマホは「アプリ中心」から「エージェント中心」へ。スマホの頭脳支えるクアルコムがGoogleやMastercardと見据えるAIの進化

 「AIスマートフォンとはいったいどういうものか、明確に見える段階になった。スマホはこれからも残り続ける。SnapdragonはAIエージェント時代のプラットフォームになる」

 こう語ったのは、米クアルコム(Qualcomm)のCEOであるクリスティアーノ・アモン氏。同社は、主にAndroidスマートフォンで採用されるチップセット「Snapdragon」シリーズを開発しており、チップセットはスマホの“頭脳”とも言える役割を果たす。

アモン氏

 米国ハワイ・マウイ島で22日に始まった同社のプライベートイベント「Snapdragon Summit 2026」基調講演で、アモンCEOは、スマートフォンが従来の「アプリ中心」から、ユーザーの意図を理解して自律的にタスクを実行する「エージェント中心(Agentic)」へと移行するというビジョンを示す。

アプリから「意図」へ、AIスマートフォンの役割と2つの普及条件

 基調講演に登壇したクアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOは、次世代のモバイル体験について「スマートフォンの役割が根本から変わる」と強く訴える。

 「スマホはなくなるのか? という議論をこれまでに多く目にしてきた。いいえ、スマホが消え去ることはありません」、そう断言するアモン氏。

 スマホは、ユーザーのもっとも近い場所にあるデバイスであり、その行動や嗜好を最も深く蓄積できるポジションを占めており、「個人を理解するコアデバイス」になる。そして今後はウェアラブルやPC、車載システムを結ぶパーソナルAIのハブとして共存していく、とアモン氏。

 その上で同氏は、エージェント型体験が普及するための条件として、アモン氏は「信頼」「摩擦の解消」という2点を挙げる。

アモン氏が挙げるエージェント型体験が普及するための条件
信頼(Trust)
  • 代理で購入や手続きを行うため、プライバシー、セキュリティ、ユーザー自身による最終制御権が確保されていること。
摩擦の解消(Frictionless)
  • 自分でアプリを開いて操作するよりも、エージェントに任せる方が圧倒的に手軽であること。

    1日100万トークンのオンデバイス処理、データセンター技術「HBC」をスマホへ移植

     エージェント型AIは、ユーザーがスマホを操作していないバックグラウンドでも推論処理を続け、タスクを代行する。これにより、「終日持続するバッテリー駆動」「発熱抑制」「ポケットに収まるサイズ」を維持することが、システム設計上の巨大な課題となる。

     だが、これらは、これまでのスマホ・携帯電話にもつきまとってきた永遠の課題だ。つまり、スマホ向けチップセットで、長く市場をリードしてきたクアルコムにとって、そのノウハウが活きる。

     アモン氏によれば、クアルコムはこの課題に対し、CPU、NPU、GPU、コネクティビティ(6G含む)といった各プロセッサーの役割を再定義した。

     CPUはエージェント全体の多段階な制御(オーケストレーション)を強化し、NPUは省電力での高速推論に特化する。また、コネクティビティはクラウドとの接続だけでなく、リアルタイム音声やスマートグラスによる視覚共有(高解像度動画のアップストリーム)を支える役割を担う。

     さらに、データセンター向けに開発された近接メモリ計算技術「HBC(High Bandwidth Compute)」を、Snapdragon向けの補助プロセッサー(コプロセッサー)としてエッジ端末へ導入する。「HBC for Snapdragon」ではメモリーとAI処理部を物理的に近づけることでデータ転送の電力を大幅に低減し、終日駆動のバッテリーを維持したまま、将来的に見込まれている「1日あたり最大100万トークン」規模のAI処理を可能にする。

     「HBC for Snapdragon」はスマートフォンにとどまらず、ノートPC、スマートグラス、車載機器へも展開される予定で、詳細は次回Mobile World Congress(MWC)で公開される予定という。

    OSから「インテリジェンス・システム」へ、Googleとの「Gemini Intelligence」

     基調講演にはGoogleのデバイス&サービス担当SVPであるリック・オステルロー(Rick Osterloh)氏も登壇した。同氏は「過去1年間のAIによる変化のスピードは、コンピューティングの歴史上例がない」と語り、実務や開発現場が急速に様変わりしている現状を明かした。

    グーグルのリック・オステルロー氏

     グーグルでは5月、「Gemini Intelligence」を発表した。これは単にOS上でアプリを動かす仕組みから、プラットフォーム全体にAIを浸透させた「インテリジェンス・システム」への脱皮を意味する。

     オステルロー氏によると、Geminiのトークン消費量は前年比で7倍に達し、月間アクティブユーザー(MAU)はGoogle史上最速で10億人を突破したという。Google検索のAIモード利用者も毎月10億人に達しており、AIの役割は質問回答から「目的達成(Get things done)」へと移っている。

     Gemini Intelligenceでは、スマホ、PC、スマートグラス、車載システムなどの間でユーザーの文脈が共有される。これにより、端末や利用場所が変わるたびにAIへ前提条件を説明し直す(自己紹介する)必要がない「環境知能(Ambient Intelligence)」が実現される。

    アモン氏とオステルロー氏の対談

    アモン氏
     ここで、私の親友であるGoogleのリック・オスターロー氏を招きましょう。

    オステルロー氏
     ありがとうございます。

    アモン氏
     昨年もここで対話しましたが、反響が大きかったです。1年前にお話ししたことの多くはまだ「可能性」段階でしたが、この12カ月で現実のものとなりました。あなたの視点から見て、最も大きく変わったことは何でしょうか?

    オステルロー氏
     信じられないような1年でしたね。過去に様々なコンピューティングの変革を見てきましたが、今回のAIによる変化ほど画期的なものは過去にありませんでした。業界全体の投資規模も、イノベーションの速度も明らかに加速しています。

     最も重要なのは、消費者の生活やビジネスにもたらされている変化です。

     ソフトウェア開発の手法はこの1年で完全に変わりましたし、創薬やサイバーセキュリティ、脆弱性発見のあり方も一変しました。単なるチャットボットから、より自律的なエージェント体験へと移行していることが巨大なトレンドです。

    アモン氏
     Geminiのユーザーの動きを見ていて、単に質問に答えるチャットボットを超えて頼れる存在になっていることを示す数値や傾向はありますか?

    オステルロー氏
     トークンの利用量は前年比で7倍(7X)に増加しました。また、前四半期のGoogle Cloudは80%成長しており、企業での大規模な採用が進んでいます。

     Geminiは月間アクティブユーザー数が10億人に達し、Googleの歴史の中で最も速く10億ユーザーを獲得したプロダクトとなりました。さらにGoogle検索のAIモードも毎月10億人に利用されています。人々がAIを日常的に活用していることを示す信じられないような数字であり、今も成長し続けています。

    アモン氏
     多くのユーザーがGoogle Playのアプリを利用していますが、同時に「アプリ」から「意図(Intent)」への移行が進んでいます。

     Geminiはスマートフォンの上で、リクエストに応答するツールから意図を実行するアシスタントへとどのように進化しているのでしょうか?

    オステルロー氏
     それこそが、私たちが密接な連携のもとで取り組んできた「Gemini Intelligence(ジェミニ・インテリジェンス)」への移行です。

     これは、従来のOS(オペレーティングシステム)の上に知能層(インテリジェンス・レイヤー)を追加し、「OSからインテリジェンス・システムへ進化させる」という取り組みです。

     プラットフォーム全体のユーザー体験にAIを浸透させ、より使いやすくしていきます。今年のスマートフォン発売を皮切りに、Googleブックスなど全プラットフォームへ順次拡大しています。

     その核心は、質問に答えることから「ユーザーが目的を達成(Get things done)できるよう支援すること」への移行です。

    アモン氏
     ユーザー固有の文脈(Context)やパーソナライズについてはどうでしょうか?

    オステルロー氏
     AIを真に役立つものにする鍵は、ユーザーの現在の状況だけでなく、過去の歴史や好みを深く理解することです。

     ユーザーの同意のもとでディープなパーソナライズを提供することで、何かを行うたびにAIへいちいち自己紹介(前提条件の説明)をし直す必要がなくなります。

    アモン氏
     スマートフォン、PC、スマートグラス、自動車など、あらゆる端末でGeminiが途切れることなく機能することの意味は何でしょうか?

    オステルロー氏
     それは環境知能(Ambient Intelligence)の層を加えるようなものです。

     車内で音声操作をしている時も、スマホを使っている時も、デスクでPC作業をしている時も、Geminiがその瞬間のニーズと文脈を理解します。

     車に乗ったからといって、スマホの時と違って自己紹介をし直す必要はありません。自動車、スマホ、PCにわたってこの戦略的ビジョンを形にできるのは本当にエキサイティングです。

    アモン氏
     QualcommとGoogleのフルスタックでの協業の重要性について教えてください。

    オステルロー氏
     従来のモデルから新しいAI主導のモデルへの移行には、あらゆる技術層における深い連携が不可欠です。

     ローカルでのモデル処理とクラウド処理をスムーズに連携させ、端末の熱制約や計算リソースの制限に対応するフルスタック・ソリューションの構築には、両社のパートナーシップが欠かせません。

    アモン氏
     初代Android(Android Cupcake)やQualcommの「MSM 7200」の時代から、私たちはコンピューターを手のひらに収めるために挑戦を続けてきました。その協力関係が今やスマートフォンを超えて、PC(Google Book)や自動車分野へと広がっているのは実に感慨深いです。

    代理決済とスケジュール調整を一括実行、Mastercardと構築する「Trust Layer」

     オステルロー氏が降壇すると、ステージでは、エージェントがユーザーの代理人(Proxy)として動作する「Agentic Commerce(AI主導の商取引)」のデモが披露された。

     デモでは、過去の訪問履歴に基づく日焼け止めの再購入手配や、外出先での動画編集というワークスタイルに合わせてPCEOを選ぶ様子が示された。さらに、カードの還元率や割引条件(店頭5%オフ vs オンライン2万ポイント還元)をAIが比較し、ユーザーが検討していた撮影ツアーの予約に必要なポイントが得られるオンラインルートを提案。ユーザーの確認(指示)を受けて代理購入を実行したほか、ランチ前の空き時間を活用したツアー予約の準備(セットアップ)までをアシストする流れが紹介された。

    アモン氏(左)とMastercardのラジャ・ラジャマナール氏

     Mastercardシニアフェローのラジャ・ラジャマナール氏は、「単なる情報提案と異なり、費用が発生する購入代行には支払いが確定してしまう『決定性(Finality)』があるため、次元の異なる強い信頼が必要になる」と説明する。ディープフェイクや新たなAI詐欺が急増する中、決済情報やIDデータを保護する技術とMastercardの信頼性を融合させ、エージェント主導の取引における「Trust Layer(信頼層)」を共同で構築していく。

    新体制の発足と開発環境「Modular」のオープンソース化

     このほか講演では、モトローラの元CEOであるセルジオ・ブニアック(Sergio Buniac)氏が、クアルコムのモバイル・コンピューティングおよびXR部門のグループGMに就任したことが発表された。

    ブニアック氏

     また、異種(ヘテロジニアス)ハードウェア環境におけるAI開発の分断を解消するため、AI開発基盤を手掛ける「Modular」を買収したことも明らかにされた。高速なAIプログラミング言語「Mojo」および統合フレームワーク「MAX」をオープンソース化し、Snapdragon端末だけでなく半導体業界全体のオープンなAIソフトウェアプラットフォーム創出を目指す方針が提示された。