インタビュー

「ギガ」の次はAI? KDDI新アプリ「Buffmee」が示すスマホとAIの新しい関係

 2026年7月にサービスを開始したKDDIの対話型AIコンテンツプラットフォーム「Buffmee(バフミー)」。出版社などのコンテンツプロバイダー(CP)が提供する公式の書籍や雑誌データを基盤とし、ユーザーが対話やクイズ、問題集、ポッドキャスト生成といった機能を通じて能動的に学べる対話型AIコンテンツプラットフォームだ。

 サービス開始後の利用動向や今後の機能拡張、そして権利者との共生モデルや通信キャリアとしてのインフラ戦略について、プロジェクトを主導するKDDIの事業創造本部長の長谷川渡氏、およびAIプロダクト部長の木村塁氏に聞いた。

リリース初期の利用動向とユーザーの「迷い」

――7月のリリースから1カ月あまり。初動の状況について教えてください。

木村氏
 基本的には我々が狙っていた通りのところで、お客様に機能や使い方が定着し始めているかなと感じています。

木村氏

 アプリのダウンロード数としては、現在、5000~1万件と、急激に伸びているわけではありません。ただ、実際にダウンロードしてくださった方の使い方を見ると、私たちが想定していた通りの使い方をしてくださっているというデータや手応えは得られています。

――利用動向について、どのようなKPI(重要業績評価指標)を重視していますか。たとえば、1日あたりのチャットの回数、あるいは利用時間ですとか。

木村氏
 現段階で最も注視しているのは「継続率(リテンションレート)」です。

 アプリをダウンロードして、最初は皆さん珍しさもあって使ってくださるのですが、その後ちゃんとサービスに戻ってきてくれるか。翌日も使うか、あるいは1週間以内にまた使ってくれるか、というサイクルを見ています。

 もちろん、まだコンテンツ数自体が不足している点や、UX(ユーザー体験)の面でも物足りない部分があることは認識しています。

 そのため、ChatGPTやGeminiといった世界的な汎用AIチャットと同等のレベルに達しているとは言えません。しかし、提供しているコンテンツにしっかりと触れていただいたお客様に関しては、継続率が非常に高くなっています。
 我々の狙い通りの使い方をしてくださる層においては、ちゃんと使い続けてくれているというデータが見え始めています。

――メディアや出版社、あるいはユーザーからの反響やフィードバックはどうですか。

木村氏
 先日の発表会の大きな目的は、まさにコンテンツプロバイダー(CP)の皆様に認知していただくことでした。その点においては、非常に狙い通りに伝わったと感じています。

 特に「出版社は今後どう変わっていくべきか」「生成AIに対してどのように向き合うべきか」という課題を抱えている場合、「こういう共生の形があるんだ」という具体的なイメージを提示できたことで、興味を持っていただき、問い合わせをいただくケースが非常に増えています。

 また、アプリのローンチ前からお声がけしていた方々の中でも、最初は「AIを活用したサービス」の具体的なイメージが湧きづらかったかもしれませんが、発表会をご覧いただいて「ぜひ参加を」とおっしゃってくださるなど、BtoBの反響は非常に手応えを感じています。

 一方、一般のお客さまはどうか。社内でのテストや一般の先行利用者のフィードバックを見ると、まだ「コンテンツを選ぶ」という行為にハードルや迷いがあるという意見をいただいています。

 一般的なAIチャットであれば、シンプルに入力窓が1つだけあり、「ここに聞けばいい」と迷わずに検索やチャットを始められます。

 しかしBuffmeeの場合、専門的なコンテンツが並んでいるため、「どれを選んで、どう使い始めればいいのか」で迷いが生じるようです。この「迷い」を解消していかなければ、いわゆる一般的なマス層への定着には至らないだろうと、大きな課題としてとらえています。

「AIマーケット構想」から「Buffmee」への転換プロセス

――2025年4月、松田浩路社長が新社長就任会見で「AIのコンテンツプラットフォーム(AIマーケット)」というアグリゲーターとしての構想を示されていました。それが「Buffmee」になったわけですよね。

長谷川氏
 社長の松田が就任時に「AIマーケット」について言及したところからの流れですね。

 あの発表の後、社内でAIマーケットの具体的な検討を開始しました。専門の組織やグループを立ち上げて並行して動かしていたのです。

 当時のモチーフは、まさに昔の「auスマートパス」でした。

 スマートフォン黎明期から、アプリを安全にダウンロードして使えるようにKDDIがハブ(仲介者)として安全性や信頼性を保証していた、その「公式マーケット」の役割を、AI時代においてアプリやエージェントを媒介する形で再現できないか、というコンセプトでした。

 その検討と並行して、グーグル(Google)さんとの包括的な取り組み(アライアンス)が進む中で、当時の「NotebookLM」の機能をKDDIのサービスにうまく統合・活用できるのではないか、という話が浮上してきました。これが非常に面白いと社内で盛り上がったのです。

 さまざまなAIアプリを並べてダウンロードさせる「マーケット(ハブ)」の形も1つです。

 しかし、生成AI技術を使って、KDDIみずからが全く新しい体験を形にしたサービスとして世に出していくことも、携帯キャリアとして非常に重要ではないか。最先端のAIを一般のお客様に広く使っていただくためのプラットフォームとして、どちらの形が本質的であるか――と議論していました。

 その結果、「我々自身でサービスを提供しよう」と。

 しかもそれは、さまざまなパートナー(出版社様等)に『コンテンツ』という形で参画していただき、AI化に伴う個別のシステム実装や技術的な高いハードルを、KDDI側が全面的にサポート・負担して一緒に創り上げていく。

 形やアプローチはマーケット構想から変わりましたが、「プロバイダー様と共生し、ユーザーに安全で新しいコンテンツ体験を提供する」という我々がやりたかった本質的な目的は、極めて近いものであるという整理に至りました。

 そこで、昨年のKDDIサミットの場を機に、「AIマーケット」という従来の呼び方から、現在の「Buffmee」のコンセプトへと、正式に戦略を舵切り(転換)させていただいたという経緯になります。

――以前の「マーケット」構想はなくなり、現在はBuffmeeに一本化されているのですね。自社でAIサービスを手がけることに対する慎重論など、社内での議論はいかがでしたか。

長谷川氏
 実際のところ、数カ月は紆余曲折を伴いながら議論を重ねていました。「キャリアであるKDDIがハブになる」というかつてのauスマートパス型のマーケットモデルの方が、社内の理解としては非常に得やすかったのです。一番太い顧客接点を持つ通信キャリアがハブになる、というのは分かりやすいシナジーですから。

 一方で、「KDDIが1つのサービスとしてのAIチャット(アプリ)を提供する」ということに対しては、「なぜ携帯キャリアがやるのか」「本当に定着するのか」という素朴な疑問や議論はもちろんありました。

木村氏
 そうですね。当時、BtoC向けの生成AIサービスでマネタイズに成功している事例は極めて少なく、ChatGPTやGeminiであっても実態はインフラ(トークン)コストで赤字に近い状態であろうと推測されていました。そんな中で、自分たちにチャンスがあるのかという懸念はありました。

 ただ、私は「まだチャンスはある」と考えていたんです。参入しない理由はないと。

 たとえば、他社の大手AIプレイヤーのサービスを通信料金プランにバンドルしてアグリゲートするだけで、自分たちで「物づくり(サービス開発)」まではしない、という形もあるでしょう。

 しかし、それでは通信キャリアの枠を出られない。

 グーグルさんとの戦略的協業を推進するにあたり、単なるパートナーシップに留まらず、KDDI自身が「本当に物を作れる開発組織」へとトランスフォーメーション(変革)していかなければならないと、個人的には考えていたんです。

 「Buffmee」はその象徴と言えますし、プロダクト開発とグロース、そして次世代のプロダクト開発を担う組織として、私が現在率いている「AIプロダクト部」が創設されました。

 通信キャリアの殻を破り、IT・AIサービス事業者として新たなチャレンジをしていくという意思も込めて取り組んだところがあります。

UI・機能設計とGoogle Cloud(NotebookLM)との協業

――UI(ユーザーインターフェイス)や機能面では、Buffmeeはチャットだけでなく、フラッシュカードや問題演習といった機能が用意されています。GoogleのGemini Notebookがベースということで、納得できる機能ですが、あらためて開発時の経緯と狙いを教えてください。

木村氏
 Buffmeeは、Google Cloudさんとの「戦略的提携」における最初の具体的なプロダクトになります。

 「Gemini Notebook」は非常に良いサービスです。良い意味で大いに参考にさせていただきましたし、開発にあたっても強く意識しました。

 ただ、そのまま同じテイストで作るのではなく、第一に「スマホアプリとして使いやすいこと」を重視しました。Gemini Notebookのように、ユーザー自身が自分の書籍やドキュメントをPDFなどでアップロードして使う仕組みは、一般のコンシューマーにとっては非常にハードルが高い行為です。

 そこで、Buffmeeでは、そうした事前の準備やアップロードの手間を一切なくし、あらかじめプロの手による信頼性の高い公式コンテンツ(書籍や雑誌)をプールしておくという、全く異なるアプローチ(コンセプト)を持ち込んでいます。ここが、全体的な機能の見せ方における最大の特徴です。

――ユーザーがみずからソースをアップロードする手間を省き、公式のコンテンツを最初から揃えたわけですね。

木村氏
 はい。そこがベースライン(大前提)になります。その上で、書籍やメディアのコンテンツと対話できるという形です。

 また、公式コンテンツとして「信頼性」を担保しているわけですが、ここで言う信頼とは、「誰が発言しているか」「どの出版社・メディアが書いた一次情報であるか」がクリアになっているということです。

 これにより、ユーザーはAIが適当なWeb情報からハルシネーション(嘘の回答)を起こしたり、出所不明の情報を出力したりする心配をすることがありません。「このプロが言っているのだから正しい」と安心できます。そうした信頼性の高い体験こそが、Gemini Notebookの構造をベースにしつつ、我々が独自にアレンジを加えたコンセプトの核心になります。

通信キャリアとしてのインフラの強みとコストの不確実性

――AI領域はモデルの進化やインフラコストの変動が激しく、将来の予測が困難です。この不確実性をどのように捉え、見通しを立てていますか。

木村氏
 正直に申し上げますと、長期的な見通しを完全に予測することは、我々にとっても極めて困難です。

 生成AIモデルの開発や価格設定は、競合とのせめぎ合いの中で急激に決定される部分が多いため、我々が「半年後にどうなっているか」を事前に確定的に把握することはできません。

 しかし、その不確実性を乗り越えられる2つの強みが我々にはあります。

 第一に、Google Cloudさまから支援いただける体制があります。AIモデルの変更に伴うプロンプトやAPIのチューニングは非常に大きな手間とコストがかかりますが、そこをアライアンスの中で、迅速にサポートしていただける。

 第二に、KDDIが保有する「独自のインフラ(アセット)」も強みです。もし仮にクラウドのライセンスやAPI費用が将来的に高騰したとしても、我々には自社のデータセンターやGPUインフラ、たとえば大阪堺データセンターのGPUリソースなどがあります。

 その上で、競争の源泉は「データ」だと思います。生成AIをアプリケーションに組み込む動きは各社で進められており、差別化が難しくなる。もう、ある程度、動きは出ていると思いますが、データをどう囲い込むか、という点が重要です。

 最終的には「自社の推論インフラに処理をスライドさせてコストを徹底的に抑制する」という強力なバックアップ・選択肢を保有している。これこそが、他社サービスにはない通信事業者ならではの最大の強みであると消化しています。

長谷川氏
 今後の「通信とAIの融合」という視点からも、このインフラの自社保有は極めて大きな意味を持ちます。

 将来的には、すべての計算をクラウドの最先端かつ巨大なLLMで処理するのではなく、ベースラインの処理はより安価で汎用的な推論インフラにスライドさせて処理する構造になっていくはずです。

 そうなった際、KDDIが社会全体の計算リソースや推論のインフラを独自に確保・保有していることで、1トークン、1チャットあたりのコストを圧倒的に引き下げられます。

長谷川氏

 社内の検討では、そもそも通信データって、最初は時間で課金していたものが「パケット」になって……まあ、もう今「パケット」って言っても誰も分かんないと思うんですけど(笑)、パケットになって、今度は「ギガ」だ「定額」だって、それもデータの時代ですよね。

 それが今後は「トークン」であったり、「ジョブ(推論の実行度合い)」であったりで課金がされるとか。世の中がどうAIと向き合っていくのかによって、そこはやっぱり変わっていく部分があるかなと思っています。より自然に「いや、データだけ通っても意味ないじゃん。推論が働かないと見たいものがないよ」という世界になってくるのであれば、より我々がそこあたりも含めてバンドルしていく。

 その際、サービス開発者の皆様が「推論コストが高くてサービスが作れない」と悩む部分を、KDDIが先行してインフラ側でカバーし、共に持続可能なエコシステムを作っていく。このインフラ事業者としての長期的な視点が、我々のビジネス構想の根底には流れています。

データ・コンテンツの「囲い込み」と参画プロバイダー獲得目標

――現在Buffmeeは約150のコンテンツでスタートされていますが、今後のコンテンツ獲得の規模感や目標についてはいかがでしょうか。

木村氏
 はい、現状の150という数字は、まだまだ「足りない」というのが率直な自己評価ですし、発表会でもそのように申し上げました。

 まず一つの具体的な定量ターゲットとして見据えているのは、既存の「雑誌の読み放題サービス」などで提供されているタイトル数(数千冊規模)です。

 あのレベルの網羅性があれば、多くのユーザー様が「使ってみよう」と思ってくださる。出版社やプロバイダーの皆様にとっても、すでに電子書籍や配信の実績がある枠組みですので、Buffmeeへの参画も非常に提案しやすく、参入障壁は低いと考えています。まずは早期に、その「数千タイトル規模」の網羅性に追いつくことが第一の目標です。

 ただ、我々の「数(冊数)」の捉え方は、従来の読み放題サービスとは少し異なります。単に最新号の何冊かが読めるというだけでなく、Buffmeeでは「過去のバックナンバーも含めて、すべてのデータをデータベースに格納してAIが活用できるようにする」という深さの面でのアプローチを行っています。

――バックナンバーまで含めると、情報検索のヒット率は大きく変わりそうですね。

木村氏
 そうなのです。本質的な指標として見ているのは、ユーザー様が何か知りたい情報や疑問を投げかけた際、我々がアグリゲートしている公式コンテンツ内で「何割が解決(ヒット)できたか」という解決割合です。

 理想としては、ユーザーの質問の「9割以上」がBuffmee内の信頼できる公式ソースから解決できる状態。そこまでカバーできれば、Web全体の不確かな検索に頼る必要がなくなり、Buffmeeの中でコンテンツ体験が完全に自己完結します。カバーできていないニッチな領域だけ、例外的にウェブグラウンディング(Web検索)で補完する、という見せ方を考えています。現在の解決割合はまだ数割程度だと認識していますので、まずはこのヒット率を極大化するために、コンテンツの獲得(囲い込み)に徹底的に注力していきます。

複数コンテンツを跨ぐ「横断検索」

――ユーザーが本を選ぶ「迷い」を解消するために、複数のコンテンツを跨いだ横断検索を求める声も、取材陣から挙がっていました。

木村氏
 実は、4月頃からクローズドで実施していたユーザーテストの段階でも、「コンテンツを跨いで横断的に検索したい」という声は非常に多く寄せられていました。

 技術的には実装可能な状態であり、開発の準備も進めていたのですが、7月のローンチ時点では権利者様(CP)との見え方や調整の兼ね合いもあり、間に合わなかったというのが実情です。

 しかし、これは非常に重要なアップデートですので、遅くとも「年内(2026年中)」には、複数のコンテンツを跨いで一括でチャット・検索ができる「横断検索機能」を実装してリリースしたいと考えています。

――出版社側との調整において、懸念や工夫されている点はありますか。

木村氏
 「自分たちのブランドの文脈が壊されるのではないか」という懸念に対して、技術的に「このような見え方、このようなクリアな引用表記になります」というプロトタイプをきちんとお見せして、ご理解を得るプロセスを大切にしています。

 もちろん、参画している全社が揃って「一斉に同意」するのを待っていてはサービスが前に進みません。ですので、大半のパートナー様から「この形ならいいよ」とご賛同をいただけた段階で、まずは先行して合意できたコンテンツを対象に横断検索機能をリリースしていき、段階的に広げていくアプローチをとる予定です。

 この横断検索がトップ画面に配置されることで、ユーザーは「どの書籍を選べばいいか」に迷うことなく、いきなり質問を投げられるようになります。

 AIが自動的に「あなたのその疑問の答えは、〇〇社のこの本と、△△社のこの雑誌に書いてありますよ」と提示して会話を繋げていく。これによって、むしろ今まで埋もれていた個々のコンテンツが発見されやすくなり、出版社様にとっても「自社コンテンツへの誘導(送客)メリット」が飛躍的に高まると確信しています。

プッシュ型アプローチと「スマホ読書体験」の進化

――ユーザーが能動的に質問する、いわばプル型の体験だけでなく、AI側から働きかけるようなプッシュ型の体験も考慮されているのでしょうか。

木村氏
 はい、それも計画しています。ユーザーが能動的に「質問を考えなければ使えない」チャットサービスでは、どうしても利用のハードルが高くなってしまいます。

 現在提供しているポッドキャスト(音声対話生成)機能のように、AIがコンテンツを咀嚼して語りかけてくれるような体験を、アプリのトップ画面やビジュアルでも実現したいと考えています。アプリを開くだけで、関心を持ちそうなトピックをAIがプッシュ型で提案してくれるUIの改善に取り組んでいきたいです。

 また、これまでの歴史を振り返ると、紙の書籍から電子書籍(eBook)へとテクノロジーは進化しましたが、「画面に紙と同じ誌面がそのまま表示される」という点においては、実はユーザー体験の本質はほとんど進化していませんでした。

 私たちは、書籍や雑誌の中に眠っている素晴らしいプロの情報を、テクノロジーの力で「形を自由自在に変えて(トランスフォームして)届ける」ことに、当初のコンセプト設計からこだわり続けています。このアプローチを、我々は社内で「情報のデザイン」と呼んでいました。

 同じ1つのデータベース(本)から、ある時は「テキストでの対話」になり、ある時は「クイズや問題集」になり、「フラッシュカード」になり、そして「ポッドキャストの音声番組」に姿を変える。1つのデータソースから、多様なマルチ体験(翻案)を創り出すことこそが、AI時代における全く新しい「本を読む・学ぶ」という体験の再定義であり、我々が実現したい世界です。

長谷川氏
 生成AIの進化スピードは1カ月単位で世界が変わるほど凄まじいため、いわゆるウォーターフォール型で、机上で2年先までの完璧なロードマップを引いてから開発していたのでは、完全に時代に置いていかれてしまいます。

 ですので、まずは我々が目指す「AIによって人間の能力を高める(Buff-me=私にバフをかける)」というビジョンを社会とパートナー様に明確に提示し、共鳴してくださる皆様と一緒にアジャイルに進化させていくプロセスを重視しています。

業界標準のルール化と権利者との交渉のリアル

――著者や出版社などの権利者との許諾交渉や、AIライセンスのルール化についての現状はいかがでしょうか。

木村氏
 出版社やWebメディアの現場の担当者様は危機感と熱意を持って対応してくださるケースが多いですが、その先の個々の著者様に対して、1つ1つの作品ごとに説明をして承諾をいただく作業(権利処理)は非常に骨が折れるプロセスです。

 また、電子書籍化のような業界標準の契約フォーマットが存在しないため、「コンテンツをAI化する」ことに対する許諾ルールをどのように落とし込んでいくか、業界全体のルール作りを進める必要性を痛感しています。

 通信キャリアだけで一方的にルールを押し付けるのではなく、Buffmeeという具体的なプラットフォーム(実物)を提供することで、業界のプレイヤーの皆様と一緒に実務的な議論を進める黒子役に徹したいと考えています。

――事業性やレベニューシェアの見通しについてはいかがですか。

木村氏
 会員数が少ない初期段階においては、無料キャンペーン期間中であってもプロバイダー様へレベニューシェアをお支払いする形でKDDIが負担を負っています。

 今後は、業界全体として「AIでコンテンツを活用できる権利」そのものに着目する動きが増えていくと考えています。

 たとえば、直近で発表されたGoogle Playブックスで買った本をGeminiなどのAIに取り込んで活用できる機能なども一つの現れです。

 このような仕組みが一般的になり、さまざまなプラットフォームや用途で「AI活用権」がセットで流通するようになれば、出版社様にとってもコンテンツをAI化するコストや見返りのバランスが見えやすくなります。

 業界全体がこの方向にシフトすれば、プロバイダー様にとっても事業として成り立つ環境が整っていくと期待しています。

100万ダウンロード目標に向けた2段階のロードマップ

――早期100万ダウンロードという目標に向けた戦略は?

木村氏
 現状の数千~1万未満のダウンロード規模から100万という目標に到達するには大きなギャップがあります。現段階でマスプロモーションを仕掛けても効果が薄れてしまうため、まずは「横断検索」をはじめとするUXの改善を徹底的に行い、アプリの体感クオリティを高めることが先決です。

 その上で、グロース戦略としては、最初から全員を狙うのではなく、ターゲットを絞り込んだ「ニッチ(専門ジャンル)の集合体」を作っていきます。「この専門書が使えるならダウンロードしたい」という特定の強いファン層へ向けて、各出版社様とタッグを組んでキャンペーンを波状的に仕掛けます。

長谷川氏
 そのコアな体験でファンを増やした上で、第2段階として、KDDIグループが持つ3000万人規模の顧客接点(au、UQ、povoなど)への露出や、自社で制作している「テレトラ(テレコミュニケーション虎の巻、通信業界の歴史などを包括しているコンテンツ)」の活用です

――通信キャリアならではの取り組みとして、料金プラン・端末割引とセットにした提供などの可能性もあるのでしょうか。

長谷川氏

 はい、あり得ると思います。

 AIの「トークン」や「推論リソース」の消費は、今後は通信そのものと不可分になっていく未来もあり得ると思っています。

 いわゆる「データ量」だけで課金するのではなく、「通信と推論(AI)がバンドルされた料金プラン」という世界では、生成AIを利用することがトークン・推論リソースの消費になるわけですから。

  ただ、そうした料金的なバンドルや端末セットといった「キャリアの力技」だけで数字を強引に作るやり方は、少なくとも最初の段階ではあえて排除したいと考えています。

 まずはユーザー様が「このコンテンツを体験したい」「面白い、学びたい」という、サービス本来の価値(全うな筋)に惹かれて能動的にダウンロードし、楽しんでいただく。そのコアな体験のクオリティを軸にした上で、段階的に、キャリアならではの強力なバンドル施策などのブースターを組み合わせて一気にスケールさせていく。そうした丁寧な2段階のロードマップを設計しています。

――通信キャリアとしてのインフラ基盤から、出版コンテンツの新しい体験づくり、AIの利用を見据えた料金プランの考え方まで幅広いお話でした。ありがとうございました。