ニュース

KDDIの新AIサービス「Buffmee」は既存サービスとどう違う? 権利保護の仕組みや将来構想など

 KDDIは28日、ユーザー自身の成長を支援するAIサービス「Buffmee(バフミー)」や、Google AI Futures Fundと連携したAIスタートアップ支援プログラムを発表した。

AI依存への危機感と新サービスの狙い

 AI前提社会において、AIへの過度な依存が思考力や好奇心を奪う「デスキリング」が社会課題となりつつある。KDDI事業創造本部長の長谷川渡氏は、「便利さと引き換えに私たちの考える力そのものが衰えていく。AIに頼る流れそのものは止められないが、問われるのは向き合い方だ」と語る。

KDDI 事業創造本部長 長谷川渡氏

 「Buffmee」は、信頼できる出版物のデータを学習元とし、AIに任せながらもユーザー自身の成長へとつなげる体験の創出を狙う。サービス開始時点では、コンテンツプロバイダーから提供を受けた約150のコンテンツを揃える。

 また、AIによる回答にコンテンツが利用された回数などに応じて収益を分配するレベニューシェアモデルを採用した。利用料金は、月額0円の無料プランと月額980円のプレミアムプランで展開。利用開始日から1年間、プレミアムプランが無料となるキャンペーンを実施している。

 世界で戦えるAI企業の創出を目指し、Google AI Futures Fundと共同でスタートアップ支援プログラムも開始した。1社あたり最大200万ドル(約3億円)の資金提供に加え、Gemini Nanoなどの最先端AIモデルへの早期アクセスや通信インフラなどを包括的に提供する。年間で約5社の採択を目標とする。

出版業界が抱える生成AIへの危機感と期待

 発表会後半では、翔泳社の秦和宏氏、交友社の山田修平氏、オレンジページの原田直美氏を交えたパネルディスカッションが行われた。

 生成AIが普及する中、Webサイトへの流入減少による広告収入の低下や著作物の無断利用が深刻化している。原田氏は、「質の高いコンテンツを制作していくための収益モデル自体が成り立たなくなる懸念がある」と語る。また、AIによる独自の要約で味の再現性が損なわれるなど、ブランドの信頼性低下にも危機感を示す。

オレンジページ オレンジページ&net統括編集長 原田直美氏

 こうした課題に対し、「Buffmee」のレベニューシェアモデルは新たな収益源として期待を集める。山田氏は、「65年分の膨大なデータを死蔵してももったいない。読者の皆さまにこれまでのお礼を違う形でお戻ししたい」と語る。秦氏は、書籍のようなオフラインのコンテンツはAIに学習されておらず信頼性が高いため、価値が見直されつつあると指摘する。

交友社 代表取締役社長 山田修平氏

 単なる情報の抽出ではなく、雑誌のカルチャーや世界観をユーザーと対話形式で共有できる点もパートナーから評価を得ている。今後の「Buffmee」の展開として、音声や動画への対応も視野に入る。秦氏は、音声や動画を組み合わせることで、ユーザーが自分に合った学習スタイルを確立できると期待を寄せる。

翔泳社 書籍編集部 部長 秦和宏氏

今後の展開と質疑応答

 質疑応答では、「Buffmee」のビジネスモデルや今後の展開に関する質問が相次いだ。

 一般のAIサービスとの違いについて長谷川氏は、コンテンツプロバイダーごとの特徴や世界観を保ったままAIが回答を提供する点が異なると説明する。月額料金からAIのトークン利用料などを差し引いた利益を、各コンテンツのチャット利用回数などに応じて分配する仕組みを採用した。

 提供形態について、当初は幅広い利用者を対象とするためマルチキャリア対応のスマートフォン向けアプリとして提供する。将来的なマルチプラットフォーム化についてAIプロダクト部長の木村塁氏は、Webを通じた提供や他社のAIサービスから「Buffmee」のエージェントを呼び出すAPI連携などの可能性も示唆する。

KDDI 事業創造本部 AIプロダクト部長 木村塁氏

 KDDIは今年度末までに無料会員を含め100万利用の獲得を目標に掲げる。「Buffmee」の機能拡張として、オンデマンドマガジン、学びダッシュボード、電子書籍との融合という3つの構想も示した。KDDIのスマートフォン向け料金プランへのバンドル化については、サービスが十分に成長し、顧客に価値が浸透した段階で検討を進める方針。

――ChatGPTなど既存のAIサービスが普及する中、ターゲットや自社サービスの強み、市場獲得の狙いをどう考えているのか。

長谷川氏
 一般的な生成AIはさまざまな情報を混ぜて回答しますが、「Buffmee」は個々のコンテンツプロバイダー様の名前が出ており、それぞれに独自のファンがいらっしゃいます。

 コンテンツプロバイダー様がお持ちのファンの方々に使っていただくことで、利用者が増え、市場を獲得していくと考えています。

――ユーザーの月額料金をメディア側に分配する収益モデルについて、規模感や広告収入の扱い、全体の基本設計を教えてほしい。

長谷川氏
 月額980円の料金からコンテンツプロバイダー様に権利コストをお支払いし、AIのトークン利用料がコストとしてかかります。トークン部分は最初は外部リソースを使いますが、ゆくゆくは内製化してコストを下げていく考えです。

 まずはプレミアムサービスの利用者を増やすためのキャンペーンを行い、ファンの方に多く参加していただくことでレベニューシェアの規模を生み出していきます。

――記事の無断利用などAIを巡る課題についてどう捉えているか。また、今回のサービスは解決策となり得るのか。

長谷川氏
 AIによる無断学習や、権利者の意図しない形での引用によって収益機会が奪われることは問題だと考えています。Buffmeeでは、他のコンテンツと混ぜるのではなく、たとえば書籍ならその内容だけをデータベースに入れ、AIがその内容に基づいて回答する形にしています。これにより、作者の思いを正しく伝えつつ、新しい価値を生み出し、権利者に収益を還元できる環境を作っていきます。

――コンテンツ保持者への還元は、利用実績に応じた成果配分なのか、それとも一律の支払いなのか。

長谷川氏
 レベニューシェアのプールから、各コンテンツの利用度合いに応じて配分する形になります。

――従来の電子雑誌サブスクなどの収益モデルと比べ、AIを活用した今回のレベニューシェアはどう違うのか。

長谷川氏
 従来の雑誌サブスクは雑誌そのものを見ていただくことで収益をシェアしていましたが、Buffmeeは雑誌の内容をデータベースに入れ、AIがそれに回答する形です。その利用に対してレベニューシェアをお支払いします。

――レベニューシェアが発生する「利用」のカウント単位はどう定義しているのか。

木村氏
 具体的には、チャットで1回使われたら1回利用されたとするなど、利用状況に応じて配分します。運用する中で不公平が出た場合は是正していくなど、探り探り進めていくビジネスモデルだと考えています。

――さまざまな媒体をまとめたプラットフォームを提供するKDDIの狙いと、今後のバンドル展開などの構想を教えてほしい。

長谷川氏
 スマートフォン黎明期にアプリの安全性が課題だった際、KDDIは安全なアプリを提供するサービスを展開しました。今回も、AIによってコンテンツが不適切に使われることを回避するため、安心できるプラットフォームを提供したいと考えました。

 バンドル化については、まずは無料会員も含めて数百万規模の利用者に育てることが重要であり、その見込みが立てば検討していきたいと考えています。

――参加コンテンツが増えることで1社あたりのシェアが減る懸念に対し、コンテンツ保持者側にどのような魅力を提示していくのか。

長谷川氏
 たとえば雑誌など、何十年も蓄積された過去のコンテンツをマネタイズすることはこれまで困難でした。しかしAIを活用することで10年前の記事からも情報を引用できるようになり、長い歴史を持つコンテンツプロバイダー様こそ、このサービスで新たなマネタイズが可能になると考えています。

 また、新刊を出す際にも、紙の本を読みながら気になった部分をBuffmeeのAIに聞いて理解を深めるといった新しい使い道も模索しています。今後、多様なコンテンツプロバイダー様に参画いただくことで、さらに新しい活用法が生まれると期待しています。

――auユーザー限定のキャリア決済ではなく、一般的なアプリストアでの定期購読という提供形態をとった理由は何か。

長谷川氏
 auユーザーだけに限定せず、幅広いお客様にご利用いただけるよう一般的なアプリの形態としました。

――今後、キャリア決済の導入やau・UQの料金プランへの組み込みなどは予定しているのか。

長谷川氏
 将来的にそういった形での提供も検討していきますが、具体的な形はこれからの議論次第です。

木村氏
 Webでの展開や、単独のアプリだけでなく、他のAIサービスから呼び出せるような形も検討していきたいと考えています。

――特定の出版社や新聞社向けに、AI検索機能をホワイトレーベル型で提供する可能性はあるのか。

長谷川氏
 現時点で特定の出版社や新聞社単位でのホワイトレーベル展開は想定していませんが、企業様のサービスや旅行プランと連動させて使っていただくような展開はあり得ると考えています。

木村氏
 仕組みとしては単一コンテンツの検索機能だけを提供するようなエンベデッド(組み込み)化も可能な設計にしていますので、ニーズやビジネスモデルが合えばチャレンジしていきたいです。

――プレスリリースにある学びのダッシュボードなど、チャットUIにとどまらない今後の体験設計や将来像をどう描いているのか。

木村氏
 基本的にはコンテンツをベースにチャット形式で対話し、問題演習やオンデマンドマガジンなどの機能へ拡張していくことを考えています。

 ユーザーのフィードバックをいただきながら、画面上にボタンやダッシュボードを追加するなど段階的に機能を広げていく予定です。


――参加するメディアを拡充していく際、どのような判断基準や審査を設けているのか。

長谷川氏
 KDDI側からメディア様を選別・限定するような基準はありません。公序良俗に反するものなどを除き、流通している一般的なコンテンツをお持ちで、Buffmeeに参加したいというお話があれば幅広くお受けしたいと考えています。

――KDDIが目指すコンシューマ向けAIサービスの全貌や、今後のAIエージェント構想についてどう考えているのか。

長谷川氏
 今回のBuffmeeが最終形ではなく、さまざまなコンテンツとAIを掛け合わせて楽しめるような発展を考えています。エージェント的な機能についても、お客様のニーズを調査しながら機能拡張を進めていく予定です。

――グーグルとのスタートアップ支援プログラムでは、年間何社ほどの採択を目指しているのか。

舘林氏
 日本発で世界で戦えるAI企業を作りたいという定性的な目標があります。具体的な上限は設けていませんが、インドでの先行事例では年間5社程度でしたので、最低でもそれくらいは選んでいきたいと考えています。

KDDI オープンイノベーション推進本部 副部長 舘林俊平氏