インタビュー
ワイモバイルが新料金プラン「シンプル3」発表、キーパーソンに聞く改定の背景
2025年9月5日 06:00
4日、ソフトバンクが、「ワイモバイル」の新料金プラン「シンプル3」を発表した。9月25日から適用されるもので、基本的には値上げとなる。
ただし、割引を拡充。割引後の料金はこれまでの「シンプル2」の割引後と同額になった。さらにもっとも小容量の「S」は4GB→5GBへ増量したほか、新たに海外で毎月2GBまで無料で使える新機能や、「1回200円以上、PayPayを月10回以上使うとデータ量がもらえる」といった仕様を11月以降に取り入れる。
割引でも、PayPayカード割ではノーマルカードでは187円→330円にアップし、新たにゴールドカードで550円の割引が適用される。
どういった考え方で、新料金プランが開発されたのか。ソフトバンク専務執行役員でコンシューマ事業統括の寺尾洋幸氏への囲み取材、そして、寺尾氏とコンシューマ事業推進統括LINEMO&Y!mobile事業推進本部本部長の有馬英介氏へのグループインタビューの内容をお届けする。
囲み取材の主な一問一答
――競合他社が値上げし、小容量プランをなくしたことで、それが追い風になったこともあって、今回の新料金プランを設計したということになるのか。
寺尾氏
はい、他社さんのことは当然分析もしますし、考えております。
正直申し上げますと、やはり全体としてのコストが上がっているのは、もう否めない事実です。代理店さん(店舗)の給与も上がっていかないといけません。
コストをしっかり踏まえながら、なんとか安い料金プランを作らなければいけない。料金体系については、「段階制」も良いのですが、すごく悩みました。
正直、我々の今の営業体制をもってすれば、しっかり(容量ごとに料金を)分けておいたほうが、「今月は3000円まで」「2000円まで」と最終的にお客様も自分の予算をコントロールできます。
たとえばYouTubeを観られるのであれば「Mプランですよね」と営業できることになります。お客様にとって満足していただけるでしょうし、企業として収益も改善できます。NTTドコモさんの「ドコモ mini」、UQ mobileさんの料金プランと比較しても安くなっていると思います。
――料金プランの名称を変えることは考えなかったのか。
寺尾氏
検討はしましたが、料金プランの名前は何でもいいですよね。正直、(既存プランの)「シンプル2」という名前も、そうするのは嫌だったんです。かといって、「めちゃめちゃ安いプラン」もどうかと。
――今回はPayPayカードとの連携だが、グループ内にあるPayPay銀行やPayPay証券との連携は考えているのか。
寺尾氏
今春、PayPay銀行が正式にPayPayの傘下に入ったかと思います。仕組みの面で、まだ古い部分があり、大きな連携を作れるようになっていないところがあります。
一方で、住宅ローンの割引なども始めております。それより遅れているのが証券です。
次のフェーズとしてはやはり銀行を何とかしていきたい。やはり全体の経済圏を広げていくというのは非常に大きなところではないかなと思っております。
――割引を適用されている人が過半数とのことだったが、非適用の人はどういう層か。
寺尾氏
集合住宅で、ソフトバンクの光サービスが届いていないところもある、というのは、大きな要因の一つです。
あとは、非常に短期でぐるぐる回る(MNPで携帯会社の乗り換えを次々と進める)お客さまも出てきています。やはり短期の解約というのは大きな課題です。
かつては、MNPのお客さまで、そんなに悪用はされなかったのですが……競争の中で、我々が良くないお金の出し方をしていることがあるのかもしれません。
――他社も小容量プランは解約率が高いという話だが、ワイモバイルはどうか。
寺尾氏
少しずつ解約率が上がっているのは実態です。ただ、そんなに無茶苦茶な、というわけではないと思っています。
――ワイモバイルでは、端末割引に積極的だが、そこは見直さないのか。
寺尾氏
(電気通信事業法の)ガイドラインがあり、割引の上限があります。1円で販売しているものは、原価もそれなりの(安い)ものになっています。
一方で、端末購入で契約していただくほうが、より長く使っていただける。その傾向が大きくあります。
――今回、約200の国・地域での海外データ通信が1カ月2GBまで無料となった。ただし、「SIMのみ」で新規契約すると契約月から4カ月、利用できない。それは不正利用の防止のためか。
寺尾氏
そうです。MNPで転入の方はご利用いただけます。純粋な新規契約では、すぐに海外へ行き、国際通話するケースがすごく発生しています。
国名は伏せますが、おそらく全部グル(契約者と、国際通話を発信したときの現地の通信事業者のことか)のようで。
システムで早く検知するようにしていますが、抑止が正直難しい。あっという間に(契約で)入って、いなくなる(解約する)。
そこで信頼度が上がるまではちょっと保留させていただいているということです。
――いわゆるトラフィックポンピング?
寺尾氏
そうですね。おそらく着信国側からペイバックがあるんだと思うのですが、それを受けて協力会社に払ったりしますので。
そういうことがあって、今回、規制を入れざるを得ないかな、と。ちょっと苦しんでおります。
利用期間が最大7日という点も、1日だけだと満足いただけない。海外渡航も為替の影響で減っているかもしれませんが、年に1回程度と考え、そのニーズに応えるレベルが良いかと思い、1カ月あたり2GBまで海外で無料としました。
――ソフトバンクで3ブランドある中で、ワイモバイルの改定は影響は一番大きいのでは?
寺尾氏
確かに、一番、契約を獲得しているブランドは間違いなくワイモバイルです。なんですけども、ゴールドカードのご契約などがあれば、お客さまのご負担を下げられることがわかり、実施することにしました。
ワイモバイルをしっかり固めた上で、ソフトバンクブランドをどうするか検討していきます。
LINEMOについては、オンライン専業ですので、獲得自体はそんなに強くないです。変に改定するより、まず効率を考えるとワイモバイル、そしてソフトバンクという順が妥当かなと思っています。
もし価格を変えるにしても、付加価値をちゃんとお伝えしなければ、納得いただけない。全体で準備を進めており、整った段階で全体の考え方を整理しようと。
グループインタビュー
――今回、割引適用後であれば料金を据え置きとのことですが、改定することになった理由をあらためて教えてください。急ぐ理由もないような気もします。
寺尾氏
一言で言えば、収益の改善につながるんです。1GB以下は安くするといった割引を取りやめることなど、細かな積み重ねによるものです。
新しい料金プランは、平均したARPU(ユーザー1人からの売上)は上昇します。たとえば新料金プランの導入時期が半年違うだけでも、収益面では大きな違いが出るんです。
また、光回線の契約もそうですが、どれかひとつというわけではなく、ちょっとずつですね。
クレジットカードもPayPayにしていただければ、いわばインハウス(社内)になります。我々にとっては、(他社のクレジットカードでは手数料を支払うため、PayPayカードの利用が広がれば)コストが下がる。
――既存ユーザーが新料金プランへ移行するまで、どれくらいの時間がかかるのでしょう。
寺尾氏
結構早いです。3~4年、いや4~5年でしょうか。自主的に変更する方もいますし、獲得活動のなかで変更される方もいます。
シンプルに考えると、解約率が1.5%程度ですから1年で18%。つまり5年あれば90%が変わる。大半が動くんです。
その5年という期間のなかで、半年という期間はかなり大きい割合を占めるわけです。
――4日の説明会では、1200万契約を越えて、もうすぐ1300万契約といったお話でした。ちょうど1年前の決算会見で、1200万契約と示されていましたね。この増え方は鈍化していますか?
寺尾氏
あまり変わっていませんね。増加のペースが上がることはさすがにないです。
LINEMOで「お試し」
――LINEMOは必要ですか?
寺尾氏
正直に言えば、新しい施策を導入する際、LINEMOで結構試しています。先にLINEMOで試して感度を観て。基本的にLINEMOのユーザー規模が小さいので、影響も限定的になるわけです。
3つのサブブランドという体制は、もちろんそれなりの課題を抱えます。いつかは考えなければいけませんが、短期的にはこれでいいかなと。
本当にシンプルで、サクッと変えたいという料金プランをお求めであればLINEMOがやはりオススメです。それにはやはり価値があります。
有馬氏
規模は違えど、ユーザー属性という面では、ワイモバイルとLINEMOは補完関係にあるかなと。
寺尾氏
今、LINEMOとワイモバイルの責任者は有馬です。さきほど「LINEMOは必要か?」と問われましたが、まったく同じことを私から有馬に聞いています(笑)。
――では、LINEMOではあまり付加価値を上げる方向にはしない?
寺尾氏
付加価値を上げることは、コストがかかることでもありますからね。
KDDIさんのpovoのように自由自在にやる、というのは面白いです。ただ、やりすぎると、わかりにくくなる。あそこまでフットワークが軽いシステムはすごいですよね、何が販売されているか、わからないこともありますが。
新料金プランでも繰り越し機能を残したのは
――Sが5GB、Mが30GBとだいぶ違いがあります。
寺尾氏
そこは、業界全体の競争の中で決めています。できるだけシンプルにしたいけど競争を考えるとこうなる。UQさんや楽天さんを見てますから、彼らに勝てる料金を考えると、5GB980円(税込1078円)という形になる。30GBで1980円(税込2178円)も同じです。
なかなか自由自在というわけにはいかないですね。1300万弱のお客さまがいらっしゃいますから、少しのARPUの変化が収益への影響も大きい。
――そうしたなかで、余った通信量を繰り越す機能は、重要ですか。
寺尾氏
そうなんです。「余計なものを買っていない」という感覚になるということが、お客さまにとって重要なのかなと思います。
――収益への影響はありますよね。
寺尾氏
繰り越した分の原資は、当然、会計上、後ろ倒しになります。そこは大変ですけど、それよりもやっぱりユーザーニーズがある、と。
――ちなみに「S」と「M」はどれくらいの比率ですか?
寺尾氏
ほぼSとMです。その割合は半々。
――あまり容量の変更はないですか?
有馬氏
契約から2~3カ月経つと、あまり活発にプランは変更されないですね。繰り越しの存在も影響しているかもしれません。
――宮川潤一社長が「と金プロジェクト」として、ワイモバイルで加入してもらい、ソフトバンクへ切り替えていく人が増えてきていると語っていました。
寺尾氏
はい、そうしたお客さまが増えてきていますね。
きっかけのひとつは機種変更です。ワイモバイルで型落ちのスマホを買うのか、あるいは最新機種をソフトバンクで……とされるのか。で、ソフトバンクを選ばれる方が多い。
当初は「またワイモバイルへすぐ戻られるのではないか」とも思っていたのですが、そういうこともないです。
――8月の決算で、宮川社長は楽天モバイルを意識していると発言していました。
寺尾氏
1000万契約に近づいているということで、それは意識しなければいけないです。もちろん楽天モバイルだけではなく、他社も意識しています。
ゴールドカードで割引を増やす理由
――ゴールドカードの会費が高いと受け止める人もいそうです。
寺尾氏
今でもゴールドカードは、年会費よりも還元額のほうが多いです。ただ、伝わりにくいところがあり、今回、ゴールドカードの割引を増やすことにしました。
一般的には、クレジットカードを複数枚、持たれています。そうなると、いかにメインで使っていただけるようにするのか。
ゴールドカードを持てば、年会費を払うこともあって、メインにしていただきやすいことは判明しています。PayPayカード ゴールドの利用者が増えれば、最終的に、PayPayの取引額に直結します。
そういう構造的なところも含めて、今回チャレンジしてみようと。
――チャレンジとはいえ、勝算があるだろうと見込まれたわけですよね。その根拠はどういったものですか。
寺尾氏
たとえば、PayPayカードでの取り組みです。ほかのクレジットカードと同じように、かつては1万円還元をうたってオススメしたことがありました。
そこへ、2023年に「PayPayカード割(187円引き)」を導入しました。
すると、ワイモバイルショップのスタッフは、お客さまへ必ず提案するようになった。そうなると、PayPayカードでの通信料の支払いが増えたんです。
つまり、我々の中で、お客さまへどう提案をするか、流れに乗せられる。これが一番、我々の強さを生かせるところです。
勝算という意味では、カードがノーマルかゴールドかというあたりは自信はないんですけど、必ず提案するようにするというのが一番大きい。
店舗で提案する経験を蓄積してきて、必ず提案するものになれば、一定の人数を超えてご利用いただけるかなと。
「eSIM」は練習中
――「必ず提案」ということで言えば、先日、ワイモバイルショップでeSIMを強くオススメされたんですが……。
寺尾氏
あ、練習しているんですよ。今までのSIMカードとは、異なるオペレーションになりますから練習しておかないと。
――eSIMへの取り組みで、何か強化などを考えているのでしょうか。ユーザーの利用動向は?
寺尾氏
LINEMOなどで何年か手掛けて、ようやく形にはなってきたと思います。ただ、正直もう一工夫いるかなとも思うんです。
たとえば、iPhoneのeSIM転送は、ものすごく簡単です。PixelもSIM転送に対応しました。複数のデバイスを利用される方のeSIMの転送はとても簡単になってきた。
それでも、ちょっとまだ課題があるのは、OS間の転送です。今秋の時点では、どのキャリアも解決できていないと思います。再発行など仕組みの問題があって時間はかかりそうですが、解決されれば、物理SIMのような感覚で端末間でeSIMを転送できるようになると思います。
(ソフトバンクの)歴史があって、eSIM用でAndroid用のサーバーとiPhone用のサーバーと分かれていて、それぞれでプロファイルをダウンロードしていただく必要があります。この秋に向けて、店舗スタッフでは、eSIMのトレーニングもだいぶ進めています。
海外ローミングについて
――そもそも海外ローミングはニーズがありますか?
寺尾氏
確かに日本から海外への渡航は年に1回あるかどうか。
ただ、実際行くときには、選択肢がすごく難しいと思うんです。これまでも1日980円というサービスを提供していますが、それだと短期留学になると耐えられない。
たとえば2週間程度、短期留学にお子さんが行くとなったとき、毎日980円かかることになる。じゃあ、現地のSIMを調達というのも、未成年には難しい。そうなると、なかなか推奨するものがなかった。
で、特に米国やカナダなどでは、Wi-Fiも充実していますので、2GBで済むだろう。もし、もっとご利用になるのであれば、より高い料金プランへ、と。まずは最低限のことができるようになる、というところで2GBなんです。











