ニュース
「ワイモバイルの新料金」は値上げも割引と機能を拡充、寺尾氏が話す理由と狙い
2025年9月4日 20:21
ソフトバンクは4日、ワイモバイルの新料金プラン「シンプル3」を発表した。価格は3058円~で、9月25日に提供を開始する。
携帯電話料金を巡っては、NTTドコモがメインプラン「ドコモMAX」を発表、KDDIは新プランの発表と既存プランの値上げを発表しており、ソフトバンクも決算説明会などで宮川潤一社長が料金プラン改定を示唆していた。
今回発表されたプランでは、割引前の基本料金は値上げされた一方、割引額を引き上げ、条件が合えば既存プラン「シンプル2」と同水準の料金を維持しているようにも見える。4日に開催された説明会で、専務執行役員の寺尾洋幸氏が、料金改定の理由と狙いを語った。
シナジー効果で相互補完し合う関係
寺尾氏は、説明会冒頭「インターネットの生み出す楽しさ・便利さをみんなの手元に届けたいと、12年前、まだスマートフォンがメジャーになっていない状態であったが、インターネットサービスをもっと身近にしたいということでワイモバイルのブランドを立ち上げた」と振り返る。ワイモバイルブランドでは、「できる限りユーザーが選ぶプランを、3つの中から選んでもらおうと、コンセプト、料金のシンプルさという基本原則を守りながらやってきた」とコメント。今回の料金プランでも、3つの料金体系が維持されている。
また、ワイモバイルの開始当初は「ヤフーとのシナジー」が重視されたブランドだが、現在はソフトバンク光や電気といったソフトバンク内のサービスとの連携も開始。これに加え、PayPay(会員基盤7000万)やLINE(同9800万)が加わり、ソフトバンク経済圏としてのグループシナジーを強化している。今回の料金プランも、これらのシナジーが活用されたプランと寺尾氏は強調する。
加えて、通信事業を取り巻く環境について寺尾氏は「利益を上げる上で重要になるのは顧客基盤、ARPU(ユーザーあたりの単価)。顧客基盤を増やしていくには、解約率をどう下げていくかが非常に大きなテーマになる」と説明。携帯回線だけでなく、光回線や電気、PayPayなどのサービスを使っているユーザーほど解約率が低いとし、携帯回線とほかのサービスを連携させた料金プランは、グループ全体で相互補完しあう関係になると指摘。グループ全体の事業規模発展にもつながると寺尾氏はその意義を語る。
料金値上げに理解を求める
ワイモバイルの加入者数について、2024年には1200万を超える好調さをアピールする寺尾氏。その一方で、サービス提供に掛かる原価の上昇に言及。昨今の電気代の上昇や、円安により端末の原価自体にも影響があるという。
これに加え、日々インターネットから攻撃を受けているほか、不正に契約するユーザーからの防衛など、セキュリティ対策にかかる費用は増加していると指摘。さらに、トラフィック(通信量)が年々増加してきており、「我々もさまざまな努力をしているが、かなり大きなコストになってきている事実は否めない」と寺尾氏は話す。
現行の5G時代から、6G、7Gと今後の通信の発展も見据え、投資を進める必要性もあるなかで寺尾氏は「単純に値上げをする、というのは我々の答えではない。しっかりと事業基盤を維持する体制を作りながら、低価格のサービスを届けると、この両立をする料金サービスを作っていかなければ、我々の使命を果たせない」とし、今回の新プランに至ったと説明した。
新料金プラン「シンプル 3」
新料金プラン「シンプル 3」では、プランSのデータ容量が4GB→5GBに増量されたほか、海外データ通信が2GB/月まで無料(2026年夏以降、条件あり)で利用できる。月額料金は値上げされたが、PayPayカード割や自宅の固定回線、家族割引の割引額が拡大され、これらすべて適用した際の価格は、既存の「シンプル2」と同額になる。また、PayPayカード ゴールドで支払うと、割引が220円/月増額され、既存プランより安くなる。
なお、余ったデータ容量の翌月繰り越しは維持される一方、月間のデータ利用量が1GB以下の場合の割引(最大2200円/月)は廃止される。廃止の理由について寺尾氏は「実際に初めて見ると、使わないユーザーは最適なプランに移動しており、あまりニーズがないことがわかった」と説明する。
データ容量超過時の通信速度は、各プラン2段階で制御される。プランSの場合は、利用データ量が5~7.5GBは300kbps、7.5GB超は128kbps。プランMでは30~45GBは1Mbps、それ以上は128kbps、プランLでは35~52.5GBは1Mbps、それ以上は128kbpsとなる。
付加価値を強調
寺尾氏は、説明の中で「付加価値」のキーワードを挙げる。他社の料金改定でも登場する付加価値について「何を加えるとユーザーにメリットがあるかを調査した」とコメント。
まずは、トラフィック量の増加。大容量プランは、メインブランドのソフトバンクで提供しているが、従来小容量だったユーザーの利用量も増加傾向にあり「4GBを超えるユーザーもどんどん増えてきた」と寺尾氏は説明する。
海外データ通信も付加価値の1つ。寺尾氏は「私が一番やりたかったこと」と話す。ワイモバイルユーザーの海外渡航数を調査すると、コロナ前の2019年よりも2024年度の数字が大きかったといい、ユーザーの海外渡航ニーズはどんどん増えてきていると分析。これを踏まえて、今回の「海外データ通信2GB/月無料」を付帯したという。
一方寺尾氏は「若干情けない話」として、この海外データ通信無料の機能は、来夏以降の提供開始になると説明。「海外ローミングはいくつかの事業者と接続する仕組みになっており、開発に少し時間が掛かる」とコメントし、それまでは「海外あんしん定額」の「定額国L」で提供している24時間プラン(3GB、980円相当)を1カ月あたり最大7日分追加料金なしで利用できるようになる。
最後に、PayPayの決済回数に応じた「ギガ増量キャンペーン」(11月~)を紹介。1カ月あたりのPayPay決済回数(200円以上/回、条件あり)に応じて、翌月のデータ容量に追加されるもので、プランSでは決済回数が月10回以上で+1GB、プランM/Lでは10回~19回で+1GB、20~29回で+5GB、30回以上で+10GB、データ容量が追加される。
主な質疑
ここからは、主な質疑を紹介する。回答者は、ソフトバンク寺尾氏。
――どれくらいの人が割引の恩恵を受けられるのか? また、節約志向のユーザーがターゲットのようだが、ゴールドカードユーザー向けの割引は矛盾に感じる。
寺尾氏
具体的な数字は難しい。ゴールドカードユーザーはかなり少ないレベルだが、一般カードは無料で入会できる。基本的には、ワイモバイルの審査を通過できればカードも持てるので、(割引を受けられる数を考えるには)光回線の契約がどれだけあるかということになる。そう考えると、今足下では過半数を超えている状況。
ゴールドカード割引がちょっと“レア”になるというのはその通りだと思うが、PayPayカードと光回線の割引で言えば、過半数以上のユーザーがこの金額になっていると思う。ゴールドカードについても、PayPayでの決済還元などで結構(年会費を)回収されている。ワイモバイルの割引では、1人あたり550円の割引で年間6600円回収できる。2人いればほぼ全部回収できるので、合理的に考えれば入った方がお得になると思う。
――シンプル 3、“シンプル”と銘打つ割には複雑に感じる。
寺尾氏
いいご意見だと思う。当初のワイモバイルは、ソフトバンクのなかでも非常に小さいセグメントだったが、段々ワイモバイルが中心になってくる、となると、全体の通信コスト増に対してある程度対応していかなければならない事実がある。安定したサービスを提供する上では、一定の収益、売上が必要なので、グループサービスを使ってもらうのを条件にさせていただいている。
少しずつ、面倒なことを消していけるよう努力していく。
――プランSの値上げ幅が大きいように見えるが。
寺尾氏
前回の(シンプル 2)改定から、プランM/Lではデータ容量を増量してきたが、プランSではこれまであまり触っていなかったこともあり、今回は全体のバランスを取るために、少し大きい改定になった。
――他社のサブブランドでは、低容量帯を無くす動きがあるが、ワイモバイルは残った。理由は?
寺尾氏
他社のような階段状の料金(月間の利用データ容量に応じて、その月の月額料金が変動するプラン)は、自社の「LINEMO」で実施してきている。全体のポートフォリオを考えたとき、我々の戦略としてプランSを残した。
――プランMとLの違いが「データ容量+5GBと10分/回までの音声通話定額」だが、名前の付け方がわかりづらくないか?
寺尾氏
指摘の通りだが、ユーザーの利用動向を見ると、8割くらいのユーザーが30GBまでの料金内でカバーできている。容量は、ブランド間の位置づけやバランスに左右されるが、他社の動向を見た中で、「プランLに音声を入れる」のが、我々の顧客基盤を大きくするために、最適な料金体系だと思いこの形にしている。
――海外データローミングの容量を2GB/月とした理由は?
寺尾氏
ワイモバイルユーザーのローミングデータを見て、大体8割くらいのユーザーをカバーできるように設定した。(ユースケースとして)SMSやLINE、海外施設のチケットなどもオンライン化されているので、それら最低限の通信ができるレベルということで、2GBを設定した。
利用データ量は、ブランドによって差があり、ソフトバンクの方がやはり大容量となる傾向にあった。ソフトバンクブランドで同様の施策をするのであれば、もう少し容量を大きくしないとユーザーの満足は得られない。
――PayPayゴールドカードの割引は、ソフトバンクブランドなどへ拡大するのか?
寺尾氏
基本的には拡大していきたい。ソフトバンクの料金見直しはまだ検討途中なので、最終的な決定ではないが、基本的には同じような枠組みを採るほうがいいと思っている。
――改定の狙いは、コスト回収なのか、経済圏の粘着性の向上か?
寺尾氏
両立したい。
必要なコストを回収しなければならないので、そこを放っておけないのが1番の課題。一方で、MNO4社の中でしっかり競争力を持たないといけないので、グループの商材など別の収入を得ながら、サービスを維持するためのコストをどうやって回収していくかを非常に悩んだ。結果、基本の月額料金に上乗せし、ほかのサービスを選んでいただけない方には申し訳ないが、それ以外のユーザーにはほかの収入で影響を小さくしようとした。
――ドコモやKDDIのこれまでの料金改定で、MNPの数字などに動きはあったか?
寺尾氏
他社の改定以前から、強いモーメントがソフトバンク側にあった。その中で、料金改定があったので、3月前後にピークがあってその後獲得数が減っていく傾向もあり、直接的な評価は難しい。今回の改定は、このモーメントを変えるほどの値上げはしていない認識。ゴールドカード割引など攻めに行っているので、なんとか解約も収まってほしいと思っている。
――ほかのブランドの料金は改定するのか?
寺尾氏
今の時点では、料金改定をする/しないについて、まだ決定していない。
――ほかのブランドの料金改定時も、経済圏が意識されるのか?
寺尾氏
できるだけシンプルにしていきたい、という気持ちの中で、ほかのサービスをバンドルする時にどこまでニーズがあるかを調べた。映像や音楽などさまざまなサービスがある中で、過半数を超えるサービスはなく、多くても10~30%位のニーズになるので、絞ったブランドをバンドルするよりも、できるだけ多くのユーザーに使ってもらえるサービスをバンドルする方が良いと判断し、今回のワイモバイルの改定を進めた。
一方で、ソフトバンクについては、他社事例などを踏まえて高付加価値サービスを加えていくことに意味があると思うので、検討の範囲としては考えているが、まだ何も決まったことはない。
――既存プランの値上げはないが、検討しなかったのか?
寺尾氏
既存プランの値上げについては、社内でも議論をしている。
ただ、社長(宮川潤一社長)も「この値上げに見合う価値があるか? ユーザーが納得できるのか?」と言っており、まだまだ社内でも理解を得られていないところ。「本当にユーザーが納得できるのか」というところが非常に大きなテーマだと考えている。

























