インタビュー

「arrows Alpha」「らくらくホン」開発者インタビュー、新生FCNT開発の舞台裏

 8月28日、FCNTの最新スマートフォン「arrows Alpha」が登場する。さらにNTTドコモからは6年ぶりの「らくらくホン」も、8月7日に発売された。

 2023年の民事再生を経てレノボグループとなったFCNTは、高いスペックと使い勝手をアピールする「arrows Alpha」と、シニア向けの折りたたみ型フィーチャーフォン「らくらくホン」の開発は、どういった経緯を辿ったのか聞いた。

後列左から近藤氏、春藤氏、高橋氏
前列左から森内氏、正能氏、外谷氏

 インタビューに応じていただいたのは、統合マーケティング戦略本部本部長の外谷一磨氏、統合マーケティング戦略本部マーケティング統括部副統括部長の正能由紀氏、ハード開発部門をリードする近藤洋一プロダクト事業部長、arrows
Alphaの商品企画を担当する商品企画担当部長の高橋知彦氏、機構設計を担当するシニアプロフェッショナルの春藤和義氏、AIなどソフトウェアを担当するソフトウェア開発統括部第一開発部長の森内航氏の6人。

「絶対にやらなければ」

――FCNTとして、久しぶりの上位機種です。開発者としての心境は?

外谷氏
 「らくらくホン」は、FCNTを再度立ち上げていく中で、「絶対にやらなければいけない商品」と考えていました。その上で、「arrows Alpha」となった新製品の開発に挑戦してきました。

 レノボ側と交渉している時から、「そのポートフォリオをやるんだ」とずっと話してきたんです。これで終わりではないのですが、ひとつ、使命を果たせたと安堵しています。

 「らくらくホン」は事実上、生産できる技術・環境が失われ、ゼロから作り上げましたし、「arrows Alpha」という新製品として開発できました。新生FCNTの2年目として、非常にうまくいっていると感じています。

――となると、順調にここまできた、ということになりますか。

外谷氏
 結果としては順調かもしれませんが、実際は大変でした。

 それでも、株主、つまりはレノボ側とかなり密にコミュニケーションできる環境が、最初から整っていた。これが良い影響を与えてくれたと思っています。

 もちろん、厳しい反応もありました。そこに対してきちんと打ち返して伝えていく機会があった。やるべきことを早期に決めて、方向性や地図を共有していけた。こうしたことが大きかったと。

近藤氏
 開発としては、レノボグループにかなり助けてもらっています。FCNT単体ではなかなか使えないようなコンポーネントなどもレノボグループの調達力を活かせたと思っています。

部品の共通化とらくらくホンの苦労

近藤氏
 スマートフォンの新製品を開発する場面では、基本的に、レノボグループとディスプレイやカメラ、ボード、メモリーなどのキーパーツは、共通の部品ということでスムーズに手配できました。

 そういう意味では、実は「らくらくホン」の方が大変でした。

 基本的に今回の「らくらくホン」は、先代モデルと同じものを作る、というコンセプトでした。

――今や数が少ないフィーチャーフォン、それもシニア向けの「らくらくホン」は、独自にデザインされたパーツも多いですよね。

近藤氏
 はい、もともとカスタムされた部品が多いんです。スマホと異なり、他製品と共通化されたパーツがないということになります。

 逆に言えば、らくらくホンとして部品を調達していくための、レノボ側との交渉などは非常に大変でした。部品の共通化というメリットが得られませんから。

 もちろん大変だからといってあきらめたわけではありません。「らくらくホン」という機種の特徴、使い勝手を作り上げるために頑張りました。

ソフトウェア開発の効率化

――ここまではハードウェア側での取り組みになるかと思います。一方で、ソフトウェア面での開発はどうだったのでしょうか。

外谷氏
 「arrows Alpha」のソフトウェアは、Androidということで、グローバルでの開発力も活用できました。

 らくらくホンについては、従来製品のソフトウェアを活用できましたので、そちらも効率的に進めることができましたね。

――スマホ側のソフトウェア開発について、もう少し詳しく教えてください。

近藤氏
 たとえばソフトウェアプラットフォームの下回りについては、FCNTとレノボ側、それぞれが同じような作業をすることなく、効率的です。

 その上のレイヤーでは、レノボ側の機能と、arrowsの機能で違いがあります。バランスやチューニングは意外というか、やはりと言うか、手間暇をかけたところです。お互いに「その機能はいいね」と評価することもあれば、「その機能は必要なのか」と意見を交わすこともありました。

部材調達の背景にあるレノボグループのメリット

――ソフトウェアを処理するSoC(チップセット)は、arrows Alpha、そしてレノボ傘下であるモトローラの「motorola edge 60 pro」はどちらも「Dimensity 8350 Extreme」を採用していますね。

外谷氏
 FCNTでは、SoCチームやサプライチェーンなどと、先々を見据えたロードマップを共有しています。製品を開発する上で、SoCの選定などはかなり早い段階から関与しているのです。

 「Dimensity 8350 Extreme」を今回、arrows Alphaで採用した理由は「モトローラがグローバルで選んでいるから」というわけではなく、グループ全体での選定の上で、「FCNTにとって、このレンジの製品に何が一番良いのか」という議論を経た結果です。

 SoC選定に早くから関与できていることが、そうとう良い環境ですし、冒頭に申し上げた「順調」という言葉にもつながっているのかなと感じています。

――あらためて、開発のしやすさと言いますか、過去の体制と比べて、どう変化したのでしょうか。

外谷氏
 いわゆるキーコンポーネントは、世の中にありふれている、既製品と言えるようなパッケージが存在しています。

 カメラのセンサーもそうしたもののひとつです。ディスプレイもそうです。

暗い場所での撮影も美しく仕上げる
6月の発表会で示された作例

 ただ、一般的に流通しているという部材であっても、これまで高くて調達できなかったようなものを、驚くべき価格で調達できている。この点は非常に大きなメリットです。

 もちろん、デメリットもあります。先に触れた「らくらくホン」のような、一般には流通していない部材の開発・調達はハードルがあります。

 ようは、流通している既製品でうまく組み立てられるものは効率的ですが、FCNTオリジナルのようなものは、グローバルサプライチェーンから言うと無駄なものとも言えます。つまりコスト面でのメリットがない。

 部材調達というサプライチェーンでは、効率的にうまくいっているところ、そうではないところとグラデーションがあります。そうした状況のなかで「arrows Alpha」をいかに作り上げていくか、という点にエンジニアチームの苦労もあります。

6月の発表会で紹介された内部構造

 共通化された部材だけでは実現できない価値を追求するために苦労もあります。既製品とゼロスクラッチで、かなりハイブリッドになっている。

近藤氏
 かつてのFCNTであれば、ある程度スペックを落とす(ことでコストを下げる)といった話を、企画サイドに持ちかけなければいけないということがかなりありました。

 でも、今は「このスペックでこの価格」というような、製品とコストのバランスがすごく高いレベルで実現できるようになってきています。

外谷氏
 商品企画側で「作りたい」と思ったものを実現できる。これは旧体制では、できなかったことかもしれません。

正能氏
 もともとFCNTでは、機種ごとにターゲット層をきちんと設定し、お客さまに寄り添ったオリジナルの機能を作り上げていきました。でも、特徴がいくら良くとも、ベースとしての性能がしっかりしていないと、結局、お客さまはご不満に思われることがあります。

正能氏

 今のFCNTでは、基本的な性能をしっかり向上させつつ、一芸と言える個性的な機能を備える製品を開発しています。ベースをしっかり上げることで、本当にお客さまのためという部分へ、より一層、注力できるようになったと思います。

 「お客さまのため」と思って開発している部分も理解がなければ「無駄」と見えてしまう。(レノボ側に)しっかり納得してもらって、必要なものを開発していく。この点は、以前よりも、より良く商品を開発できるようになったと思います。

コストメリットなし、ゼロスクラッチだった「らくらくホン」

近藤氏
 そういう意味で「らくらくホン」の開発は本当に大変でした。

 たとえば、サブディスプレイも、調達の難しさなどもあって、過去の製品と異なるスペックになっています。そうした仕様の調整はかなり春藤が苦労して進めました。

春藤氏
 かつてはモデル数が多く、共通設計したものも効果がありました。しかし、2年で1機種といったようにモデル数が減ってきた。

春藤氏

 そうなると、「今、共通設計しても2年後には時代遅れ」ということになります。つまり、同時に共通設計するモデル数が減るので、開発費が高くなる。部品もボリューム(活用する数)が減ってしまう。

 それが、グローバルで展開できる事業であれば、同じモデルを世界で提供できるので、コストを安くできます。これが一番のメリットですよね。

 一方、今回の「らくらくホン」はグローバルでのスケールメリットにまったく当てはまらなかったわけです。どう(レノボ側を)説得するか、これをどう作るかというのが、これまでで一番難しいことでした。

 今回の「らくらくホン」の設計自体は過去のモデルとほぼ同じ。ある意味コピペ(コピーアンドペースト、ここではまるまる同じ仕様を流用するといった意味)でした。でも「コピペするのがこんなに大変とは」と今回初めて思いましたし、「こんなすごい製品(らくらくホン)を数年前まで普通に作っていたのか」と感じましたね。

「らくらくホン」分解モデルで見るその技術

外谷氏
 レノボ側へ「らくらくホンがなぜ必要なのか」と説得をしていた時期、レノボ側の開発責任者が来日していました。で、「らくらくホン」の分解したものを見せたのです。

 すると、ものすごく感動していました。これをどうやって作っているのかと。

らくらくホンを分解したもの

 実は、レノボ側は「こんなものは簡単に作れる」と言っていたんです。「そんなに大変ではない」と。

 でも、責任者は分解したものを見たら「すごい」と唸った。

 (簡単に作れると言ってしまっていたためか)みんなの前ではなく、私が呼ばれて「これはすごい」と伝えてきた。そして「これを完全にコピーできる方法を探した方が良い。この技術はグローバルにはない」とも言ってきたのです。

 どこに感心したのかというと、防水、タフネス性、あるいはテンキー、はたまたフレキシブルケーブルが折りたたみヒンジを越えて組み込まれているところと、「見たことがない技術」とものすごく感動していました。

 そういう反応を見て、これまでFCNTが磨いてきた技術・ノウハウはグローバルでも認められると思って、私自身、嬉しかったんですよね。

 本体前面と背面の色味が合っているかという、色合わせの基準も世界と日本では全く違います。端的に言えば、グローバルは日本よりも、もっとバラバラです。何度「クレイジー」と言われたか。

高橋氏
 少し青みがかっている、と指摘しても「理解できない」と返されたり。

外谷氏
 基本的に「日本は細かすぎる」と言われますよね。色については(海外では)ぶれるものだと思っている。

――そもそもの前提、常識が違うと。

外谷氏
 そうなんです。基準の考え方が違う。

レノボを説得した後も

――そうしたことを乗り越えて、「らくらくホン」の開発が決まり、実際に部材を調達していく。それは製造へのプロセスと。

外谷氏
 かつてのFCNTでは、日本の部品サプライヤーさんから調達していました。でも、長期で考えると、グローバルで流通する部品、ベンダーさんを活用する必要もあります。

 じゃあ、どうするのか。最初にレノボの幹部たちと話し始めたのは2023年の秋でした。「らくらくホン」は、準備期間を含めると、「arrows Alpha」よりも先に着手しており、もっとも開発に時間がかかりましたね。

――ちなみに、arrows Alphaとらくらくホンが同時期に発表・発売となるのは偶然ですか?

外谷氏
 正直に言うと、これまでの「らくらくホン」の在庫が今年8月ぐらいまで、というところがわかっていました。そこに間に合わせなければいけない、というのが今回の「らくらくホン」でした。

 arrows Alphaについては、今の開発サイクルのなかで進めてきたもの。2つの製品が同時期に登場することになったのは、偶然ですね。

近藤氏
 開発チームの人員も以前よりも限られています。「らくらくホン」と「arrows Alpha」で同じチームが基本的に両方を見ながら進めてきた感じです。

「arrows Alpha」開発担当者の「イチオシ」その1

――「中の人のおすすめ」と言いますか、製品ごとに開発担当者だからこそ伝えたい特徴を教えてください。

高橋氏
 もともと「手に届きやすいハイエンドスマホであるべき」という考えからスタートしました。

 そこでお客さまへの調査を進めていくと、価格面では、9万円がひとつの区切りになることがわかってきました。その次の段階が10万円です。

 FCNTとしては「arrows We2」シリーズもありますが、それに加えて、新たな価値を提供していかないといけません。

 そこで手に届くハイエンドを考えると、8万円台が目標になり、そのなかで新しい体験価値を提供したいと考えました。

 たとえば、これまでのFCNTの強みのひとつは、頑丈さです。はたまた、国内でのAIの利用率は、海外より低いという話があります。そして、ベースとなるスペックもしっかりしたい。

――なるほど。

高橋氏
 まずベースとなるスペックはどうするか、調査してみました。

 すると、ROM、つまりストレージ容量へのニーズが非常に高いんです。

正能氏
 (魅力として)わかりやすいポイントですよね。

高橋氏
 そうなんです。そして、市場全体を見ると、いわゆるハイエンドスマートフォンでは、microSDカードには非対応の機種が多いですよね。そこで「ベースをしっかりする」ならどうするかと。

――arrows Alphaでは、ストレージ(ROM)が512GB、最大2TBまでのmicroSDカードをサポートしていますが、そういう背景に基づくわけですね。

高橋氏
 はい、市場にあるスマートフォン全体を見ると、安いモデルは128GB、次いで256GB、そして512GBがもっとも高く、場合によっては20万円超といった製品も販売されています。

 一方、「arrows Alpha」は、12GBのメモリー(RAM)に、512GBのストレージ(ROM)という1種類です。

――それで8万円台。

高橋氏
 ゲームもカメラもお客さまの日常において、ストレスを感じさせません。

 そのベースの上で、FCNT独自の機能、先程触れた頑丈さ・堅牢性といったところを愚直に追求したのです。

 もちろん、国内市場には、タフネスなスマートフォンが増えてきていることも承知しています。

 ただ、「MIL規格(米国国防総省への製品納入規格)対応」「耐衝撃」と言っても、「MIL-STD-810Gに対応、ラワン材の落下試験」なのか、当社製品のような「MIL-STD-810H対応で、スチールへの落下試験や1.5mからの落下試験をした」ということなのかという点は違いがあると思います。

6月の発表会では、踏みつけて頑丈さをアピールする展示も

 FCNTは、ある意味、真面目にやりすぎているところがあるかも……と思うくらい、「こんなに強いんだぞ」という点を「arrows Alpha」の特徴としてお伝えしたいです。

外谷氏
 堅牢性はarrowsのアイデンティティとしてしっかりと発信していきたいです。1.5mからコンクリートに26方向落として画面が割れないという試験をやっているのは当社だけだと思います。

 MIL規格のサポートも23項目やっているのもFCNTだけです。その品質の高さが、特徴のひとつです。

「arrows Alpha」開発担当者の「イチオシ」その2

――そのほかはいかがでしょう。

高橋氏
 ディスプレイのサイズ感、持った感じはかなり追求した部分です。

 たとえば、端末の背面、リアの部分です。トレンドはスパッと切り取ったような形状かもしれませんが、今回我々としては持ちやすさ、握りやすさを重視しました。

 あわせて、デザインとしても、これまでarrowsシリーズのユーザーから見ても「格好よくなったね」と言っていただけるような仕上がりにしています。

 また、オリジナル機能として、自律神経の測定があります。これもセンサー周辺は、指を添えやすい、フィットしやすいデザインにしています。

 個人的には相当良いものができたと思っています。

アクションキーとAIの活用

高橋氏
 もうひとつ、アクションキーにはものすごくこだわっていました。機能としては、初期設定では、単押しで「Gemini」を起動し、長押しで「arrows AI」を呼び出せます。

 気になっていたのは、「電源キーの長押しでGeminiを呼び出す」という点でした。まず「長押し」自体が、お客さまにとって直感的ではないというか、敷居が高いのではないかと。

arrows Alphaを分解したもの

 AIではなく別の機能も設定でき、キャッシュレス決済のアプリを呼び出すキーとしても使えます。はたまた、旅行、特に海外で「単押し」に翻訳アプリ、「長押し」にGoogleレンズ、「ダブルクリック」に配車アプリなんて設定をしておくと、本当に便利なんですよ。

――過去のarrowsシリーズでもショートカット的に、さまざまな機能を呼び出すという仕様はありましたよね。その最新版というか、AIを呼び出せるようにしたのが「アクションキー」だと思っていましたが、ちょっと違う感じですね。ユーザー体験をもう一歩、便利にしたい、ちょっと変えたいと言いますか。

高橋氏
 新しいスマホへ買い替える期間が3~4年と言われていますが、4年ぶりにスマホを買い替える人は少なからず「電源キーで電源オフにできないのか」と口にされるんですよね。このところのAndroidスマートフォンは、電源キーでGeminiを呼び出すものが増えていますから。

 電源をオフにしたい場合、再起動したい場合に「電源キーとボリュームの上キーを同時に押す」のは意味が分からない、と感じる方もいらっしゃることが(調査の結果)判明しています。

 ですので、arrows Alphaでは、「電源キーは電源の操作のため」として、ちゃんと電源メニューを表示できるようにしています。

 その上で、新しい機能を得やすい操作体系として「アクションキー」をご用意したわけです。新しいテクノロジーや価値、サービスなどに触れられるような動線をもう一度再構築したいなと。

ディスプレイ周辺の“額縁”

外谷氏
 「arrows Alpha」では、そのサイズ感も追求しました。

 悩んだのがベゼルのサイズです。トレンドとしてはいわゆる狭額縁になっています。

 一方、「arrows Alpha」は、(端末が縦長の状態で)左右は細いものの、上下には一定の幅を設けています。

――額縁が細くなると、一般的には衝撃や落下したときのひねり、ねじりに対して弱くなりますよね。幅が太いとその分強くできると。

外谷氏
 そうなんです。個人的にはここも細くしたい。ただ、調査をしてみると、さほど気にされていないことがわかったんです。

 一方で、頑丈さへの期待は非常に高いわけです。できる限り額縁を細くしつつ、世界最高のタフネスの基準をこれまで通り守ることに対して、エンジニアチームが本当に頑張って実現しています。

氷漬けにした展示も

 国内の競合他社でタフネス性を一番の特徴に打ち出す機種もありますが、それと同じような実力を持ちながらも、このデザインになっている、という点はより多くの方に知っていただきたい点です。

 スマホを買い替えてから使い続ける期間は長期化しています。「もしもの時」に割れてしまったら、全てが台無しになります。

 一台あたりの価格がかつてよりも高くなっていることもあり、頑丈さが購入時の安心につながります。私たちは、自信を持って、今回のデザインと強さという両立を選べたのではないかと考えています。

 レノボ側からも、「arrows Alphaの額縁は太いのではないか。細いほうがトレンドだ」と指摘を多くもらいました。でも、お客さまからの声を反映して、このデザインにしたというわけです。

――なるほど。

超急速充電とバッテリー劣化への対策

外谷氏
 もうひとつ知っていただきたいのは、90Wという超急速充電に対応したことです。FCNTとして初めてのことです。

 ただし、超急速充電には、電池の劣化度合いに対しての懸念がつきまといます。日本のお客さまは、電池持ちとバッテリー自体の劣化をすごく気にされます。

 しかし、「arrows Alpha」では、超急速充電をサポートしつつ、5年間の寿命を担保しています。5年間の充電サイクルに対応しているわけです。

 バッテリーの寿命に対する基準を守りつつ、超急速充電というトレンドを取り入れることができました。FCNT初の機能であり、我々にとっては大きな意義があるものなのです。

 バッテリー持ちに対しても注力しています。競合他社、特に国内の競合製品はいずれも優れていますので、最低でもそうしたライバルに勝つことを目指していましたし、実際にそうした性能を実現できました。

 もちろん、お客さまによって使い方が異なります。どういった評価になるのか、待ち遠しいです。

 充電関連では、「arrowsシリーズ」にはダイレクト充電という機能があります。操作しながらの充電といった場面では、バッテリーに給電せず、端末の駆動に電力を供給する。

 効果のひとつとして、バッテリーの寿命を延ばすことが挙げられます。また、操作中の発熱も抑えられます。特にバッテリーの寿命のところは、今後もしっかりお伝えしたいです。

正能氏
 ちなみに、画面上から下へスワイプすると表示される「クイック設定」では、ダイレクト給電のショートカットが2ページ目にあります。本当は1ページ目に入れたいところでしたが、誤タップしてONにすると、「充電したつもりが、充電されていない」こともあり得ます。

 「ダイレクト充電」自体は、バッテリーの寿命を長くするオススメの機能ですが、実際の利用シーンを踏まえて、クイック設定のどこにショートカットを置くべきか、という点まで考慮しています。

バッテリー劣化をどう抑制するのか

――バッテリーの劣化をどう防ぐのか、もう少し詳しく教えてください。

春藤氏
 電力をもっとも消費する要素はCPUです。常に全開ですと、熱も高くなり、電力も多く使います。

 そこで利用シーンにあわせて、チューニングしたパラメーターを用意して最適化するわけです。メッセージ、ゲーム、動画再生など利用シナリオごとに調整しています。

 一方、充電関連では、もし温度が高くなれば自動的に充電を止める仕組みを以前から取り入れています。60度、70度となれば、バッテリーがダメになってしまう。安全性のためにそういう制御を導入してきたわけです。

 開発者としては、温度、あるいはバッテリーの残量によって、どういう充電がいいのか、劣化しないのか、といった観点で知見を集めます。

 FCNTとして、最適と考えているのは「85%充電」です。要は、充電しても満充電にしない。初期設定では100%まで充電しますが、オプションとして85%で止めるよう選択できるようにしています。

 こまめな充電・放電は、バッテリーがもっとも劣化しやすいのです。そうならないよう(上限を)85%にしたり、過放電・過充電にならないようにしていたりします。先述した「ダイレクト充電」も無理な充電を避けるためのものです。

 負荷が高くなるとCPUからの熱は増えます。そこでCPUの性能を抑えるようにしています。もし、そこでCPUの駆動を制御しない機種があったとすれば、反動として安全面のリスクが出てくる。

外谷氏
 もし、ユーザーとして、そうした仕様を理解した上で使う、ということであれば「ハイパフォーマンスモード」というような機能を用意すべきかどうか、という議論はしています。バランスをどう取るか、今後の機種につながるかもしれません。

 たとえば涼しい部屋で端末が熱いという環境と、夏の屋外といった状況で端末が熱くなることは異なる環境です。状況を判別してクロックを制御するといった必要はあるかもしれません。

 「arrows Alpha」は、MIL規格をサポートし、耐日射性能を備えており、熱いところで放置しても大丈夫です。基本的な性能・耐熱性などは、かつての発熱に関する不具合を深く反省して取り組んでいて、非常に厳しい基準で開発しています。

春藤氏
 グローバルで見ても、今回の「arrows Alpha」ほど大きなベイパーチャンバーは、ほかにないと思います。相当大きいんです。もう二度と「熱くなった」という報告は見たくないですから。

大型のベイパーチャンバーを内蔵する

 もちろん、CPUから熱は出ます。しかしベイパーチャンバーが、熱を端末全体へ上手く逃がしており、パフォーマンスが落ちない。ここが重要です。

arrows AIと日本語対応

――arrows Alphaに搭載されるAI機能についても教えてください。

外谷氏
 レノボグループとしてAIに取り組むなか、やはり課題は日本語への対応です。FCNTもレノボの一員として取り組んでいます。

 たとえばレノボのAIの日本語化、そしてローカライズはグループ全体のシナジーと言えます。日本のエンジニアが日本、そして日本語の特性を理解して、応答性や品質をチェックしています。こうした点は、実はFCNTがレノボグループに入って、一番大きな効果かもしれません。

 AI戦略そのものも、グローバルの幹部と話し合い、そのエンジンを使いながら、arrowsのゴールを設定していきました。

森内氏
 日本語に関する違和感はやはり敏感に感じ取られてしまうものです。そのチューニングにかなり時間をかけて取り組みました。

森内氏

 一般的に、生成AIでは、英語で処理してから日本語に出力するかたちが多いと思います。すると、日本語として自然な表現にならないこともある。このあたりの違和感を発生させないようにするという取り組みが「生成AIのローカライズ」ということになります。

 もちろん生成AIですので、どんな質問が来るか、どんな回答を出力するか、汎用的に対応しようとすると、人がチェックすることは不可能に思えますよね。しかし、「スマートフォンの使い方」に限定することで、チューニングできました。

――arrows AIでは、「アプリ名や設定がわからなくても、自然な言葉で検索すれば、必要な機能を教えてくれる」とのことですが、そういうことだったんですね。

森内氏
 はい、ですのでチューニングも、本当に人力で進めています。入力に対して出力が正しいか、凄まじい準備と地道な確認があった上で成り立っていく、かなり泥臭い作業でした。

――arrows AIとしては今秋に2.0、2026年以降に3.0を提供する方針も示されていますよね。

外谷氏
 バージョンアップにより機能が増えるというイメージを持っていただければ。

 さらにその先は、やはりパーソナライズへいかに取り組むか。目指すところは、いわばアプリを起動しなくてもやりたいことを、勝手にスマホが提案してくれる、といったものです。

 もちろんそれが本当に良いのかという議論もありますが、「探さなくても良い」という究極のアクセシビリティを目指すと、スマホとAIがよりシームレスに融合して、端末側からの提案型の体験に変わっていくことになるのかなと想像しています。

 もちろん、AIの進化はものすごく速い。実際にどうなるかはまだお約束できませんが、そんな議論をしています。今後に期待いただければと思います。

――ありがとうございました。