インタビュー

楽天モバイルが進めるエリア品質向上の今――竹下モバイルネットワーク本部長に聞く

 人口カバー率99.9%を達成した楽天モバイルが今、そのサービスエリアがもたらす通信品質の向上に自信を深めつつある。

 今年8月、第三者の調査会社であるオープンシグナル(Opensignal)が発表した調査レポートでは、楽天モバイルの通信品質が高い評価を受けていた。

 今回、本誌では楽天モバイル執行役員で、主にモバイルネットワーク全体の開発をリードする竹下紘 副CTO兼モバイルネットワーク本部長に話を聞いた。竹下氏は、楽天モバイルで2018年以降、ネットワーク関連に携わる人物。楽天モバイルはどういったデータを元に自社のサービス品質向上に手応えを感じているのか、その内容を紹介しよう。

4G基地局は約5.8万局

 あらためて、楽天モバイルのサービスエリアの整備状況を紹介したい。

 まず、4Gの屋外地局は2023年6月時点で5万8343局になった。同社に対しては、KDDIからローミングサービスが提供されており、楽天モバイルユーザーはつながりにくいところでauの通信網を利用できる。

 そのau網を除く楽天モバイル自身の4G人口カバー率は6月時点で98.7%。競合の大手3社に比べれば、まだ一歩及ばない数字であることは確かだが、2019年から進められてきたゼロからの基地局整備と考えれば4年余りで6万局近い基地局を整備した実績は、同社が胸を張るに値するものと言える。

 ちなみに5Gの基地局については、全47都道府県でエリア整備が始まっており、その基地局数は2023年6月時点で1万129局に達した。これは、Sub-6(サブシックス)と呼ばれる“6GHz以下の周波数”を用いる屋外基地局の数字だ。

仮想化ネットワークとO-RAN

 楽天モバイルといえば、同社が打ち出す仮想化ネットワークと、さまざまなベンダー(マルチベンダー)の機器を用いるオープンRAN(O-RAN)もまた、特徴のひとつ。

 楽天モバイルの場合、マクロセルにノキアなどの製品を、より小さなサービスエリアのスモールセルなどではエアースパン(Airspan)の製品を用いる。それだけではなく、フェムトセルと呼ばれるごくわずかなエリアをカバーする基地局や、5Gのミリ波を用いる基地局など多くのメーカーのO-RAN製品が活用されているという。

エリア整備が示す品質の向上はいかほどか

 冒頭で触れたオープンシグナルの調査データでは4Gの通信速度の場合、ダウンロード速度では競合他社の方がより多くの周波数を保有していることもあってか、他社のほうが優位な状況だ。一方、4Gのアップロード速度や5Gの上り下りの速度は他社を上回っている。

 また、エリア整備の結果、電波を受信できない時間の割合は約1年前の2022年中頃と比べれば、今年の前半はぐっと改善されてきたというデータも示されている。このほかにも、全国各地で他社よりも楽天モバイルの方が品質が高いという評価もオープンシグナルのデータでは示されているという。

1年前からの成長が顕著に示される

 今回の取材の中で筆者が着目したのは、競合他社より優位かどうかという点よりも、1年前の楽天モバイル自身と現在の同社のサービス品質がどう変化したのかを示すグラフ。動画やゲーム、音声アプリ、はたまた下り上りの通信と、いずれもユーザー体感レベルでは1年前の自社を上回ったというのが2023年秋の楽天モバイルという結果なのだ。基地局が増えれば品質も改善されるのは当たり前、と思われるかもしれないが、定量的なデータで同社の着実な歩みが示されており、新興の携帯電話会社の取り組みとして、一定の評価を与えるべきだろう。

 特にサービスエリアの広さに関する「カバレッジエクスペリエンス」やライブ動画の体感を示す品質については、1年前、評価基準にすら達していない厳しいものだった。それが1年後にはきちんと評価されるレベルまで整備された。

 こうしたエリア品質の改善は、レイテンシーが5ms(ミリ秒)短縮されたり、パケットロスが1.42%→0.35%になったりするなど、具体的な数値として示されている。

 レイテンシー、つまり遅延が改善されればWebサイトを閲覧するとき、サクサクと快適に表示されやすいといった効果が見込める。また、パケットロスは本来、通信されるはずだったデータの一部が欠けてしまうことだが、このパケットロスが少なくなれば、動画を見ている最中でもブロックノイズのようなものが発生しづらくなり、安定して快適に楽しめるという体験につながる。

品質の向上につながった取り組みとは

 竹下氏によれば、通信品質のための具体的な取り組みとして、東京の中心部などでかなり高密度に基地局を設置することを進めてきたという。同氏は「密度だけであれば、他社に引けを取らない」と自信を見せ、その分、キャパシティも十分確保できていると説明。

 全ての基地局は4×4 MIMO(マルチインプット、マルチアウトプット)、つまり端末も基地局も、複数のアンテナを同時に使って快適に通信する仕組みが取り入れられており、こういった点も他社と比べ、通信容量(キャパシティ)の余裕を生み出すことにつながっているという。

 4G用の周波数としては1.7GHz帯一波だけを持つ楽天モバイル。ひとつの周波数帯だけでエリアを整備することになるが、その際の「干渉」について、竹下氏は、場所によってアンテナの角度を調整したり信号強度をコントロールしたりするなど、かなり手を加えているという。

 対策を実施する際には、設備のある現場に赴いて調整することもあれば、リモートで対応することもあるというハイブリッドな体制。担当するメンバーも海外から楽天モバイルへジョインしたスタッフがかなりの割合を占めているという。竹下氏は、そうした海外出身のスタッフの視点からは、日本以外の経験をもとにしているためか、竹下氏自身も知らなかったような改善案が出てくることもあると語る。

 また、近々で気になるのは、プラチナバンドと呼ばれる700MHz帯をどう生かしていくか。しかし、今回の取材のタイミングは、まさにその申請を終えた直後だった。そのため、割り当てられるかどうかはまだ定まっていない環境であり、竹下氏は具体的な取り組みについてコメントを避けた。同社としては、プラチナバンドがもし割り当てられれば、真摯に取り組むといった姿勢を示すしかない状況でもあり、割当後、本誌でもあらためて取材していきたいポイントだ。

 このほか、5Gについて竹下氏は、通信容量として十分な力を期待できるとして、必要とされる基地局数を整備していくとコメント。5G SAについては、「ユースケースを見ながら慎重に判断したい」とするに留めた。

 サービス開始からおよそ3年の楽天モバイルに対して、その繋がりやすさや、通信が快適に使えるかどうか、疑問を持つユーザーは少なくないだろう。最近、筆者が訪れたところの中では、兵庫県神戸市で楽天モバイルの5Gエリアがかなり充実していることを実感した。サービスエリアマップでも、神戸市の住宅地や商業地域で十分な広さをカバーしていることが紹介されている。その神戸といえば、楽天グループを率いる三木谷浩史氏の出身地でもあり、Jリーグのヴィッセル神戸の存在もあるなど、ゆかりのある地域ではある。

 しかし、神戸の5Gエリアが拡充されている理由として、竹下氏はそうした三木谷氏の個人的な事情というよりも「衛星通信の干渉がない地域だから」と説明。5Gの一部の周波数は、衛星通信と干渉することが知られており、サービスエリアを広げる上で大きな壁になっているのは競合他社でも聞かれる話。しかし、神戸にはそういった干渉による調整制限がないということでサービスエリアを十分広げることができたということのようだ。

 そうした地域ごとの違いはあれど、楽天モバイルは引き続き通信品質の向上に努めていくという。一方で、屋内や地下などでのエリア整備については、au網を使えるローミングがあるとはいえ、楽天モバイルにとっては引き続き課題のひとつと言える。同社の取り組みは、果たしてユーザーをどこまで満足させられるものになっていくのか。本誌では今後も、その状況を逐次レポートしていく。