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ソフトバンク、災害時の迅速なエリア復旧や遭難者救助に「ドローン無線中継システム」

 ソフトバンクは、災害時の遭難者救助にや迅速なエリア復旧に活用可能なドローン無線中継システムを発表した。

有線で電源供給されるドローンを基地局に

 同システムは、災害時に基地局の倒壊などで携帯電話網がダメージを受けた場合に、迅速にエリア復旧を行うためのもの。大規模な災害では、一度に多くの基地局が損壊し広範囲に渡ってネットワークが機能しなくなることが想定される。東日本大震災時には、場所によっては復旧までに1カ月近く要したケースもあったという。

 そうした場合に、付近の機能している基地局から移動基地局車(親機)で無線電波を中継。その電波を現地でドローンが受け取り、周囲をエリア化する。高度100mまで上昇し、障害物がなにもない開放地と仮定した場合、最大半径10kmのエリアを構築する能力がある。

 バッテリーで飛行する場合、30分ほどしか滞空できないため、電源は地上から有線で供給される。

 ソフトバンクでは、こうした場合に備えて扁平気球を用いる仕組みふぁあるが、気球は飛行させるまでの準備に時間がかかり迅速な展開には向いていないといえる部分もあった。そこで今回のドローンを利用したシステムが考案されたと東京工業大学 工学院 特任教授 ソフトバンクフェローの藤井 輝也氏は説明する。

 台風や水害など甚大な被害をもたらす災害が多発し、頻繁にモバイルネットワークに障害が発生するという昨今の情勢の中、気球に代わりドローンを用いることで設置や運用がより簡易になり、迅速な復旧を目指す。

 ドローンの場合、現地に機材が到着してから1時間以内の運用を開始が可能という性能を目指している。ワンボックスカー1台にすべての機材が搭載可能で、1週間ほどの連続中継を見込める。通信能力は、LTE 20MHzかつMIMOの場合、データ速度では最大150Mbps。音声通話では2000ユーザーが同時接続できる。

 藤井氏は「1つの基地局が(空に)上がったものとイメージしてもらえれば」と語る。

 また、同システムは、展開地域周辺に中継できる基地局がない場合、衛星通信を利用しての中継もできる。

 藤井氏によれば、一度飛ばせば長期間滞空できる気球は長期的な運用で、ドローンは短期・中期的な運用とそれぞれの長所を活かして両方のシステムを運用していくという。

総重量は24kg
デモ時には強い風にもかかわらず安定して上昇していた。姿勢を崩すことはほとんどない
100mまで上がると地上からはほとんど米粒同然に見える
左=手動操縦用のプロポ。右=自動操縦の制御用アプリ
ドローン用の電源装置

ドローンを用いた遭難者救助も

 ソフトバンクでは、同じ仕組みを利用して、遭難者救助も想定している。有線接続ではなく一般的なバッテリーで飛行するタイプのドローンに無線中継システムを搭載。遭難者が携帯電話サービスのエリア圏外にいる場合、このドローンで遭難者がいると思われる場所をエリア化、GPSの信号をキャッチしたら情報が位置情報取得システムのサーバーに送られ、捜索者が確認できる。

 GPS信号は個人情報に当たるため、GPSだけを受信して位置を取得するということができない。そのため、このシステムで捜索を受けるには、事前に専用のアプリケーション「見守りアプリ HELPA」をインストールしておく必要がある。

 実証実験では、雪下5mに埋もれた端末からの位置情報を特定することに成功している。これは、雪山遭難だけでなく、瓦礫や土砂の下などでも応用ができる。ただ、課題としては瓦礫などは電波の浸透が非常に悪く通信が難しい場合があるという。

 また、操縦者や中継運用者などが遭難現場に集合する必要があり、運用までに多くの時間を要していた。そこで、モバイルネットワークを活用してドローンを遠隔操縦することで解決するという方法を試みている。この場合、現地に向かうのはドローンの運搬者のみで済むため、大幅な時間短縮を実現できる。

 ソフトバンク 施術戦略統括 基盤技術研究室 新技術研究開発部 ネットワークシステム研究開発課の張 亮氏によると、操縦方法は遠隔操縦、現地での操縦、さらに自律飛行と操縦者が自由に切り替えられる。

 現地操縦ではWi-Fi、遠隔操縦ではLTEネットワークを運用して操縦する。ドローン本体のカメラを通じて飛行用の漸増映像や遭難者を確認する下部カメラの映像も同時に伝送される。

 運用開始は今年度中を目指しており、将来的にはNTTドコモ・au(KDDI)の携帯電話の位置特定にも対応する見込み。

捜索用のドローンは幾分小型である
ポケットにスマホを入れ、さらに土砂中へ埋められる
瓦礫の中にもスマホを埋める
ドローンは携帯電話が埋まっている土砂・瓦礫の周りを旋回
遭難者のGPSを確認すると青色の点(画面中央やや上)で示される。デモではどちらのスマホもしっかり発見された

制度上の壁

 電波法上では、基地局は地面に固定されていることが前提となっていたため、今回のドローンなどを用いた中継装置は法律上想定されていなかった。そのため、技術的にはすでに可能だったものの実用化には時間を要したとソフトバンク 技術戦略統括 基盤技術研究室 新技術研究開発部 技術実証課の千葉 武伸氏は語る。

 2016年3月11日に係留気球にかかる電波法関係審査基準の改正がなされ、係留線で係留された気球に無線機を搭載、自然災害や訓練時のみ使用できるようになった。当時はまだ、総務省側でもドローンを用いた運用は干渉条件などの知見が足りずに実現しなかったという。

 そして2020年6月22日に、さらなる法改正が行われ、ついにドローンでの無線中継システムの運用や人命救助での運用が可能になった。

 現状では、このシステムの運用は災害時(人命救助)、訓練時のみに限られる。千葉氏は、今後の課題としてイベント会場で移動基地局車のようにドローン無線中継システムを使うことができればと語った。