インタビュー

最新のSnapdragonが「888」になった理由は? クアルコムのアモン社長とカトゥージアン氏に聞く

 12月2日と3日(日本時間)、クアルコムのプライベートイベント「Snapdragon Tech Summit」が開催される。例年、ハワイで開催されてきたイベントだが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、オンラインでの開催となった。

 2日昼には、クアルコム社長のクリスティアーノ・アモン氏や、モバイル分野のジェネラル・マネージャーであるアレックス・カトゥージアン氏が、アジア太平洋地域の報道関係者によるグループインタビューに応えた。

アモン氏(左)とカトゥージアン氏(中央)。右はクアルコム本国の広報担当者

Snapdragon 888搭載スマホはいつ登場?

 気になる点のひとつは、発表されたばかりの「Snapdragon 888」を搭載するデバイスがいつ登場するのかというところだろう。

 アモン氏は2021年第1四半期と明言。2日午後(日本時間)には、OPPO(オウガ・ジャパン)も2021年第1四半期にSnapdragon 888搭載のフラッグシップスマートフォンをリリースする予定と明らかにした。

 昨年の「Snapdragon 865」でもGPUのドライバーソフトが更新可能とされていたが、これまでにまだ、具体的なアップデート事例はない。だが、クアルコムではSnapdragon 888でも同様の仕様をサポートしており、今後もその取り組みを継続するとした。

 Snapdragon 888では、モデムが統合されていることも明らかにされた。800シリーズでモデム統合は今回が初めて。

 カトゥージアン氏は、「アプリケーションプロセッサー(AP)とモデムを統合するための適切なタイミングを選びました」とコメント。ただ、今後私たちが選んだプロセス技術の歩留まりが、それを可能にした」と説明する。

 今回「888」となったが、それに次ぐ700番台はどうなるのか。「Snapdragon 777の発売を計画しているか?」という問いに、「7シリーズの計画はある」としつつも、「スマートフォンメーカーのなかには、プレミアムなチップセットを搭載する製品の寿命を長くするところもある」と語るにとどまり、888以外の製品群は2021年にあらためて発表するとした。

 2日の発表では、Snapdragon 888のサポートを支持するメーカー名もあわせて披露された。そこにサムスンがいなかったことを問われたカトゥージアン氏は「とても偉大なパートナーだが、彼らの選択に関してはコメントできない」とするに留まった。

Snapdragon 「888」になった理由

 Androidスマートフォンの多くで採用される「Snapdragon」シリーズは、中心となる処理装置のCPUや、映像面の処理を担うGPUなどをひとつにまとめたチップセットだ。毎年、この時期に最新製品が発表されると、その数カ月後、日本市場でも最新のSnapdragonを搭載するスマートフォンを手にできるようになっている。

 Snapdragonシリーズには、ローエンドの400番台、ミドルクラスの600番台、ミッドハイやプレミアムと呼ばれる上位クラスの700番台、そして最も高性能な800番台といった区分けがある。約1年前に発表されたハイエンド製品は「Snapdragon 865」で、その前は「835」「845」「855」と続いていた。つまり、2020年の今回は「Snapdragon 875」と名付けられることになるのか……と思いきや、発表されたのは「Snapdragon 888」という製品。ちょっとしたことではあるが、これまでの命名ルールが変更されたことに何かしら意図があるのだろうか。

 こんな素朴な疑問にカトゥージアン氏は「ここで重要なのは8という数字だ。これまでプレミアム製品を示す数字だった」と語る。

 つまり8とは、Snapdragonシリーズでもっとも高い性能を意味する数字として使われてきた、ということだ。

 その上で同氏は「これまでに製造した中で最も先進的なカスタムソリューションであり、最もプレミアムな位置づけの名前にしたいと考え、『Snapdragon 888』がピッタリだと考えた。これまでの製品でベストということ。それ以上のことはないんです」とコメント。Snapdragonシリーズにおける「8」という数字が持つ意味を踏まえたネーミングとした。

AI処理に自信

 Snapdragon 888では、第6世代のAIエンジンを処理できる。AI向けデバイスのスペックは26TOPS(Tera Operations Per Second)で、アモン氏は「おそらく業界で最高」と胸を張る。

 たとえば、写真を撮る際にも、照明や色の鮮明さ、ズーム、距離測定などでAIによる処理が求められており、その処理がスピーディなほど、自動かつ瞬時に最適な調整を施してくれる。

 5Gの低遅延を利用し、エッジサーバー(MEC)も活用できるようになり、電力を最小にしながら、最大のパフォーマンスを得られるという。

 クラウドのエッジ処理ユニットは、モバイルに搭載していた第5世代のAIエンジンから開発された。その機能をエッジクラウド用のAI推論ソリューションに拡張することで、クアルコムは、最上位の構成であれば、400TOPSという処理能力のソリューションを開発したという。

 これは、ワット(W)あたりでのAIによる推論処理では、世界で最も低消費電力のソリューションになるという。

2.3GHz帯への対応は

 日本も含め、いくつかの地域で5G向け周波数として2.3GHz帯の活用が検討(あるいは導入)が進んでいる。

 この点について問われたアモン氏は、同社にとって、2.3GHz帯の対応は大きな障害にならないとコメント。浸透性などでもメリットがある帯域で、メーカーにとってスマートフォンのラインアップ(SKU)でいくつかバリエーションを用意することで、世界中のニーズに対応できるとの見通しも示した。

5Gでのミリ波展開拡大に期待

 10月、11月に発売された「iPhone 12」シリーズでは、米国モデルで、5G向け周波数のうちミリ波に対応した。

 ミリ波は見通しの良い場所に適しつつも、建物などの影では届きにくいとされる。Sub6と比べ扱いが難しいとされるミリ波ネットワークの展開について問われたアモン氏は、日本で導入が始まった例を挙げて、ほかの国でも今後拡大することを期待しているとコメント。たとえば韓国でも今後導入が進むほか、中国では2022年の冬季五輪に向けた整備が進むとの見通しを示す。

 カトゥージアン氏によれば、5G対応機種がローエンドまで拡がりつつある現場を指摘。プレミアム層のチップセットの製造までには、約3年かかり、生産開始の2年半前には、チップ製造企業(ファウンドリー)との話し合いが始まる。

700番台以下はどうなる?

 ハイエンドの888が発表されたが(詳細は3日)、下位の製品群はどうなるのか。

 5Gの市場規模として、2021年には4億5000万台~5億5000万台の出荷が見込まれるとしたアモン氏は、そうした規模へ対応するためには、クアルコムとしても幅広い製品群(ポートフォリオ)が必要と説明する。「過去のプレミアムティアが、翌年にはハイティアとして扱われることがある」とも語る。

 また、コロナ禍の影響で、プレミアムティアへの需要について問われると、中国や米国、EU、インドなど、世界各地において強い需要があるとアモン氏。1年前のプレミアムモデルが、型落ちになるタイミングで幅広いユーザーに受け入れられることもあり、クアルコムのプレミアム向け製品への影響は感じていないとした。

バイデン新大統領が与える米中関係について

 トランプ現大統領のもと、米国は、中国との対決姿勢を強め、経済分野に大きな影響をもたらした。

 米国の大統領選挙が終わり、2021年からバイデン新大統領になることがどのような影響をクアルコムにもたらすのか。

 アモン氏は「ライセンスビジネスを軸とするクアルコムは、非常に幸運な立場にある。クアルコムが関わる分野は米中両国に多くの安定をもたらしていると思う」と語る。

 これまでも両国関係のなかでクアルコムの事業は成長し続けており、多くの中国メーカーとの協力関係が続くなか、アモン氏は「さらに成長することを信じたい」とした。