インタビュー

KDDI中馬氏に緊急インタビュー、JR東日本と目指す「ポストコロナ」分散型スマートシティの姿

 15日、JR東日本とKDDIが、スマートシティの実現に向けて協業すると発表した。リアルでさまざまな展開を見せてきたJR東日本と、通信でリアルとバーチャルを繋いできたKDDIがそれぞれのノウハウや資産を組み合わせ、ポストコロナ時代にふさわしい、新しい働き方、新しいライフスタイルを作り上げようとするものだ。

JR東日本代表取締役社長の深澤祐二氏とKDDI代表取締役社長の髙橋誠氏

 2021年から実験が始まり、2024年には一定の成果を得ようとするその取り組みについて、事業を担うKDDI側で、これまで新規事業などに携わってきたビジネスインキュベーション推進部長/KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏に、発表会場で直撃した。

 筆者のちょっと細かい質問をもとに、中馬氏はJR東日本と目指す世界の姿を描いた。

KDDIの中馬氏

分散型ワークプレイス、どこにどれくらい?

――東京、神奈川、千葉、埼玉で実施される分散型ワークプレイスは、どのくらいの拠点数になるのでしょう?

中馬氏
 考え方としては、(路線の)上りと下りでバランスと取るといった形です。これまで通勤時間帯は都心部、つまり上りが多かったですよね。それを分散させる形です。

 最初は数拠点、ゆくゆくは数十拠点を視野に入れており、ニーズに応じて拡大を検討していきます。

本社同等のセキュリティを

中馬氏
 新型コロナウィルス感染症の拡大を受け、働く場所についていろいろと話がありましたが、なかなか移住までは難しいですよね。

 かといって、全員が自宅内できっちりと仕事できる環境を作り上げられるわけでもない。また大企業の中には、社内のセキュリティ基準をリモートワークで確保することが難しいケースもあります。

 今回目指す「分散型ワークプレイス」は、いわば本社同等の機能があちこちに分散して存在するというイメージです。ただし、場所を事業所として調達すると“支社”になってしまう。

 そうではなくて、時間単位、デスク単位、つまり瞬間瞬間で分散型ワークプレイス内に「自社環境」を用意するのです。

――今後は、入室すると自社ネットワークと同等の環境になるという実験も進めるそうですが、VPN(仮想専用線)との違いは?

中馬氏
 もちろんVPNで実現できる部分はあるでしょう。

 ただ、企業によっては、取り扱う情報のなかにリモートワークでは絶対扱えない、と指定するような種類のものもあります。自宅でもダメ、というものです。

 私たちが目指す分散型ワークプレイスは、そうしたデータも、セキュリティを担保して扱えるようにする、ということになります。

――なるほど。

中馬氏
 入室にあわせて、あるいはデスクにあわせて、A社の環境、B社の環境とセキュリティを確保しながら環境を切り分けるのですが、これが実現できると、A社とB社がコラボレーションするときに、ひとつの会議室内を「A社とB社の共同スペース」にすることもできるんです。

 実際に、私たちもJR東日本さんと今、さまざまな協議を進めています。でも、現状では互いが持つデータをリモートワークの環境にはなかなか持ち出せません。そういったあたりを解決できるのでは、と考えています。

――中馬さんはKDDI∞Laboのラボ長ですが、JR東日本もスタートアップの育成プログラムに注力していますね。

中馬氏
 はい、そうなんです。JR東日本さんのスタートアップ担当チームは、もともとKDDI∞Laboに参加していただいていたこともあるんです。実はとても仲良くやらせていただいています。

――すると両社の新規事業をリードする部門同士の関係が今回の協業に?

中馬氏
 もともとは“品川開発プロジェクト”がきっかけなんですが、たとえば新たにできあがる街にIoTやセンサー、カメラを備えていくというだけで良いのか、これからの時代は集中ではなく分散ではないのか? という提案をこちらから差し上げたんです。すると、いろいろと盛り上がって。

――それが今回のお話に繋がっていったと……だいぶ盛り上がりましたね。

中馬氏
 はい(笑)。新型コロナウィルス感染症が拡大する頃に話が始まり、会えない中でも話を進めて……最初は品川開発プロジェクトでしたが、逆に私どもから分散型を提案し、最終的に今回の形になりました。

 目指しているのは「普段の仕事はバーチャルで、本当に必要なときに新幹線で移動してリアルで話をする」というイメージなのです。

――なるほど、ありがとうございました。