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「Rakuten AI Optimism」開幕、楽天が目指す“最強のAI” 三木谷氏が語る

 楽天グループ最大級の体験型イベント「Rakuten AI Optimism」が、パシフィコ横浜で開幕した。イベントでは、楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が登壇し、基調講演を行った。

楽天グループ代表取締役会長兼社長 三木谷浩史氏

楽天IDの保有率と圧倒的なユーザーベース

 三木谷氏は、日本国内ではほぼすべての人が楽天IDを保有しており、月間で約4400万人が楽天のサービスを利用していると説明。世界全体では約20億人が楽天のサービスにアクセスしており、年間に発行される楽天ポイントは6000億〜7000億ポイントにのぼるという。

 楽天グループでは70種類以上のサービスを展開しており、多くのユーザーが複数のサービスを併用している点も強調した。

楽天モバイルの拡大と“無制限の時代”

 楽天モバイルは契約数が900万回線を突破し、年内には1000万回線を目指すと述べた。「Rakuten最強プラン」などの低価格帯の料金プランは、日本のモバイルインターネット利用に大きな変化をもたらしたという。若年層の中には、月間70〜80GBのデータ通信を行うユーザーもおり、通信の常識が変わりつつあると語った。

 あわせて、AIアバターによる接客機能を備えた自動契約機「最強くん」を通じて、楽天モバイルの契約手続きやSIM発行を展開していくと説明した。

AIアバター接客
自動契約SIM発行機 最強くん

AIの進化と適用範囲の広がり

 三木谷氏は、AIが社会を根本から変えつつあると強調。楽天ではすでに、モバイルネットワークの運用や電力使用の最適化などの領域でAIを活用している。

 AIの進化スピードについても、2016年時点で人間の平均能力を20%下回っていたAIは、2024年には一部分野で人間を超えるレベルに達していると述べた。

「辞書からアクションへ」進化するAIエージェント

 AIの役割は、従来の「対話」や「検索支援」から、ユーザーの指示や意図をもとに「実行する」フェーズへと進化していると語った。ユーザーの趣味や関心を汲み取り、自ら忖度してアクションを起こすAIの登場により、活用の幅が広がっているという。

 すでに、自動運転や旅行予約、ホテルや店舗での接客、法律・会計分野などにおいて、AIが業務を代替可能な水準に達しているとした。

世界で急速に進むAIの普及、日本は大きく遅れ

 世界では約12億人がAIを利用しており、その普及スピードはインターネットやスマートフォンを上回っているという。

 一方で、日本のAI活用には大きな遅れがあると指摘。米国を100とした場合、日本のAI力は20程度にとどまり、中国や欧州、韓国、インドにも後れを取っていると述べた。生成AIの利用率に関しても、中国が80%であるのに対し、日本は26.7%にとどまっていると指摘した。

楽天が目指す「最強のAI」構想

 三木谷氏は、楽天の目指すAIのあり方として、ユーザーやビジネス運営者が「意識せずにAIを使える」環境づくりを掲げ、楽天のAIデザインを刷新すると発表した。

 楽天が保有する膨大なデータはAIにとっての「金脈」であり、楽天市場の購買履歴、楽天カードの利用明細、楽天モバイルの閲覧データ、楽天銀行や証券の各種データを横断的にカバーしている点が強みであるとした。これらを通じて蓄積された顧客の行動データは、累計で3兆件を超えるという。

 さらに、OpenAIやAnthropic、Microsoft、LangChain、LlamaIndexといった外部パートナーとの連携により、楽天独自のAIと融合させた「最強のAI」構築を進めていると語った。

 現在開発中の「Rakuten AI 2.0」は、Mixture of Experts(MoE)アーキテクチャを採用し、大規模データの効率的な処理が可能だと説明。日本語に最適化された構造で、漢字・ひらがな・カタカナといった日本語特有の表記体系にも対応する。スマートフォン上で動作可能な軽量モデル「Rakuten AI 2.0 mini」も開発中で、サーバー接続不要で利用できるAIの実現を目指している。

 こうしたAIを“スーパー秘書”として展開し、ショッピング、旅行、金融、コンテンツなど楽天グループのあらゆるサービスに統合。ユーザーを支援し、取引の実行まで担える存在にしていく方針を示した。

Rakuten LinkにおけるAIエージェント

 楽天モバイルのアプリ「Rakuten Link」では、AIエージェント「Rakuten AI」が大幅に統合され、機能も強化される。

 デモでは、商品の写真を提示するだけで、AIが類似商品を解析し、楽天市場の該当商品情報を表示する機能が紹介された。あわせて、「3万円以下で探して」といった音声による検索にも対応する様子が披露された。

パーソナライズと先回り提案の実現

 「Rakuten AI」は、ユーザーの過去の購入履歴や好みに基づいて表示内容の優先順位を調整できる。たとえば、「高級ワイン派」か「コスパ重視派」かといった嗜好を学習し、パーソナライズされた商品表示を実現する。

 さらに、「そろそろサプリメントが必要ですね、買ってきましょうか?」といった提案を先回りして行うことも可能だという。

楽天が勝てる理由と、AI+人間の未来

 三木谷氏は、楽天がAI領域で優位に立てる理由として、膨大なデータ資産、国際的な開発力、楽天ポイントによるユーザーインセンティブを挙げた。さらに、リアルな店舗や宿泊施設の現場感覚も、楽天独自の競争力の源泉であると語った。

 講演の締めくくりとして、「AI+Human」の共存が最終的に最も重要になると強調。AIはあくまでツールであり、人間によるサービスや職人技といった“人にしかできない価値”は今後も変わらないと述べた。

 楽天グループの強みは「人間味」にあるとし、AIはその魅力を引き立てる補完的な存在であると位置づけた。人々のつながりを支援し、個々の関わりを積み重ねることで、世界で最も人間味あふれる「最強のAI」の実現を目指すと語った。