法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「Galaxy S24」は「Galaxy AI」で新しい時代を切り開けるか

サムスン/NTTドコモ/au 「Galaxy S24」、147mm(高さ)×71mm(幅)7.6mm(厚さ)、167g(重さ)、コバルトバイオレット(写真)、アーバンイエロー、オニキスブラックをラインアップ。auはアーバンイエロー、オニキスブラックのみ

 サムスンは4月3日、今年1月にグローバル向けに発表されていたフラッグシップモデル「Galaxy S24」シリーズの国内向けとして、「Galaxy S24」と「Galaxy S24 Ultra」を発表した。

 従来に引き続き、NTTドコモとauが両機種を発売する一方、Samsung公式ストアからもSIMフリー版が4月11日に発売されることになった。今回は国内向けの「Galaxy S24」を試用することができたので、レポートをお送りしよう。

スマートフォンの次なる進化は?

 国内外の市場でスマートフォンが普及しはじめてから、すでに十数年。ハードウェアではチップセットの高性能化やディスプレイの大型化、カメラ性能の進化、耐環境性能の強化、ソフトウェアではプラットフォームの安定化や高度化、クラウドサービスの充実などがあり、通信規格も3Gから4G LTEなどを経て、2020年からは5G時代に突入している。

 ハードウェアからソフトウェア、通信技術などが進化を続けてきたことで、スマートフォンは完成度を高め、私たちの生活や仕事に欠かせない存在になったが、ここ数年は製品として、かなり成熟したこともあり、各社の新製品も目新しさに欠け、やや停滞していると言われてきた。

 そんな中、スマートフォンやパソコンなどを進化させる新しい技術として、各方面で注目されているのが「AI(Artificial Intelligence)」だ。特に、ここ1~2年は「ChatGPT」に代表される「生成AI」が注目を集め、スマートフォンではGoogleがAndroidスマートフォンに生成AIの「Gemini」を提供したり、パソコンではWindowsに標準で「Copilot」が搭載されるなど、急速に存在感を増している。

 しかし、その一方で、ごく一般的なユーザーからは「AIだからって、何がいいの? 別に文書を作るわけでもないし……」といった声が挙がっているのも事実。多くの人たちがスマートフォンを使っていくうえで、AIが何に役立つのかは今ひとつピンと来ていない印象も残る。

 今回、サムスンから発表されたフラッグシップモデル「Galaxy S24」シリーズは、「Galaxy AI」を搭載し、フィーチャーフォンからスマートフォンへの進化に続く、「AIフォン」の登場だと位置付けている。スマートフォンではこれまでもカメラ撮影時の画像処理にAIが活用されたり、翻訳アプリなども提供されてきたが、「Galaxy AI」では音声通話の自動翻訳やメッセージングサービスの翻訳、対面での通訳アプリ、撮影した写真の画像編集など、さまざまな機能に「Galaxy AI」を活かすことで、新しいスマートフォンへ進化を遂げようとしている。

 今年1月にグローバル向けに発表された「Galaxy S24」シリーズには、標準サイズの「Galaxy S24」、少し大きいディスプレイを搭載した「Galaxy S24+」、かつての「Galaxy Note」シリーズのDNAを継承する「Galaxy S24 Ultra」がラインアップされているが、昨年に引き続き、国内向けは「Galaxy S24」と「Galaxy S24 Ultra」が投入された。中間サイズの「Galaxy S24+」が投入されないことはやや残念だが、国内向けに投入される2機種については、NTTドコモ、auに加え、Samsung公式ストアを通じて、オープン市場向けのSIMフリー版も発売されることになった。従来は各携帯電話会社の発売から少し遅らせていたが、今回は同時発売となり、カラーバリエーションも3色ずつ、ストレージも256GB/512GBをラインアップされる。発表前の予約から発売後の販売も好調で、SIMフリーモデルは出荷が追いついていない状況とも伝えられており、ユーザーの期待の大きさをうかがわせる。

今回発表された「Galaxy S24」(左)と「Galaxy S24 Ultra」(右)の前面。ディスプレイは「Galaxy S24」の6.2インチに対し、「Galaxy S24 Ultra」は6.8インチと最大級
「Galaxy S24」(左)と「Galaxy S24 Ultra」(右)の背面。両機種共に背面カメラは『縦3眼レンズ』デザインを採用

 今回、取り上げる「Galaxy S24」は、「Galaxy S22」や「Galaxy S23」の流れをくむ「Galaxy S」シリーズの標準サイズのモデルだが、昨年の「Galaxy S23」に比べ、ディスプレイやバッテリー容量、チップセットなどが刷新され、全体的にスペックを向上させている。

 価格については、別表の通りで、各キャリアとも従来モデルに比べ、1万円前後の値上げとなっている。ただ、端末そのものの進化に加え、部品などのコスト増や最近の為替レートなどを鑑みると、「この程度の価格上昇でよく抑えられたな」というのが率直な感想だ。Samsung公式ストアの価格は、NTTドコモ、auに比べ、2万円以上、割安なため、慣れたユーザーであれば、こちらを狙うのも手だ。

 NTTドコモ、auからの購入で、支払い額を抑えるには、両社の端末購入サポートプログラムが有用だ。256GB版であれば、端末代金の分割払い額は月々3000円台半ばになり、2年利用時の実質負担額を7万円程度に抑えることができる。NTTドコモについては「いつでもカエドキプログラム(プラス対象機種)」のため、12カ月目までに端末を早期返却し、さらに実質負担額を抑えることも可能だ。一方、auについては5月31日までのキャンペーンで、通常の機種変更でも2万2000円が割り引かれるため、こちらも少し負担を抑えることができる。

ちょうどいいサイズ感を継承

 まず、外観からチェックしてみよう。ボディは幅70.6mm、厚さ7.6mmの持ちやすいサイズで、重量も167gと軽い。昨年の「Galaxy S23」は2022年モデルの「Galaxy S22」からカメラ部のデザインを変更し、縦に3つのカメラリングが並ぶ『縦3眼レンズ』のデザインに切り替えたが、今回の「Galaxy S24」はその流れを継承し、同様のデザインに仕上げている。「Galaxy S24 Ultra」はさらにカメラリングがもう一列、増えているが、縦方向にカメラリングが並ぶデザインを基本としており、「Galaxy Z Fold」シリーズなども含め、Galaxyとしての統一感を狙っている。

背面にはトリプルカメラのカメラリングが並ぶ。NTTドコモ版は背面中央に「docomo」のロゴが刻印される。au版はSIMフリー版と同じデザインで、中央下部に「SAMSUNG」のロゴが刻印される
左側面にはボタン類が備えられていない
右側面には中央付近に電源キー、上部側(左側)にシーソー式音量キーが並ぶ。中央の下寄りの仕上げが異なる楕円パーツは内蔵アンテナをカバーする部分
本体下部にはUSB Type-C外部接続端子、SIMカードスロットを備える
本体下部にピンで取り出すタイプのSIMカードトレイを備える。nanoSIMカード1枚のみを装着できる。eSIMにも対応し、デュアルSIMで運用可能。外部メモリーカードは装着できない

 一見、同じように見える外観のデザインだが、サイズとしては従来の「Galaxy S23」と比較して、幅が0.3mm減、高さは0.7mm増、厚さは同サイズ、重量は1g減にまとめられている。電源ボタンなど、各パーツのレイアウトはほとんど変わらないが、背面カメラ横のフラッシュ位置などが微妙に違うため、ケースは基本的に流用できない。

「Galaxy S24」(左)と「Galaxy S23」(右側)の本体前面。「Galaxy S24」の方がわずかにボディの長さ(高さ)が長くなっている
「Galaxy S24」(左)と「Galaxy S23」(右側)の本体背面。『縦3眼レンズ』デザインは共通だが、LEDフラッシュの位置などが異なる
「Galaxy S24」(左)と「Galaxy S23」(右側)を下部側から見たところ。側面の仕上げが変更されたことがわかるs
「Galaxy S23」(左)に比べ、「Galaxy S24」(右)はベイパーチャンバー(銅色のパーツ部分)がひと回り大きくなっている

 耐環境性能は従来モデルに引き続き、IP5X/IP8Xの防水、IP6Xの防塵に対応する。「Galaxy S」シリーズはすでに10年近く、防水防塵に対応してきた実績を持つ。かつては『日本仕様』と呼ばれた防水防塵も「Galaxy S」シリーズが対応したことで、多くの海外メーカーが追随し、標準的な仕様として定着した感もある。

 バッテリーは従来の「Galaxy S23」の3900mAhから増え、4000mAhのバッテリーを内蔵する。容量としては100mAh増で、連続待受時間も「Galaxy S23」に比べ、10%程度のロングライフ化に留まるが、「Galaxy S23」は「Galaxy S21」や「Galaxy S21」に比べ、省電力性能の改善が図られていたため、2~3年前のモデルを利用していたユーザーにとっては、実使用でグッと長持ちするような印象を持つかもしれない。

 充電は本体下部のUSB Type-C外部接続端子から最大25Wでの充電に対応し、残量ゼロの状態から約30分で50%まで充電できる。最大15WのQi規格準拠のワイヤレス充電に対応するほか、本体のバッテリー残量からワイヤレスイヤホンやスマートウォッチに給電できる「ワイヤレスバッテリー共有」にも対応する。パッケージにはACアダプターやUSBケーブルが付属しないため、従来から利用しているものを流用するか、新たに購入する必要がある。サムスンも公式ストアなどで、モバイルバッテリーや電源アダプター、ワイヤレス充電器を販売しているので、そちらを検討してみるのも手だ。

ディスプレイを6.2インチに大型化

 ディスプレイはフルHD+(2340×1080ドット表示)対応6.2インチDynamic AMOLED 2X(有機EL)を搭載する。前述の通り、従来の「Galaxy S23」や「Galaxy S22」などに搭載されてきた6.1インチから、わずかにサイズが大きくなっているが、狭額縁化によって、本体サイズが1mm以下の違いしかないレベルに収められている。実使用時のサイズ感の差はほとんどなく、端末を並べてみて、「Galaxy S24」の方が少し縦長に見えるくらいだ。ディスプレイの仕様としては最大輝度が「Galaxy S23」の1750nitに対し、「Galaxy S24」では最大2600nitになり、リフレッシュレートも48~120Hz対応だったものが1~120Hz対応になったことで、優れた視認性と省電力性能の両立を実現している。ちなみに、ディスプレイのガラス面はCorning Gorilla Glass Victus 2を採用しており、従来モデルに引き続き、フラット仕上げとなっている。

 ディスプレイの中央下段付近には超音波式指紋センサーが内蔵され、指紋認証が利用できる。ディスプレイ上部のパンチホール内に収められたインカメラによる顔認証にも対応する。

 指紋認証については従来モデルに引き続き、指紋登録時に指を当てるエリアが少しずつ動きながら表示されるため、画面の指示に従えば、指紋の周囲部分も含め、特徴点を確実に登録できる。指紋センサーのレスポンスは良好で、画面オフの状態からもロック解除ができるほか、Samsungアカウントと文字入力の「Samsungキーボード」を連携させた「Samsung Pass」により、Webサイトやアプリの起動などを指紋認証で解除できる。

 「Samsung Pass」は筆者も「Galaxy Z Flip5」で利用しているが、さまざまなサービスや機能の認証を登録できるため、Galaxyでは手放せない機能のひとつとなっている。

 ちなみに、超音波式の指紋センサーは従来モデルでも採用されているが、他製品のように市販の保護ガラスを貼付した場合の動作はセンシティブではない。認証がうまく動作しないときは、保護ガラスや保護フィルムを貼り付け後、改めて指紋を登録し直せば、利用できるはずだ。

 他機種のような指紋センサーの長押しで特定のアプリを起動する機能はないが、電源ボタンの二度押しで設定することができる。出荷時はカメラ起動に設定されている。

 顔認証についてはマスク装着時のロック解除ができないものの、メガネは装着の有無にかかわらず。ロック解除ができる。画面ロック関連で従来モデルから仕様が変更されたのは、従来モデルでPIN入力時に[OK]を押さなくてもロック解除できたものが「Galaxy S24」では他のAndroidスマートフォン同様、PINの入力後、[OK]をタップしなければならなくなった点だ。

 画面ロックは指紋認証や顔認証が使えるため、あまり影響はなさそうだが、従来モデルからの買い替えユーザーはちょっと戸惑うかもしれない。

米Qualcomm製Snapdragon 8 Gen3 for Galaxyを搭載

 チップセットは米Qualcomm(クアルコム)製Snapdragon 8 Gen3 for Galaxyを採用する。「for Galaxy」の名が冠されたSnapdragonは、昨年の「Galaxy S23」などに引き続いての採用になる。サムスンによれば、コアの構成などはSnapdragon 8 Gen3と同じだが、クロック周波数が異なる専用のものが採用されているという。特に、「Galaxy S24」は画像処理や翻訳など、AIを利用した機能を強化しているうえ、ゲームの快適なプレイ環境も重視しているため、通常版よりも強化されたもので対応しようと考えているようだ。

 ゲームなど、高負荷のアプリを利用したときの熱対策は、内部のベイパーチャンバーを従来モデルに比べ、1.5倍以上も大型化し、放熱しやすい環境を整えている。通常、端末の初期設定時には多くのアプリが更新されるため、端末が熱を持つことが少なくないが、今回試用した「Galaxy S24」は初期設定時もほんのり暖かくなる程度で、熱対策の効果が感じられた。

 メモリーは8GB RAMを搭載し、ストレージは256GB版と512GB版が用意される。512GB版はauがオンラインショップ限定で販売するほか、Samsung公式ストアでも販売される。NTTドコモでの取り扱いはない。外部メモリーカードは対応しないため、端末内に多くのデータを保存するのであれば、512GB版が候補になるが、クラウドサービスも充実しているため、予算と相談したうえで判断したいところだ。意外に容量を消費しそうなのは、後述する翻訳アプリなどで利用する言語パックで、1言語あたり500MB前後になる。

 ネットワークはNTTドコモ、auが対応するバンドをはじめ、国内外で利用する5G NR/4G FDD-LTE/4G TD-LTE/3G W-CDMA/2G GSMで利用できる。ちなみに、NTTドコモ版、au版、SIMフリー版はいずれも対応バンドが共通のため、基本的にネットワーク対応での差分はない。SIMカードはnanoSIM/eSIMのデュアルSIMに対応しており、ネットワーク障害や災害発生時に備え、複数のモバイル回線を契約しておくことができる。eSIMについてはデュアルeSIMのため、複数のeSIMを登録することも可能だ。

 Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax準拠で、2.4GHz/5GHz/6GHzで利用できる。ワイヤレスイヤホンやスマートウォッチの接続に利用するBluetoothは、Bluetooth 5.3対応となっている。衛星を利用した位置情報の測位機能は、米GPS、露GLONASS、中国BeiDou、欧州Galileo、日本QZSS(みちびき)に対応する。おサイフケータイにも対応する。

7世代のOSアップデートと7年間のセキュリティアップデートを保証

 プラットフォームはAndoroid 14ベースのOne UI 6.1を採用する。基本的なユーザーインターフェイスはこれまでのGalaxyで採用されてきたものに同様で、ホーム画面を上方向にスワイプすると、アプリ一覧が表示され、アプリ一覧は左方向にスワイプして、ページを切り替える仕様となっている。アプリ一覧ではアプリをフォルダーにまとめることも可能で、整理やカスタマイズがしやすい。設定を切り替えることで、iOSのようにホーム画面にすべてのアプリを表示することもできる。

ホームアプリとして、「One UI」を選んだときのホーム画面。NTTドコモ版は「docomo LIVE UX」や「Disney UX」が設定できるが、Galaxy本来の使い方をするなら、「One UI」がおすすめ。[設定]アプリ内の[アプリ]-[標準アプリを選択]-[ホームアプリ]で設定が可能
ホーム画面を上方向にスワイプすると表示されるアプリ一覧画面。左にスワイプすると、次のページが表示される。アプリをフォルダにまとめることが可能。出荷時はアプリが「4×6」でレイアウトされているが、[設定]アプリの[ホーム画面]-[アプリ画面グリッド]でカスタマイズが可能
クイック設定パネルはAndroid 14で採用された新デザインに変更されている。左にスワイプすると、次のページが表示される。[通訳]を選ぶと、対話式の[通訳]アプリが起動される

 Galaxyのユーザーインターフェイスと言えば、昨年、iOS上で体験できるアプリ「Try Galaxy」が公開され、注目を集めたが、今年3月1日からは「Galaxy S24」シリーズに対応した最新版がiOSとAndroidプラットフォーム向けに公開されている。「Try Galaxy」で検索するか、以下のWebページにアクセスすると、それぞれのプラットフォームに対応したWebアプリがインストールできるので、興味のある人はぜひお試しいただきたい。通訳や翻訳アプリなどのデモも画面上で楽しむことができる。

【あなたの携帯電話で「Try Galaxy」を試してみてください。】(サムスン電子ジャパン)

 プラットフォームのアップデートについては、今回の「Galaxy S24」シリーズから、7世代のOSアップデートと7年間のセキュリティアップデートの提供が保証される。Googleの「Pixel」シリーズが「Pixel 8 Pro」や「Pixel 8」で発売から7年間、「Pixel 7a」や「Pixel Fold」などで発売から5年間のアップデートを約束しており、これに倣った形になる。ユーザーとしては長く使えることは安心感にもつながるため、歓迎したいが、さすがに7年前の端末ともなると、本当に実用レベルに耐えられるのかが気になるところだ。単なる対応年数の競争にならず、本当の意味でユーザーが快適に使い続けられるアップデートの提案を期待したいところだ。

 日本語入力は従来に引き続き、iWnnベースの「Samsungキーボード」が搭載される。Androidプラットフォームの日本語入力はほとんどの機種がGoogleの「Gboard」に移行してしまい、昨年秋にはシャープも「AQUOS sense8」で「S-Shoin」の採用を見送ったが、単に開発コストだけでなく、生体認証と連動したパスワード自動入力などの機能が関係している。

 Galaxyの場合、前述のように、指紋認証と連動した「Samsung Pass」が用意されており、これを利用するには連動する文字入力アプリとして、「Samsungキーボード」が紐づけられているわけだ。同様に、Galaxy AIで実現される通訳機能や翻訳機能も「Samsungキーボード」から起動する仕組みのため、「Galaxy S24」の多彩な機能を使っていくうえで、非常に重要な機能という位置付けになる。

実用的な使い道が提案される「Galaxy AI」

 冒頭でも触れたように、今回の「Galaxy S24」シリーズは「Galaxy AI」を前面に押し立てて、アピールしている。これまでもスマートフォンでは「AI」がフィーチャーされ、カメラ撮影時のAIによるシーン自動認識、「消しゴムマジック」などの画像編集機能などが広く知られるようになってきた。もちろん、これまでのGalaxyでも同様の機能は実現されてきたが、今回の「Galaxy AI」では少し違ったアプローチで「AI」の活用事例をアピールしている。

Galaxyならではの機能の多くは、[設定]アプリの[便利な機能]から起動したり、設定できる
「Galaxy AI」を利用した機能は、[設定]アプリの[便利な機能]-[高度なインテリジェンス]で設定できる
[設定]アプリの[便利な機能]-[高度なインテリジェンス]-[文字起こし]では、「ボイスレコーダー」を利用した「文字起こし」の設定が可能。インストールされた言語パックの言語を文字起こししたり、翻訳できる

 まず、国内向けの発表では翻訳や通訳など、言語関連の機能が紹介され、なかでもインパクトが大きかったのは、電話(音声通話)での「ライブ翻訳」だ。

 普段、使っている電話サービス([電話]アプリ)を使い、外国語を話す人を相手に対して、こちらが日本語で話した内容を翻訳して、相手には英語をはじめ、設定した言語の音声が伝わるというしくみになる。もちろん、相手が話した外国語もこちらの端末内で処理され、日本語に通訳した内容が音声で流れる。

 しかも言語は英語やドイツ語、スペイン語をはじめ、タイ語やベトナム語、韓国語、中国語など、13言語に対応する。

 発表会では旅行中にレストランを予約するやり取りのデモが流されたが、かつての国際電話のように、会話に若干のタイムラグがあるものの、意外にスムーズにやり取りができる印象だ。実際に、外国語を話す相手と通話する機会が多い人にとっては、かなり有用な機能だろう。海外渡航時については、NTTドコモやauで契約した回線で利用すると、国際電話になるため、渡航先のSIMカードなどを利用した方がリーズナブルだが、標準的な電話アプリで利用できる機能なので、十分に実用性があると言えそうだ。

 次に、直接、外国人と会話をするときに役立つのが「リアルタイム通訳」だ。こちらは同様の機能がGoogleの[翻訳]アプリでも実現され、これまでも広く利用されてきたが、「Galaxy AI」を利用した「リアルタイム翻訳」の場合、翻訳された内容がすぐに音声で流れるため、スムーズな会話ができる。通常は端末のみでのやり取りになるが、Galaxy Budsなどのイヤホンマイクを片耳ずつ装着すれば、音声認識が最適化され、より快適に話すことができるという。

 発表会後のタッチ&トライで英語やスペイン語でのリアルタイム通訳のデモを見たが、なかなかスムーズな会話が可能な印象だ。海外渡航時の利用も便利だが、訪日外国人が増えていることから、国内でも飲食店や店舗などで使うと、かなり便利だろう。

[リアルタイム通訳]でタイ語のやり取り。海外旅行や海外出張に役立つが、インバウンド需要で訪日外国人と接する仕事にも便利

 こうした翻訳や通訳機能は音声だけでなく、テキストを利用したサービスにも利用できる。これまでもGoogleの[翻訳]アプリで翻訳した文章をメールに貼り付けるといった使い方をしてきたが、「Galaxy AI」では「チャットの翻訳」を使い、外国語でメッセージのやり取りができる。

 たとえば、+メッセージやLINEなどのメッセージアプリを利用するとき、前述の[Samsungキーボード]の文字パレットの左上に表示される星を描いた「Galaxy AI」アイコンをタップし、「チャットの翻訳」を選ぶと、やり取りしているメッセージの翻訳ができる。外国語を話す友だちとチャットで話すとき、日本語で入力した文章は指定した相手の言語に翻訳されるため、そのまま送信すれば、相手の言語で伝えられるわけだ。

 逆に、相手が外国語のメッセージを送ってきたときは言語を自動的に外国語メッセージの下に翻訳された日本語が表示されるため、すぐに内容を把握できる。外国語圏の友だちとチャットをするときに便利だが、予約や問い合わせサービスをLINEや+メッセージで提供している店舗などでも役立つシーンが多そうだ。

[+メッセージ]アプリで文字を入力するとき、「Samsungキーボード」で「Galaxy AI」の「チャットの翻訳」を利用すれば、日本語で入力した文章を翻訳して、相手に送信できる。相手からのメッセージも翻訳される。この他にも「LINE」のトークや[Instagram]のDMなどでも利用可能。外国人のやり取りがなくても外国語を交えたチャットで、気分だけを味わうのも面白い!?

 この他にもWebページの要約や翻訳など、言語関連を中心に、「Galaxy AI」は実用的な使い道が数多く提案されている。これまで外国語の取り扱いには、Googleの[翻訳]アプリが広く利用されてきたが、Galaxy S24では「ライブ翻訳」のように、これまでよりも一歩、踏み込んだ活用例が多く、外国語圏の人と接することが多いユーザーには、ぜひ試して欲しいところだ。

光学2倍相当ズームにも対応したトリプルカメラを搭載

 カメラについては、背面にトリプルカメラ、前面にセルフィーカメラを搭載する。背面カメラは本体の上部から順に、1200万画素/F2.2超広角カメラ(13mm相当)、5000万画素/F1.8広角カメラ(23mm相当)、1000万画素/F2.4望遠カメラ(69mm相当)で構成され、前面はディスプレイ上部のパンチホール内に1200万画素/F2.2セルフィーカメラ(26mm)を内蔵する。

 イメージセンサーやレンズの仕様は、基本的に「Galaxy S23」と変わらないが、5000万画素イメージセンサーによる広角カメラに光学相当2倍ズームが搭載され、光学ズームの利用シーンが拡げられている。ファインダー内の[.6x][1x][3x]というボタン表示や各ボタンをタップしたときに表示されるゲージなどは同じだが、2倍で撮影したときの画質に違いが出るとしている。

 撮影シーンにもよるが、少し離れた被写体に対し、高画質のまま撮影できる光学2倍と3倍を選べるのは、ひとつのアドバンテージだろう。Galaxyシリーズでおなじみのスペースズームは、最大30倍での撮影が可能だ。「Galaxy S24 Ultra」の最大100倍スペースズームには及ばないものの、夜間に月や星空などを撮ってみると、なかなかきれいに撮影できる。

背面には『縦三眼デザイン』のトリプルカメラを搭載。カメラリング部分はボディから約1.3mm(実測)の突起
カメラの設定画面。[インテリジェント最適化]では画質の最適化に加え、[シーン別に最適化]も設定できる

 撮影モードは「ポートレート」「写真」「動画」「その他」が並び、「その他」には「プロ」「食事」「ポートレート動画」などの多彩な撮影モードが用意される。「その他」に含まれる「EXPERT RAW」を選べば、JPEG形式の画像に加え、RAW形式のデータも保存でき、アドビの「Lightroom」などを利用することで、より本格的な写真の生成や編集もできる。

 ちなみに、撮影した画像はGalaxyシリーズ独自の[ギャラリー]アプリで管理するが、Googleフォトの[フォト]も標準でインストールされており、自動的にバックアップすることもできる。これらに加え、マイクロソフトの[OneDrive]アプリも用意されているため、OneDriveにも写真や動画をバックアップすることができる。

カメラの撮影モードで[その他]を選ぶと、多彩なモードで撮影が可能。よく使うモードは中段やや下の右側の[+]から追加できる。RAWデータ形式で保存したいときは、左上の[EXPERT RAW]を選ぶ
撮影した画像はサムスン独自の[ギャラリー]アプリで閲覧が可能。Googleの[フォト]アプリもインストールされているが、「Galaxy AI」による編集機能を使うときは[ギャラリー]から操作する
桜を背景にポートレートで撮影。モデル:葵木ひな(Twitter:@hina1006ta_aoki、所属:ボンボンファミン・プロダクション
インカメラを使い、ポートレートで撮影。太陽光は右後方からなので、やや逆光だが、自然な色合いで、明るく撮影できている。インカメラは広角の切り替えが可能

 一方、幅広いユーザーが簡単に使える画像編集の機能も充実している。写真内に写り込んでしまった人物などを消去できる「オブジェクト消去」をはじめ、撮影した人物の位置を動かす編集機能なども利用できる。このとき、消去したり、移動した背景部分には、本来、何もデータがないはずだが、この部分の補完には「Galaxy AI」が活かされ、編集後の写真を自然な状態で仕上げることができる。

撮影した画像を[ギャラリー]アプリで表示し、[編集]から[Galaxy AI](星のアイコン)をタップ。左下の影の部分を選択
選択した影の部分を長押しして、[消しゴム]アイコンで削除し、削除した部分をAIで描画する
描画する内容にもよるが、削除部分の画像を生成するため、数秒間、待たされる
無事に左下に表示されていた影が削除された。ただし、「Galaxy S24」と入っていたウォーターマークも削除されてしまった
はじめて[Galaxy AI]を利用した画像編集を利用するときは、「画面を再構成」という注意書きの画面が表示される。背景を塗りつぶす際、編集中の画像をSamsungで保存されることはないとのこと

「AIフォン」の新しい世界を楽しめる「Galaxy S24」

 ここ数年、デジタル社会の新たなステップとして、「AI」が注目され、さまざまな産業分野において、活用が拡がりはじめている。しかし、多くの人にとって、「AI」は「賢そうなもの」だと認識されているものの、「何に役立つの?」「自分の仕事がAIに取って代わられてしまう」といったネガティブな反応を持つ人も少なくない。パソコンではWindowsの「Copilot」によって、生成AIが徐々に身近になりつつあるが、スマートフォンではカメラなどの画像処理などで注目される程度で、スマートフォンの使い方が大きく変わるほどの機能は実現できていなかったように見受けられる。

 今回、発売された「Galaxy S24」は、新たに搭載された「Galaxy AI」を活かし、「ライブ翻訳」「リアルタイム通訳」「チャットの翻訳」「要約」など、普段の生活やビジネスシーンにおいても役立つ機能を実現している。「Galaxy S」シリーズは歴代モデルの着実な進化によって、Androidスマートフォンの『定番フラッグシップ』に位置付けられているが、今回の「Galaxy AI」による進化は、スマートフォンの新しい時代へのジャンプアップを実感できるモデルに仕上げられている。ディスプレイやカメラ、チップセットなど、ハードウェアに加え、ソフトウェアとAIによって、新しい利用シーンを拡げられる一台と言えるだろう。