DATAで見るケータイ業界

「淘汰」から「撤退期」を迎えている国内端末ベンダーの動向

 今年に入り、国内端末ベンダーの撤退が相次いでいる。5月には2021年に新規参入を果たしたバルミューダが撤退を発表したのに続き、京セラも個人向け携帯電話事業の終息を発表した。

 そして、大きな話題を呼んだのが、らくらくホンを手がけるFCNT(旧 富士通コネクテッドテクノロジーズ)の民事再生手続開始の申立てだった。今回は、通信技術が3Gから4G、そして5Gへと進化していく中、国内端末ベンダーがどのような栄枯盛衰を経てきたか、当時の市場環境を含め検証していきたい。

2000年代は鎖国状態の下、淘汰の時代

 第二世代(2G)のPDC(Personal Digital Cellular)は、日本だけで利用されたデジタル携帯電話の通信技術だったことから、国内端末ベンダーは鎖国状態の下、携帯キャリア依存型のビジネスで成長してきた。

 当時は20社近くの国内端末ベンダーがひしめき合っていたが、淘汰の契機となったのは、通信技術が世界標準の3Gとなり海外端末ベンダー参入の扉が開いたこと、そして2011~2012年頃に起きたガラケーからスマホ切り替えという地殻変動だった。

 2004年4月に設立されたカシオ日立モバイルコミュニケーションズは、2010年4月にNECと統合しNECカシオモバイルコミュニケーションズを発足し生き残りを目指した。

 また、初の国内端末ベンダー同士の事業統合として話題になったのが、2008年4月の三洋電機の事業再編を受けた京セラによる事業承継だった。同時期には、折りたたみケータイ全盛の中、フリップやスライド機構を採用していた三菱電機も出荷台数の低迷を受け撤退を表明した。

 この時期、国内端末ベンダーの撤退が相次いで起きた背景の1つとして挙げられるのが、総務省から2007年9月に発表された「モバイルビジネス活性化プラン」だ。

 この影響で販売奨励金が大幅に減額され、端末価格が高くなる一方で、割安な料金プランを選択できるという新販売方式が導入された。これにより端末価格が高騰したことで買い替えサイクルが長期化。その結果、端末市場が急減していった。

 「モバイルビジネス活性化プラン」は、これまで右肩上りで成長してきた国内端末市場に冷水を浴びせるきっかけとなった。

スマホ時代はiPhone旋風により、国内端末ベンダーの撤退が本格化

 その後、市場はアップルによるiPhoneの登場によってスマホ化が進んでいくが、生き残った国内端末ベンダーはAndroidスマホを投入するも不具合が多発し、皮肉にもその後のiPhone一強を推進してしまった。

 市場は、いち早くiPhoneを扱ったソフトバンクがシェアを拡大させ、2011年からはKDDI(au)も追随。これに対して最大手のNTTドコモは2013年夏、ソニー「Xperia A」とサムスン電子「Galaxy S4」の2端末を全面に押し出していく「ツートップ戦略」で対抗した。

 しかし、これが国内の端末市場を牽引してきたNECやパナソニックのスマホ撤退を決定づける。NECは2013年7月、スマホの開発と生産からの撤退を正式発表した。同社の2013年Q1期の出荷台数は前年同期から半減した。続く9月には、パナソニックも個人向けのスマホ事業からの撤退を表明した。

 ツートップ戦略は一定の効果はあったものの、iPhone旋風には抗えず、結局2015年のiPhone 5sからはNTTドコモも取り扱いがスタートすることとなった。

 通信技術が国際標準である4Gへ進化していった2010年代。グローバルベンダーの参入が本格化、先に述べたiPhoneに続いて2010年10月にはサムスンの「Galaxy」、2018年11月にはグーグルの「Pixelシリーズ」など、メガブランドが国内参入を果たした。そうした中、国内スマホベンダーは、2010年10月に東芝を吸収した富士通、京セラ、シャープ、ソニーに限られ、存在感は弱くなっていく。

 この流れに拍車をかけたのが2015年当時の安倍晋三首相が携帯電話の料金引き下げを検討するよう指示したスマホに関する指針だった。端末割引の原資を通信料金の引き下げに充てるよう促すもので、市場での実質ゼロ円端末排除を目指した。

 その後、2017年6月1日以降に発売されるスマホについては、2年前の同型機種の下取り価格以上の実質価格で販売することを求める指針を発表するなど、更なる是正が行われた。これにより端末ベンダーは更に苦境に陥り、今年5月の京セラやFCNTの撤退へ繋がっていく。

国内端末ベンダーの変遷

グローバル端末ベンダーの参入が「垂直統合モデル」を破壊

 元々、国内端末ベンダーは、コンセプトや製品仕様に携帯キャリアの意向が強く反映され、端末ベンダーは携帯キャリアから開発承認を得たのちに製造し、一定量を携帯キャリアが買取るという「携帯キャリア依存型のビジネスモデル」の下で成長してきた。携帯キャリアが流通、端末、インフラ、通信サービス、プラットフォームなどを一気通貫に手がける「垂直統合モデル」である。

 iモードや、カメラ搭載、GPSやワンセグ、おサイフケータイなど世界的に見ても高機能端末が開発できた背景には、短期間に高額な開発コストを回収するリスクを端末ベンダーではなく、携帯キャリアが負うことで実現してきた点が挙げられる。

 加えて、もう1つの論点として取り上げたいのが、「通信料金」と「端末価格」一体型の提供方式だ。これにより、高機能端末のコストを通信料金でカバーできるという相互補助が可能となり、結果として高機能端末を低価格で提供できるという日本独自のエコシステムが実現した。

 以前に国内端末ベンダーの関係者から指摘されたのは、「優秀な技術者は国内にべったりで、海外に振り分けることができない」という声だ。短期間で高機能端末を開発するため、国内端末ベンダーは、それこそエース級の人材を投入してきた。このあたりが海外市場の開拓でことごとく失敗してきた理由の1つではないか。

 スマホ時代を迎え、アップルやグーグルなどグローバル端末ベンダーが参入してくると、自ら開発した端末を海外を含めた複数の携帯キャリアへ提供するという「水平分離型」のビジネスモデルが一気に広がった。国内の携帯キャリアも、それに合った取引関係へと変化していくのだが、国内の端末ベンダーは、この流れに乗って海外市場へ打って出るということはできなかった。

 今や国内端末ベンダーはソニーとシャープ、そして法人向けに特化する京セラの3社しか残っていない。いずれも携帯キャリアとの関係では、独自の距離感を取っていたベンダーであり、今後どのような取り組みを目指すのか注視していきたい。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/