石川温の「スマホ業界 Watch」

「ドコモSMTBネット銀行」は親しみやすい? 新たな名前と体制に見える“大人の事情”とは

 NTTドコモが2026年8月、傘下の住信SBIネット銀行を「ドコモSMTBネット銀行」にすると発表した。

 社名についてNTTドコモの前田義晃社長は「あえて奇をてらわないのは、NTTドコモと三井住友信託銀行とドコモが一丸となって経営にコミットし、新たな銀行のさらなる成長を目指す強い決意の証。お客様に身近で親しみやすい存在を目指す」と説明した。

 しかし、個人的には「もうちょっとなんとかならなかったのか」と突っ込みたくなってしまった。

 本来であれば「ドコモ銀行」ぐらいスッキリした名前にしたかったのだろう。しかし、三井住友信託銀行も出資しているとあって、三井住友信託銀行の名前を残さなくてはならないという大人の事情があるのだろう。

 とはいえ、なぜ「SMTB」になってしまうのか。アルファベットは3つまでは覚えやすいが、4つとなると一気に覚えにくくなる。SMTBで通じるのは金融業界関係者ぐらいなものではないのか。ドコモSMTBネット銀行という名前は前田社長が語る「身近で親しみやすい存在」とはほど遠いように感じる。

 三井住友信託銀行の名前を残す必要があるのならば「ドコモ住信銀行」のほうが、わかりやすくて覚えやすいのではないか。

 今回、NTTドコモと住信SBIネット銀行、三井住友信託銀行の3社長が登壇する記者会見を取材したが、NTTドコモが主役というよりも、住信SBIネット銀行と三井住友信託銀行のほうが、前のめりなプレゼンをしていた印象が残った。

 三井住友信託銀行は12月25日に、NTTドコモから500億円で住信SBIネット銀行の株式を一部、譲渡してもらう。また、住信SBIネット銀行は300億円の第三者割当増資を行い、三井住友信託銀行が引き受ける。

 これにより、三井住友信託銀行の住信SBIネット銀行への出資比率は34.19%から44.63%に上がる。議決権比率は50:50で変わらないが、三井住友信託銀行の住信SBIネット銀行に対するやる気ぶりが伝わってくる。

 三井住友信託銀行の大山 一也社長は「今後の成長に向けて積極的な投資を行った。ドコモSMTBネット銀行になったことで、我々と一体的に柔軟な経営が可能になった。我々は資本の活用フェーズにある。住宅ローンなどはドコモSMTBネット銀行に任せ、我々は富裕層向けにリソースを振り分けていきたい」と語った。

 住宅ローンに強いドコモSMTBネット銀行に対して、三井住友信託銀行は積極的に資本を増強させていく。この資本を元に、ドコモSMTBネット銀行はさらに住宅ローンを増やしていくという流れを作りたいようだ。

三井住友信託銀行の出資比率上昇が今後のドコモの課題に?

 三井住友信託銀行の関与が大きくなったことで、ドコモSMTBネット銀行は他のキャリア系銀行に比べて、多様なサービスを提供できるようになったようだ。特に資産運用相談や不動産、遺言、相続などの専門的なサービスも今後、展開されるようだ。

 ドコモSMTBネット銀行を介して、NTTドコモユーザーと三井住友信託銀行が近くなるというメリットは期待できる。

 しかし、一方で、三井住友信託銀行の出資比率が上がったことで、NTTドコモがやりたい銀行業を自由にかつスピーディにできるのかという点に不安が残る。

 NTTドコモとすればドコモSMTBネット銀行で新たなサービスや機能を盛り込もうと思えば、三井住友信託銀行にもお伺いを立てないといけないだろう。

 「共同経営パートナー」と言えば聞こえはいいが、同じ方向を向いて手を取り合ってドコモSMTBネット銀行を経営していけるのかが大きな課題と言えそうだ。

 議決権は半々であるが、もうちょっとNTTドコモが主導権を握ってドコモ色の強い銀行にできないものか。

 住信SBIネット銀行・円山 法昭社長のプレゼンでは、AIによってアプリの操作体験を変える「NEOBANK ai」のベータテストを2月から開始すると発表。また、単なる銀行機能だけでなく、将来的には他社が経済圏を形成できるような「スマートライフプラットフォーム」の提供を目指すとしていた。

 住信SBIネット銀行からはNTTドコモに頼らなくても、独自に進化していけるという意気込みを感じたのだった。

 本来、NTTドコモが喉から手が出るほど欲しかった銀行がようやく手に入り、いよいよNTTドコモと銀行が連携していくという抱負を語る会見だったはずだ。

 しかし、蓋を開けてみると、NTTドコモはどこか遠慮しているように見え、ドコモSMTBネット銀行は独立独歩、三井住友信託銀行のメリットばかりが目立った。

 確かに給与の受け取り口座にしてドコモ回線とセットにするとdポイントが貯まったり、dカードの引き落とし口座にすると還元率がアップするなど、得するサービスがNTTドコモユーザーに用意される。

 NTTドコモは住信SBIネット銀行の買収に4200億円をつぎ込んだ。せっかく銀行を手にしたのだから、もうちょっとNTTドコモユーザーがワクワクするような銀行名やサービス、機能を用意できなかったものか。

 本格的なサービス展開は2026年8月だが、それまでにはもうちょっと「ドコモだけしかできない銀行」への進化を期待したいものだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。