石川温の「スマホ業界 Watch」

「YouTubeから楽天市場」に至る必然、弱点を外部で補う楽天のしたたかな戦略とは

 YouTubeは「ショッピング アフィリエイトプログラム」を日本に導入すると発表。国内初のパートナーに楽天市場が選ばれた。両社による発表会には楽天グループの三木谷浩史会長も登壇した。

 YouTubeの「ショッピング アフィリエイトプログラム」はクリエイターがアップしている長尺動画やショート動画、ライブ配信、投稿などに、店舗が扱う商品を直接タグ付けできる機能だ。YouTubeを経由して商品が購入された場合、クリエイターは収入を得られるようになる。

 自動タグ付け機能を使うと、クリエイターが説明欄に記載した動画内の商品が、動画内の最適なタイミングで自動的にタグ付けされるようになるという。クリエイターは個別にタグ付けをする手間を省けるというのが魅力だ。将来的には、動画内で紹介された対象商品をAIによって、自動的に特定、タグ付けする機能も展開したいとしていた。

 会見ではYouTubeとショッピングとの相性がいいという点が強調された。2025年、グローバルでのショッピング関連の動画における総視聴時間は400億時間に達したという。日本においても、前年比180%増で総視聴時間が伸びている。

 どこまで信じていいかわからないが、YouTubeによれば「『YouTubeは最も信頼できるプラットフォーム』と答える日本の視聴者が76%もいる」とのことだ。

 YouTubeとショッピングの相性がいいというのは、やはり視聴者がクリエイターを信頼しながら動画を視聴し、納得しながら購入に至っているという点が大きいだろう。

 ただ、これまでのYouTube発の買い物体験では、クリエイターの動画を見ながら、メモをとったり、コピペするなどして、ググったり、他の通販サイトを訪問して購入するという煩わしさがあった。

 今回、YouTubeと楽天市場がタッグを組んだことで、そうした面倒くささがなくなり、動画視聴からシームレスに買い物へ移行できるようになる。

 YouTubeがショッピング アフィリエイトプログラムの国内初となるパートナーに楽天市場を選んだことは、正直言って、とても良かったのではないか。

 発表会に登壇した三木谷浩史会長が「楽天市場は創業時からショッピングはエンターテインメントだと言い続けてきた。買い物をする人と売る人がつながり、買うという行為を楽しめることが大事だ」と力説していたのが印象的であった。

 楽天グループを取材していると、楽天市場に出店している店舗の人たちをとても大切にしている印象が強い。ECコンサルタントという名の営業担当者が、出店している店舗がいかに集客し、売上を上げられるかを店舗と二人三脚で取り組んでいるのだ。

 楽天市場だけでなく、楽天トラベルなど他のサービスでも同様の取り組みをしており、IT企業と言うより、体育会系な一面が強いようにも感じる。楽天市場から出店者を奪おうと「出店料ゼロ円」にした企業もあったようだが、思ったほど楽天市場を切り崩すことができたという印象はない。

 「人の魅力でモノの良さを伝える」というのはYouTubeのクリエイターが得意とするところであり、「店の魅力でモノを売る」というのは楽天市場に出店している店舗の強みだ。この両社がタッグを組んだことで、相当、強い動画コマース市場が誕生したように感じる。

 ここ最近、楽天グループは単に自分たちの経済圏にこだわることなく、他の強力なパートナーとのシナジーを出すのが上手くなってきているように見える。

 例えば、楽天モバイルでいえば「U-NEXT」とタッグを組んで、新たな料金プランを作っている。楽天モバイルの課題は「ARPU(一人あたりの通信料収入)の低さ」にある。3GB以下は1078円、使い放題は3278円という段階制を採用していると、なかなか通信料収入が増えていかない。

 そんな中、U-NEXTを組み合わせた「楽天最強U-NEXT」では税込み4268円で動画やアニメが見放題になる。契約さえしてくれれば4268円というARPUになるのは、楽天モバイルにとってかなり魅力だろう。

 また、楽天グループは昨年末、Uberとも提携している。Uberの「乗車」だけでなく、Uber Eatsの「配達」で、楽天ポイントが貯まりやすくなるという施策だ。

 動画、タクシー、デリバリーなど、楽天グループは自社で弱いところを、外部の強いパートナーシップで埋めようとしている。パートナーを組む側として、楽天経済圏にいる1億を超えるID・ユーザーが自社のサービスに流入してくる可能性は計り知れない。

 楽天グループとしては、あとは「楽天モバイル」を早期に黒字化することが最大の課題だ。Eコマース、金融、トラベルなどが堅調に成長を続けているだけに、「通信」がグループの足をひっぱらない体制を築ければ、国内でもトップを走るインターネットカンパニーになれるのではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。