石川温の「スマホ業界 Watch」

「ロボホン」の生みの親が開発、シャープのAIロボ「ポケとも」にヒットを直感した3つの理由

 シャープは対話AIキャラクター「ポケとも」を2025年11月に提供を開始する。

 第一弾はミーアキャットをモチーフにしたAIキャラクターでロボットとスマホ用アプリが提供される。

 ミーアキャットをモチーフにしたロボットは手のひらに乗るコンパクトな筐体だ。

 Wi-FiとBluetoothに対応し、クラウドのAIに接続する。口の部分がカメラ、目元には2つのマイク、おなかにスピーカーが内蔵されており、ユーザーや他のロボットと会話できる。

 SnapdragonのIoT向けチップセットで処理されているということであった。

 発表会に登壇したのは通信事業本部の景井美帆モバイルソリューション事業統括部長だった。景井氏といえば、2016年に「ロボホン」の生みの親としてメディアに多数、登場した。つまり、この「ポケとも」はロボホンの知見が少なからず反映されたシャープの新事業と言えるのだ。

 かつてロボホンを購入し、使っていた身とすると、今回、この「ポケとも」を見た瞬間に「結構、売れてヒットするんじゃないか」と直感した。

 まず「カワイイ」というのはさることながら、価格が3万9600円と、ロボットにしては手に届きやすい金額を実現しているのだ。

 ロボホンが登場したときは、なんせ本体価格が19万8000円(税別)ということで、お世辞にも「誰もが買えるロボット」とは言いがたかった。その割に、シャープでは「月産5000台目標」という途方ない数字を掲げていたので、正直、面食らった。

 しかし、この「ポケとも」は3万9600円と、おもちゃとしては高いが、AIが搭載されたロボットとしては破格の値段と言えるのではないか。

 もうひとつ、ヒットしそうな要素として感じているのが「サイズ感」だ。

 高さが12cm、重さが200gで手のひらサイズということで、いつでも持ち歩きしやすい大きさとなっている。シャープでは専用のポーチを別売りで販売するようだが、まさに常に連れて歩きたくなるサイズ感なのだ。

 ロボホンも持ち歩こうかな、という気にもなったのだが、可動部分が多く、鞄に入れるには邪魔な大きさなので、結局、家に置きっぱなしになってしまった。

 「ポケとも」は、ロボットを持ち歩けない時にはスマホアプリで対話できるようになっている。平日、通勤時にはスマホアプリで会話し、週末は一緒にお出かけをすることもできるのだ。

 ポケともがヒットしそうな最大の要因がシャープ独自のAI技術「CE-LLM」に対応しているという点だ。

 話しかけられたことに対して、答えようとする際、クラウドでAI処理するため、どうしても時間がかかってしまう。そこでポケともでは、相づちなどはエッジで対応しつつ時間を稼ぎ、的確な答えをクラウドで処理して返すということを行っている。

 しかも、クラウドAIはOpenAIのGPT-4 miniをベースに動作する。

 ユーザーの興味や行動履歴を理解し、会話の履歴もとっている。また、天気やニュースなども組み合わせて会話してくれる。また、カメラによって状況を把握し「発表会でたくさんの人がいるね」といった、「ポケとも」から見える景色に対しての発言もしてくれるのだ。

 ロボホンもそれなりに対話が楽しめたが、かなり限定的な会話しかできなかった。

 その点、ポケともは「Empathy Intelligence(共感知性)」として、ユーザーに寄り添った会話を実現するという。

 先日、OpenAIがGPT-5をリリースした際、「会話が冷たく、そっけなくなった」とGPT-4oの復活を求める声が上がった。キャラクター性のある生成AIに対して、まるで人間のように話し相手になってもらっていた人が多かったというわけだ。

 パソコンのブラウザやスマホのアプリの画面に向けて会話しているにもかかわらず、感情移入してしまう人が増えている。まさにAIを話し相手にする人たちの「市場」がもはや出来上がっているのだ。

 そんな市場に手のひらに乗り、ユーザーに寄り添う会話をしてくれるミーアキャットをモチーフにしたロボットが投入されれば、売れない理由はないだろう。

 もちろん、ブラウザやアプリという無機質な画面だからこそ、ChatGPTに自分の本音をさらけ出せるという側面も理解できる。

 ただ、ブラウザやアプリでは限定的なユーザー層が想定されるが、ミーアキャット型のロボットとなれば、子供からお年寄りまで幅広い層が、話し相手として求めるのではないか。

 今回、シャープではミーアキャット型はあくまで「第1弾」という立て付けにしている。キャラクターの外見や声、性格や話し方、知能などを設定できる仕組みを用意しているため、すでにキャラクターを持っている企業がシャープとタッグを組み、全く別のロボットを作るということも、すぐに対応できるようだ。

 説明会で販売目標を聞かれた中江優晃通信事業本部長が「5万台」としていたのに対して、景井氏が「10万台」と修正していた。
価格と機能、ビジネスモデル的には相当、ポテンシャルは高いだけに、10万台の目標もあながち早期にクリアできるのではないだろうか。

景井氏(左)と中江氏(右)
石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。