石川温の「スマホ業界 Watch」

シェア低下に不具合発覚――それでもソニーが「Xperia」を続ける理由

 ソニーは2025年8月7日に決算説明会を開催。CFOである陶琳氏がXperia事業に対して「我々にとってとても大切なビジネス」と語り、今後も継続する姿勢が示された。

 事の発端は、「Xperia 1 VII」における回収騒動だ。

 今年6月5日に発売された「Xperia 1 VII」は「電源が落ちる」「再起動がかかる」「電源が入らない」といった事象が発生。7月に入って、製品の回収、交換といった措置が行われた。

 陶琳氏は「「Xperia 1 VII」の不具合については製造プロセスの問題と判明して、対応はすでに行っている。品質はソニーにとって重要な経営課題だと認識している。今後、再発しないようにしていきたい」とコメントした。

 Xperiaファンにとってみれば「ソニーが今後もXperiaを作り続けるのか」というのは、とても気になるところだろう。

 iPhoneを取り扱っていなかったNTTドコモがGalaxyとともに「ツートップ」と高らかにXperiaを訴求したのは今から12年も前のことだ。

 その後、NTTドコモもiPhoneを扱うようになると、Xperiaの存在感は次第に薄れていくようになる。MM総研が発表した2024年通期の国内携帯電話出荷台数シェアでは、アップル、シャープ、グーグル、サムスン電子、FCNT、シャオミといった順位のなか、ソニーの名前を見つけることはできず、「その他」のなかに入ってしまっていたようだ。

 昨年、ソニーはXperia 5シリーズの投入を見送り、Xperia 1 ⅥとXperia 10 VIの2モデルに絞り込んでいた。ソニーとしては、いたずらに台数は追わず、事業経営の効率化を優先させた。

 そんななか、同事業のフラッグシップモデルである「Xperia 1 VII」で回収衝動を起こしてしまったのは、本当に手痛いミスだろう。

 カメラの使い勝手を上げ、ウォークマンと同等の部材を使って音のクオリティを上げるなど、Xperiaにおける完成度が高まった商品だっただけに何とも残念だ。

 陶琳氏が「スマホビジネス自体は大事なビジネス。通信はスマホ以外にも使われる要素であり、引き続き育てていきたい」と語ったことは、数年前から変わらぬスタンスであることは間違いない。ソニーとしてはXperia事業は単なるスマホ販売としては捉えておらず、「通信技術をいかに他の事業に応用していくか」という考えでXperia事業を行っているのだ。

 実際にさまざまな応用事例が出始めている。

 たとえば、昨年発売されたデータトランスミッター「PDT-FP1」は、ソニーの「α」などと接続し、5G通信で画像や映像を伝送できる機器となっている。

 見た目はごついXperiaのようだが、ファンが内蔵されており、炎天下での長時間のストリーミング配信でも落ちない安定性を誇っている。

 昨年はパリでオリンピック・パラリンピックが開催されたが、多くのスポーツカメラマンがPDT-FP1で、競技場から写真を送信したという。通常、カメラマンが写真を編集部に送る際には、一度、プレスルームに戻っての作業が必要だが、PDT-FP1があれば、その場ですぐに伝送できる。

 Web向けの記事を公開するため、一刻一秒を争うなか、PDT-FP1によって、現場作業の効率化につながったようだ。

 ソニーがXperia事業を続けることで得られるメリットとして大きいのは、今後も6G、7Gと進化を続けるセルラー通信の世界に首を突っ込んでおけるだけでなく、グーグルとクアルコムとの関係を維持できることにあるのではないか。

 グーグルとはAndroidで深い関係性を持っている。グーグルとしても、Androidはスマホ向けだけのOSとしては捉えておらず、Chromeデバイスとの融合や、すでに開発が進んでいるXRデバイスなど横展開が進みつつある。ソニーとしてもAndroidを手がけていれば「スマホ以外のデバイス」への進出もスピーディに行えるようになるだろう。

 また、同じくクアルコムと組んでいることでも、同様にスマホ以外の進出が期待できる。

 実際、ソニーはホンダと共に電気自動車「AFEELA」を開発、2026年には市場にデリバリーするように動いている。

 AFEELAでは、クアルコムのデジタルプラットフォーム「Snapdragon Digital Chassis」を採用。スマホ作りの延長線上で、クルマをつくることを可能にしたのだった。

 また、AFEELAではKDDIの通信モジュールを搭載しているなど、これまたXperiaでの関係性が生かされた格好だ。

 ソニーにとって、Xperiaは、より幅広く新しい事業展開につながる、コア事業であることは間違いない。あとは1回の不具合騒動でファンから心配されるような弱々しいラインアップではなく、かつての勢いを戻し、販売シェアで上位に食い込むような、魅力的なXperiaを再び作ってほしいものだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。