石川温の「スマホ業界 Watch」
世界初、スターリンクとauスマホで「山や海でもアプリが使える」――気になるiPhoneとLINEの対応
2025年8月29日 06:00
KDDIは世界初となる衛星とスマホの直接データ通信を開始した。
すでに「au Starlink Direct」として衛星とスマホの直接通信を実現しているが、SMSやRCS、iMessageなどメッセージサービスのみが使えていた。
8月28日からは特定のアプリでのデータ通信も可能となった。
衛星とスマホの直接通信はそもそも、アメリカのT-MobileとStarlinkを手がけるスペースXが2022年に発表したものだった。KDDIも2023年にStarlinkとスマホとの直接通信を2024年に開始すると発表。今年4月、松田浩路新社長体制になって、au Starlink Directが商用サービス開始となった。
実は真っ先にサービスを開始するとアナウンスしていたT-Mobileは、メッセージはこの7月、データ通信は今年の10月中に開始するとしている。
つまり、KDDIがやる気がありすぎたのか、前のめりで取り組んでいたら、いつの間にかT-Mobileを追い抜き「世界初」の称号を手にしてしまったことになるのだ。
衛星とスマホが直接データ通信を行うには、OSやアプリ側の対応も必要になってくる。そのため、KDDIでは登山や釣りなどで便利なアプリを19個、対応アプリとして用意した。
KDDIとしては対応アプリを増やしたいため、パートナー向けに「アプリ開発サポートサイト」を近日、開設する予定だ。
ただ、何でもかんでもアプリがau Starlink Directに対応できるわけではないようで、例えば、動画配信や音声通話アプリなどは帯域の問題もあって、快適には使えないため、対応できないようだ。
本来であれば「LINE」が使えるととても便利と思えるが、LINEはKDDIのライバルであるソフトバンクの傘下でもある。LINEはあえてこのタイミングでは対応を見送り、来年、ソフトバンクが「衛星との直接通信」を始める時に対応してくるのではないか。
現状を見る限り、KDDIが世界でトップを独走しているため、孤軍奮闘してアプリを集めている感がある。ただ、Starlinkによる衛星とスマホの直接通信が世界的に広がるようになると、対応アプリも一気に増える可能性が高まる。
すでにau Starlink Direct向けでも、グーグルはGoogleマップを対応させているし、スペースXの創業者であるイーロン・マスクつながりでX(旧:Twitter)も利用可能となっている。
実際、アメリカではT-Mobileがサービスを開始すれば俄然、アメリカのアプリ事業者はやる気を出し、FacebookやInstagramなどが一気に対応してきてもおかしくない。
気になる「iPhone」の対応
もうひとつの起爆剤となりそうなのがiPhoneの対応だ。
4月のメッセージ系サービスの対応ではiPhone 13シリーズ以降のiPhoneで利用できたが、今回のデータ通信に関しては、iPhoneはいまのところ非対応となっている。
説明会の質疑応答で「iPhoneは(新製品が出る)9月に間に合うのか」と質問したところ「メーカーと協議を進め、できるだけ速いタイミングで、できるだけたくさんの端末で対応できるようにしたい」(パーソナル事業本部サービス・商品本部、早瀬聡サービス開発部長)とのことだった。
衛星とスマホが直接、データ通信を実現するにはOS側の対応も必要となってくる。アップルとしてはこの9月に次期OSとなる「iOS 26」へのアップデートを予定している。
アップルとしても、当然のことながら、アメリカ市場、さらには日本市場をとても重視している。ライバルであるグーグル・Pixelに先行されることは嫌がるだけに、この9月には衛星とiPhoneの直接データ通信が使えるようになるのではないだろうか。
9月9日(現地時間)にアップルはスペシャルイベントを予定しているだけに、衛星周りでどのようなアップデートを発表するのか、注目しておきたい。
なんせ、「世界初」なだけに、KDDIはスペースXだけでなく、グーグルやアップル、さらにはアプリ開発者、お役所など、さまざまな方面との調整に相当、苦労しているようだ。
そんななか、来年、NTTドコモとソフトバンクも衛星とスマホの直接通信を開始する。KDDIが先頭を走り、苦労して作ってきた道を余裕の表情で後追いしてくることだろう。
NTTドコモとソフトバンクが開始する前に、いかに「Starlinkで、全国どこでもつながるau」というブランドイメージを構築して、他社からユーザーを獲得できるか。
KDDIに残された時間は1年を切ろうとしている。







