インタビュー
「AQUOS R10」はチップセット据え置きでも性能向上、シャープのキーパーソンに聞く開発サイクルの展望や海外展開の今
2025年6月20日 00:01
シャープが発表した「AQUOS R10」、「AQUOS wish5」は、カメラ、AI、ディスプレイ、そして価格とのバランスにこだわったという新型スマートフォンだ。
同社通信事業本部本部長の中江優晃氏と、通信事業本部パーソナル通信事業部事業部長の川井健氏が本誌を含むグループインタビューに応えた。
価格帯と性能のバランスを追求
――今回、「AQUOS R10」の価格は、オープンマーケット版(SIMフリー版)で10万円~11万円程度です。
中江氏
その価格帯は、やはり注目しています。お客さまにとって、価格と性能のバランスが一番良いと思っています。
それ以上の価格帯になると、一気に20万円前後の製品になっているんですが、価値に対して価格が高すぎると感じられる方もいます。
――出荷数で見ても、でしょうか。
中江氏
ボリュームゾーンはもう少し安い価格帯になります。ただ、10万円帯は、AQUOSブランドとして価値を載せて、認めていただけるゾーンかと思っています。
――なるほど。
中江氏
たとえば、今回、「AQUOS R10」のチップセットは、「AQUOS R9」と同じ「Snapdragon 7+ Gen 3」です。一方で、「AQUOS R10」の冷却システムは進化させています。
つまり、「AQUOS R9」から進化していないのではなく、「Snapdragon 7+ Gen 3」の性能をより引き出していると言える。最高性能で処理できる時間を増やせることになり、チップセットを変えずとも、パフォーマンスが上がったように感じていただけるんです。
カメラもAIも、「Snapdragon 7+ Gen 3」は十分な処理能力を備えています。
――価格にはこだわったと。
中江氏
はい、そうです。2024年度で手応えを感じた点です。「AQUOS R9」から共通化できるところは維持しつつ、変えなきゃいけないところには投資しました。そして、「AQUOS R9 pro」のようなハイエンドモデルで培った技術から流用できるものもあります。
シャープの持つ資産を全て活用しました。
AQUOSが選ばれる理由
――ちなみに、クアルコムのチップセット(SoC)である「Snapdragon」の型番は、一般の方にどれくらい意識されていますか。
中江氏
正直に申し上げると分からないところもあります。ただ、お客さまが購入される際、そこを意識されている方は少ないと思っています。ある程度の性能を超えるとおそらく、そのあたりは勝負ではなくなるのでしょう。
――では、AQUOS Rシリーズを選ぶ方は何を軸に選ぶのでしょうか。
中江氏
ひとつは、これまでもAQUOSシリーズを使っていただいていた場合です。まず最初に選択肢へ入れていただけているようです。
もうひとつはカメラです。この数年、ライカさんとの協業を進めてきたことで、AQUOSシリーズのカメラ性能が格段に上がりました。そこを評価していただいています。ここはライカさんのブランド力。
また、電池持ちの性能も評価されてきています。
この1年では、デザインの刷新も評価されたと思っています。スマートフォンのデザインが似たようなものになりがちな中で、際立つデザインを採用したこともひとつのポイントかなと。
AQUOS R9/R9 proはどれだけ売れた?
――2024年の終わりに、中江さんへインタビューした際、「AQUOS R8と比べ、AQUOS R9は3倍売れた」という話でした。2024年度通期で見ていかがでしたか。また、「AQUOS R9 pro」の売れ行きは?
中江氏
3倍という数字はそのままです。
また、「AQUOS R9/R9 pro」と「AQUOS R8/R8 pro」で見ると、1.4倍程度でした。
川井氏
2024年度は、「AQUOS R9 pro」が冬モデルとして登場しました。夏モデルだった「AQUOS R8 pro」とは時期がズレているため、純粋な比較は難しい側面があります。
――AQUOS R8 proと比べると、AQUOS R9 proはだいぶ製品の方向が変わりましたよね。
中江氏
はい、「AQUOS R9 pro」は本当にこだわりを持った人へ届ける製品に仕上がっています。
――AQUOS Rシリーズを手にする層に変化は?
中江氏
女性比率が少しだけ上がりましたね。ただ、10代~20代へのアプローチは難しい。ほぼiPhoneを利用されていて、選んでいただけるようにするのは本当に難しい。
――30代以降になると、Androidの利用比率が伸びて全体的にはiPhoneとAndroidの利用比率が50:50という話もあります。
中江氏
全体の傾向というわけではないと思うのですが、ちょっと話を聞いていくなかで気になったのが「iPhone疲れ」という言葉です。
「疲れ」が価格面のことなのか、別のことか、ふと「iPhoneじゃなくていい」というタイミングがあると。
川井氏
Android陣営のメーカーとしてはファーストスマホのようなポジションを狙うという選択肢もあるでしょうが、「みんなが持っているもの」として切り替えられてしまうこともあります。難しいですね。
ボディはあえて変えず
――「AQUOS R10」のサイズは「AQUOS R9」と同じですよね。
中江氏
はい、そうです。
――ケースも?
中江氏
はい、同じものも使えます。
――それはあえて狙ったと?
中江氏
はい、その通りです。アクセサリーの種類は、Androidスマートフォンの課題のひとつです。
ただ、「AQUOS R10」のカラーバリエーションは「AQUOS R9」とは異なります。同じケースを使っても、その組み合わせはR10とR9で、また別の楽しみ方ができます。
製品開発サイクルの新たな取組み
――ケースが同じもの、ということですが、チップセットも先代と同じです。2年に一度、大きく変化するということになるんでしょうか。
中江氏
それはとても良い質問ですね……今の段階では、なかなか言いづらいのですが、そういうことになるのかな、という気はしますね。
技術の進化もちょうどそれくらいのスパンなのかなと。
現在のトレンドとしては、どちらかというとAIサーバーなどのほうに重きが置かれています。モバイル側に降りてくるのは、だいたい2年ほどかかるのではないか。
あらゆるデバイスの進化は2年レンジで見たほうがいい気がしています。
川井氏
とはいえ、今回、「進化のサイクルを1年から2年にしよう」とは考えていたわけではありません。
今回は「AQUOS R9」で刷新したデザインを続けたいという想いのほうが強いです。
今後については、刷新までの時間が短縮されることは考えづらい。
価格帯によっては「1年で商品を変えるのか」という話は出てきつつあります。メーカーとして、どう捉えて、どう取り組むかは、今後いろいろ検討すると思います。
ミリ波への対応
――「AQUOS R10」、「AQUOS wish5」どちらもミリ波には非対応ですが、ミリ波への考え方は?
中江氏
価格とのバランス、そしてお客さまの声をちゃんと注視しなければいけないと思っています。
――ニーズはありますか?
中江氏
ミリ波の有無が、購入時の選択を左右するかといえば、まだどなたも意識していない。それが今の実態だと思います。
ミリ波は、通信環境の発展や通信品質向上に役立つものでしょう。しかし、お客さまに実感していただく必要があります。「ミリ波対応がやっぱりいいな」と言っていただけるようなユースケースは、もう少し様子を見ないといけないかなと。
――キャリアからのリクエストは?
中江氏
どちらかといえば、メーカーに任されている点です。もちろん対応を求めるところもあれば、価格とのバランスという話もあります。
――ミリ波対応機種への割引もあります。
中江氏
はい、販売時の施策という面は確かにあると思います。ただ、そのために搭載するというのもちょっと本末転倒と言いますか。
より高いレベルの通信品質を体験していただくための仕様ですので、割引のために載せるものではないかなと。
――「ネットワークを整備して、割引も活用するからミリ波に対応してくれ」とキャリア側が覚悟すれば、また話が違いそうです。
中江氏
確かにインフラ面も含めての端末側の対応でしょうから、そういう流れを注視したいです。
海外展開の現状と今後
――海外での展開についてはどうでしょう。
中江氏
台湾では、昨年(2024年)から現地キャリア(携帯電話会社)で取り扱われるようになりました。それで発表会でも「海外で好調です」と表現したんです。
――どちらのキャリアになるんでしょうか。
中江氏
中華電信(CHT)と台湾モバイル(台湾大哥大)です。
――日本でのビジネスとの違いは?
中江氏
ビジネスなので、基本は同じです。しっかりコミュニケーションを取っていく。現地の方で販売・営業体制をしっかり組んでいくというところでしょうか。
――ちなみにオープンマーケット版とキャリア版では、どちらのほうが販売数は多いのでしょうか。
中江氏
台湾はキャリアです。比較的、日本に近いですね。
ちなみにインドネシアはオープンモデルのほうが多いです。シンガポールは半々ぐらいと聞いてますけど、基本的にはオープンモデルのほうが多いと言われていますね。
――AQUOSスマホは海外で日本の製品ということで支持されているという話ですが、製造は日本国内ではないですよね。
中江氏
はい、日本では製造していないです。ただ、メイドインジャパンというより、企画開発が日本というところでの品質があります。
製造を手掛ける工場側が、製品の品質を高くするスキルを保有しているかというと、実のところ、そうでもありません。指示通りに製造しようとするんです。
つまり、製品の品質基準は発注側にある。ほかの企業が製造工場に委託すれば、その企業の品質になります。極端な例かもしれませんが、すごく安く作るような場合、基準が全く異なり、それなりの品質になります。
――台湾キャリアでの取り扱いにあたり、どういった点が評価されたんでしょうか。
中江氏
シャープでは、台湾でも家電事業を展開しています。つまり、まずシャープというブランドに一定の信頼があります。
その上で、「日本でこれだけ売れてますよ」とお伝えしつつ、日本の市場と台湾市場の構造が似ているとお伝えしていきましたね。
――台湾でのAQUOSスマホの競合はどのメーカーになるのでしょうか。
中江氏
台湾では、iPhoneとGalaxyシリーズが本当に強いです。で、AQUOSシリーズにとってはOPPO、vivo、シャオミが競合にあたります。ただ、彼らのほうが(市場シェアは)もっともっと上です。
――Pixelはそうでもないですか?
中江氏
Pixelシリーズは、台湾ではさほど多くないですね。ソニーさん(Xperia)は販売されていて、AQUOSシリーズがキャッチアップしつつあります。
川井氏
台湾に関しては、製品を展開し始めて、3~4年ほど経過しました。これまでも、キャリア直営店でオープンマーケット版として扱っていただいたこともあります。まったくシャープのことを知らない、というわけではなかったんです。
そこで、2024年には「AQUOS R9」「AQUOS wish4」をリリースして、「これいいんじゃない」と思っていただけるタイミングになったのかなと感じています。
――台湾でのサポート体制は?
中江氏
台湾に拠点を設けました。日本から担当者が訪れ、ノウハウを伝えて現地でサポート体制を整えています。
iPhoneとGalaxyが強いとお伝えしましたが、それ以外のメーカーは、いわば団子のような状態です。そこで一歩、抜け出すにはサポートも重要でしょう。
――海外でもやっぱりAQUOS senseシリーズは人気ですか?
中江氏
それが違うんです。小さいと評価されるんですよ(※国内で2024年11月に発売されたAQUOS sense9は6.1インチディスプレイ)。
senseが苦戦しているというのは、海外と日本で異なる唯一の点とも感じています。
AQUOS wishシリーズはディスプレイを大型にしています(※AQUOS wish3は5.7インチ、AQUOS wish4/5は6.6インチ)。これはグローバルを意識していることも影響していますね。
――AQUOS senseシリーズのようなサイズが支持されそうな地域もあっても良さそうですが……。
中江氏
今のところ、日本以外ないんですよね……「コンパクトなスマホが欲しい」という声は、日本ではよく聞くんですけども。
アジア圏では、日本以上に、スマホで動画を見る文化が根付いていて、それが影響しているのかなと感じています。
全社的なAI戦略とAQUOSスマホの関わり
――シャープ全体として、中期経営計画でAIに注力する方針も掲げられています。AQUOSスマートフォンとしては、今回も通話関連などで採り入れられていますが……。
中江氏
全社的に取り組むものと、事業部ごとに取り組んでいるものがあります。製品ごとへの組み込みは各部署になりますが、スマートフォン側にも関わるので連携していきます。
――今後cocoroブランドでAI機能が採り入れられ、といった形ですか。
中江氏
そうですね。シャープ製品のAI機能とAQUOSスマートフォンを連携させる際、スマホ開発チームが一緒にブラッシュアップするといったイメージです。全社横断的なAIチームもありますので、連携していくと。
――かつてAQUOSスマホに搭載されていた「エモパー」は復活しますか?
中江氏
やりますよ。ぜひ取り組みたいと思っています。でも、生半可な形は避けたい。エモパーのなかに生成AIのようなものを取り込む構想はあります。
――中期経営計画は3カ年で進めるそうですね。ということは、エモパーも今後3年で……。
中江氏
はい、その3カ年のなかで、ですね。これまでのエモパーも生成AIではないんですが、AIはAIです。これまでの体験がガラッと変わるのももったいない。
これまで利用されていた方でもスムーズに楽しんでいただけるよう、どういう形がいいのか、ブレストしながら取り組んでいます。
今後のラインナップと戦略
――今回は「AQUOS R10」と「AQUOS wish5」が発表されました。「AQUOS R9 pro」の後継機種は未定といった話でしたが、Rシリーズ、wishシリーズ、senseシリーズ、そしてproという4つのラインアップ、2025年度はどう取り組んでいきますか。またスマホ以外の製品についてはいかがでしょうか。
中江氏
まずスマホ以外の製品についてですが、先日、シャープとしての中期経営計画を発表しました。
そのなかでウェアラブル製品について言及しています。ウェアラブルはスマートフォンとすごく相性が良いですし、最近ではスマートフォン単体で発表するメーカーは少ないほうです。
シャープとしても、スマートフォン+ウェアラブルで、大きく言うと“生活を変える”ような存在になりたい。2025年度はそういったチャレンジの元年になると思います。
スマートフォンのラインアップについては、「3+1」といった捉え方をしています。「Rシリーズ+senseシリーズ+wishシリーズ」はいわばレギュラーです。
もうひとつの「pro」は、社内で「ワクワク枠」とも呼んでいます。とにかく驚きを与えようと。そのときproと名乗るかどうか、色々考え方はあるでしょうが、チャレンジ枠としてお客さまを驚かせようと「3」に加えて「1」に取り組みたい。
ラインアップを固定していくと、それが足かせになって面白いチャレンジができなくなるかもしれません。シャープという会社はお客さまを驚かせてナンボみたいなところがありますので、取り組んでいきたいですね。
――そういえば、「AQUOS wish5」ではディスプレイのリフレッシュレート(画面の表示内容を書き換えるスピード。数字が大きいほど滑らかになる)が120Hzです。エントリーモデルでそのスペックはかなり珍しいのでは?
中江氏
ありがとうございます。気づいていただいて嬉しいです。本当に強化したんです。
発表会ではプレゼンテーションの構成上、詳しくお伝えできませんでしたが、「AQUOS wish5」では、エントリーモデルと思えないほど、相当、滑らかです。
チューニングを突き詰めていまして、エントリーモデルでカクカクとした表示にならず、スムーズにスクロールできるのはたぶん「AQUOS wish5」くらいでは? と自負しています。これは本当にすごいと胸を張れます。
ディスプレイというハードウェアの性能に加えて制御するソフトウェアの開発で頑張りました。
――ディスプレイの表示を制御するチップも注力したのですか?
中江氏
いえ、そこはそんなに、です。「AQUOS wish5」の価格帯では、そこまで性能をアップできません。それでも120Hzで滑らかになるよう、チップとディスプレイの間のソフトウェアでの処理で実現しています。
もうひとつ、カメラも頑張っています。シングルカメラですが、かなり頑張っていて、それでいて価格を抑えています。
――IP69という高スペックの防水防塵にも対応して、単なるエントリーじゃない感じになりましたね。
中江氏
そうですね。はい。だいぶ尖らせましたね。エントリーの中でも、ミッドレンジに近い性能になったかもしれません。
他社との競合と差別化
――2024年、他社から1インチセンサーのスマートフォンが登場し、シャープからは遅れて「AQUOS R9 pro」が登場しました。リテラシーの高い層が先に登場する方を選んでしまうという懸念はありませんか?
中江氏
確かに早く提供した方が強みはあります。そういう意味で(ユーザーが取られるという)リスクはあるでしょう。
一方で、買い替えるサイクルは人それぞれです。わたしたちの商品が登場する瞬間にその買い替えサイクルを迎える方が一定数いらっしゃる。これは、どのタイミングであっても存在すると思っています。
ですので、ターゲット層が全て持っていかれるかといえば、そうではないでしょう。
ただし、(似たようなコンセプトの製品を)シャープから出したときにワクワクしてもらえるかというと、先に出ている製品が存在すると薄れてしまう。できるだけ、コンセプトは被らないようにしていきたいですね。
ちょっと先の商品は、本当にね、何の協業もしていないのにね、めちゃくちゃ似ていて正直、本当にびっくりしたので……そうはならないようにしたいなと思ってます。
――なるほど。本日はありがとうございました。