石川温の「スマホ業界 Watch」
日本のスマホに「9万円の壁」がある理由
2025年7月18日 00:00
ここ最近の日本のスマホ業界には「9万円の壁」というものがあるようだ。総務省による端末割引規制と、ここ数年の円安基調により、スマホは本当に高くなった。
各メーカーのフラグシップモデルは20万円を超え、メモリ容量の大きいものは30万円を超えていたりする。各社ともフラグシップモデルを投入することで、ブランドイメージを作り出すなど効果は期待するものの、売り上げには貢献しないことは十分にわかりきっている。
フラグシップモデルを大々的にアピールしつつ、ミドルレンジモデル以下の端末で数を稼いでいくのが王道だ。
メーカー関係者に話を聞くと、いま、売れ筋というかメーカーとして攻めどころのある価格帯は「9万円以下」になるのだという。
消費者はスマホの価格が10万円を超えると、途端に手が出しにくくなる。そのため、メーカーとしてはなんとか消費者の選択肢に入れてもらおうと、8~9万円あたりの価格設定を目指して商品を開発しているのだという。まさに「9万円の壁」との戦いなのだ。
確かにここ最近の新製品を見ていると、例えばFCNT「arrows Alpha」は8月下旬以降の発売で「8万円台」を市場想定価格としている。
モトローラ「edge 60 pro」も家電量販店のオンラインストアでの価格は7万9800円であった。さらに7月17日発売のOPPO「Reno 14 5G」も同じく7万9800円となっている。
スマートフォンにおける部材コストは、やはりチップセットが大きな割合を占めている。そんななか、9万円の壁を下回るために重宝されているのがメディアテックだ。
先ほど紹介したarrows Alpha、edge 60 pro、Reno 14 5Gはいずれも「Dimensity 8350」が採用されている。画像や映像処理、AIやゲームなどで高い処理能力を誇るチップだ。
FCNTとモトローラは、同じレノボグループということで、相当な数、メディアテックから調達しているものと思われる。そのため、単にコストパフォーマンスのいいDimensity 8350を採用しているだけでなく、ボリュームディスカウントが効いてさらにお買い得に調達できているのだろう。
OPPOも同様に中国市場という巨大なマーケットに向けて大量展開できるため、調達コストを抑えられるはずだ。
もちろん、メディアテックとしても、いまがクアルコムへの攻め時とあって、各社に対して良心的な価格で卸している可能性が高い。
圧倒的な安さのXiaomi
これらのメーカーがメディアテックのDImensity 8350を採用して9万円の壁をなんとかクリアしているのに対して、涼しい顔をしているのが、Xiaomiだ。
同社のサブブランドであるPOCOは新製品として「POCO F7」を発売。クアルコムのSnapdragon 8s Gen4というチップを採用しているにも関わらず、5万4980円(12GB+256GB、市場想定価格)を実現している。
ちなみに同じSnapdragon 8s Gen4を搭載するスマートフォンを見渡してみると、日本では未発表であるが、7月1日(現地時間)」にロンドンで発表されたNothingのPhone(3)がある。
こちらは12GB+256GBモデルで799ドルということで、約11万8800円ということになる。もちろん、チップだけでなく、カメラやデザイン、耐久性などが異なるため、一概に比較はできない。
しかし、同じSnapdragon 8s Gen4を積んでいるにもかかわらず、ここまで値段差が出るというのは驚きだ。
Nothingはインドで高い人気を誇っているようだが、まだまだ新興メーカーであり、販売台数を稼いでいると言えないだろう。
その点、POCOはXiaomiが展開するだけあって、Xiaomiのラインナップ含めて、相当数、クアルコムから調達しているものと思われる。結果として、Snapdragon 8s Gen4でありながら、9万円の壁を楽々、クリアしてしまうのだろう。
価格競争になってくると、やはりグローバルでの調達力がものを言う。その点、FCNTはレノボグループであり、モトローラとの共同調達に強みが出てきた。
シャープはフォックスコンの力を最大限に生かせるはずだ。中国メーカーは生産台数が多く、1社だけでも十分、クアルコムやメディアテックへの交渉力があるのだろう。
まさに、スマホメーカーが生き残っていくには「数の勝負」になりつつあるのかもしれない。





