石川温の「スマホ業界 Watch」

「Galaxy Z Fold7」「Galaxy Z Flip7」発表で見えた、サムスン・グーグル・クアルコムが目指すAIの未来像

 サムスン電子は2025年7月9日、アメリカ・ニューヨークで新製品のスマートフォン「Galaxy Z Fold7」、「Galaxy Z Flip7」を発表した。日本での発売は8月1日となる。

 Galaxy Z Fold7を実際に触ってみたが、本当に薄さに驚いてしまう。Foldシリーズは2019年に発売された初代から購入してきたが、今回の薄型化は、スマートフォンの歴史においても、エポックメイキングといえる進化といえるだろう。

 ディスプレイを折りたたんでおきながら、折りたたみ時のサイズ感が、通常のスマートフォンを変わらないというのがビックリだ。Galaxy S25 Ultraよりも軽いということで、正直、頭の理解が追いつかない。

 まさに折りたたみスマホもここまで来たかと感動するほどの完成度だ。正直言って、サムスン電子における技術力の高さが証明されていると思う。

 2019年から折りたたみスマホを販売し続け、ディスプレイやカメラなどの部材メーカーをグループに持っている強みが遺憾なく発揮されているのだろう。

 Sペンが使えなくなり、アンダーディスプレイカメラも廃止されパンチホールが復活したが、ユーザーのニーズや世間に与えるインパクトを考えると、何よりも薄型化が優先されたのは間違いない。

 サムスン電子のメーカーとしての技術力を見せつけられた感のあるGalaxy Z Fold7ではあるが、一方でグーグルとクアルコムとの協力関係もさらに強固になってきた。

 Galaxy AIはサムスン電子が開発しているものの、ベースとなるAIはグーグルのGeminiだ。チップはクアルコム「Snapdragon 8 Elite FOR GALAXY」という、Galaxyのディスプレイに特化したカスタマイズがされているSnapdragonとなっている。

サムスン電子との協力関係をアピールするグーグルのリック・オステルロー上級副社長
Snapdragon 8 Elite FOR GALAXYは性能アップをアピール

 サムスン電子、グーグル、クアルコムの3社が目指すAIは「Ambient Intelligence(生活に溶け込む知性、知能)」なのだという。

 スマートフォンはカメラやマイク、GPSなどが搭載されているため、音声、画像、動画、位置情報などマルチモーダルなデータを組み合わせ、ユーザーに対して予測や体験を提供することが可能になる。

 スマホには個人の情報が大量に詰まっている。これらによって、ユーザーの行動や好みを理解できるようになる。いずれ、スマホに指示を与えなくても、ユーザーのニーズを予想して、スマホが勝手に動いてくれるようになる。

 もちろん、スマホだけでなく、スマートウォッチやスマートグラスなど、様々なデバイス間で連携し、ユーザーのサポートをしてくれるようになるはずだ。

 グーグルの担当者は「ユーザーには現実世界における面倒なタスクをAIが減らしていけるようにしたい」と語る。

 スマホにおけるAIは当然のことながら、アップルでも取り組んでいる。しかし、パーソナライズ化されたSiriの構想は発表されたものの、開発が遅れており、登場は早くても2026年になるようだ。

 そんななか、サムスン電子、グーグル、クアルコムの3社は「単一企業が提供するのは無理ではないか」と言い切る。この3社がAIに対する共通のビジョンを持ち、深く関係性を持つことで、ようやく実現できる世界観だというのだ。

スマホのAIについて語る、サムスン電子、グーグル、クアルコムの幹部たち

 確かにスマートフォンだけでなく、スマートウォッチやスマートグラスなど、様々なデバイスが、一人のユーザーの事を理解し、行動を予測するように振る舞うには、IDによってクラウドで管理されている必要がある。

 グーグルであれば、1つのアカウントにGeminiが紐付き、様々なデバイスで連携することが可能になるだろう。まさに今回、Galaxy WatchでGeminiが動くことが発表された。

 しかし、アップルの場合、オンデバイスAIが基本であり、デバイス間で協調するのは難しいとされている。

 オンデバイスAIにおいてはサムスン電子もGalaxy AIで頑張っているが、当然、負荷の高い処理はクラウドに依存しなくてはならない。その点、グーグル・Geminiというパートナーは強い。

 一方で、アップルに関しては、オンデバイスで処理できないものはいまのところ、ChatGPTに依存している。オンデバイスとクラウドには明確な区切りがあり、ユーザーの使い勝手はいまいちだったりする。

 グーグルは自社でPixelというスマートフォンやスマートウォッチを手がけているが、ものづくりという点においてはサムスン電子に見劣りする面が見られる。グーグル自身も認識しているようで、Pixelだけで自分たちの世界観を作り上げようとせず、サムスン電子との蜜月関係を続けている。

 AIが様々なデバイスで、画像や音声などを処理しようと思うと、当然のことながら、高性能でかつ省電力なチップが必要となってくる。そこで存在感を発揮するのがクアルコム・Snapdragonだ。

 サムスン電子も自社グループで「Exynos」というチップを手がけているが、ハイエンドのスマホとなるとSnapdragonを搭載している。Galaxy AIを快適にオンデバイスで動かそうと思うと、Snapdragonが選択肢となるようだ。

 スマートフォンが登場して20年弱になろうとしているが、これまでアップルとグーグルがOSレベルで切磋琢磨してきた。ここにきて、競争軸はAIに完全に移行した。垂直統合のアップルか、水平分業でタッグを組むサムスン電子、グーグル、クアルコム陣営が強みを発揮するのか。

 Ambient Intelligenceによって、ユーザーの日々の生活の負担を本当に減らすスマホを作れるのはどちらなのだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。