石川温の「スマホ業界 Watch」
「NTT法見直し」はどうなったのか、KDDI・ソフトバンク・楽天トップが感じた手応え
2024年11月1日 00:00
2024年10月29日0時半ごろの総務省の地下2階。
KDDI・髙橋誠社長、ソフトバンク・宮川潤一社長、楽天モバイル・三木谷浩史会長が「ぶら下がり会見」に応じていた。直前まで、上の階でNTT法の見直しに関しての議論が行われており、3人が参加。ぶら下がりで議論の受け止めについて、メディアからの質問に答えていた。
会見終了後、ソフトバンクの宮川社長が「ここで三木谷さんがやったぞと」といいながらガッツポーズを見せた。どうやら、宮川社長は三木谷会長にガッツポーズをさせて、その姿をメディアのカメラに撮影させたかったようだ。困り果てた三木谷会長の様子を見て、高橋社長も満面の笑みを浮かべていた。
ぶら下がり会見中は神妙な面持ちの3人であったが、終了後のリラックスした表情を見る限り、NTT法の見直し議論は、3社にとって上手く進んだようだ。
この議論が始まった昨年、スタート地点としては「NTT法は廃止」「完全民営化し、国が保有する株式を売却して防衛費に充てる」なんて話が出ていた。NTTと政府というか自民党が望むシナリオがあったのか、かなり唐突に議論が浮上してきた感がある。
あれから1年が経過し、NTTにとってはユニバーサルサービスについての議論について成果があったものの、それ以外に関しては「誤算」も数多くあったように思う。NTTの想定を超える動きによって、NTT法廃止に反対する3社側に議論が有利に働いた感がある。
特にNTTにとって誤算だったのがJTOWERが外資に買われてしまったことだろう。今年、基地局のシェアリングを事業とするJTOWERが外資の投資会社に買収されてしまった。JTOWERに関してはNTT東西が207基、NTTドコモが7554基、基地局を売却してしまっている。
この買収劇が一気にNTT法の見直し議論を動かした。
キャリア関係者は「NTTの資産を自由にほかに売却できるようになると、JTOWERと同じスキームで外資に渡る可能性が出てくることになる」と危機感を募らせる。
競合3社がいうところの、NTTには「特別な資産」として、管路や電柱、とう道、局舎などは前身の日本電信電話公社(電電公社)から継承した施設や土地が25兆円規模で存在する。
まさにNTT法の議論をしている最中に、そうした施設に上に建設された基地局が外資の手に渡ってしまったのだ。もちろん、基地局は民営化されたあとに建設されたものではあるが、NTTの土地や施設の上に立てられているものであることは間違いない。
「特別な資産を守る必要がある」という議論の最中に、あっさりとJTOWERを経由して、外資に売られてしまったことで、総務省や有識者として、このタイミングで食い止める必要があると判断したようだ。
結果として、報告書では「NTT東西の線路敷設基盤は、我が国の通信インフラ全体を支え、通信サービスの安定的な提供等を確保する上で重要な役割を有すること等に鑑み、その譲渡等(処分行為を含む)は、適切な対象範囲を検討した上で、認可の対象とすることが適当」という文言が加えられた。
JTOWERがこのタイミングで買収されなければ、報告書にこのような記載はされなかったのではないか。
もうひとつ、NTTにとっての誤算は自民党の衰退だ。
昨年末に議論がスタートした際には、甘利明氏と萩生田光一氏がNTT法廃止の旗振り役であった。いずれも経済産業大臣経験者であり、この議論も経済産業省ルートが発端ともささやかれた。
しかし、自民党はその後、裏金問題の影響もあり、今回の衆院選で大惨敗を喫した。甘利明氏は落選し、無所属となった萩生田光一氏は薄氷を踏む思いでなんとか当選にこぎ着けた。
今回の報告書の結果が自民党の調査部会に戻ったとしても、ちゃぶ台をひっくり返すような力はいまの自民党には残っていないのではないか。
KDDIの高橋社長も「(衆院選の結果によって)調査会のメンバーは替わるだろう。NTT法は廃止ではなく、いまの法体系で強化、緩和という方向性を失わない限り、良いのではないか。これから雑な議論にはならないだろう」と期待する。
自民党の裏金問題に始まり、岸田首相が総裁選の出馬を断念。石破政権が発足して一気に解散、選挙というゴタゴタの中で報告書が一気にまとまったというのは、総務省の奇襲攻撃とも見える。
まさに総務省としては経産省に対して一矢報いた感もある。このスケジュール感もNTTには誤算だったかも知れない。
いずれにしても、通信業界はめまぐるしく環境が変化するだけに、単に「NTT法をどうするか」だという視点だけでなく、「ニッポンの通信インフラで、日本国民の生活をどうやって豊かにするか」という志を持って、総務省や各キャリアは継続的に議論を進めていくべきだろう。