石川温の「スマホ業界 Watch」
楽天モバイル「Rakuten Link AI」登場で考える、携帯各社のコンシューマー向け生成AIサービスの現在地
2024年11月8日 00:00
楽天モバイルが契約者向けの生成AIサービス「Rakuten Link AI」を開始した。
無料のコミュニケーションサービスである「Rakuten Link」にチャットでAIが様々な質問に答える機能を搭載したのだ。
三木谷浩史会長がオープンAIのサム・アルトマンCEOと仲がいいようで、楽天グループでは他社に先かげてオープンAIと提携関係を結んだ。
今回のRakuten Link AIはオープンAIによる「ChatGPT」ベースなのかと思いきや、楽天グループのAI戦略をリードする楽天グループ チーフAI&データオフィサーのティン・ツァイ氏によれば「その時、最適なものを使っている」ということで、必ずしもChatGPTは使っていないような回答であった。
実際、説明会の会場で「週末にオススメのお出かけスポット」を尋ねたところ、自信を持って「公園」と答えてきた。本来であれば、具体的にどこの公園が、どんな理由でオススメなのか、例えば、ちょっとしたイベントをやっていて、今週末こそ行くべきといったような回答を期待していたのだが、単に「公園」という、あまりに抽象的過ぎる、人間でも今さら思いつかない答えを引っ張り出してきたので、拍子抜けしてしまった。
ただ、将来的には楽天グループが持つ、ショッピングやトラベルなどのサービスとの連携が視野に入っているようだ。それであれば、ユーザーの利用履歴と紐付き、例えば「3連休にオススメの旅行先を教えて」と問いかけたときに「前回の連休では箱根にお出かけしたようなので、今度の3連休は紅葉が美しい日光の◯◯ホテルにお泊まりになるのはどうですか。箱根で泊まったホテルに雰囲気が近くて気に入ると思います」といったぐらいの提案をしてくれるようだと面白い。
生成AIと、楽天グループが持つ豊富なデータ、商材と組み合わせれば、最高のAIアシスタントが誕生するのではないか。
実際、サム・アルトマンCEOが楽天グループと提携した理由として「楽天グループが持つ豊富なデータ」に興味を示したと言われているだけに、他社もマネできない生成AIサービスに成長する期待は持てそうだ。
では他社はどうか。
KDDIでは、これまでキャリア間のメッセージサービスとして「+メッセージ」を提供していたが、これからは「RCS」をプッシュしていきそうな雰囲気を醸し出している。
iPhoneがiOS 18からRCSに対応したことで、Androidと無料でメッセージのやりとりが可能になろうとしている。+メッセージはユーザーがアプリをインストールする必要があったが、RCSであれば標準搭載のメッセージアプリでやりとりが可能となる。
海外では、RCSをユーザーとの接点として、クーポンなどを配布していたりする。
KDDIの髙橋誠社長は「我々はグーグルのGeminiにも積極的に取り組んでいる。RCSとAIとの親和性が高く、面白いことができないか考えている」としており、今後、AIを絡めて、RCSでローソンのクーポンを配るなんてこともあり得そうだ。
ソフトバンクに関してはユーザーに対して「パープレ(perplexity pro)」を1年間、0円で提供している。パープレはAI検索エンジンで、独自のモデルだけでなく、GPT-4 TurboやGPT-4o、Llama3、claude3など複数のAIモデルが選べるのが特長だ。
ただ、ソフトバンクのグループにおける“ユーザー接点”という点においてはヤフーやLINEが強いのは言うまでもない。LINEヤフーの出澤剛社長は「生成AIは、検索などでテスト的に導入している。専門家の意見を聞きながら、ユーザーの利用動向を見極めている段階。今後は基本的には生成AIの利活用が進んでいくのが前提で、さまざまなサービスで活用していく」と語る。
LINEヤフーではかつてClovaなど独自のAIサービスを提供していたが「Clovaは現在、開発を終了している。マルチLLM戦略を展開しているが、ソフトバンクグループのSB IntuitionsがLLMの開発をしているということもあり、そちらにも我々は協力していく」(出澤社長)と語った。
自社でLLM「tsuzumi」を手がけるNTTでは「コンシューマー向けサービスは考えていない」(島田明社長)という。
しかし、スマートフォンを手がけるNTTドコモの前田義晃社長は「私も生成AIを使っているが、どう指示すれば良いかがわからなかったりもする。そういった課題をやわらげるような取り組みを、NTTドコモでは進めていきたい。NTTドコモでは金融やエンタメなど様々な事業を手がけているが、そうしたサービスの使い勝手を上げていくために生成AIを活用していきたい」と語る。
NTTドコモといえば、かつて「しゃべってコンシェル」というサービスで画面上に「ひつじのしつじくん」がいて、ユーザーの要望に応えてくれる、まさにエージェントサービスを世間に先駆けて提供していた。
前田社長は「大昔、我々もコンシェルジュサービスを手がけており、エージェントが振る舞ってくれる驚き、便利さを提供していた。今後、生成AIを活用し、ユーザーのデータと連係して、経済圏を拡大するようなサービスを提供したい」とした。
ちなみに「しゃべってコンシェル」「iコンシェル」を手がけた教訓としては「あのころのAIはちゃんとしたものではなかったが、データ連係でユーザーに向けてカスタマイズするという発想ではあった。データ連係やカスタマイズなどにおいては知見を生かせるのではないか」という。
果たして、ユーザーが「使いやすくて便利」と感じるコンシューマー向け生成AIサービスを提供してくれるのはどこのキャリアになるだろうか。