石川温の「スマホ業界 Watch」

「Snapdragon Summit 2024」開催、クアルコムの「中国重視」姿勢が鮮明に

 クアルコムの年次イベント「Snapdragon Summit」が今年もアメリカ・ハワイ州マウイ島で開催された。

 昨年、パソコン向けに登場したCPU「Oryon」がスマートフォン向けにも搭載され、名称も「Snapdragon 8 Elite」と一新された。さらにOryonは車載向けとして「Snapdragon Cockpit Elite」と「Snapdragon Ride Elite」にも採用される。

 クアルコムがオンデバイスAIによってパソコン市場で存在感を示すなか、ブランドを「Elite」に統一することで、スマートフォンやクルマにおいてもオンデバイスAIの世界観を浸透させようという狙いだろう。

 存在感と言えば、今回のSnapdragon Summitではクアルコムの「中国重視」という姿勢が明確に見えた気がした。

 実際、マウイ島のイベントに参加しているメディアやインフルエンサーの割合でいえば中国勢がかなり多い印象だ。

 基調講演でSnapdragon 8 Eliteが発表された際には、中国メーカーであるシャオミが「Xiaomi 15Series」、HONORが「Magic7 Series」を10月中に発表すると、それぞれの担当者がプレゼンに登場してアナウンスした。もちろん、両社ともSnapdragon 8 Eliteをいち早く搭載したスマートフォンとなる。

 基調講演ではASUSやサムスン電子のTMロー氏も登壇。そんなライバル企業の関係者が多く会場にいるなかで、中国メーカー2社にあえてSnapdragon 8 Eliteを搭載したスマートフォンの発表をアナウンスさせるなんて、クアルコムもなかなかの策士ではないか。

 しかも、クアルコムは中国・上海において、Snapdragon 8 Eliteを披露するイベントを開催。観光スポットでもあるテレビ塔「東方明珠電視塔」や周辺のビルをSnapdragonカラーにするだけでなく、ビジョン広告を出すなどして、夜の上海をSnapdragon 8 Elite一色にしていた。

車載向けでも「中国メーカー推し」

 翌日のSnapdragon Summitでは車載向けの「Snapdragon Cockpit Elite」と「Snapdragon Ride Elite」の発表がメインであったが、ここでも中国の自動車メーカーを代表して理想汽車と長城汽車がプレゼンを実施。長城汽車はすでにクアルコムのモデムや車載情報システムを採用してクルマを開発しており、理想汽車はSnapdragon Cokpit Eliteを使い、AIアプリケーションの開発を進めていくという。

 基調講演ではメルセデスベンツやBMW、GMなどの幹部も出てきてはいたが、いずれも「ビデオメッセージ」に留まっていた。中国メーカーの担当者だけ、ゲストがステージに登壇し、流ちょうな英語でプレゼンをしただけに、世界に向けて中国メーカーの存在感として強い印象が残ったのだった。

 クアルコムが車載向けでも強力に「中国メーカー推し」を進めていくのは、やはりスマートフォンで成功したという経験が大きいのだろう。

 かつてはファーウェイ、いまではシャオミやHONOR、OPPOといった中国メーカーがSnapdragonを搭載し、世界の市場でシェアを拡大してきたことによって、クアルコムの業績が支えられてきたというのは紛れもない事実だ。

 世界の自動車メーカーを見渡すと、一旦はBEV(電気自動車)にシフトしたかと思ったが、最近はBEVの雲行きが怪しくなってきたようで、各社とも今後のラインナップ戦略にブレが出始めた感がある。自動運転やADAS(先進運転支援システム)に関しても、やや慎重な姿勢を見せる。

 中国もBEVに関して勢いが落ち着きつつあるものの、それでも前のめりなのは変わらない。ファーウェイやシャオミなど、スマートフォンメーカーが自らBEVを開発したり、あるいは自動車メーカーに技術を提供するなど、スマートフォンからクルマへのシフトが加速している。

 中国すれば、自国で弱い半導体はクアルコムの技術を積極的に調達していきたいのだろう。今回、クアルコムは車載向けにおいて、グーグルともパートナーシップを強化しているが、まさにスマートフォンと同じように「SoCとプラットフォームはクアルコム、OS周りはグーグル」という組み合わせで世界を席巻するつもりのようだ(もちろん、中国においてはグーグル・Androidではなく、自動車メーカーの自社ブランドOSという扱いになってしまいそうだが)。

 国内需要だけで大量生産が可能となる中国メーカーがクアルコム製品を採用すれば、SoCなどの価格競争力が強くなっていくことだろう。他の半導体ベンダーをリードしているこのタイミングで、いかに中国だけでなく、世界中の自動車メーカーに製品を採用してもらうかがクアルコムにとっては重要だ。

 かつて、アップルも自動車業界に参入するなんて噂話が出ていたが、最近ではそんな話も聞かなくなってしまった。

 中国市場を味方に、どれだけクアルコムが自動車業界で存在感を出していけるか。まさに「Snapdragon Cockpit Elite」と「Snapdragon Ride Elite」はその試金石と言えそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。