石川温の「スマホ業界 Watch」

”1日1万件の純増”になった楽天モバイル、KDDI社長が指摘するその”中身”とこれからの戦い

楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

 楽天モバイルが好調だ。

 8月1日に開催された楽天グループのイベント「Rakuten Optimism 2024」で、三木谷浩史会長が750万件に迫る契約者数だと明らかにした。

 6月16日に700万契約を突破したばかりであり、1日で約1万増のペースで新規契約者数が増えている計算になる。

代表取締役 共同CEOの鈴木和洋氏

 楽天モバイルの鈴木和洋共同CEOは「700万は通過点であり、すでに800万は見えてきている。さらに、その先の1000万をできるだけ早い時期に達成していきたい。1000万という数字はとてもシンボリックな数字だと考えている」と自信を見せる。

 これまで、楽天モバイルは莫大な設備投資による赤字体質にどっぷり浸かってきたが、契約者数が800万件から1000万件、さらにARPUが2500〜3000円に到達すると、単月黒字化にこぎ着けることができるため、ここ最近の新規契約者の伸びによって、単月黒字化が一気に現実味を帯びてきたようだ。

 ライバルであり、楽天モバイルとはローミング契約を結んでいる、KDDIの髙橋誠社長は「750万契約に迫る契約者数は好調に見える。純増ペースが速いため、我々も注視していく必要がある」としながらも、「単純に純増数で見てはいけないのではないか」と指摘する。

 当然のことながら、楽天モバイルが絶好調で、契約者数を一気に増やしているのであれば、当然のことながら、NTTドコモやKDDI、ソフトバンク、MVNOからユーザーが流出し、楽天モバイルに乗り換えている人が多いということになる。

 しかし、KDDIの高橋社長は「我々から楽天モバイルへの流出を見ても、そんなに数は大きくない」というのだ。

 さらに「分析してみると、データ通信の利用が少ないSIM単体契約ユーザーが、楽天モバイルに移動している。これにより、(KDDIの収益には)あまり大きな影響にはなっていない」と語る。

 端末購入と通信契約が分離されたことで、SIMカード単体での契約が一般的になった。しかし、キャリアから見ると、端末を同時購入しない、SIMカードを単体でしか契約しないユーザーはMNPの特典が目当てで短期間にキャリアやMVNOを乗り換えるなど、必ずしも、歓迎すべきユーザーではなかったりする。

 一方で、キャリアにとって見れば、「使い放題プラン」を契約しつつ、ハイエンドのスマホも一括もしくは分割で購入。さらにスマホ決済やクレジットカード、系列の銀行で住宅ローンを組み、証券会社で新NISAを開設してくれるようなユーザーが「優良顧客」だったりする。

 KDDIの解約率を見ても、auやUQモバイルなど、すべてのブランドを含めた解約率は1.11%であるが、auだけに特化すると「0.5〜1%の間ぐらい」(高橋社長)ということで、SIMカード単体契約のユーザーの流動性が高く、一方で優良顧客が多いであろうauの解約率は低めに出ているということになる。

 さらに高橋社長は「(楽天モバイルにおける新規契約の)数字が短期間に上がっているのは若干、違和感がある」とも語っており、相当、無理をして数字を作っているのではないかと見ているようだ。

プラチナバンドで印象塗り替え狙う

 楽天モバイルが勢いづいているのは、もうひとつ「プラチナバンド」の存在が大きいだろう。

 これまで4Gは1.7GHz帯の一本足打法でエリアを広げてきたが、プラチナバンドにより、地下2階やビル上、建物の影などのエリア化がやりやすくなった。

 矢澤俊介社長は「つながりやすさにおいても、他社と同等ではなく、最強にしていきたい」と胸を張る。

代表取締役社長の矢澤俊介氏

 楽天モバイルでは、6月27日からプラチナバンドのサービスを開始。8月13日からは米倉涼子さんを起用したテレビCMも流し、「プラチナバンドを手にして、つながりやすい最強のキャリア」としてアピールを強化していく。

 ただ、KDDIの高橋社長は楽天モバイルのプラチナバンドに対しても苦言を呈す。

 「あれほどプラチナバンドをアピールしているが、免許の開設状況を見ていると、それほど積極的に設備投資しているようには見えない」と指摘するのだ。

 実際、プラチナバンドに対応した基地局の開設はかなり限定されているようで、すぐにユーザーが実感できる状況とはほど遠い。

 そんななか、KDDIでは、楽天モバイルに出て行ってしまったユーザーの奪還に注力していくようだ。

 高橋社長は「我々から楽天モバイルに行ってしまったユーザーにヒアリング調査を実施しているが、やはりネットワーク品質に対する不満の声が多いという結果が出ている。auに戻ってもらえるよう、我々のネットワーク品質の良さを訴えかけていきたい」と語る。

 「プラチナバンド」があるというイメージを最大限に生かし、楽天モバイルはどこまで契約者数を増やすことができるのか。

 一方、「ネットワーク品質」をユーザーに再認識してもらい、KDDIは楽天モバイルから顧客を奪い返すことができるのか。

 ローミングネットワークを提供しているKDDIは、楽天モバイルの手の内がある程度わかるだけに、両社の戦いは、これからも注目しておいた方が良いかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。