石川温の「スマホ業界 Watch」

「Apple Vision Pro」のFaceTimeが示す、近未来なコミュニケーションへの期待

 いよいよ6月28日にアップルの空間コンピューター「Apple Vision Pro」が日本でも発売となる。筆者は2月2日のアメリカでの発売日にハワイに飛び、購入。4か月ほど使用している。

 ここ最近は同じくアメリカで購入した仲間が増えてきた。そんななか、面白くてハマっているのが「FaceTime」だ。Apple Vision Proを試す機会があったら、是非ともFaceTimeを使ってみて欲しい。

 FaceTimeはiPhoneなどアップル製品で提供されているビデオや音声の通話アプリだ。無料で通話できるということで、海外出張中に家族などと通話する際に利用している。

 これまではどちらかといえば「音声通話アプリの代替」でしかなかった。

 しかし、このFaceTimeはApple Vision Proで使うと全く新しい体験を得られる。まさに「未来のコミュニケーションツール」というべきサービスに仕上がっているのだ。

 Apple Vision Proでは「Persona」という機能がある。これはApple Vision Proのカメラを使い、自分自身の顔を撮影し、アバターを作るというものだ。

 Apple Vision Proは装着してしまったら、自分の顔をデバイスで覆ってしまう状態となる。これではビデオ会議に参加したところで、自分の顔は相手に伝えられない。

 そこで、Apple Vision Proで作ったアバターをビデオ通話の空間に置いてしまう。

実際にビデオ通話を始めると、相手の顔が空間に浮かび上がって表示される。さらにApple Vision Proでは手の動きを感知しているため、手も一緒に表示される。

 空間上に、相手そっくりのアバターの顔と手が浮かび上がって見えるのだ。

 このアバターがちょっと不気味であるものの、結構、しっかり本人を再現できている。顔の向きや瞬き、口の動きなどが忠実に再現されているので、まさに仮想な本人を再現しているのだ。実際に会話をしていると、本当にそこに相手がいるような感覚になってくる。

 これまで最大4人のグループでFaceTimeを使ってビデオ通話を行った。4人で会話する際には自分の前に3人が並んで表示される。右側にいる人に話かけられると右の方から声が聞こえ、左の方からは左から声が聞こえる。音に関する再現性も実に高い。

 通常は、浮かび上がった窓の中にPersonaが表示されるのだが、「空間」というメニューを選ぶと、そうした窓はなくなり、人のカタチが浮かび上がって表示される。まさにそこに人が立っているような感覚になる。

 ちなみに、Apple Vision Proを持っていない人がFaceTimeに入ると、通常のビデオ会議アプリのようにカメラに映った顔が表示されるようになる。

 FaceTimeでは単に会話をするだけでなく、例えば、一人が持っているプレゼン資料をみんなに見せたり、Apple TVで配信されている映画をみんなで観ると言ったことが可能だ。

 その際、面白いのが、そうした「みんなで一つのコンテンツを観る」という際には、4人が向かい合うのではなく、一列に並んで、画面の方を向かう体制がとられるのだ。まさに空間を再現するちょっとした演出が憎い。

 映画を視聴する際には、映画館が再現され、館内の前の方で観るか、それとも後方にするか、バルコニー席に座るかといった選択もできる。

 また、自分が今いる部屋の様子をApple Vision Proに内蔵されたカメラを経由してほかの3人に見せると言うことも可能だ。

 自分が観ている風景や周辺をほかに人にも観てもらうことで、遠隔で、何か機械を修理する際に指示をもらうと言った使い方も可能だろう。

 さらに、4人で会話している際、みんなで立ち上がると、ちゃんとそれぞれの身長も再現してくれる。身長の高い人に対しては見上げる感じになるし、逆のパターンもある。Apple Vision Proのセンサーで高さ情報を把握しているようだ。

 これまで4カ月間、Apple Vision Proを一人の世界だけで楽しんできたが、他の人とFaceTimeでつながり、会話をすると、これまでにはない体験ができて、結構、楽しく、ハマってしまいそうであった。

 コロナ禍後、リアルの会議や打ち合わせが復活しているが、そうはいっても、ちょっとしたミーティングであればオンラインで済ますというのも定着しつつある。

 当然、Apple Vision Proは60万円もするため、みんなでFaceTimeでつながり、空間Persona同士で会話するなんてことが定着するのは相当、先の話になるだろう。

 ただ、FaceTimeというiPhoneやiPad、Macでも使える幅広いデバイスに対応し、電話番号だけでなく、Apple IDでも接続できるという汎用性の高さを考えると、「iPhoneとApple Vision Proを使う人たちが混在してFaceTimeでビデオ通話する」というシーンが徐々に増えてもおかしくないかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。