iPhone駆け込み寺
アップル製品のヘビーユーザーでVRユーザーでもある筆者は「Vision Pro」のココが気になった!
2023年6月7日 17:37
筆者はiPhoneやiPad、Mac、Apple Watchなどを愛用する、アップル製品のヘビーユーザーだ。ケータイ WatchではiPhone関連の記事は良く書かせていただいている。
その一方で、ゲーマーでもあり、日常的にVRゲームをプレイしている。主に有酸素運動の日課として4年くらいプレイしているのだが、たとえばリズムゲームの「Beat Saber」だけでも総プレイ時間は1200時間を超えている。
VRは仕事のネタにはせず、ほぼ趣味なのだが、仕事分野並みにお金もかけている。現在愛用しているVR機器は「Meta Quest 2」と「HTC VIVE Cosmos Elite」。ほかには「Oculus Rift」、「HTC VIVE」、「Pimax」、「PSVR」あたりも持っている。
そんな筆者からすると、今回のWWDCで発表された「Apple Vision Pro」は、仕事面でも趣味面でも非常に興味のあるデバイスだ。正直にいうとVR/AR分野では筆者は「お客さん」であり、専門家ほどの知識もない。Vision Proについても、WWDCの現地取材もしてないので、情報源はアップルの公開情報だけだ。しかし、語りたいことは山ほどある。
今回はアップルもVR/ARも大好物な筆者が今回のVision Proについて、推測も交えつつ、これがどんな製品なのか、どこが注目ポイントかを語っていきたい。
Vision Proは「空間コンピューター」
アップルではVision Proを「空間コンピュータ」と呼称している。英語では「Spacial Computing」だ。搭載するvisionOSは、「デジタルコンテンツを現実世界と融合させる世界初の空間オペレーティングシステム」としている。
よくわからないが、筆者なりに大雑把に解釈すると、立体空間をパソコンのデスクトップのように作業環境として利用するコンピューター、というイメージだ。いやホント知らんけど。現状の情報だと理解できることは少ない。
そもそもこのジャンルの製品、筆者は大雑把にXRゴーグルとか呼んでいるが、その呼称だって一般的じゃないし、定義も曖昧だ。まだまだ「言ったもん勝ち」な世界なので、あまり深く考えない方が良いかも知れない。
破格に高い……わけでもないかもしれない「価格」
Vision Proの価格は、先行発売される北米価格しか公表されていないが、3,499米ドル「から」とされている。本稿執筆時点のレート(1ドル139.5円)で換算すると48.8万円ほど。「から」と書かれているので、ストレージ容量違いなどのモデルバリエーションが存在する可能性が高い。
はっきり言って高価だ。市場でもっとも成功しているスタンドアロン型のVRゴーグル「Meta Quest 2」は、6月4日に値下げされ、128GBモデルが4万7300円。それに比べると文字通り桁違いのお値段である。
しかしモバイルベースのQuestシリーズと異なり、Vision Proはパソコン向けのM2チップセットを搭載していて、モバイルよりもゲーミングパソコンに近いとも言える(ただしゲーミングパソコンとしてはややスペック低め)。
パソコン向けVR環境をゲーミングパソコンから揃えると、ゲーミングパソコンだけで20万円以上は欲しい。VRゴーグルはピンキリだが、ハンドトラッキングやアイトラッキング、フェイストラッキングに一通り対応しているMeta Quest Proは15万9500円とかになる。スペックを盛ったり周辺機器を揃えたりしていると、合計40万円くらいはカンタンに突破する。
パソコン向けVRとVision Proとではできることが違うし、40万円やかけたパソコン向けVR環境の方がグラフィック性能は遥かに上になるが、それでもVision Proの50万円は、破格に高価というわけでもない、とも言える。
「名前」もポイントかも
リリースを見ると製品名が「Apple Vision Pro」なのか「Vision Pro」なのかよくわからないが、面倒なので本稿では「Vision Pro」で統一している。違ってたらあとで置換をかけよう。
「Vision」という一般名詞を製品名に使うのは、検索しにくくなりそうなのでどうなのよとも思うが、今回のモデル名が「Pro」というのもポイントだ。Visionシリーズのバリエーション展開を想定したネーミングに見える。
iPadやiPhoneっぽくシリーズ展開するなら、廉価な「Vision SE」、Pro向け機能を省いた「Vision Air」、Proの上を行く「Vision Max」などだろうか。そうしたバリエーション展開があるかどうかはわからないが、少なくとも今回のVision Proは、ちょっと高機能なプロモデルに位置づけられていると思われる。
visionOSのアプリの形態は主に3つ
開発者向けページには、Vision Proが搭載するvisionOSのアプリの形態として、「Windows」「Volumes」「Spaces」の3つが紹介されている。
「Windows」は、とあるOSと同名なのがすこぶる紛らわしいが(名称に一般名詞を使う弊害だ)、平面タイプのアプリだ。
空間上にアプリの表示面が配置される。iPhone/iPadのアプリがほぼそのまま使えるとのことなので(再ビルドなどは必要かも)、本当に従来型のタッチインターフェイスのアプリとなる。この「Windows」タイプのアプリは、作業空間内に何枚も並べたりできるし、表示位置を変えたり拡大したりもできる。
「Windows」タイプのアプリでも3Dコンテンツを扱えるようだ。詳細はよくわからないが、これはUIにちょっとした凹凸があるとか、3Dビデオのことかと思う。3Dビデオを表示させると、表示面の奥と手前に空間が広がっているかのように見え、まさに「窓=Window」のようになるのではないだろうか。
「Volumes」は、立体タイプのアプリだ。見た目が3Dオブジェクトで構成されるアプリと思われる。ただし占有面積は限定的で、作業空間内には「Windows」形式のアプリと同時に、「Volumes」タイプのアプリを複数並べることが可能、という位置づけのようだ。
「Volumes」がどんなアプリか、微妙に想像しづらいが、卓上サイズくらいの作業エリアに3Dモデルを表示させるみたいな使い方になるのではないだろうか。あとは平面に表示するようなアプリでも、曲面ディスプレイのように湾曲した面に表示するなら、「Volumes」として作ることになるのかもしれない(違うかもだけど)。
「Spaces」は全空間を1つのアプリが占有する形式のアプリだ。パソコンやタブレットにおけるアプリの全画面表示が「Spaces」に相当し、アプリや壁紙の上にオーバーレイ表示するミニウィンドウが「Windows」や「Volumes」と言うイメージだろう。
「Spaces」タイプのアプリには、空間全てをCGで描写するVR的なアプリも含まれるが、その一方で実空間をトラッキングするようなアプリも「Spaces」タイプとして作れるようだ。たとえば実際の壁に架空の滝が流れる、実際の床で架空のボールが跳ね返る、といった内容だ。骨格ハンドトラッキングなども「Spaces」タイプのアプリで可能になるようである。
ちなみに「Spaces」はmacOSでは仮想デスクトップ機能の名称でもある。純正トラックパッドだと指3~4本でスワイプして複数のデスクトップを切り替えられるのがなかなか便利な機能だ。visionOSでもバックグラウンド起動中の「Spaces」タイプのアプリに切り替える操作とかがあるのかも知れない。
Vision Proの用途は「普通のパソコン的な作業」
おそらくであるが、基調講演や映像などを見るに、Vision Proは既存のVRゴーグルでは主流の、「空間全てをCGで描写するゲームやメタバース」をメイン用途として想定していないと思う。「できなくはないけど、少なくとも現時点ではそこに大きな価値はなくって、それ以外の価値が大きいよ」というスタンスに感じられる。
Vision Proの最大の価値としているのは、「空間内に大量のアプリを表示させ、パソコンのようにいろいろな作業をする」というところのようだ。アップルが公開しているVision Proの動画では、VR的なアプリはほとんど登場せず、iPadのようなフラットなアプリを使っている。
iPadやiPhoneのアプリがほぼそのまま使えるので、メールやメッセージなどのコミュニケーションアプリもあるし、Excelなどを仕事アプリも使えるし、「Photoshop」で写真を加工したり、「Final Cut Pro」で動画編集したりできる。M2チップ搭載ならたいていのことで処理能力不足は感じないだろうし、iPadアプリの互換性があるなら幅広い作業に対応できる。
この従来型アプリを活用する戦略はなかなかに面白い。Vision Proが発売された直後は、visionOSに特化したアプリ、前述の「Spaces」タイプの空間全体を使うVRやARのアプリは数が少なく、どれも試行錯誤の段階だろう。
しかしその一方で、visionOSはiPhone/iPad向けアプリをそのまま(あるいは少しの改修で)利用できる。iPhone/iPadには歴史も実績もあるアプリが大量にあるので、最初から実用的な作業環境が作れる。
筆者のように新しいデバイスにガンガン飛びついていると、「買ったはいいけど対応アプリが少なく、使いにくい/使えないから1週間で箱に戻しちゃった (´・ω・`)」ということがしょっちゅうだ。発売当初から「使えるアプリ」が大量にあるのは、新しいデバイスにとって極めて重要である。
アップルとしてはこうして発売の半年以上前に開発者向け会議(WWDC)でOSや開発環境を公開し、「visionOSのアプリを作ってね」とアピールしているが、それでも開発に使える実機を入手できる開発者は少ないだろうし、初期に複雑なアプリを作れる開発者は限定されるだろう。そう言う観点でも、「iPad/iPhone向けのアプリがほぼそのまま使える」というのは、非常にスマートな戦略だ。
具体的にどんなことができそう?
iPad/iPhone向けのアプリがそのまま使えるとなると、できることの幅は非常に広い。
筆者はiPadアプリに使い慣れているので、仕事作業のほとんどをVision Proでもできそうだ。デュアルディスプレイよりVision Proの方が作業空間も広いので、キーボードさえつなげば、現行の環境より良い、までありうる。そういえば筆者の「Mac mini」はM1搭載なのでプロセッサ性能も高い。
Vision Proでできるパソコン的な作業は、業務的なものだけではない。プライベートなコミュニケーションだとかWebの調べ物とかもこなせる。「大量のWebページを同時に表示して商品比較」みたいな使い方も、普通のノートパソコンだと難しいが、Vision Proならば得意分野だろう。動画再生などのエンタメ用途もVision Proには向いている。
ゲームについては、アップルの公開してるプロモーション動画だと、ゲームコントローラをつないでフラットスクリーン向けのゲームをプレイしている。VRゲームじゃなくって普通のゲームなのかよ、と突っ込みたくなるが、そうした普通のゲームを現実空間ではなかなか所有できないような巨大ディスプレイでプレイできるのも、Vision Proの明確なメリットだろう。
Vision Proの作業環境って便利なの?
大量のiPadアプリが空間内に並ぶのは実用的なのか、というと、これは実物を使い込まないとわからない部分もあるが、それでも筆者はあえて、「便利」と言わせていただきたい。
筆者は原稿を書くためにアップルのプロモーション動画などを何度か見ていて、「あれ、これどっかで見たことあるよな」と既視感を覚えたのだが、なんのことはない、これ、筆者の作業環境によく似ているのだ。見たことがあるではなく、手前がいま見てる環境である。
筆者の仕事デスクはMac miniに2枚の4Kディスプレイをつなげ、閲覧や作業に便利なマルチディスプレイ環境としている。これらパソコン用ディスプレイの下に、2枚のiPadと1個のiPhoneをアームで吊るしている。片方はBGMや動画の再生、片方は株価などの情報表示に使っている。
ゲーミング環境ではワイド表示でゲームを楽しむためのトリプルディスプレイと、ここにも2枚のiPad、1個のiPhoneを吊るしている。iPadの片方は専用Magic Keyboardに置いているので、メッセージやゲームの攻略法検索なんかに使っている。もう片方はYoutubeとかに使っていて、ゲーム実況を見ながら同じゲームをプレイしたりする。
このように複数のiPadを使っているのは、筆者がレビューなどのためにiPadを買いまくり、売却しなければ使い続けられるという環境にあるからだが、そうした何枚でもiPadが使える環境にあると、複数のiPadを手の届く位置に置くのが、作業環境の終着点、最適解のひとつとなる。数年間この環境で仕事とかゲームとかしている筆者としては、この環境は「便利」だと断言できる。
そしてこの環境に似たVision Proの「空間コンピューティング」は、実機を触ってないので断言できないが、それでも似た環境を使う筆者としては「便利」だと思えるのである。
VR/AR用途はどうなる?
パソコン的な作業をする使い方に加え、空間全てをCGで描写するようなゲームやメタバースのVRアプリも、高い空間認識能力を使ったARアプリも、Vision Proの魅力となり得る。そうしたアプリは、Vision Proの魅力の一部でしかないと思うが、小さくない一部を構成する。
ではどのようなVR/ARアプリがVision Proで使えるようになるだろうか。
まずVision Proは約50万円と高価なので、早い段階で広く普及するとは思えず、市場が大きくないので、新規アプリを開発しようという開発者は少ないだろう。とくに安価なエンタメ系アプリは難しいと思う。
しかしSteamVRやQuestシリーズなどは登場から数年が経過し、市場には多数のVRゲームが存在している。既存タイトルの移植であれば、ゼロから開発に比べるとコストもかからないので、チャレンジしようという開発者は少なくないだろう。ただし、そうした既存のVRアプリが使いたいなら、Questシリーズを買った方が手っ取り早いとも言えてしまう。
ARアプリも同様だ。筆者はARについてはあまり詳しくないが、マイクロソフトのHoloLensなど業務向けのプラットフォームが存在している。そうした既存のARプラットフォーム向けに展開しているアプリも、Vision Proに移植しようという動きはあるだろう。
ちなみに「HoloLens 2」は通常版で42万円なので、Vision Proと大差はない。そもそも業務向けのXRゴーグルはこんな価格なのだ。HoloLens 2は透過型ディスプレイなので実空間は見やすく、視野もほとんど制限されないが、ディスプレイの視野角は52度程度と狭い。Vision Proのディスプレイ視野角は未公表だが、VRゴーグルと同等、100度以上あると思う。また、プロセッサもHoloLens 2はモバイルベースのSnapdragon 850なので、Vision Proの方が上になるだろう。
あとは空間認識センサーの性能次第では、HoloLens以上に業務向けARアプリで盛りあがる可能性はある。業務向け用途でVision Proが盛りあがれば、より洗練された新モデルにもつながるので、コンシューマーも注目したいポイントだ。
Vision Proのプロセッサ性能は
「Vision Pro」にはiPad ProやMacにも使われている「M2」チップが搭載される。各種センサーやカメラは専用新設計の「R1」チップが処理するので、M2チップはAR的な処理から解放され、グラフィック処理などに集中できる。
M2はそこそこのグラフィック性能を持ち、ちょっとしたゲームならそこそこ画質でヌルヌル動く。Meta Questシリーズなどモバイルベースのプロセッサよりだいぶ上のグラフィック性能を持つので、Quest向けに多いカートゥーン調グラフィックだけでなく、フォトリアル寄りのグラフィックも描写できるだろう。
しかし、パソコンでリッチなVRゲームを快適にプレイしようとすると、ビデオカードだけで10万円以上というくらいVRはマシンパワーを必要とする(VRゲームでなくても最高設定で十分なfpsを出そうとするとそんくらいかかる)。そんなビデオカードに比べると、M2の性能では足りないのでは、プロセッサを外付けにしてでもM2 ProやM2 Maxにした方がいいのでは、と筆者は最初は思ってしまった。しかしよくよく考えると、そうでもなかった。
現状のvisionOSにとって、CGが空間全体を覆うVRアプリは体験の一部に過ぎない。平面タイプのiPadアプリをたくさん表示する使い方なら、それほどのグラフィック処理性能は必要ないだろう。
さらに言うと、Vision Proにはアイトラッキングが搭載されている。これにより、視点を合わせている部分だけ詳細に描写し、それ以外の描写は手を抜くことでGPU負荷を軽減する、「フォービエイテッドレンダリング」という手法が使える。このフォービエイテッドレンダリング、今回visionOSでの開発環境として発表されたUnityで対応するとされている。
筆者はこのあたりは明るくないので、フォービエイテッドレンダリングをアプリに実装する難易度とか、効果とかは、正直よくわからない。しかしそうした負荷軽減の手法も用意されているので、Vision ProにはM2が最適とアップルが判断したのだろう。
実際に、Vision Proでどのくらいのグラフィックが描写できるか、M2で十分か不十分かは、実機がないとわからないし、アプリが充実してこないと判断できない。このあたり、実機がどのくらいのパフォーマンスを発揮するかは、気になることだし、楽しみなポイントである。
Vision Proの操作方法
Vision ProはほかのVRゴーグルのように専用コントローラを用いず、アイトラッキングによるポインティングと指先のジェスチャで操作する。
筆者は、Vision Pro実機を使ったことはないし、なんならアイトラッキングデバイスすらまともに使ったことはないので、これが使いやすいかどうかの結論は述べられない。しかしおそらくだが、慣れが必要なものの、使いやすいとは思う。
筆者も持っている「Meta Quest 2」は、ハンドトラッキングに対応し、ホームメニューなどは素手で操作できる。アイトラッキングはないので手首の向きでポインティングするが、これがけっこう使える。ハンドトラッキング/アイトラッキング前提で、センサー、プロセッサー、OS、アプリを作っているVision Proであれば、もっと使いやすいことが期待できる。
あとは、音声も主要な操作方法の1つに入っている。要するにSiriや音声文字入力のことだと思うが、ここはiPhoneなどで実績があるところでもあり、使いにくいと言うことはないだろう。
Vision Pro本体の上部にはApple Watchと同じダイヤル状の「Digital Crown」と押しボタンが1つずつ搭載されている。アプリを使っているとき、実空間をどのくらい表示するか、といったことを、Digital Crownを回すことで調整できる。押すとアプリアイコンが並ぶホーム画面を呼び出せるようだ。押しボタンの方は、空間ビデオと空間フォトを撮影するようだ。
このあたりの操作、触っていないのでなんとも言えないが、ちょっとだけ不安がある。
VRゴーグルは装着位置が少しでもズレると、視界全体が大きくズレるので、はっきりいって不快だ。だから力をそこそこ掛けないと動かないボタンやダイヤルは、頻繁に操作したくない。上面や側面バンド基部にライン状のタッチパッドを搭載した方が良かったと思うのだが……
隣の人と目が合わせられる「EyeSight」
Vision Proの前面外側にはディスプレイが搭載されていて、そこに使用者の目周辺を表示させる、「EyeSight」という機能がある。実空間で隣にいる人と「目が合う」わけだ。コストをかけてこれをやるというのは、アップルが実空間のつながりをかなり重要視しているということだろう。
ここに表示される顔は、リアルタイム撮影なのかはよくわからない。FaceTimeなどのビデオ通話時、CGで再現した「ペルソナ」を表示する機能があるので、EyeSightに表示されるのはCGの「ペルソナ」の可能性は高い。それにリアルタイムで目の周辺を撮影するには、ゴーグルの中は暗すぎる気もする。
ここに表示される内容は、カスタマイズできると良いな、とは思う。表情を伝えるために本人の目元を表示させているのだと思うが、ここにジオン系モビルスーツ風のモノアイ(視線連動)を表示したい人は絶対いると思う。
でもこの「EyeSight」、もし将来、安価な「Vision Air」が登場するなら、真っ先に削られる機能だとも思う。電力もったいないし、なくても互換性に支障なさそうだし。
VR民として気になる「装着性」
脳筋系VR民の筆者としては、着け心地は非常に気になる要素だ。
Vision Proは一般的なゴーグルと同じ、顔面で支持するデザインとなっている。このタイプは比較的しっかりと固定されやすい。ちゃんと固定しないと顔を振ったときにVRゴーグルが揺れ、視認性を低くするだけでなく酔いにもつながる。かといって固定するとき、均等に力がかかるようでないと、強く当たったところが痛くなったり痕が残ったりする。
この点で言うと、Vision Proはフェイスクッション(遮光パッド)に複数の形状やサイズが用意され、ヘッドバンドも複数サイズから選べるとのことなので、自分に最適なものにカスタマイズしやすそうで良いと思う。Apple Storeでフィット感を試せるのも頼もしい。
ただ、装着したままで何時間も作業できるかというと、それは人により、作業内容によると思う。薄い不織布マスクだって長時間の着用を嫌がる人はいる。Vision Proはもっと肉体的負荷になると思うので、映画1本分を見るのが限界とかになるのではないだろうか。
あとはやや……どころかかなり特殊な事例だが、そこそこの運動強度でVRゲームをプレイしている筆者の経験から言うと、顔面支持デザインのVRゴーグルは目の周辺の通気性がないので、激しい運動をすると、レンズが致命的に曇る。湿度の高い夏季に1時間も運動すると、フェイスクッションの内側にしたたり落ちるくらい水が溜まる。筆者が最初に使っていたVIVEが壊れた原因は、おそらく水没だ。
これがVIVE CosmosやPSVR/PSVR2のようなオデコ支持デザインだと、少しだけ通気性があるので、やや曇りにくくなる。Meta Quest 2は標準だと顔面支持デザインだが、サードパーティアクセサリ製品だとオデコ支持デザインになるヘッドバンドが売られている。あと換気ファンなんかも売られている。筆者も先日、Facebookで教えてもらった製品を購入したが、けっこうイイ。Meta Quest 2はよく売れているデバイスなので、サードパーティのアクセサリ製品が充実している。
こうしたサードパーティのアクセサリ製品の充実は、アップル製品の得意とするところだ。Vision Proもサードパーティがいろいろなデザインのヘッドバンドが登場し、いろいろな着け心地にカスタマイズできるようになって欲しいところだ。
ちなみにVision Proにはチップセットを冷やすためのファンが搭載されているらしい。これの吸排気ルートにゴーグル内部が含まれていれば、内部結露は防げそうだが、汗をかかないときに換気すると目が乾くので、おそらく冷却ファンの空気がゴーグル内は通らないと思われる。
……まぁ有酸素運動としてVRゲームをプレイするなら、Vision Proなんか使わずにMeta Quest 2で良いと思うけど。
「バッテリー」の拡張性はかなり重要かも
Vision Proのバッテリはケーブル接続の外付けになっていて、衣類のポケットに入れるとか、腰のベルトあたりに装着するとか、着席時はイスなり卓上なりに置いたりとかする。ニュースリリースには、2時間使用できると書かれている。
コンセントから電源供給することも可能で、そうすれば無制限に使えるようになるようだ。公開されている写真や3Dモデルを見ると、本体側にケーブルをつなげるポートが見えないので、バッテリーにあるUSB Type-Cポート(おそらくLightningではないだろう)に電源を接続する形式とみられる。
このケーブル、どのくらいのことができるか明らかになっていないが、かなり気になるポイントでもある。
まず気になるのは、バッテリーの交換が容易にできるかどうか、このケーブルにどのくらいの拡張性があるかだ。ケーブル接続部には点がプリント(もしかするとLEDかも)されていて、いかにも回転させると外れそうなデザインになっている。
このケーブルは専用デザインに見えるが、仕様がMFi認証メーカーに公開されれば、より大容量のバッテリーとか、ベルトと一体になったガンベルトみたいな超大容量バッテリーとか、汎用バッテリーが使えるUSB Type-Cケーブルとか、バッテリー内蔵ヘッドバンドとか、そうしたアクセサリの登場に期待できる。
また、できれば充電が少なくなったとき、充電済みのバッテリーに素早く交換できるとありがたい。そのときに再起動せずホットスワップできると便利だが、それには本体側にも内蔵バッテリが必要なので、ここも気になるところである。
あとはバッテリー側に付いているUSB Type-Cと見られるポート、これが充電だけでなく、周辺機器接続にも使えるかも、気になるポイントだ。デジカメやSDカード、USBストレージからデータを読み取れないと、正直、作業環境としては、けっこう不便だ。逆に、これがほかのM2搭載デバイス同様にThunderboltポートだと、いろいろな用途に使えそうで面白くもある。
また、バッテリー側のUSB Type-Cポート(あるいはThunderboltポート)で周辺機器が使えるとなると、USBハブやHDMI出力などが付いたバッテリーも登場するかも知れない。逆にPS5やSwitchの映像を巨大なウインドウに表示できるHDMI入力があれば、大型テレビの代わりにも使える。Vision Proにはこのあたりまで期待したいところでもある。
意外と重要な「矯正レンズ」
Vision ProはZEISSによる視力矯正インサートレンズを装着できるので、近視などの人はメガネを外して着用できる。
筆者も所有しているVRゴーグルのほとんどに視力矯正レンズを付けている。メガネっ子には必須だし、驚くほど快適だ。どのくらい快適かというと、「VRゴーグルを着用しているときの方が良く見える」のである。
VRゴーグル内のディスプレイ上では、すべてのものが一定距離で表示されるので、適切な矯正レンズを入れると、全域にピントが合う。近眼が強く、かつ老眼入りのオジサンだと、実際の世界では遠くも近くも見えづらいのが当たり前なのだが、VRゴーグルを着用すると、遠近どっちもよく見えるのである。
Vision Proは高解像度なカメラとディスプレイを搭載するので、ヘタをするとメガネをかけるよりVision Proをかけた方が、家事などがしやすい可能性がある。メガネより見えすぎるので、逆に歩きづらいとかもありそうだが。
明らかにされていない「通信機能」
通信などはワイヤレスになる。Wi-FiとBluetoothは確実に搭載されるであろう。ケータイ Watch的に気になるのは、5G/4G搭載のCellularモデルが登場するかどうかだ。
利用する場所は主に屋内、Wi-Fiがありそうな場所に限られそうなので、単純に考えるとCellularモデルの意義は高くないと思う。しかし、たとえばコワーキングスペースや喫茶店、ホテルあたりで使う可能性は十分にあり、そこで公衆無線LANを使いたくないという人もいるし、いまどき下手な公衆無線LANより5Gの方が速い。そうなるとCellularモデルも用意される可能性は高いと思う。
もっとも、iPhoneユーザーであればVision Pro側からテザリング起動ができるようになると思うので、Cellularモデルでなくてもそこまで困らないかもしれない。
そのほかにもAirTag探しなどに使われる超広帯域通信には対応してくる可能性は高い。iPhoneだと2次元的な方角しか表示できないが、Vision Proなら3次元的に方角を表示できるし、なんなら3次元的にポイントもできるはずだ。
Vision Proは成功するか失敗するか
筆者はまだ実機を触っておらず、スペックなどの詳細もわからないことだらけなので結論は出ないが、Vision ProがiPhoneやiPadのようにバカ売れして普及するかというと、そんなことはないと思う。
これは、Vision Proがそういった製品というだけのことだ。アップルもこの価格でiPhone並みに売れるとは思っていないだろう。まず最初は、いわゆるアーリーアダプターやアプリ開発者、業務に使いたい人など、50万円以上の価値を見いだした人やコストは関係ない人が買えば良い。
そうした最初のユーザーにより、visionOSで何ができるかが認知されていけば、やがてvisionOSのポテンシャルを活かすアプリも増えるだろう。他社からライバルデバイスも登場するかも知れない。使われている技術や部品が安くなったり、不要な機能を切り落として安価になった製品も登場するだろう。そうなれば買う層は増えていく。
そうして数年後には、そこそこの数がコンシューマー向けにも売れるようになるかもしれない。しかしこれはどうなるかわからず、売れずに消えていくかもしれないし、HoloLensのように業務向けに生き続けるかもしれない。数年後にどうなっているか、本当に楽しみである。
で、買うの?
さて、非常に長々と推測や考察混じりでVision Proについて書かせていただいたが、筆者がVision Proを買うかどうかというと、まだ検討中だが、たぶん買う。アメリカ以外での発売は来年後半なので、まだまだ時間があり、詳細なスペック情報やアプリ、アクセサリなどサードパーティの情報もこれからで、判断材料はそろっていない。しかし、たぶん買う。
そもそもVR環境に100万円以上を投資してきたVR民の筆者からすると、50万円は桁違いな投資ではない。
20年以上パソコンの環境を改善し続けてたどり着いた現環境がvisionOSの空間コンピューティングにそっくりなので、その価値はよく分かっている。iPadアプリでも仕事ができるようにしているので、visionOSでもたぶん大丈夫だ。アップル製品のデバイス間連携も使いこなしている。
そういえば現在使ってるMac miniはそろそろ3年目だし、稼働中のiPadの何枚かは今秋、アプデ足切りされるので、買い換えや買い足しが必要な時期だ。
VRはハードウェアもアプリも扱いに慣れている。1月に建てた新居は平屋で、廊下なども広く作ったからVision Proを着用したまま生活しても危険は少ない。LDKはVRにも使えるようにソファは置かず広い空間を確保している。
買うべき理由、使いこなせそうな根拠が筆者には山ほどあるのだ。
ただ、こんな筆者だから購入を前向きに検討しているが、そうでない人は、少なくとも数カ月は使った人の評価を待つべきだと思うし、できれば数年待って数世代の更新を見届けてからの方が良いと思う。
おそらく、筆者は早い段階で購入し、いろいろレビュー記事を書かせてもうらうので、1年以上あとのことになるわけだが、そのあたりも楽しみにしていただければと思う。