石川温の「スマホ業界 Watch」

ドコモ「dカード/d払いで5億円分還元」、dポイント経済圏発展のキーになる存在とは

 コロナ禍で海外出張にほとんど行かなくなっていたものの、昨年9月以降は月一ペースで米国取材に出かけている。

 そして最近、米国で感じたのが「すっかり紙幣を使わなくなった」ということだ。

 もともと、米国はクレジットカード文化であり、いたるところでクレジットカードが使える。ただ、昔からの習慣を踏まえ、ホテルで毎朝、部屋を掃除してくれるハウスキーパーさんに向けて、ベッドの枕元に数ドル、置くために現金を用意していた。

 しかし、数年前、アメリカ在住の知り合いに「そんなことやっているの、世界で日本人しかない」と指摘されて、それ以降、チップを置くのを辞めてしまった。そのためにドル紙幣や硬貨が必要であったが、もはや不要となった。

 米国滞在中、タクシーに乗るということもしなくなった。移動する際はほとんどがUberやLyftといったライドシェアアプリを使い、車を呼び出し、目的地まで送ってもらう。この際、アプリで支払いが完結するので、現金はもちろん不要だ。

 米国に滞在して感じるのが、クレジットカードだけなく、Apple PayやGoogle Pay、Samsung Payがほとんどの場所で使えることだ。

 先日のCES取材でラスベガス、乗り継ぎでホノルルに滞在しているときは、ほとんどApple Payで支払った。タッチ決済対応なので、iPhoneのウォレットアプリから使いたいカードを選び、かざすだけで決済が完了する。

 クレジットカードの場合、暗証番号の入力を求められることがあるが、タッチ決済では不要。サイフを出す手間も省けるのでとてもスムーズだ。

 タッチ決済はスマホのアプリだけでなく、プラスチックのカードでも対応している。そのため、現地ではカードを機械に挿入して決済するのではなく、カードをかざして決済を終わらせている人も多い。

 日本では、ここ数年、各キャリアがQRコード決済に注力し、大盤振る舞いなキャンペーンを展開してきたこともあり、すっかりFeliCa(おサイフケータイ)ベースの決済がマイナーな存在になってしまった感がある。QRコード決済の場合、決済を受ける店舗はスマホやタブレットがあればいいので、導入しやすい。さらに、ユーザーはアプリを起動し、画面を見ることになるので、クーポンやキャンペーンの情報に気がつきやすく、購買行動の拡大につなげることができる。集客や購買拡大を狙う上で、QRコード決済はサービスを提供する側としては、マーケティングツールとして有効なのだろう。

 ただ、ユーザーからすれば、タッチ決済の方が圧倒的に便利で簡単だ。

 そんななか、NTTドコモは「d払い」だけでなく、dカードとiDを再び、盛り上げるような施策に打って出てきた。昨年の12月1日から今年1月31日までの期間限定で「dポイント総額5億円分ポイントバック」というキャンペーンを展開しているのだ。

 条件としては、dカードのiD決済と物理カード決済、d払いで期間中、1万円以上、利用する必要がある。これまでであれば、d払いだけを盛り上げるキャンペーンが多かったイメージがあるが、ここにきて、iD決済も含めるようになったのが意外というか新鮮だ。

 NTTドコモでは、これまでd払いとiD、dカードはそれぞれの部署でプロモーションを行っていたという。今回、ドコモの決済手段として、まとめて見せ、それぞれを活用することで、dポイントが貯まるという見せ方をしていくように変えてきたらしい。

 iDに関しては、アプリを立ち上げる必要がないという使い勝手の良さに加えて、全国で200万台の決済端末が普及しているという。また、カードだけでなく、iPhoneやAndroidのスマートフォンに加えて、Apple Watchなどでも使えるというメリットが大きい。

 キャッシュレス決済市場を俯瞰すると、まず国内のキャッシュレス決済比率は2021年に32.5%となっている。そのうち、クレジットカード決済が27.7%であり、QRコード決済は1.8%にとどまっている。

 ちなみにdカード契約数は2022年9月末現在で1600万人となっている。楽天カードの2751万枚には及ばないが、一方でdカードは「dカード GOLD」という年間1万1000円の会員費を支払っている優良顧客が930万人も存在する。

 一方で、ソフトバンクとZホールディングスのPayPayは、QRコード決済で圧倒的なポジションを築いているが、クレジットカードに関しては、ようやくPayPayカードを立ち上げたばかりだ。

 NTTドコモがキャッシュレス決済市場で勝っていくには、「dカード GOLD」を所有する優良顧客に、いかにiD決済を使ってもらうかが、重要になってきそうだ。

 iDのプロモーションについて、dカード以外のカード会社とも一緒になってプロモーションをしていくか、という質問に対して、NTTドコモのコンシューママーケティング部 シニアマーケティングディレクターの西井敏恭氏は「iDの使いやすさ、利便性は高いので、当然やっていく。ただ、iDユーザーの半分は、dカードユーザーのiD連携なので、dカードユーザーに向けてのキャンペーンで、規模を押し上げていけるのではないか」と語る。

コンシューママーケティング部 シニアマーケティングディレクターの西井 敏恭氏

 NTTドコモの井伊基之社長は「iDが今後の収益にどれだけ貢献するかという面においては難しい面があるのも事実。だが、単純に儲かっている方に寄せてしまう考え方はとりたくない」として、社内でも「iD支持派」であることが明かされた。

 iDは全国で決済端末が200万台も普及し、dカードとの相性もいい。なにより、競合他社が持っていないプラットフォームでもある。NTTドコモとして、もっと大切に、iDをテコ入れしてもいいのではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。