インタビュー

「dポイント」の現在とこれから、パートナーとの連携で生みだす新たな戦略とは

 広がりを見せるNTTドコモの「dポイント」。9000万人強の会員基盤を持ち、街のさまざまな店舗で使えることが魅力のひとつ。

 消費者にとってお得に使える便利なサービスだが加盟店にとっても、またお客様に来てもらえる工夫に使える側面もある。加盟店との取り組みで何が実現するのか? NTTドコモ スマートライフカンパニー 第一カスタマーサクセス部 部長 石井清信氏、第一カスタマーサクセス部 アライアンス 担当部長の真柴智宏氏、第一カスタマーサクセス部 アライアンス 第二アライアンスの渡邉聡氏に訊いた。

左からNTTドコモ 石井氏、渡邉氏、真柴氏

会員数は9000万人超に

 dポイントクラブの現在の会員数は、およそ9040万人でdポイントカード登録会員は約5900万人。日本の総人口の約86%がdポイント会員にあたるという。ドコモのサービスであるため「ドコモユーザーのためのもの」という印象を抱きがち。

 しかし、NTTドコモ スマートライフカンパニー 第一カスタマーサクセス部 部長の石井清信氏はこれを否定し「ドコモ以外のユーザーが約半数」と実情を紹介する。「ここまで来れたのは、ドコモだけでなく多くのパートナーのおかげ」とコメントする。dポイント加盟店は現在、507社、全国でおよそ10万店舗にまで広がっている。

 年間で利用されるポイントはおよそ2700億。その8割は街の店舗で利用されており、dポイントが加盟店で利用されることで、送客を実現してきたとその効果をアピールする。

 6月には「史上最高にたまりやすい」とするリニューアルを実施した。

今後の戦略とは

 全ユーザーへ開放を果たし、多くの加盟店で利用されてきたdポイント。今後はどのような戦略を描いているのだろうか。

 石井氏は「カスタマーサクセスの実現。これまで以上にカスタマーサクセスも意識する取り組みに向かう」と語る。従来、加盟店に対して伝えるdポイントの魅力は、ドコモ原資によるキャンペーンの実施やポイント利用による客単価向上などがメインだった。

 マーケティングにおける「4P分析」における「プロモーション」がこれまでの主な取り組みだったが、今後は「プロダクト」と「プライス」「プレイス」でも価値提供の実現に向けて進める方針を示す。加盟店が持つPOSのデータとドコモが持つデータを連携することで、これまでにない詳細なターゲティングが可能になるなど、デジタルマーケティングが可能になる。

より詳細な顧客データを取得可能に

 その第一歩が、ドラッグストアのココカラファインでの取り組みだ。ココカラファインは現在、dポイントのほかに楽天ポイントを利用できるが、11月からdポイントに一本化する。自社ポイントのココカラポイントとの併用が可能で、付与率も0.5%から1%と現在より高くなる。

 こうしたサービス提供変更の狙いとしては「CRM」(顧客関係管理)の向上があるとNTTドコモ 第一カスタマーサクセス部 アライアンス 第二アライアンスの渡邉聡氏は説明する。

 これまで、ココカラファインでは自社ポイントとdポイント、楽天ポイントのいずれか1つを利用者が選択する仕組みになっていた。この場合、ポイントカードを提示する人、しない人に分かれ、カードを利用する人でも3つのポイントカードでシェアを分け合うかたちとなっていた。

 ココカラファインがポイント施策を実施する場合、各ポイント提供者と個別に進める必要があることがデメリットとなっていたという。

 一方で、11月からは自社ポイントとdポイントにサービスが絞られ、かつ重畳適用が可能になることから、ポイントサービスから見たユーザーのカバレッジは大きく広がることになる。

 これにより、再来店を促すコストを最小化しプロモーションなどを効率よくできる。加えて将来的な構想として、まだ来店したことのない人でも、dポイントの会員基盤やAIを活用して見込み客を抽出し、新規送客を可能にするといったことも検討しているという。

ドコモと自社データのかけ合わせでメーカーにもアピール

 加えて、取り扱う商品を手掛けるメーカーへの施策も進める。ドコモの持つデータや加盟店のPOSデータなどからメーカーへ向けてのプロモーションの提案を可能にしたという。

 ポイント付与やドコモメディア(広告)での訴求をもとに、そのターゲティングに反応した顧客のセグメントといったデータをメーカーへ付与。そうした情報をもとに、次回はどのようなターゲティングを実施すれば良いのかといった利用につなげられる。どういうユーザーがその製品を買うのかがわかるといったポイントがメリットとアピールする。ドコモによれば、施策を実施することで150%超の売上を実現した例もあるとする。

 ドコモの会員データ分析では、5000項目ほどでユーザーを可視化するAIがあるという。このデータと連携する流通業者の購買データなどをかけ合わせると、それぞれの持つユーザーの消費行動や趣味嗜好などが、おぼろげではなく明確にセグメント化されたユーザーのデータが浮かび上がる。これにより、狙いたいユーザーに向けて正確に広告を配信できるようになるという。

 一見、販売側だけにメリットがあるかのように思えるかもしれないが、実際は小売業者やメーカーだけが得をするということではない。たとえば男性向けのシェービングフォームの広告を女性に届けても多くの場合、迷惑にしかならないところだが、この仕組みを活用することで、受け取る必要のないユーザーには無駄に露出させないということになり、無駄な情報にアクセスすることもなくなるという観点で、消費者にもメリットがある。

 小売事業者などが自社だけではできない、集客方法を取れるのも魅力のひとつ。一般的に流通系・小売系において3カ月間、来店がなければ次の来店を見込むのは難しい。そこで、dポイントキャンペーンとして3カ月間来店のないユーザーにはポイント還元を実施。さらにその後1カ月の間にまた来てもらえれば還元する、というようにCRMの連続性を作れる。

 第一カスタマーサクセス部 アライアンス 担当部長の真柴智宏氏は、こうしたdポイントの使い方が事業者に評価されている部分があると語る。店舗に向けたソリューションとしては来店者の年齢・属性などが確認できるダッシュボードを無償で提供されるほか、有償だがより高機能な「スーパー販促プログラム」なども用意される。

出店戦略や小売・流通以外にも

 店舗戦略の活用という観点でもdポイントを活用して支援する。新規出店は、コストなどから慎重になりがち。しかし慎重になりすぎれば出店予定地を他社に取られてしまう可能性があるといった難しさがある。

 そこで出店戦略や出店後の来店実績をトラッキング。来店実績のある人とそうでない人のデータを機械学習させ、利用実績がないユーザーと継続利用者をスコアリング。潜在的な顧客の可視化が可能になる。こうした情報をドコモが提供することで、出店戦略の参考にできるという仕組み。

 こうしたデータは、ユーザーの住所や携帯電話基地局、スマートフォンのGPSの3つの情報を駆使。基地局情報は山間部などでは目が荒くなる部分があるとしつつも、GPSで正確に導線がわかるため、地域による情報の密度に差はないという。もちろんこうした情報から個人が特定されることはない。

 マーケティングにおいて、位置情報は、住所や平日の昼間、夜間の居場所がわかれば良いとされることが多いという。

小売・流通以外での利用も

 現状では、主に小売系などのサービスへの採用が主になっているdポイント。今後、それ以外のサービスへの浸透もあるのか。

     真柴氏はそれもひとつの可能性として語る。Webメディアであればdアカウントを実装し、たとえば1週間に5回起動したらポイント付与というかたちもありうるという。ポイントを付与するのみの仕組みだが、ドコモでは「提携店」という言い方をしておりすでに実現可能なものと説明した。

     加盟店との連携強化でよりお得に使えるdポイント。今後も新たな戦略からますます目が離せない。