石野純也の「スマホとお金」
KDDIの大規模通信障害でお詫びの「200円」、その背景と補償のあり方を考える
2022年8月4日 00:00
既報のとおり、KDDIは7月29日に、7月2日から約3日に渡って発生した通信障害の経緯や原因、さらに再発防止策を説明しました。期間が3日間と長期間だったことに加え、影響した回線数も3000万超と多く、「人数×時間」では 過去最大級の通信障害 と言えます。この説明会では、ユーザーに対する補償の内容も発表されました。補償は2種類に分かれています。
1つが約款ベースの補償。こちらは契約時の同意に基づいて行われるもので、音声通話やデータ通信が丸々使えなかった期間が丸24時間以上に及んだときに受けられる補償になります。一方で、今回の通信障害は、VoLTE交換機や加入者管理データベース(HSS)が原因だったこともあり、データ通信だけは使えるユーザーがかなりの数にのぼりました。約款上、こうした場合は“使えた”と判断されるため、補償の対象外になります。
これに対し、KDDIは約款外のいわゆる「お詫び返金」を実施する予定です。金額は一律で200円です。ただ、約款ベースではないだけに、金額への感じ方はさまざまだったようです。実際、ネットの反応を見ていると、「十分」という声がある一方で、「そのぐらいであればインフラの増強に使ってほしい」といった意見や、「誠意が足りない」といった趣旨の不満もあり、まさに議論百出の状態。補償の難しさが浮き彫りになりました。
なぜ、200円? 算出方法は。
では、一律で200円という補償は、どのように導き出されたのでしょうか。KDDIによると、算出方法は約款補償の金額感をある程度参考にしたといいます。約款では、24時間以上連続してすべてのサービスが利用できなかった場合、そのぶんの料金を返金すると定められています。返金する料金は日割りになり、24時間であれば1/30、48時間であれば2/30になります。今回、この対象になったユーザーは271万人でした。
KDDIの高橋誠社長はその金額は、「1日あたり平均して52円」と明かしています。約款返金は2日間に及ぶため、1人あたり約104円返金される格好です。平均額が低いのは、対象者の多くが音声通話だけの料金プランだったため。高橋氏は「音声契約だけの携帯電話が中心で、ホームプラス電話に入っている方や、スマホでもISP契約をしていない方がたまにいる」としています。一般的なスマホ契約の場合、データ通信を利用できた端末は多かったことから、約款による返金はされません。
約款返金の対象外となる詫び返金は、この52円をベースに算出されたといいます。 通信障害が3日目に及んだことから、「52円×3日間」で計算。この156円に、「お詫びの意味を込めて(44円)上乗せした」のが200円という金額になります。約款上の対象は2日間のため、実際には1日分の52円と44円が上乗せされている計算になります。KDDIはこの金額を、約3589万のユーザーの料金から減額します。
1人あたりにするとわずか200円と思えるかもしれませんが、3000万超と対象者が膨大になるため、返金の総額は73億円、子会社の沖縄セルラーぶんを含めると75億円に達します。中小企業だと数年分の売上げが吹っ飛んでしまいかねない金額で、零細フリーランスの筆者も身震いしてしまいますが、これは通信キャリアのビジネスモデルの裏返しとも言えます。ユーザー1人あたりの収入(ARPU)だけでなく、加入者数がいかに重要かが分かるはずです。
単月で75億円の利益が飛んでしまうのは、KDDIにとっても小さくはありません。KDDIの第1四半期の営業利益は2969億円で、1カ月平均で約990億円になります。約款返金と詫び返金で、この1割弱が飛んでしまうのは、決して小さな金額ではないでしょう。2969億円は、すべての事業から得られた利益になるため、通信事業に限ると、その比率はさらに大きくなります。高橋氏は「経営努力の中でカバーする」としているため、リカバリーできない金額ではありませんが、コスト削減などの工夫は必要になりそうです。
200円は適正?
とは言え、個人の返金として200円と聞くと、なかなか微妙な気持ちになるのは分からないでもありません。冒頭で述べたように、さまざまな意見が噴出したのも、そのためでしょう。金額に対しての個人差があるのはもちろん、毎月KDDIに支払っている料金にも大きな違いがあるため、一律で200円というお詫びの仕方だと感じ方が分かれるのは当然のような気もしています。
例えば、UQ mobileで「くりこしプランS +5G」を契約し、「自宅セット割」が適用されている場合の料金は990円。200円差し引かれると、790円まで料金が下がります。この料金プランの場合、実に2割程度安くなるため、3日間の通信障害に対するお詫びとしては、かなり高額なように見えます。より極端な例で言うと、Apple Watchを単独契約する「ウォッチナンバープラン」の場合、料金は385円で、半額以上が返金されてしまうことになります。
その一方で、auの「使い放題MAX 5G」を契約しており、各種割引がない状態だと料金は7238円。200円は、料金全体からすると2.8%弱といったところで、もう一声ほしくなるような感もあります。同じau内でも、「ピタットプラン5G」で1GB未満に抑えていると、割引なしでも料金は3465円で、200円の占める割合は5.8%まで上がります。なんとなく、日割りの返金というと、このぐらいのイメージになるのではないでしょうか。かく言う筆者も、auはピタットプラン5Gを契約しているため、返金額は妥当だと感じていました。
通信障害の実害がどの程度あったかによっても、感じ方が変わってくる可能性はあります。VoLTE交換機とHSSに起因する通信障害ということもあり、大部分の人はデータ通信だけなら使えていたからです。スマホ時代になり、音声通話のMOU(平均通話時間)がどんどん下がっているのはご存じの通り。データ通信が利用でき、コミュニケーションをLINEなどで取れれば特に問題ないという人も少なくありません。
逆に、どうしても電話をかけたいことがあったり、普段から音声通話定額に加入するほど通話が多いと、3日間の通信障害は長く感じてしまうはず。仕事に利用していれば、なおさらそう感じることでしょう。また、端末の接続シーケンスの違いから、Androidの一部は、VoLTEの接続に失敗すると、そのままデータ通信も利用できなくなってしまいます。今回の通信障害でも、この影響でデータ通信まで不通になってしまうケースがありました。こうした端末のユーザーは、「まったく使えない」と思えるほどの状態になっていたことが推測できます。料金プランだけでなく、状況もバラバラだったというわけです。
KDDI関連のMVNOの対応は?
あくまでお詫びとして約款外の補償のため、外野がとやかく言うべき話ではないのかもしれませんが、一律で金額を定めてしまうよりは、 毎月支払っている料金に応じた額を補償すれば、総じて満足度は高くなった可能性はあります。 実際、KDDI傘下のMVNOであるJ:COMは、J:COM MOBILEのユーザーに対して、 料金プランに応じた金額の補償 を行うことを表明しています。
J:COM MOBILEは、基本使用料の3日分相当を返金するとしており、最安の1GBプランでは95円、最高額の20GBプランでは240円の補償が行われます。この金額は、「かけ放題5分」や「かけ放題60分」に未加入の場合。J:COM MOBILEは両かけ放題も基本使用料に含むとの考えを示しており、どちらかに加入していれば、補償額はより大きくなります。これなら、少なくとも支払っている金額に対しての補償としては、納得感が高くなったような気がしています。
ちなみに、一連の通信障害では、 au回線を使う他のMVNOも、独自に補償を実施 することを表明しています。IIJのIIJmioは、KDDIと同じ一律200円を補償(au回線を使うタイプAのユーザーに限る)。オプテージのmineoや、ビッグローブのBIGLOBEモバイルなども、補償の検討をしていることを明かしています。通信障害の原因はKDDIの交換機やHSSにあるため、音声通話を卸契約で借りているMVNOの場合、防ぎようがなかったことではありますが、ユーザーが契約を結んでいるのはあくまでMVNO側。KDDIからユーザーに対して補償はされないため、MVNO側が動いた格好です。
MVNOは元々の料金水準が低いため、IIJmioのように一律で200円となると、負担額が大きくなりすぎるような印象も受けました。IIJmioは比率で言えばドコモ回線の方が圧倒的に多く、一律200円補償でも影響が軽微になると判断した可能性はあります。これに対し、J:COM MOBILEやmineo、BIGLOBEモバイルはau回線比率が高いことで知られます。J:COM MOBILEが料金プランに応じた補償額を設定した背景には、こうした事情もありそうです。同様に、現在検討中のmineoやBIGLOBEモバイルも、料金プランに応じた補償が行われる可能性が高いと見ています。
とは言え、金額の高い安いは主観的な話になってしまうため、ユーザー全員が納得する補償を打ち出す“さじ加減”は非常に難しいとことだと思います。3000万以上の人が対象になるとなれば、なおさらです。 ただ、少なくとも約款ベースの補償は、現在の利用スタイルに合っていないような印象も受けました。 今回の通信障害で困ったユーザーが多かったのに対し、約款補償の対象者が少なかったことがそれを物語っています。
こうした補償のあり方は、1社で決められることではありません。逆に、業界全体で定めた横並びのルールがあり、それに基づいて補償を行った方が納得感は高かったような気もしています。 約款ベースの補償はまさにそれで、各社ともほぼほぼ内容は同じですが、いずれも音声通話中心だったころの名残が強すぎるようにも見えます。こうした点については、監督官庁である総務省が音頭を取って、ルールを見直していくことも必要になりそうです。