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「ARM買収で人類の未来に関われる」、ソフトバンク孫氏がロンドンで語る

 ソフトバンクグループは18日(日本時間)、英国に拠点を置くARMを買収すると発表した。ロンドンで会見を行った孫正義社長は、スマートフォンや自動車向けのCPUにおける中核技術を持つARMを買収することに対して「創業以来、もっともエキサイティングな日だ」と熱量を持って語った。

 孫氏は「これまで日本で3位、アメリカで4位といった事業を抱えていたが、私が直接関わる事業として『世界一』を持っていなかった。今回の買収は我々が初めて、ある分野で世界一を保有することになり、その分野が人類の歴史上、最も重要になる」とコメント。

 ARMは、自社設備はもたず、いわばCPUの設計図を提供する企業。特にスマートフォンに搭載されるCPUのコア部分はほとんどがARMの技術を採用する。孫氏は「パソコンのCPUのほとんどはインテルだが、その外に出ると、ほとんどがARMだ」と述べ、ARMが占めるポジションの重要性をあらためて説明する。さらにこれからIoT分野の成長がグローバルで見込まれる中で、「独自技術があり、市場のポテンシャルも非常に大きい」とコメントし、ソフトバンクの長期的なビジョンとも完全に合致する投資だ、と胸を張る。

英国のEU穎脱、影響は?

 日本円にして3.3兆円という巨額の買収は、ソフトバンクにとっても過去最高額と孫氏。

 一方、ARMが拠点を置く英国は、最近国民投票によってEUからの離脱を選択。その影響で英国通貨のポンドも日本円に対して安くなった。この影響はあるのか、という問いに孫氏は「買収の意志決定に0.1%も影響しなかった」と回答。ポンド安にはなったが、ARMの株価は英国のEU離脱選択後、15%値上がりしてポンド安と相殺されたとのことで、米ドルで見た場合は割安にはならなかったのだという。

 買収額の7割は手元にあった現金。これはアリババ株売却による現金があったから。残り3割はいわゆるブリッジローン(短期融資)で、これもスーパーセルやガンホーの株式売却による現金が近く入ってくる見通しが立っているために選んだ手段。通貨の変動は影響しなかったものの、かねてより抱いていた今後のビジョンにマッチするARMを前に、資金的な余裕ができたことから買収に踏み切ったという。

 ARMへ正式にアプローチしたのは2週間前。ニケシュ・アローラ氏が退任したあとで、今回の件にアローラ氏は関わっていない。孫氏によれば、ARMの会長が休暇を取って、ヨットでトルコに立ち寄ったタイミングで、そのヨットハーバーで会って持ちかけたのだという。ちなみにソフトバンクは1年ほど前からアメリカズカップというヨットレースへ参戦している。

英国での雇用を倍に

 孫氏は、買収後も現在のARM経営陣にそのまま残ってもらうと明言。ARMにとって、今回、ソフトバンクの完全子会社になることで、機関投資家のような短期的な利益を求めるような株主に左右されることなく、これまでより大胆な投資が可能になる。スマートフォンなどに搭載されるチップとしては、市場を独占する勢いで大きなシェアを占める一方で、IoTでは、これまでよりもさらなる省エネ化など、新たな技術革新が求められる分野でもある。

 ARMの買収にあたり、英国政府のハモンド財務大臣と面会したという孫氏。さらにロンドンへ向かうため、日本を発つ直前には、就任間もないメイ首相と電話でで話した。

 孫氏はARMの買収により、英国における雇用を今後5年間で2倍にするという方針を進めているとのことで、IoT時代に向けて投資するARMが必要な人材を確保しやすい環境を整える。こうした雇用面での方針もあって、メイ首相から孫氏には「英国への強い信任だと思っている」と期待を寄せるコメントがあったのだという。

 ソフトウェアの流通からインターネット事業、通信事業、携帯電話事業へと相次ぎ事業分野を拡大し続けてくるソフトバンク。今回、畑違いとも思えるCPU技術のARMを買収したことについて孫氏は、40年前、手にした雑誌へ掲載されていたマイコンチップの写真を目にしたときのエピソードを交えながら、「人類の頭脳を超えるものが、初めて人類の手で生み出された。ARM買収によって人類の未来へ大きく関わっていける」と説明。また質疑でも「iPhoneやAndroidのなかに入っているのはARM。いつか、いつの日か余裕ができたらARMをグループに迎えたいという漠然とした思いは10年くらいあった」とも述べる。

 ここ最近の孫氏は、シンギュラリティ(技術的特異点)が近い将来に訪れて、人工知能が爆発的に成長するという説を重視する姿勢を見せている。そのためにロボットやIoTといった分野が重要である、との見方も示しており、ARMはそうした分野を支える存在であり、買収を決断したのだと語った。