【Mobile World Congress 2015】

「ピーク速度ではなく、ユースケースを」

5Gに向けた取り組みをドコモCTOの尾上氏に聞く

 NTTドコモは、Mobile World Congressに合わせ、2020年に商用化を目指す「5G」の実験結果を発表した。今年のMWCは、5Gが主要なテーマの1つ。各国のキャリアやネットワークベンダーも同様に、5G関連の展示を行っている。5Gについてのキーノートスピーチやパネルディスカッションも多く、グローバルでLTE Adavncedの“次”を模索する動きが本格化している印象だ。

ドコモのCTO 尾上誠蔵氏

 ドコモは、LTEの標準化にも積極的に関わるなど、グローバルで見ると研究開発に力を入れているキャリアだ。5Gに向けた取り組みでは世界各国のベンダーとも協力体制を築き、技術的な側面から仕様の提案などを行っている。こうした研究開発をリードするドコモのCTO(取締役常務執行役員)尾上誠蔵氏に、ドコモの5Gに向けた取り組みやMWCでの成果を聞いた。

――5Gに向けて、今、どのような取り組みをしているのでしょうか。

尾上氏
 Next Generation Mobile Networks(NGMN)というオペレーターの集まりがあり、ここで1年前にホワイトペーパー(年次報告書)を作るという記者会見をしました。1年後の今日(現地時間3月3日)には、それができたという会見をしています。MGMNのほかにも、ヨーロピアンコミッションにも呼ばれて行ってきましたが、それぞれがホワイトペーパーを作っています。

 ホワイトペーパーは、技術よりも、どういう世界を作るのか、どういうソサイエティを作って、ユーザーに何を提供するのかといったところがメインになっています。ただ、一般の人が聞くと、5Gとは何なのかがはっきりしません。

5Gに向けて、各ベンダーと協力体制を作っている

 そこでドコモは、技術的な部分にフォーカスしたホワイトペーパーを昨年出しています。これは、高尚な概念というより、技術としてはこうしていきたい、というものです。周波数はこういう風に使うとか、主な技術は見えているものを組み合わせて使うとか、そういう具体的なものです。新しい技術を開発するとき、いつもは技術があって標準を作っていました。一方で、残念ながら、5Gはこれだというものがありません。

――お話を聞いていると、キャリアアグリゲーションやスモールセルを組み合わせるLTE Advancedに近い印象を受けます。

尾上氏
 まさしくそうです。延長線上で力技も必要で、個人的には面白くないとおもいながらも、基本的には通信は昔から力技なところがありました。実装の技術があがって、処理能力があがって、それでできていることもたくさんあります。

――MWCに合わせて、ドコモはいくつかの発表をしています。進展があった点を教えてください。

尾上氏
 屋外実験で、4.5Gbpsが出たというものが1つで、昨年5月の段階では6社だった協力ベンダーに、今回はファーウェイと三菱電機が加わり、共同でやることの範囲を広げています。

――こうしたベンダーとの協力体制は、LTEのときにはあまり見なかった印象を受けます。

尾上氏
 ドコモも、やり方を変えています。今までは自分たちでやりたいことを決めて、その実験を100%、ドコモの負担でやっていましたが、最終的に標準化されてものになって商用装置になったとき、ゼロにはなりませんが、全部が生きるわけでもありませんでした。

 最初から色々なプレイヤーと協力して、お互いの負担で持ち寄ってやろうという形に変えたのが、昨年5月のことです。

――ファーウェイ、三菱電機が加わった理由を教えてください。

尾上氏
 基本的にはご提案をいただき、双方で興味が持てるテーマであれば協力します。結果として、いろいろな技術をいろいろな周波数で実験するという、バランスも意識しています。

4Gの次の規格として、2020年に5Gの商用化を目指す
国際的にも、5Gの議論が活発化している

――5Gの推進に向けて、何か支障になっていることはあるのでしょうか。

尾上氏
 支障というよりも、まだ実際の標準化において、どのリリースでどういったものを入れていくのかが決まっておらず、ここには各社の駆け引きもあります。駆け引きといっても、だまし合いをしているわけではなく、いいものを作るにはどうしたらいいかを考えているということです。

エリクソンとの共同実験で、屋外で4.5Gbpsを達成
ノキアとは70GHzを使った通信実験を行っている

――LTEについては、やはり地域によって導入の時期が大きく異なっていました。5Gについてはいかがでしょうか。

尾上氏
 アメリカは第1世代の導入が早く、逆に第2世代、第3世代は遅かったです。LTEはVerizonが加速したこともあり、競争が起こりました。最初はクイックで、次がスロー、スロー、そしてクイックになったわけです。

 対する欧州は第2世代のGSMで大成功してクイックに行きましたが、3Gはスロー、LTEもスローという状況です。この流れで行くと欧州は次の5Gでクイックになる……と言いたいところですが、そんな予測は立てられません(笑)。

 ただ、そんな中でも日本と韓国は、いつもクイックです。第5世代について特に盛り上がっているのも、ドコモと韓国のキャリアです。そこではさかんに議論もしていますし、MWCでもドコモとチャイナモバイル、KTの3社でしっかりやっていこうということで、技術開発協力推進に合意しました。

――最初に尾上さんがおっしゃっていた5Gのメリットなのですが、ここまで速度が上がると端末の処理能力を超えてしまうと思います。何がポイントになるのでしょうか。

尾上氏
 まさしくそれについて、MGMNでボードミーティングがあり、速度競争は止めようといった話になっています。ピーク速度はあまり強調せず、ユーザーに提供できる価値は何かをしっかり伝えようということです。たとえばセル端でのアベレージ速度を上げていくなど、強調しているのはそういったところです。また、IoTについてもセルラーの延長で本当にカバーできるのかという議論があります。マッシブコネクションで端末数が多いという点のほかにも、ああいった(IoT)製品は、15年など、長期間が電池が持たないといけないですからね。このように、速度だけでなく、新たなユースケースを広げるために、新たな技術を導入しようとしています。

――IoTも、今の技術では支えきれないのでしょうか。

尾上氏
 もちろん、延長線上でもできることはありますし、実際に自販機の通信などはセルラーでやっています。ただ、IoTの(将来で語られる)500億という数になってくると、それがどこまで耐えられるのかは分かりません。また、バッテリーも充電できればいいのですが、設置したら手が届かず、10年、15年置けと言われると、今は困ってしまいます。そこには、別の技術が必要で、(セルラーの通信規格の標準化を行う)3GPPでもマシンタイプコミュニケーションとして標準化が始まっているところです。

――ありがとうございます。

石野 純也