現在、第4世代(4G)のモバイル通信技術が広がり始めた中、世界では来たるべき5Gの具体的な技術を策定すべく、議論が進められようとしている。
「基本的には現在ある複数の技術を改良し、組み合わせて5Gに求められる要素を実現することになるだろう」と語ったのは、ノキアソリューションズ&ネットワークスでテクノロジー・ディレクターを務める赤田正雄氏。5Gはこれから標準化されることになるため、ノキアもまたその仕様を提案する一事業者という立場だが、26日、同社が開催した報道関係者向けの会合で赤田氏は、5Gの全体像について語った。
5Gに求められるのは「高速・低遅延・信頼性」
5Gの商用化は、およそ5年後の2020年になる、とされている。日本ではちょうど夏季五輪が開催される時期だが、海外に目を転じると「2018年の冬季五輪を開催する予定の韓国もその開催時期にあわせて5Gのショーケースを実施すると言っている」(赤田氏)とのことで、世界の中でも韓国と日本が5Gの最初の導入市場になる見通しだという。
ノキアソリューションズ&ネットワークスの赤田正雄氏 その5Gでは、現在の最大通信速度の10倍、すなわち最大10Gbps、平均では100Mbpsという通信速度を実現することが求められることになりそう。リアルタイムなリモートデバイスの操作、モバイルゲーム、あるいは自動車の自動運転にも5Gが活用される可能性があり、そのためには遅延が1ms(1ミリ秒、1/1000秒)以下になることも求められる。またIoTが今後さらに進展すれば、電池1つで10年持つような低消費電力性能も必要とされる。ただ、赤田氏は「全てのユースケースで、求められる要件を同時に満たす必要はない」と説明。ある技術と別の技術の組み合わせで高速通信を実現しつつ、別の技術との組み合わせで低遅延、あるいは消費電力の抑制といった性能を実現することになるようだ。
70GHz帯で高速通信
具体的な技術はこれからだが、少なくとも10倍のスループットを実現するためには、より多くの電波(周波数)が必要とされる。そのため5Gでは、6GHz帯以上の周波数も使う、と赤田氏は語る。ただ、これは高い周波数だけ使うという意味ではなく、低い周波数もあわせて活用するもの、とされているが、具体的に5G向けの周波数はどこになるか、まだグローバルでも定まっていない状況。少なくとも高速通信を実現する為には、世界共通で、より多くの周波数を確保する必要があるものの、低い周波数はもう携帯電話などで利用され余裕がない。そこでEバンド(70GHz帯/80GHz帯)のような高い周波数帯の利用も想定される。このため、既にノキアではNTTドコモとともに70GHz帯を使った実験も既に実施済だ。
「通信速度を上げようとすれば、周波数幅を拡げなければならない。10Gbpsを実現するには、単純に10倍の周波数帯域が必要になる。たとえば4Gの技術をベースに利用効率が10倍になれば、今の帯域で良いことになるが、5Gで高い周波数を使うと言っているのは、そういったマジックがないことの裏返しでもある」(赤田氏)
ただ、この高い周波数で、エリア全てをカバーするというよりも、スポット的に使うことになる、というのがノキア側の説明。70GHz帯のような周波数帯は、その波長がミリ単位のため、ミリ波とも呼ばれる。実際に街中で発射すると、光の性質に近い挙動になると見られ、低い周波数では回り込みができた木々、人などで電波が遮られることもある。まっすぐ進むため、見通しの良い場所での利用が想定される。それよりも広いエリアはセンチメートル波(3GHz帯~10GHz帯)、さらに広いエリアは既存の携帯電話向け周波数といった展開もあり得る。
街中を想定したシミュレーション。環境が良ければ高速通信が可能になる ミリ波のような電波を使う5Gの時代には、1つの基地局装置(アクセスポイント)からユーザーの手元にある端末に対して電波を狙って届ける“ビームフォーミング”も活用される。赤田氏は、5Gではは、これまでの基地局のようなセル(1つの基地局がカバーするエリアの範囲)といった概念も難しくなる、と指摘し、1つのアクセスポイントでカバーする端末の数が少なく、減衰も大きいため隣り合うアクセスポイントとの干渉も発生しづらくなる、との説明する。ノキアのシミュレーションでは、アクセスポイントをできるだけ多く街中に設置することになれば、その分、多くのユーザーは途切れることなく高速通信を享受できるとされているが、実際にどの程度、街中に設置するのかは通信事業者が決めることであり、必要な費用も現段階では不透明なままだ。
それだけ多くのアクセスポイントを街中に展開する場合、バックホール回線を全て光ケーブルにするのは現実的ではなく、同じ5Gの技術でバックホール回線が形成されることになるのではないか、というのもノキアの見立て。 また5Gの根幹技術として、アクセスポイント側には従来よりも数多くのアンテナを使う「マッシブMIMO(Massive MIMO)」という技術も導入される見込み。ただ、赤田氏は、「70GHz帯のようなミリ波では、伝搬ロスが大きいがビームフォーミングで補完でき、MIMOで使うアンテナの数は2×2など少なくて良いだろう。一方、センチメートル波(3GHz帯~10GHz帯)では8×8のような多くのアンテナを使うMIMOを活用するのではないか」と語る。
低遅延で新たな仕様、4Gとの互換性はなし
5Gで必要な要素である「低遅延」はどう実現するのか。たとえば、ノキアでは、自動車の自動運転には、自動車同士の通信を行う車車間通信の導入を提言する。たとえば数台先を走る自動車が急停車しても、そのブレーキ作動情報はスピーディに伝わり、自動運転時でも玉突き事故を発生しないようにする。これを実現するために、ネットワーク構成上、アクセスポイントとコアネットワークの間にもう1つ、ローカルゲートウェイと呼ばれる装置を用意してすぐ反応できるようにする。
低遅延実現のためには、無線でデータをやり取りする際の構造(フレーム構造)も新たな仕組みにすることを提唱するとのこと。これは4Gと異なる構造になるため、5Gは4Gとの互換性はない形になるという。
このほか、コアネットワークについても今後は、ネットワークの仮想化(NFV)、ソフトウェアによるネットワーク制御(SDN)によって、クラウド化が進むとの見通しも語られた。