レビュー

Apple Watch Ultraがダイブコンピューターになる、「Oceanic+」を試す

Apple Watch Ultra向け「Oceanic+」のベータ版をテストした

 Apple Watch Ultraをダイブコンピューターとして使えるアプリ「Oceanic+」が、11月28日にリリースされた。リリース前のベータ版を試す機会を得たので、実際にダイビングで使用した様子をレポートする。

 なお、以下に紹介する内容はすべて、ベータ版である点に留意してほしい。

Apple Watch Ultraがダイブコンピューターになる「Oceanic+」。デジタルクラウンを回して画面を切り替えられる

 ダイブコンピューターは、ダイビング中の水深や潜水時間、水温などのデータを記録するだけでなく、減圧症のリスクを減らして安全にダイビングを楽しむために、なくてはならないものだ。

 減圧症は体内に溶け込んだ窒素を、水中で排出しきれずに起こるトラブル。ダイブコンピューターは、繰り返しのダイビングや深さによっても違ってくる体内の窒素量を計算し、その深さにいられる「無減圧限界時間」(窒素を排出するための減圧停止が必要になるまでの時間)の目安を教えてくれる。さらにリスクの高い急浮上を警告したり、安全を期すために水深5m付近で行う「安全停止」の時間をはかる機能なども備えている。

「Oceanic+」アプリのホーム画面には、トータルのダイビング時間や本数がサマリーとして表示される。

ダイブコンピューターの利用には有料のサブスク課金が必須

 iPhoneに「Oceanic+」アプリをインストールすると、こうした機能がApple Watch Ultraで利用できるようになる。

 利用には有料のサブスクリプションプランの契約が必要で、プランは1日(最初の潜水から24時間)800円(初回のみ160円)、月額1150円、年額1万200円から選択可能。

 ほかに年額1万4800円で、最大5人の家族で共有できるプランもある。筆者は年に数回、ダイビングを楽しむ程度のリゾートダイバーなので、潜るタイミングにあわせて都度、1日または月額プランを契約することになりそうだ。

 「Oceanic+」アプリには、ダイブコンピューター機能が使える「スキューバ」モードのほか、経過時間や最大深度、GPSの位置情報などのデータを記録できる「シュノーケリング」モードも用意されている。無料プランでは「シュノーケリング」モードのみが利用できる。

 まずはiPhoneで「Oceanic+」アプリを起動してユーザー登録し、アカウントを設定する。所有するライセンスの種類や番号に加え、ライセンスカードの写真も保存可能。ダイビング時にはライセンスカード必携が原則だが、万が一のカード忘れや紛失に備えて、デジタルデータを登録しておけるのはうれしい。

アカウントにはメールアドレス、名前のほか、緊急連絡先も登録できる

 アカウントを設定したら、今度はApple Watch Ultra側で潜水時にアプリが自動起動するよう設定する。

 一般的なダイブコンピューターは何もしなくても潜水時に自動的に作動するが、Apple Watch Ultraではこの設定ができていないと、ダイブコンピューター機能が起動しない。

「設定」→「一般」→「自動起動」→「水中にいるとき」の「Appを自動起動」をオン。アプリを「水深」から「Oceanic+」に変更する

 続いてApple Watch Ultraで「Oceanic+」アプリを起動。「Setting」→「Dive Setting」→「Dive mode」が「Scuba」になっていることを確認する。サブスクリプションプランを未契約の場合は、このモード選択で「Snorkeling」しか選択できない。

モードが「Scuba」になっていれば、アプリ画面にもそのことがわかるように表示される

 「Setting」→「Dive Setting」ではこのほか、「Conservatism(保守性)」「Gas(ガス)」「Alarms(アラーム)」の設定が可能だ。

 「Conservatism(保守性)」では「Gradient Factors(アルゴリスム係数)」と「PPO2 DIVE」が設定できる。

 筆者の認識では前者は減圧症、後者はエンリッチド・エア/ナイトロックス(酸素濃度を高めたエアで、利用には講習が必要)使用時の酸素中毒を防ぐため、設定をより厳しく変更するためのもの。通常は変更の必要はないはずだが、筆者は後述する理由から「Gradient Factors(アルゴリスム係数)」を1つ厳しい設定に変更している。

「Conservatism(保守性)」「Gas(ガス)」「Alarms(アラーム)」の設定はiPhoneではできず、Apple Watch Ultraから行う

 「Gas(ガス)」では、使用するタンクが「Air(空気)」か、「Nitrox(エンリッチド・エア/ナイトロックス)」かを切り替えることができる。後者の場合は、酸素濃度も設定可能。筆者は講習を受けていないので試せていないが、設定を変更することで酸素濃度にあわせた「
無減圧限界時間」が表示されるようになる。

「Alarms(アラーム)」では、「最大潜水時間」や「最大深度」を設定して、到達した場合にアラームで知らせるように設定できる。ほかに「低 NO DECO」や「最低温度」が10度を下回った場合にも、アラームを設定することが可能だ。

このほか「Setting」→「General Setting」では、温度、深さ、重さの単位を変更できる。ベータ版の初期設定では温度が華氏、深さがフィートになっていた。

 設定項目は以上となるが、「Oceanic+」アプリにはほかに、ガイドをつけずにセルフダイビングを行う場合の、プランニングに役立つ機能も用意されている。目標とする深度の無限圧限界時間を事前に計算できるので、前述のアラーム機能とあわせて活用できそうだ。

セルフダイビングを行う場合は、「No Deco Planner」でスタート時間や目標深度を設定することで、無限圧限界時間を事前に計算することができる
「Location Planner」では、目指すポイントの天気や水温、風速、潮汐をこの先3日分チェックできる。ただし風向きは確認できないようだ

 事前の準備ができたら、Apple Watch Ultraを装着して海へ向かう。

 Apple Watch Ultraでは購入時に、アルパインループ、トレイルループ、オーシャンバンドの3種類のバンドを選べる。筆者が選んだのはもちろん、高性能エラストマーを採用し、伸縮性があるオーシャンバンド。ただし厚さ5ミリのウェットスーツの上から装着するには、標準のバンドでは少し長さが足りない。そこで別売のオーシャンバンド用エクステンション(6800円)を購入して準備しておいた。エクステンションは長さにかなりの余裕があるので、6.5ミリなどさらに厚いスーツの上からでも余裕で装着できるだろう。

腕時計1本分と同じくらいの長さがあるエクステンション。筆者は余った分を折り返して、付属のチタニウムループに通すようにして使用した

 Apple Watch Ultraをウェットスーツの上から装着すると、肌に密着しないためか、パスコードを設定している場合は、入力を促す画面がたびたび表示される。海に入ってしまえば、パスコードの有無に関係なく自動的にダイブコンピューターに切り替わるので気にする必要はないが、設定などを行う場合はアクセスが面倒になる。設定はウェットスーツを着る前に済ませておいたほうが良さそうだ。

明るく見やすいディスプレイは海の中でも視認性抜群

 いよいよダイビングだ。海にエントリーすると水深1mで自動的に画面が「Pre-dive」に切り替わって、以降は海から上がって解除するまでタッチディスプレイが反応しなくなる。

 アクションボタンを押すように促す画面の指示に従ってボタンを押すと、ダイブコンピューターの画面が表示された。ログを見る限り、水深などのデータはボタンを押したところから記録されるようなので、アクションボタンを押してから潜水を開始する。

Scubaモードでエントリーすると自動的にこの画面が表示される
アクションボタンを押すとダイブコンピューターの画面に切り替わる

 この日は天気が良く、水深が浅いところでは太陽の光が眩しく感じられたが、それでも2000ニトのディスプレイは十分に明るく見やすい。筆者が普段使っているダイブコンピューターはモノクロ表示で、明る過ぎる場所や暗い場所ではボタンを押してバックライトを点灯しないと画面が見えにくい。Apple Watch Ultraは暗い場所ではもちろん、水深の浅い明るい場所でも視認性が高く、数字をしっかり読み取ることができる。

 ダイブコンピューター画面は、上半分が「DEPTH(深度)」と「NO DECO TIME(無減圧限界時間)」および、その残り時間を視覚的に表現したバー。下半分には「DIVE TIME(潜水時間)」と「MIN TO SURFACE(水面までの浮上時間)」「水温」が表示され、デジタルクラウンを回すと「MAX DEPTH(最大深度)」「MIN RATE(浮上速度)」「バッテリー残量」、さらに回すと「コンパス」、さらに回すと「Setting」→「Dive Setting」で設定されている情報が表示される。

 このうち「コンパス」には、アクションボタンを押して方向を定められる機能があり、定めた方向からずれた場合には矢印で示してくれる。

 コンパスナビゲーションをする際、筆者は通常、レギュレーターにつけているコンパスのベゼルを回して北の位置を固定し、ずれを確認しながら進むのだが、手元のApple Watch Ultraの画面で、矢印や数字でずれを確認できる方がわかりやすい。ガイドについてダイビングをする場合はあまり使う機会がないかもしれないが、いざというときに役立つ機能だ。

デジタルコンパスで、左右にどのくらいずれているのかがひと目でわかる。修正しながら進むことができる

 1本目、「NO DECO TIME(無減圧限界時間)」をチェックしたところ、筆者が普段使っているダイブコンピューターの表示時間との間に大きな開きがあるのが気になった。そこで2本目の前に「Dive Setting」の「Conservatism(保守性)」で「Gradient Factors(アルゴリスム係数)」を、初期設定の「0(70/85)」から1段階厳しい「+1(65/80)」に変更したところ、水深15m付近で数分の誤差はあるものの、表示される時間がほぼ同じになった。

 「無減圧限界時間」を計算するアルゴリズムや初期設定は、ダイブコンピューターによっても違う。どれが良いとは言えないものの、その数値を信用して長年使用してきたダイブコンピューターにあわせておく方が無難と判断し、以降はこの設定で使用した。

 2本目のダイビングの途中には、浮上速度が速すぎるという警告が出てしまった。一般的なダイブコンピューターはこうした警告を音で知らせるが、Apple Watch Ultraは水中では音が鳴らない。代わりに画面に警告画面が表示され、バイブレーションで伝えるしくみが採用されている。

急浮上に対する警告は赤、アラームや安全停止は黄色の画面とバイブレーションでわかりやすくなっている

 バイブレーションは、ウェットスーツの上からでもはっきりとわかるほど、かなり強力だ。ただし急浮上が一瞬だと、警告も一瞬ブルっと来るだけなので、何かに気をとられていると気づかないこともあるかもしれない。一方の警告音も、音が自分のものか、ほかの人のものかわからないことが多々あるので、このあたりは一長一短といったところか。

 画面表示&バイブレーションによる通知は、事前に設定したアラームでも同様だが、アラームの場合は表示と振動が繰り返されるので、確実に設定した潜水時間、あるい深度に到達したことに気づくことができる。これは安全停止についても同じで、水深5m付近まで浮上すると黄色い警告画面とともに、安全停止を促すバイブレーションが作動。3分間の停止時間を終えるまで、繰り返し振動する。

 筆者が普段使っているダイブコンピューターでは、安全停止の残り時間が画面に表示されるだけなので、画面をちらちら見つつ待機する必要があるが、Apple Watch Ultraでは繰り返しのバイブレーションで3分間を体感できる。画面を見なくても時間が経過したことがわかる点は、これまでのダイブコンピューターにはないメリットだと感じた。

水深5m付近に浮上すると黄色い画面が点滅して、安全停止がスタートする

 一方で、テスト中には一度、潜水時間の表示がおかしくなるトラブルもあった。実際には48分しか潜っていないのだが、記録上は1時間23分のロングダイブをしたことになった。ベータ版特有のバグだとは思うが、しっかり改善してもらいたい。

 ダイビングを終えて水面に上がると、Apple Watch Ultraの画面は自動的に「サーフェス」モードに切り替わり、水面休息時間のカウントが始まる。減圧症のリスクを避けるために、ダイビングの後はすぐに飛行機に乗ることができないが、搭乗まで空けなければいけない時間は、ダイビングが1本だけなのか、繰り返し行ったのか、あるいは減圧停止があったかによっても変わる。この飛行機搭乗禁止時間や水面休息時間は、Apple Watch Ultraの時計の文字盤にコンプリケーションとして表示することもできる。

次のダイビングまでどのくらい休息時間をとるかを計測。飛行機搭乗禁止時間も表示される
海から上がっても、デジタルクラウンを長押ししてロックを解除し、水が排出されるまではタッチ操作ができない。一度シリコン製のカバーも試したが、カバーを付けていても問題なく使えた

 なお、この日は1日2本のダイビングをしたのだが、潜った日と潜らなかった日で、バッテリーの消費に差があったことも報告しておきたい。

 朝8時から使用を開始し、潜らなかった日は夜10時の段階で70%以上バッテリーが残っていたが、潜った日は50%台まで減っていた。水温などによっても変わるのだろうが、陸上よりバッテリーを消耗するようだ。

ログブック機能は正直言って物足りない。アップデートに期待

 終了したダイビングの記録は、自動的に「Oceanic+」アプリの「Logbook」に記録される。普段のダイビングではダイブコンピューターのデータを見ながら、紙のログブックに情報を書き込んでいるので、それを自動でしかもアプリに記録できるのは、筆者のような面倒くさがり屋にとって大変ありがたい。

 ログブックには潜水時間、水温、最大深度などのデータのほか、エントリー&エグジットした場所の地図も記録される。また深度、温度、浮上、NO DECOの各データを、グラフで視覚的に確認することもできる。ほかに透明度や波、潮流、ダイビングの総合評価、使用したウエイトの重さなどを自分で入力できる項目も用意されている。

ログブックにスキューバはブルー、シュノーケリングはエメラルドグリーンで自動的にデータが記録される
グラフで水深などを確認できる。どんな感じのダイビングだったのか、視覚化されるのがおもしろい

 一方で一般的なダイビングのログブックには当り前にある項目、たとえばポイント名、タンクの容量や種類、タンクの圧力と使用後の残圧、使用したスーツの種類などを記入できる項目は見当たらない。自由に書き込めるノートも用意されているので、そこにメモすれば良いのかもしれないが、このログブック機能には正直言って物足りなさを感じてしまう。バディの名前を記入できる欄もあるが、さらに手書きのサインをもらって登録できたり、水中で撮影した写真なども一緒に保存できるようになれば、あとから見返す楽しさが全然違うはずだ。

機材を登録できる「ギアリスト」もあるのだが、編集から選べるのは「Oceanic+」の提供元である、Huish Outdoorsの取り扱いブランドの製品のみのようだ

 なお、ログブックのデータは自動的に「Oceanic+」のクラウドサービスにも保存されている。機種変更などの際も再びログインすれば引き継げるので安心だ。このほかログブックのグラフデータを画像として保存して、SNSなどに投稿できる機能も備わっている。

 実はすでに、最新のダイブコンピューターには、「Oceanic+」同様、スマートフォンとBluetoothでつながり、専用アプリにログを記録できるものが発売されている。

 筆者もダイブコンピューター付きのスマートフォン用ハウジング(潜水用ケース)を所有しているが、専用アプリでダイビングログ&写真を楽しめる。「Oceanic+」を提供するHuish Outdoorsでも同様に、来夏を目処にiPhone向けのハウジングを発売するようだが、「Oceanic+」のログブック機能に関しても、なんとかもうひと頑張りしてほしいところだ。

ダイビングで潜っていた時間帯の活動量がちゃんと記録されている

 一方で「Oceanic+」のデータはiPhoneの「フィットネス」や「ヘルスケア」アプリとも連動し、ダイビングはアクティビティとしてちゃんと記録される。今までダイビングでどんなにヘトヘトになっても、活動量には一切カウントされなかったので、これはうれしいポイントだ。こうした点も含めて、普段使っているApple Watch Ultraがそのまま、ダイビングコンピューターとして使えるメリットはやはり大きいと感じる。筆者は寒いのが苦手なリゾートダイバーなので、残念ながら今シーズンはもう潜ることはないと思うが、来シーズンに向けてぜひログブック機能のアップデートに期待したい。