石野純也の「スマホとお金」

「Apple Watch」「Galaxy Watch」「Pixel Watch」を使いこなせ、スマートウォッチの通信コストを徹底解説

 当初は「Apple Watch」に限定されていたスマートウォッチのモバイル通信ですが、その後、サムスン電子の「Galaxy Watch」がこの機能に対応。さらに、10月には、グーグルの「Pixel Watch」も発売され、ラインアップは徐々に広がりつつあります。こうしたスマートウォッチは、単にモバイルデータ通信が利用できるだけでなく、親機となるスマホと同じ電話番号を使った発着信が可能。スマホを持たないシーンでも活躍します。

 一方で、回線契約を1回線増やすだけに、料金が上がってしまうのも事実。本当に、必要かどうかは、金額とのバランスを考えながら検討したいところです。前回のiPadと同様、端末側の価格も上がります。また、キャリアごとにその金額や対応デバイスに差があるため、スマートウォッチでモバイル通信を使いたいという人は、回線選びにも注意が必要になります。今回は、そんなスマートウォッチのモバイル通信にまつわるコストを取り上げていきます。

モバイル通信対応モデルなら、スマートウォッチ単体で通話やデータ通信を利用できる。その際にかかるコストを解説していく。写真はApple Watch Series 8 Hermes

スマホなしでの通信で広がる利用シーン、スポーツだけでなく近所への外出にも

 Apple Watch、Galaxy Watch、Pixel Watchのモバイル通信機能に、大きな差はありません。元々こうした端末は、スマホとペアリングしてBluetooth経由で通知を受けたり、アプリを利用できたりするのがコンセプト。モバイル通信は、こうした利用シーンを広げるためのもの。具体的には、スマホを持ち歩いていない場面で、スマートウォッチを単体で利用するための通信機能になります。

 利用シーンのひとつとして挙げられることが多いのは、ランニングやスイミングなどのトレーニング。スマートウォッチは健康管理を売りにしていることや、トレーニング中はスマホだと邪魔になってしまうことから、単体で通信できるメリットが大きくなります。スマホがない場面でもマップを確認できたり、決済機能で何かを買えたりするのは、たしかに便利。スマホにかかってきた電話に出ることもできるので、いざという時にも役立ちます。

単体で通信できるため、スマホを持ち歩いていないときでもマップなどのアプリが利用できる
Suica対応モデルなら、チャージも単体で行える

 もちろん、通信機能が役立つのは、トレーニング中に限りません。近所のコンビニエンスストアやスーパーマーケットで買い物をする際に手ぶらで出かけることができたり、スマホを忘れてしまった際に電話やメールができたりと、単体で利用できるからこその利便性はあります。かく言う筆者も、近所に買い物に行くだけなら、iPhoneを持たずにApple Watchだけで済ませてしまうことが多々あります。それだけのために追加の料金を払うかどうかは人それぞれの考え方によりますが、あると便利な機能であることは確かです。

 スマホがない時に電話ができると言っても、電話番号が違ってしまっては意味がありません。特に問題になるのが着信時。わざわざ他人のスマートウォッチの電話番号に発信する人はほぼいないからです。そのため、各社とも、スマートウォッチは、スマホと同じ電話番号で発着信できる通信サービスを提供しています。スマートウォッチから発信しても相手にはスマホと同じ電話番号が表示されますし、逆に着信があった場合はスマホとスマートウォッチがほぼ同時に鳴ります。

Bluetoothを切ったiPhoneとApple Watchが同時に着信している。これは、ネットワーク側で電話番号を紐づけ、同一番号として扱うようにしているためだ

 ドコモの「ワンナンバーサービス」、KDDIの「ナンバーシェア」、ソフトバンクの「Apple Watchモバイル通信サービス」「ウェアラブルデバイスモバイル通信サービス」、楽天モバイルの「電話番号シェアサービス」がそれに当たります。ソフトバンク以外の3社は、サービス名に“ワン”や“シェア”を入れ、スマホと同一の電話番号を使えることを表しています。4社ともできることはほぼ同じ。スマホと同一の電話番号による発着信とデータ通信です。

月額料金は385円 or 550円、4年無料キャンペーンにも注目

 ただし、料金は異なります。ドコモのワンナンバーサービスや楽天モバイルの電話番号シェアサービスは月額550円なのに対し、KDDIのナンバーシェアやソフトバンクのApple Watch/ウェアラブルデバイスモバイル通信サービスは385円とやや割安に設定されています。しかも、KDDIとソフトバンクに関しては、現在、キャンペーンでこの料金が最大48カ月(4年間)無料に。これに対し、ドコモは登録手数料として550円かかるなど、キャリアごとに温度差があります。

ドコモのワンナンバーサービスは月額550円。登録にも550円かかる
auとソフトバンクは385円。キャンペーンで48カ月の料金が無料に
楽天モバイルも、Apple Watchの取り扱いと同時にサービスを開始した。料金はドコモと同じ550円

 一方で、ドコモはメインブランドのドコモだけでなく、オンライン専用ブランドのahamoでもワンナンバーが利用できます。2970円の料金に対して550円はやや高すぎではないか……と思わないわけではありませんが、ワンナンバーがないからという理由でahamoへの移行をあきらめなくていいのはうれしいポイントと言えるでしょう。これに対し、KDDIのUQ mobileやpovo2.0、ソフトバンクのワイモバイルやLINEMOといったサブブランド/オンライン専用ブランドは、スマートウォッチのデータ通信には非対応。現状では、auやソフトバンクでしか利用ができません。

サブブランドやオンライン専用ブランドが対応していないのが難点。ただし、ahamoではワンナンバーを利用できる

 先に挙げたように、ネットワーク側で電話番号の紐づけが必要なため、MVNOもスマートウォッチのモバイル通信サービスには対応していません。Apple WatchならiPhone、Galaxy WatchやPixel WatchならAndroidスマホのアプリを通じて電話番号を書き込む仕組みで、スマホ側にそのキャリアのSIMカードなりeSIMなりを入れている必要があります。基本的にはスマホ側の回線との紐づけなしに、データ通信だけを利用するといったことはできないので注意が必要です。

 こうした事情もあるため、キャリア側の対応状況によって、利用できる端末も異なってきます。SIMフリーのスマホのように、SIMカードだけを入れればいいというわけにはいかないのです。スマートウォッチに限定すると、ドコモのワンナンバーや楽天モバイルの電話番号シェアサービスを利用できるのは現状、Apple Watchのみ。これに対し、KDDIのナンバーシェアはApple Watchに加え、サムスン電子のGalaxy WatchやPixel Watchでも利用が可能です。ソフトバンクはApple WatchとPixel Watchの2つに対応しています。

Pixel Watchのモバイル通信は、auとソフトバンクの2ブランドでしか利用できない
Galaxy WatchのLTE版は、auのみの対応になる

 ちなみに、電話番号を親機のスマホと紐づけるサービスは、スマートウォッチの専売特許ではありません。車はその1つで、ドコモはワンナンバーをBMWの一部車両にも対応させています。また、現在は販売を終了していますが、コンパクトなフィーチャーフォン型端末の「ワンナンバーフォン」でもワンナンバーを利用できます。同一電話番号で発着信が可能なサービスは、スマートウォッチに限らず便利なため、対応端末の広がりにも期待したいところです。

ドコモはワンナンバーをスマートウォッチ以外に拡大している。写真はワンナンバーフォン。大型のスマホと組み合わせると便利そうだが、販売終了後、後継機は出ていない

端末価格には8000円から1万5000円程度の違いが

 385円なり550円なりで追加できるスマートウォッチのモバイル通信サービスですが、かかるコストはこれだけではありません。モバイル通信に対応すれば、デバイス側のコストも上がるからです。月額料金だけでなく、対応モデルと非対応モデルの差額もユーザー側にとっての負担になることは念頭に置いておきたいところです。

 たとえば、9月に発売されたApple Watch Series 8は、本体ケースにアルミを採用したバリエーションにのみ、モバイル通信に対応した「GPS+Cellularモデル」と「GPSモデル」の2つが用意されています。ケースサイズが41mmで「スポーツループ」をつけた場合、前者は7万4800円、後者は5万9800円(いずれもApple Storeの価格)で、その差は1万5000円になります。Apple Watchはセットするバンドによって価格が異なりますが、どれも差額は1万5000円に設定されています。

Apple Watch Series 8は、アルミケースのみ、GPSモデルとGPS+Cellularモデルの選択肢が用意されている。差額は1万5000円

 同時に登場したApple Watch SE(第2世代)では、この差額がやや縮まっています。こちらは、「ソロループ」をセットにした40mmの「GPS+Cellularモデル」が4万5800円なのに対し、モバイル通信非対応の「GPSモデル」が3万7800円と、金額差は8000円におさえられています。通信に限って言えば、Series 8とSEに大きな差分はないため、釈然としないところはありますが、いずれにせよ、モバイル通信に対応している方がコストが上がることは事実です。24カ月使うとすると、Series 8が月あたり625円、SEが333円ほど高くなる計算です。

Apple Watch SEは、GPSモデルとGPS+Cellularモデルの差額が8000円に縮まっている

 同様に、Pixel Watchもモバイル通信対応の有無で、値段が異なります。Pixel Watchは、「Bluetooth/Wi-Fi」版と「4G LTE+Bluetooth/Wi-Fi」版に分かれており、前者が3万9800円なのに対し、後者は4万7800円(いずれもGoogleストアの価格)。モバイル通信に対応するコストは、Apple Watch SEと同じ8000円になります。24カ月間使った場合、1カ月あたり333円が上乗せになると言えるでしょう。

Pixel Watchも、4G LTEあり/なしの差が8000円だ

 少々特殊なのが、サムスン電子のGalaxy Watch5で、モバイル通信対応モデルのLTE版はauショップやau Online Shopでしか販売されていません。これに対し、モバイル通信非対応の通常版は、Amazonや家電量販店で取り扱いがあります。販路が異なるため、差額はあくまで参考値ですが、ケースサイズが40mmの場合、KDDIが販売するLTE版は5万2800円、Amazon.co.jpで販売されている通常版は4万4200円で、差額は8600円です。

Galaxy Watch5は、LTE版を扱うのがKDDIのみ。非対応モデルと比べると、8600円ほど高い

 こうして見ていくと、Apple Watch Series 8のみ、モバイル通信に対応するためのコストが高いことが分かります。ただ、いずれにしても、8000円から1万5000円ほどはデバイスそのものの価格も上がることになります。とは言え、後からモバイル通信を使いたくなっても、端末が対応していなければ後の祭り。買いかえるしか手はなくなります。これに対し、モバイル通信サービスそのものは不要な場合には解約が可能。KDDIやソフトバンクのように、無料キャンペーンを実施しているケースもあるため、とりあえず端末だけは対応モデルを購入しておいてもいいでしょう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya