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「AQUOS sense10」とVRグラス「Xrostella VR1」、シャープが示す“スマホのその先”

 シャープは31日、Androidスマートフォン「AQUOS sense10」とVRグラス「Xrostella VR1」を発表した。

左から通信事業本部 コネクテッドソリューションズ事業統括部 ビジネス推進部長 立川壮一氏、通信事業本部 本部長 中江優晃氏、通信事業本部 パーソナル通信事業部長 川井健氏、通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部長 清水寛幸氏

 「AQUOS sense10」は、11月13日にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、J:COMモバイルから発売されるほか、オープンマーケット向けモデルも用意される。直販価格は6GB+128GBモデルが6万2700円、8GB+256GBモデルが6万9300円。

 「Xrostella VR1」は、11月下旬以降にクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で支援者を募集する。支援金額やプランの詳細は後日発表される予定。

カメラ付き携帯電話発売から25年、新たな技術とサービスで次の展開へ

 シャープは、カメラ付き携帯電話の登場から25年の節目を迎えた。通信本部長の中江優晃氏は「カメラ付き携帯電話を出したタイミングが、携帯電話というスタイルを大きく変える起点になった」と振り返る。

通信事業本部長 中江優晃氏

 最近の成果として、独自のAI技術「CE-LLM(Communication Edge - Large Language Model)」を搭載した手のひらサイズのコミュニケーションロボット「ポケとも」が、「日本おもちゃ大賞2025 キダルド部門 優秀賞」と「2025年度グッドデザイン賞」を受賞。また、開発中のLEO衛星通信端末がCEATECで総務大臣賞を受賞し、スマートフォンの技術や知見を活かした小型・軽量化を実現したことを報告した。

 法人向けには、モバイルデバイス管理から運用、アフターサービス、回収までを一貫して支援する「LINC Biz LCM」を開始することも明らかにした。

 海外では、台湾を中心に「AQUOS wish5」が好調で、出荷台数は約2倍に拡大しているという。

 現在、シャープの事業は「AIソリューション」「パーソナルUXデバイス」「次世代データ通信」の3本柱で構成されており、この3領域を軸に未来の体験創造に取り組む。8月には「ひとの願いの、半歩先。」という新たなコーポレートスローガンを策定し、人に寄り添いながら優しさと驚きを両立する姿勢を打ち出した。

AQUOS sense10、日常をひとつ上の体験へ

 シリーズ10作目となる「AQUOS sense10」は、シャープの主力スタンダードモデル。開発コンセプトは「日常を、ひとつ上の体験へ。」で、「快適さを生むクラス越えのスペック」「誰でも使えるAI」「個性を引き立てるデザイン」の3点を掲げる。

 チップセットには、ハイエンド性能を身近に体験できる「Snapdragon 7s Gen 3」を採用。前モデル「AQUOS sense9」と比べてCPU・GPU・AIパフォーマンスが向上し、省電力性も12%改善した。ディスプレイは6.1インチのPro IGZO OLEDで、LTPO駆動方式により最大240Hzの滑らかな表示を実現。屋外でも見やすい最大2000ニトの高輝度設計となっている。

 5000mAhバッテリーに加え、省電力ディスプレイと高効率チップの組み合わせにより、1日10時間の使用で2日間の駆動が可能。連続動画再生は最大39時間で、3年使用しても電池劣化が少ないとしている。重さは166gと軽量で、バッテリー容量と携帯性を両立した。

パーソナル通信事業部長 川井健氏

 カメラは、新画質エンジン「ProPix」によりハイエンド級の描写力を実現。AIがディテールを忠実に再現し、暗所でのノイズリダクションも大幅に向上。フォトグラファー監修の「PHOTO STYLEフィルター」8種類を新たに搭載した。

 AI機能では、影を消すAIに加え、ガラス越しの反射を抑える「ショーケースモード」を搭載。さらに、自分の声をAIが認識して通話時のノイズを抑える「Vocalist」機能を備える。これは、自分の声をAIに登録・分析させることで、その声の特徴に合致した音声だけを通すという技術であり、標準の電話だけでなく通話アプリやリモート会議アプリでも使える。

 デザインは、プロモーションカラーとして「デニムネイビー」を採用。「カジュアル」「キレイメ」「ベーシック」の3テイストに分けた全6色を展開し、日本のクラフトブランド(SPINGLE、BLUE SAKURA/児島ジーンズなど)とコラボした特別ケースも登場する。

Xrostella VR1、スマホ技術を注いだ軽量VRグラス

 もう1つの注目製品が、眼鏡型VRグラス「Xrostella VR1」。シャープはVRを「時間と場所を超えた新しいコミュニケーション体験」と位置づける。

 現在のVR市場は成長傾向にあるものの、重さや装着の煩わしさが普及の妨げになっていると分析。そこでスマートフォン開発で培った技術を活かし、装着ストレスの解消に注力した。

コネクテッドソリューションズ事業統括部 ビジネス推進部長 立川壮一氏

 「Xrostella VR1」は198gと軽量で、眼鏡のように簡単に着脱できる点が特徴。ユーザーの声を反映させるため、まずはクラウドファンディングを通じて展開し、B2C・B2B双方での活用を見据える。ゲームやSNS、VRライブ、不動産内覧など幅広い分野での活用を想定している。

質疑応答

――proモデルを発表しなかった理由はなぜか。

中江氏
 proモデルは、スマートフォンに「驚きを与える革新」がある際に開発される特別なモデルであると考えています。現在、スマートフォン市場はカメラ付き携帯電話が登場した時と同じように、また大きな変革の時期を迎えている可能性があるため、その時代にふさわしい「pro」モデルとは何かということを考えて、目下プランニング中の状況です。2025年度モデルとしては、「AQUOS sense10」をもって完結となるため、proモデルの発表はありません。

――例年に比べ、シェアや累計販売台数に関する言及がなかった理由について教えてほしい。

中江氏
 シェアについては、それを追いかけるよりも、多くのお客様に使ってもらうことの結果として得られるものだと考えています。今期は「AQUOS sense10」がラインアップを完成させることで、年間を通じてどれだけ多くのAQUOSファンを作っていけるかに取り組むべきだと考えています。

――proモデルの後継機がない中、競争の激しいミドルレンジ市場でどのように戦っていくのか。

中江氏
 激しいミドルレンジ市場での競争については、「AQUOS sense10」は“抜けがないスペック”と“誰でも使いこなせるAI”という点で競争力を持つと考えています。チップセット性能の向上、ウルトラワイドやセルフィーを含めた5000万画素のカメラ性能、microSDカード対応といったスペック面と、Vocalistや影が消せるAIといった独自機能の組み合わせが、ユーザーにとって“間違いのないもの”として唯一無二であると訴求していきます。

――AI機能「Vocalist」は従来のノイズカット機能と比べて、どのようなアルゴリズムやシステム面で革新的なのか。

中江氏
 従来のノイズカット機能との大きな違いは、自分の声をあらかじめ登録し、AIがその声の特徴点を分析することで、特徴点に合致した自分の声だけを通すという点です。従来の「人の声だけを通す」機能とは異なり、「自分の声だけを通す」という非常に珍しい機能を実現しています。また、通話中に簡単に機能を切り替えられるUIの工夫も施されており、これは「誰でも使えるAI機能」という考えに沿ったものです。

――今回発表されたAI機能を、既存のAQUOS Rシリーズにソフトウェアアップデートで提供する計画はあるのか。

中江氏
 カメラ機能の一部については、アップデートで提供できるか現在検討中です。

 Vocalistについては、作り込みが必要な部分があるため、現時点では過去モデルへのアップデート提供は予定していません。今後のモデルについては搭載することも検討します。

――「AQUOS sense10」のデザインがAQUOS sense9と似ているが、あえて変更しなかった理由と、どのように訴求していくか教えてほしい。

中江氏
 現行のデザインが受け入れられているという手応えから、意図的に踏襲しています。また、縦横厚みがAQUOS sense 9と同じため、ケースを共通利用できるというメリットもあります。

 訴求にあたっては、カメラリング周りの意匠変更や、FeliCaマーク印刷の廃止といった細かい完成度の向上に加え、ファッションテーマのカラー展開やアクセサリーで個性を引き立てることに注力します。

――「AQUOS sense10」が発売時から最新のAndroid OS 16を搭載できた理由はなぜか。

中江氏
 最新のAndroid OS 16を最初から搭載することについては、Android 15からの提供などいくつかの選択肢が社内にありましたが、「最初から最新の体験を提供する」のが当然あるべき姿だという考えから、開発スケジュールや検証を頑張ってキャッチアップした結果、Android 16の搭載を実現しました。

――VRグラスとスマートフォンを同時に発表した意図と、今後「パーソナルUXデバイス事業」としてウェアラブルなどラインアップを拡張していくか教えてほしい。

パーソナル通信事業部 商品企画部長 清水寛幸氏
 パーソナルUXデバイス事業と名付けたのは、スマートフォンが主力である一方で、人に身近なデバイスや体験に通信技術が非常に相性が良いと考えているためです。お客様の体験を向上させるために必要なデバイスについては、ウェアラブルなどへの展開も含め、今後もラインアップを拡張していきたいと考えています。

――VRグラスに「Xrostella」という別ブランドを付けた意図、および2年前に発表されたVRディスプレイプロトタイプの進化系と捉えてよいか教えてほしい。

立川氏
 「Xrostella」は、世界と世界、人びとがクロスし、星のようにステラ(輝く)という願いを込めた造語です。スマートフォンと同じくコミュニケーションを担うデバイスですが、形状が大きく異なるため、既存のAQUOSブランドのイメージとのギャップを避けるため、別のXRブランドとして立ち上げました。

 2年前にCESで参考出品したプロトタイプからコンセプト自体は変わっていませんが、今回は「実際に日常生活で使っていただく」という視点に立ち、軽さや装着感といった体験価値を完璧にユーザーに合致させることに絞り込んで作り込みました。

――グーグルのAndroid XRではなくパソコン接続を選んだ理由と、198gという重さは他社(100g台前半)と比べ競争力が落ちるのではないかという懸念に対する優位性について教えてほしい。

立川氏
 パソコン接続を選択した理由は、Android XRはまだコンテンツが出揃っていないため、コンテンツが十分に普及しているSteam VRに対応することで、まずは体験重視を優先したためです。

 重さが198gである点について、他社に軽量機種があるのは承知していますが、我々がアピールしたいのは、眼鏡形状による瞬間的な付け外しやすさです。気楽にVRを楽しめる使い方や体験を全面に押し出すことで、VR市場を広げ、そこで競争力を担保したいと考えています。

――現在のVR市場の状況についてどのように認識しているか、またXrostella VR 1が軽さや装着感にこだわることで、市場拡大や商用化の目途についてどう考えているか教えてほしい。

立川氏
 VR市場は爆発的ではないものの、伸びていくという予測データが各社から出ています。既存のVRユーザーが抱える、長時間使用による首や頭の痛みといった「負担」を取り除くことで、VRユーザー体験価値を向上させることを目指しています。これにより、既存ユーザーの満足度向上と、VRから離れてしまった層や新規層への裾野拡大に繋がると考えています。商用化の目途は、2026年度中を目標としています。

――スマートフォンとのUSB Type-Cでの接続はAQUOSシリーズ限定となるのか、他社スマホへの展開予定を教えてほしい。

立川氏
 スマホ接続については、Type-C接続のため、ほかのスマートフォンでも繋がる可能性はありますが、動作保証やサポートの観点から、基本的にはAQUOSシリーズから対応させていこうと考えています。

――VRグラス「Xrostella VR 1」のクラウドファンディング時の価格を教えてほしい。

立川氏
 クラウドファンディングのため価格は1つに定まりませんが、コントローラー付きで15万円前後を中心価格帯として考えています。

――VRグラスのクラウドファンディングが不成立だった場合、販売されないのか。

立川氏
 クラウドファンディングの達成は前提ですが、万が一不成立だった場合でも、その原因を検討し直し、別の売り方や販売チャネルで再チャレンジするなど、製品が世の中からなくなるというわけではありません。クラウドファンディングの一番の目的はフィードバックを得ることです。

囲み取材

――AQUOS Rシリーズ「pro」モデルについて、リリースサイクルなどを決めているのか。

中江氏
 リリースサイクルを決めていないというのが実態です。定期的に出していければ技術の進化という意味では素晴らしいことだとは思いますが、良いものが出た時にそれを買っていただける方は、多分その時期をあまり意識していないのではないかと考えています。

 ただ、時期を空けすぎてもいけないとも思っています。たとえば3年間も検討してしまうと、その間に技術は進んでしまいます。そういう意味では、熟考していますというよりも、早いサイクルでコンセプトを作って、勝負していく必要があります。

――近年、カメラの進化が進む中で、カメラ機能に対する考え方について教えてほしい。

中江氏
 カメラの画質はどれを使っても、おそらくここまでのお客様にとって不満をかける状態にならないぐらいまで進化しています。進化を止めるわけにはいきませんが、カメラだけが特徴にならなくなったという流れは感じます。もう「カメラが良いからこのスマホがすごいんですよ」という時代ではなくなってきています。

 我々も1インチセンサーにこだわって世界を変えたのではないかと考えていますが、今、薄型化や小型化の波がある流れからすると、1インチという物理サイズは必ずしも有利には働かないのかもしれないとも思っています。

 お客様はおそらくカメラには不満を持っておらず、むしろ端末が大きくなりすぎて重くなりすぎたことに不満を持っている状態だと思います。今回は、電池容量と薄さは今までと同じですが、軽さのところでチャレンジしました。ちょうどいいバランスを見極めながらやっています。

――NTTドコモとの合弁会社「NTTコノキューデバイス」がXRデバイスに取り組む中で、シャープ単独でVRデバイスとの棲み分けについてどのように考えているのか。

中江氏
 コノキューデバイスはARで、シャープはVRと、商品のコンセプトが異なります。「Xrostella VR1」は、離れたところで同じ空間に結ぶことでコミュニケーションツールとして機能します。一方、ARは、装着している瞬間の現実のリアルな世界をより詳しくする、つまり今の空間に付け足すものです。VRは空間を超えようとするものだと考えています。

――シャープ製品の連携といえば、EV「LDK+」が発表されたが、開発チームと連携などはあるのか。

中江氏
 今後、ソフトウェアの世界や通信の世界とも関わりが出てきます。たとえばソフトウェアアップデートといった点において、スマートフォンのノウハウは使えますし、通信技術に関してもスマートフォンの技術が絶対に使えます。

 「LDK+」はシャープ全社プロジェクトとなっているので、プラズマクラスターイオン発生機やIoTなど、あらゆる技術をアセットとして取り込んでいくことになります。

 公式発表以上のことは話せませんが、通信技術で必ず関わっていくと思います。

――車も出てくるとショップや展示会など、タッチポイントがほしい。

中江氏
 「AQUOSショップ」というよりも、「シャープショップ」のようなコンセプト的な拠点が理想だと思います。私個人の見解としては、そうした方向に持っていき、シャープのコンセプトやブランドの価値をしっかりと浸透させていく必要があると思っています。