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グーグルが量子コンピューター向けのアルゴリズム「Quantic Echoes」を発表、量子コンピューター実用化へ前進
2025年10月23日 00:14
米グーグル(Google)のQuantum AIチームは、同社の量子チップ「Willow」上で動作する新アルゴリズム「Quantic Echoes(直訳すると量子エコー)」を発表した。世界で初めて「検証可能な量子優位性」を実現し、既存の最高性能の古典的スーパーコンピューターよりも最大1万3000倍、高速に動作する。
同社では「量子コンピュータの初の実用化に向けた大きな一歩であり、5年以内に実現可能であると確信している」と説明。研究の成果がNature誌に掲載される予定。
量子コンピューターと量子アルゴリズム
量子コンピューターは、量子力学をもとに、量子の重ね合わせの特性から並列で計算し、従来型のコンピューターよりも高速・大規模な処理を実現する。
一見するとモバイルサービスには関わりがないように思えるかもしれないが、すでに国内の携帯電話各社では量子コンピューターの研究や開発を進めている。通信品質の改善、周波数の割当などでの活用が想定されている。
一方、量子アルゴリズムは、量子コンピューター上で処理されるアルゴリズムのことを指す。
量子優位性と性能
量子アルゴリズムとされる「Quantic Echoes」の特長は、「検証可能な量子優位性(Verifiable Quantum Advantage)」という点。グーグルで量子コンピューティング開発のチームをリードするハルトムート・ネベン氏(Hertmut Neven)は、史上初と説明する。
「検証可能な量子優位性(Verifiable Quantum Advantage)」のうち、量子優位性とは、古典的なコンピューターよりも高速に処理できるという意味。グーグルが2024年に発表した「Willow」チップ上で処理する速度は、世界最高のスーパーコンピューターで古典的アルゴリズムを実行する速度と比較して、1万3000倍も速いという結果が示された。これは量子コンピューターでは数時間で済むのに対して、スーパーコンピューター上では数年間かかるという。
そこに「検証可能」と付くのは、別の量子コンピューターで計算を繰り返して同じ結果を得る、あるいは自然界の実験をすることで、同じ結果を得られるかどうか確認できるという意味になるという。
こうしたことから、グーグルでは、新アルゴリズム「Quantic Echoes」に対して、リチャード・ファインマンが予見したような“古典的な機械では手が届かない自然界や自然システムの予測”を可能にするものであり、初の「有用なアルゴリズム」として位置づける。
アルゴリズムの科学的メカニズム
従来の量子アルゴリズムでは、キュービット(量子ビット、量子情報処理の基本単位)群を取り込み、量子回路で駆動し、最後に測定を行うのが一般的だという。
一方、「Quantic Echoes」アルゴリズムでは、システムの時間発展を順方向、次いで逆方向に進め、最後に測定される信号の情報内容を増幅できる。高度に複雑な計算となり、古典的なコンピューターで処理することが難しい。
実験の成功には、チップの精度向上だけでなく、Willowチップの速度も重要だった。量子アルゴリズムはごくわずかな時間で実行できるため、数秒で何百万もの測定を実行できる。
研究チームは、このアルゴリズムの最適な実装を見つけるために、デバイス上で合計でほぼ1兆回の測定を実施した。
たとえば「NMRと分子の構造解明」
「Quantic Echoes」アルゴリズムは、たとえば核磁気共鳴分光法(NMR)のデータから分子の構造を学習するために使用できるという。
NMRは、新薬開発や材料科学といった分野において、分子やタンパク質の構造(その物質の機能に密接に関連する)を理解するための中心的な研究手法とされる。現在のNMRが測定できる最大の長さと比べ、「Quantic Echoes」を活用することで、より長い距離の測定が可能になるという。
そこでGoogle Quantum AIは、NMRの専門家であるカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)のパインズ磁気共鳴センターと提携。研究チームは、NMR装置内にある二種類の実際の分子に対して量子エコー実験を実施し、「Willow」チップを用いてNMRからの信号をシミュレーションした。
これにより、「Quantic Echoes」アルゴリズムが、これまで知られていなかった分子構造へ迫れる「量子スコープ(quantum-scope)」として機能することを裏付けた。
ネベン氏は、量子エコーの成果により、量子コンピューターだけが実現できる実世界への応用が5年以内に現れるという見通しを裏付けられたと強調した。
【追記 2025/10/23 17:34】
グーグルがアルゴリズム名を訂正したことを受け、本記事の当該部分を修正いたしました。


